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ナビゲーション(1)

 多くのダイバーにとってナビゲーションスキルほど摩訶不思議なものはありません。オープンウォーター講習、アドバンスドオープンウォーター講習でコンパスの使い方を習っても、実際のナビゲーションとどのように結びつくのかイメージがわきません。何しろ上手なガイドほど水中ではコンパスを見ていません。ガイドによってはダイバーズウォッチにアタッチしたミニコンパスを使っていたり、極端な例ではコンパス自体を持たずに潜ります。それでもガイドがダイビングの終了とともに船の真下に戻ってくる様をみると、どんな魔法を使っているのだろうと最初のうちは思っていました。自分がコース取りをする立場になり、見えない中層を後ろ向きに泳いでも潜航ロープに戻ってくることができるようになると、ナビゲーションを構成するいくつものスキルを理論的に組み合わせていることにすぎないことに気づきました。
 ナビゲーションは理論だけではなく何度にもわたる実践練習が必要なスキルです。ここでは段階を経て、理論と実技スキルを身につける方法を記載します。
 オープンウォーター講習ではコンパスを使い、行って戻ってくる(往復)スキルを学びます。実際のダイビングでも往復スキルが基本です。しかしながらコンパスは補助的な役割であり、ほとんど使いません。講習でもコンパスで目標物を決めて、そこに向かって泳ぐことを学びます。多くの講習生はコンパスの表示ばかりを気にします。コンパスがナビゲーションの主役だと勘違いしてしまいます。これが上達を妨げる要因になります。
 一番簡単な往復の練習は島沿いに沿って泳いでいき、折り返して戻ってくることです。ここに基本スキルがいくつも含まれています。まずは島沿いの直線往復を何度も繰り返し、基本がマスターできるまで練習します。
 ナビゲーションはエントリー前の準備が大事です。頭の中に地図を作ります。最初は島の海岸線と船(ブイ)の位置というだけの地図でかまいません。船上でコンパスをあわせます。確認すべきは島の方角です。ダイビングでは水中で問題が発生したら海面に戻ることが鉄則です。水中で迷子になっても島に向かって泳いでいけば浅くなります。島に到達し海面に戻ることができます。筆者が船上で島や地形をじっと眺めているのは脱出ルートを頭の中に描くためです。生存確率が高まる方向を記憶しておきます。次にどちらの方向に進むかを潮の流れで決めます。原則は流れに向かって進み、流れに乗って帰ってくることです。潮の流れは地元ガイドやキャプテンに聞くとアドバイスをしてくれます。実際のコース取りでは魚がたくさんいそうなところをコースに定めますが、往々にしてそういう場所は流れがぶつかるところです。最初は無理をしないで、できるだけわかりやすく、基本に忠実なコース取りにすべきです。
 いよいよエントリーです。水中で着底したらスタート地点を決めます。スタート地点はゴール地点(戻ってくる地点)です。まずは水深を確認します。これがとても重要です。スタート地点(ゴール地点)は何でもかまいません。できるだけ特徴のある目印が良いです。大きな岩とか、変わった色の珊瑚とか、イソギンチャクだったり、水中に落ちている空き缶も目印になります。そして頭の中に描いた地図に水深と絵を書き入れます。目印が決まったら、これから進む方向とは逆に少しだけ進みます。すぐに折り返し目印を脳裏に焼き付けます。なぜ逆方向にいったん進むのかは後述します。次に目印の上左右、どのようなコースでも良いので通り過ぎながら目印を観察します。目印を通りすぎ、少し泳いだら振り返って目印を再度確認します。そして脳裏に焼き付けます。水中の景色は見る方向によって全く違う景色に見えます。陸上では目線がかわることはありませんが、水中では水深によって目線が違うためです。それゆえに同じ地形でもいろんな見え方をします。目印(目標物)を多様な方向から観察しておくことは目印を水中で正しく認識するコツです。
