MaskClear


マスククリア

 オープンウォーター講習でマスククリア、マスク脱着のスキル習得に苦労する講習生がとても多いです。本当に必要なスキルでしょうか? オープンウォーターの講習では「知らないより、知っていたほうがよい」「できないより、できたほうがよい」という知識やスキルまで習得することを講習生に求めています。実はマスククリアはできなくても困らないスキルのひとつです。にもかかわらず、講習では命にかかわるスキルかのごとく教えられます。ここにオープンウォーター講習の大きな矛盾があり、本当に大事なスキルがおろそかになってしまいます。
 「マスクの中に水が入ったときの対処方法を身につけましょう」と言ってマスククリアの講習をスタートします。この前提にはマスクの中に水が入るのは非常事態だ、危険な状態だという考え方がインストラクターの頭の中にあり、講習を受ける側もマスクの中に水が入るのは危険なことなんだという意識がすりこまれてしまいます。
 マスククリアやマスク脱着講習の目的はマスククリアや水中でマスクをはめるスキルを習得することではありません。水中でマスクに水が入ったらどうなるか、水中でマスクがないとはどういう状態なのかを体験することです。体験し、それがどのような不快感をダイバーに与えるかを体と頭で理解することです。にもかかわらず、実際の講習ではテクニック面ばかりに焦点があたります。マスクに水が入ったら、その水を鼻から吸いこんでしまうことがあります。人間の体は拒否反応をおこします。胃カメラで鼻から管を入れたとき、コロナのPCR検査で鼻の奥から検体をとるときも同じです。吐きそうになり、息苦しさを感じます。これは人間の体の反応として当たり前のことです。大事なことは不快感を感じるけれど、死ぬことはないということです。不快なだけなんだ、そしてそれがどういう不快感なのかを体験するための講習です。マスク脱着も同じです。水中でマスクがないとは、どういうことなのかを体験するのが目的です。目をつむった状態で講習させるインストラクターは間違っています。マスクを外した状態を目を開き、視界がぼやけることを実際に体験することが大事です。最初は呼吸が乱れますが、5秒、10秒もすると落ち着いてきます。大事なことは視界がぼやけるだけで、普通に呼吸することができ、死ぬことはないんだと体と頭で理解することです。講習カリキュラムではマスクを外した状態でバディに付き添われながら少し泳ぐ練習もします。外したマスクを元に戻すことは、おまけでありポイントは外した状態でも命に別状はなくダイビングができるということを学ぶことです。水中でマスクを外すのが怖ければ、マスクを外した状態で潜航するところからはじめてもかまいません。目を開いたまま潜航ロープぞいに数メートル潜航し安全であることを実際に体験してみます。
 「マスククリアや外れたマスクを戻すスキルがないときは、どうしたらよいのですか?」と聞かれます。海面に戻ればよいのです。海面に戻って、マスクを付け直して、再びダイビングを続ければよいだけの話です。水中で困ったこと、不安なことがあれば、海面に戻ることが鉄則です。一番最初に説明したとおりです。海面に戻るスキルさえあればマスククリアやマスクリカバリーができなくてもダイビングはできます。マスクに水が入るたびに海面に戻っていては面倒です。だからマスククリアはできないより、できたほうがよいというだけのことです。
 今の講習ではマスクに水が入ることを恐怖に感じるダイバーを育成するだけになってしまいます。それゆえにマスクストラップをきつく締め、マスクに水が入ってくることを極端に怖がるダイバーができてしまいます。ダイブマスターでもエクジット後にマスクを外すと、マスクのあとがくっきり残っている人がいます。マスクに水が入ることを怖がるプロにガイドしてもらうのは、いつガイドがパニックを起こすかわからないという危険があります。ガイドのスキルレベルを最も簡単に判断する基準がマスクストラップの締め具合です。そもそもマスクをきつく締めるのは逆効果です。前をいくダイバーにキックされた、シュノーケルが潜航ロープに引っかかったなどの理由でマスクがずれることがあります。ストラップがきついマスクは直すのに手間がかかります。日ごろからマスクに水が入ってくることに恐怖心を抱いているのであればマスクがずれただけでパニックを起こしてしまいます。マスクは緩くはめるのが基本です。緩くしても実際には水圧で顔面からずれることはありません。それにマスクの中に水が入ってくるのは水中なので当たり前です。当たり前だと考え、水が入ってきても死ぬことはない不快なだけだという気持ちを作りあげることが重要です。
 子供のころにお風呂で潜ったり、小学校の低学年でプール遊びをするときにマスクをはめることはなかったと思います。水中でマスクなんかなくても死ぬことはありません。視界がぼやけるだけです。だからこそマスクを外したときに目をあける練習をしておく必要があります。ぼやけてはいますがバディの存在くらいはシルエットでわかります。マスク脱着の講習はここが一番のポイントです。水中でマスクが外れたときのことを考えて、コンタクトレンズは避けたほうが無難です。視力の弱い方は度入りのマスクを購入することを強くおすすめします。
 マスククリアやマスク脱着ができないからといってダイビングに対する恐怖心をいだく必要はありません。死ぬことはないです。マスクに水が入ったり、マスクが外れて困ったら海面に戻りましょう。マスクを外した状態で落ち着いて海面に戻るスキルさえマスターすればよいです。マスククリアのスキルよりもマスクなしで海面に戻るスキルのほうが何倍も重要です。

最新の20件

2023-09-10 2023-08-13 2023-07-29 2023-07-01 2023-03-18 2022-12-22 2022-12-18 2022-11-10 2022-09-13 2022-08-10 2022-02-27 2022-01-03 2021-12-26 2021-07-12 2021-07-01 2021-06-30

今日の1件

  • MaskClear(1)

  • counter: 105
  • today: 1
  • yesterday: 1
  • online: 1