エンリッチドエアー(通称ナイトロックス)の効用に関しては「長く潜れる」「安全だ(減圧症になりにくい)」と本質を理解せずに一部のみ切り取られた説明がされることが多いです。
ナイトロックスに関するほとんどの説明は水深25mで、エアーは何分、ナイトロックスだと何分という比較表で説明し、「だからナイトロックスは良い」という論調です。ここを入り口にするのは大きな間違いであり、ナイトロックスを危険なガスとして使うことにつながりかねません(後述)。正しく理解するためには、常にEAD(酸素換算深度)を意識する必要があります。マニュアルでは酸素分圧に換算して説明していますが、分圧ではイメージがわかない方が大半です。
具体的に説明します。EAN32(32%のナイトロックス)を使い、25mの深度を潜っている場合、エアーで14mの深度を潜っている状況と同じです(計算式はマニュアルをご参照ください)。すなわち25mの深度にいるにも関わらず、14mの深度にいることになるので、長く潜れるというわけです。これがすべての基本になる考え方です。
では長く潜った場合の状況を考えます。14m相当ですので、25mにいてもデコは出にくく長い時間もぐれます。良いことのように思えますが、これは14mの深度をぎりぎりまで潜ることに等価であり、中間コンパートメントをM値ぎりぎりまで潜ることになります。25mを担当するコンパートメントよりハーフタイムが長いので、窒素が抜けるのにも時間がかかり、減圧症の危険が高まります。
ナイトロックスを使う場合は常にEADを意識して、NDLに余裕を持たす必要があります。ところが大半のガイドは通常と同じくNDLギリギリまで潜ろうとします。ちなみに14m換算でNDLが3分になったら、M値に対して99%くらい窒素がたまっています。極めて危険なダイビングです。ナイトロックスを使うと長く潜れることは事実ですが、ダイブプランの作成が正しくないと危険なダイビングになります。このことを理解しているガイドが少数なのが残念なことです。
補足すると、ナイトロックスを使った場合、ダイビング時間が長くなることから、中間コンパートメントに多くの窒素がたまります。安全停止を少し長めにして、海面休憩時間を通常よりも長めにとる配慮が必要になります。そのような運用ができるショップ、ガイドも少ないです。