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潜航スキル

 潜航はファンダイビングで一番最初に実践する海中スキルになります。久しぶりのダイビングでは、これから始まるファインダイビングにワクワクするどころか不安で頭がいっぱいになります。耳抜きができなかったらどうしよう、沈めなかったらどうしようと考えだすと、その日の朝から憂鬱になります。
 ここまで説明したとおり適正ウエイトや中性浮力を理解、実践できているのであれば潜航に失敗することはありません。潜航できないのはあなたの問題ではなくガイドが悪いのです。ダイビングスキルは心理状態に左右されます。潜航スキルに関してはガイドに他責してかまいません。
 実際の潜航をイメージしてみましょう。
 海面に全員が揃ったらガイドが潜航の合図を出します。心も体の準備もできていないなかで、いきなり潜航はないでしょう。ガイドはゲストが海面で落ち着いているか否かを確認したうえで潜航動作にはいらなければなりません。「大丈夫?」と聞いても「大丈夫」と答えるゲストのほうが多いです。「ちょっと、待って!」と正直に不安を伝えてくるゲストは少数派です。だからこそゲストの動きから気持ちが安定しているかどうかを察するスキルがガイドには要求されます。シュノーケルをくわえていた場合はレギュレーターに切り替えておきます。左手でインフレーターをつかみ排気ボタンを確認します。ガイドとは向き合う形のほうが良いでしょう。ガイドはゲストが準備できるまで待たなければなりません。ところがゲストの準備が終わっていないにも関わらず潜航をはじめるガイドが多々います。ガイドが先に沈んでいったらゲストは焦るに決まっています。シュノーケルから切り替えることを忘れて海水を飲んでしまったり、インフレーターの操作にあたふたしてしまうのは、すべてガイドの段取りが悪いからです。
 潜航動作がはじまり、ガイドも他のゲストも先に沈んでいってしまいました。残されたゲストは焦ります。皆がどこに行ったのかと下を向きます。前かがみになったり、下をみようと水平になってしまったのではBCD内のエアーをすべて排気することができず沈むことができません。排気場所すなわちインフレーターの根本、左肩が一番上になるフィンファーストの体勢がもっとも排気しやすい体勢です。ガイドが先に沈んでいくことによりゲストが理想的な体勢をとることができなくなります。また気持ちが焦ることにより肺の中のエアーをすべて吐ききることができなくなります。深度変化には二秒間のタイムラグが必要です。それを待つことができず、すぐにエアーを吸ってしまいます。これでは肺の中にいつまでもエアーが残り、沈むことができません。もはや耳抜きどころではありません。
 潜航時のガイドはゲストが沈みはじめるまでは潜航動作を開始しないのが鉄則です。潜航時はゲストと同じ目線、すなわち同じ水深を保ち同じスピードで潜航するのが原則です。こうすることにより透視度の悪い状況でも潜航時にはぐれることはありません。
 どうです? こうやって考えるとうまく潜航できないのはあなたのせいではなくガイドが悪いということが理解できましたよね? 自分をおいていくガイドが悪いと開き直り自分のペースで潜航するようにしましょう。潜航時にはぐれるのは自分が悪いのではなく、自分を見失うガイドが悪いのだと考えましょう。気持ちを楽にすることにより、スムーズに潜航できるようになります。
 ここで問題があります。ガイドと自分のふたりだけのダイビングならばともかく、他にゲストがいる場合はどうなるでしょうか? ガイドは他のゲストのケアもしなければなりません。何度も書くようにここに一対多で潜るダイビングスタイルの問題点があります。本来はバディと組んで潜航するのですが、バディシステムが機能しておらず、ガイド一人に重責がかかるファンダイビングの構造そのものが間違っています。
 潜航スキルで忘れてはならないのが耳抜きです。耳抜きを超わかりやすく説明すると耳の中の圧力とまわりの圧力(水圧)を同じにすることです。圧力差があると耳が痛くなります。無理して潜ると耳を傷めて耳鼻咽喉科のお世話になることになります。