 目印の観察が終わったらいよいよダイビング開始です。島を右手に見ながら(左に進む場合)あるいは島を左手に見ながら(右に進む場合)泳いでいきます。このとき見るべきものは深度計と時計です。最初のうちは水深があまりかわらないようにしたほうが良いです。泳ぎながら時折コンパスを確認し(あくまで時折!)、船上で確認した島の方向と90度ずれていることを確認します。方角も水深も正確である必要はありません。なぜならば地形は一直線の同一水深ではなく凸凹に変化しているのが普通だからです。ここがコンパスの講習と違うところです。1分間進んだらユーターンします。ユーターン動作にはいる前にコンパスで進んでいる方向を確認します。ユーターンしたら、島が左右逆になっているはずです。進みながらコンパスを確認し、180度回頭したことを確認します。水深を確認しながら同じように1分間泳げば目印に戻ってきます。到達地の水深さえ間違えなければ、必ず戻ってこれます。目印を見落としてしまい行き過ぎることもあります。あれ?と思ったらユーターンし目印をさがします。このときに逆方向から観察しておいた目印の記憶が役にたちます。水深さえ間違えずに行ったり来たりすれば必ず見つかります。
 1分の往復に成功したら、次は3分、そして5分、10分と時間をのばしていきます。20分の往復ができるようになれば立派なナビゲーションスキルです。コツはできるだけゆっくり泳ぐことです。行きより帰りのほうがスピードがあがる傾向にあります。目印を通り過ぎてしまいます。これは目印を見つけなければならないという不安が、ゴールに早く到達して安心したいという気持ちを生みます。これはごく普通の心理です。意識しなくても泳ぐスピードがあがります。それゆえに意識して速度を落とします。ゆっくり泳ぐほど移動距離が短いので、往復の誤差が少なく戻ってきやすいというのもあります。行きと帰りで流れの強さが違うとき。すなわち行きは流れに向かって泳ぎ、帰りは流れに乗って帰ってくる場合です。このようなときは行きは20分、帰りは15分と調整すればよいと教えられることが多いです。ゆっくり泳ぐスキル(実はこれはかなり難しいスキル)を身につければ、流れに左右されることなく一定速度で泳ぐことでき、行きも帰りも同じ時間とすることができます。最初のうちはゴールを通りすぎてしまうことが多いです。見失ったと思ったら、水深を確認しながら行ったり来たりしてさがせば良いです。
 慣れないうちは深度計と時計ばかり気にしてしまいます。多少ずれても最初に設定した目印は消えてなくなりません。泳ぎながら地形や魚を観察しましょう。これが一番重要です。大きな岩があるとか、クマノミの群生がいるとか、見つけるつど、頭の中の地図に水深とともにプロットしていきます。ダイブマスターコースでは水中地図の作り方を学びます。実際のガイド業では日ごろのファンダイビングを通しながら少しづつ頭の中の水中マップを完成させていきます。
 少し慣れたら水深を変更することにトライします。深度計をみながら少しづつ水深を下げ、その後、少しづつ水深を戻していきます。このときに大事なことは泳ぎながら頭の中の地図に自分の進んだ軌跡を記録することです。水深が深くなれば島から離れ、水深が浅くなれば島に近づく軌跡となります。どのようなコースをとっても、最後は島沿いを泳ぎ、元の水深に戻れば最初に設定した目印が見つかります。見つからない場合は目印がある水深を行ったり来たりしてさがします。潮の満ち引きがあっても急激に水深はかわりません。水深を頼りにさがせば必ず見つかります。ガイドが水中で行ったり来たりするのは目印を見失っているケースがあります。泳ぐスピードが早くなるのですぐにわかります。プロでも心理状態が泳ぎにあらわれてきます。
 水中ではすべてが同じ景色に見えます。目印がわからなくなることもあります。一番わかりやすい目印は何でしょうか? 潜航ロープの根本だったり、船のアンカーです。筆者が潜航ロープやアンカーで潜航するのは耳抜きで楽したいというのもありますが、水深や地形を確認して目印にしたいという考えもあります。最初は10m未満のブイやアンカーを目印にするのがわかりやすいです。ブイは位置を覚えておけば常に使えます。特にワンウエイのときは水中でブイやアンカーに到達するスキルが必要になります。

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