 耳抜きを考えるうえにおいて大事なことは耳抜きができない原因を理論的に考えることです。耳抜き(専門用語では圧平衡)とは通常は閉じている耳管を一時的に開き鼓膜の内側と外側の圧力を同じにすることです。耳抜きをしなければ鼓膜の外から水圧がかかり鼓膜が破れてしまいます。耳抜きがうまくできず耳が痛くなるのは鼓膜が痛みを訴えている状態です。筋肉が緊張していると動きが悪くなり耳管が開かなくなります。圧力差が大きい場合は耳管がしっかりと閉じてしまい開きにくくなります。これらを逆に考えればスムーズな耳抜きができるようになります。緊張は大敵です。耳抜きが不安だと思えば思うほど抜けなくなります。エントリー直前にボートの上で耳抜きをしておきます。一回抜いたから大丈夫と考えるようにします。精神的な問題だけではなく、一回抜いておけば耳管が準備運動をしたことになり筋肉が緩んで抜けやすくなります。潜航動作のところでも説明しましたが、ガイドが先にいってしまうのは耳抜きにおいてもマイナスでしかありません。焦れば焦るほど、緊張して抜けなくなります。抜けなければガイドのことなど無視して、まずは耳抜きをしようと開き直る姿勢が大事です。抜けないからといって、力を入れれば入れるほど筋肉が緊張し抜けなくなります。そして耳を傷つけることになります。ダイビングはすべてにおいて、優しく、力を抜いてが基本です。圧力差が大きいと抜けにくいので、最初は50cm、1mなど、ほんの少し潜航しただけでも繰り返し耳抜きするようにします。圧力差が大きくなり耳が痛くなってからでは、頑張っても抜けません。そんなときは少し浮上して圧力差を小さくした上で耳抜きするようにします。そしてテクニックですが、空気は水中を上に移動していきます。抜きたいほうの耳を海面に向けて(上に向けて)耳抜きするのがコツです。これは中耳の下に耳管があるため耳管の下にある高圧の空気を中耳に送り込みやすくするためです。耳抜きは理屈を理解して、できない原因を排除すれば誰でもできるようになります。
 緊張せず、ゆっくり潜航し、少しの深度変化にあわせて耳を抜くのが耳抜きをスムーズにおこなうやり方です。耳抜きが不安ならば遠慮なく潜航ロープを使いましょう。「耳抜きが不安なので、潜航ロープを使いたい」とガイドに言います。嫌な顔をするようなガイドはガイド失格です。上級者向けのポイントで、フリー潜航、潜航後すぐにドリフトのようなケースでもない限り却下する理由はありません。潜航ロープを使うことによりゲストの不安を取り除いてダイビングを開始するのはガイドの責任です。
 潜航ロープを使っての潜航なんて初心者みたいでカッコ悪いと思っている人は、一般ダイバーであれガイドであれ、考えを改める必要があります。ダイビングは他人と競うものではありません。安全が第一です。より安全に潜れるのであれば潜航ロープを使うことに躊躇する必要はありません。生き残るという目的の前には、見てくれではなく、生き残ることがカッコ良いのだと考える必要があります。これはダイビングの安全性に対する最も基本的な考え方になります。
 潜航中は常にバディとアイコンタクトをとるようにします。これはガイドでもできていない人が多いです。筆者は背面状態で潜航し体全体をバディのほうに向けています。水底にぶつかりそうになり、あわてて正常状態に姿勢を立て直すことが少なくありません。潜航に限らず常に相手から目を離さないのは透視度の悪い海で潜ってきた習慣です。
 ダイビング全般にいえることですが、慣れないうちは自分のペースを大切にすることです。とかく日本人は相手にあわせようとします。ダイビングの基本は一番の初心者に皆がペースをあわせることです。ガイドはグループ内の一番の初心者にあわせてコース取りやペース配分を決めます。初心者のうちはまわりの目を気にすることなく、自分のことだけを考えましょう。とくに潜航は全員がこのことを理解し、実践することが大事です。そして自分が上手なダイバーになったときは、初心者だったときのことを忘れずに、初心者にあわせる心のゆとりがあるダイバーが本当の上級者です。

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