どの専門書を読んでも、専門家は誰でも、そしてダイブコンピューターのマニュアルにも「鋸ダイブプロファイルはダメだ」「急浮上は危険だ」「逆深度プロファイル(後半深くなるダイブプロファイル)はよくない」と記載されています。しかしながら実際のレクリエーショナルダイビングでは、このようなケースは意図する意図しないはともかく頻繁におこります。減圧症になったときに「守らなかったダイバーが悪い」と責められます。レクリエーショナルダイバーはガイドであれ、一般ダイバーであれ、テクニカルダイバーのような減圧理論や深度管理のトレーニングを受けているわけではありません。テクニカルダイバーはダイブコンピューターに頼らず突発事象時の深度管理をする訓練を繰り返し受けています。同じことをレクリエーショナルダイバーに求めることは間違っています。本来はこのような事象がおこったときに、どのように対応したら良いか(どのような手順で海面に戻ったらよいか)を指示するのかがダイブコンピューターの一番の役割のはずです。しかしながら実際には安全停止と減圧停止の指示くらいしかだしません。
筆者はSuunto信者というわけではないのですが、Suuntoの表示する警告指示はそこそこ信じています。タイ時代は限界ぎりぎりまで潜ることが多かったので、D9tx(Suuntoの古いタイプ)のコンサバティブモード(5段階もある)を一番厳しい設定で使っていました。警告指示とダイブプロファイルの結果を照らし合わせても、これなら余裕があるなという結果になっています。
ここからはダイビング業界の大きな問題にぶち当たります。表示が厳しいダイブコンピューターや設定を厳しくしたダイブコンピューターはガイドに敬遠されます。強制安全停止が表示されたときに、そのゲストだけを水中に残して他のゲストとともに先に浮上するわけにはいきません。その日の潜水スケジュールはあらかじめ決まっています。しかもタイトスケジュールです。再潜水禁止マークが出ているゲストを無理やり潜らせ、事故がおこった場合は責任を問われます。ガイドの立場では、今まで自分は何千本も潜ってきて大丈夫だったのだから、ゲストは自分にあわせれば大丈夫なんだという油断があります。そんな保証はどこにもありません。ファンダイビング全体を一番の初心者にあわせるのと同様に、ダイブプロファイルはダイブコンピューターの表示が一番厳しいダイバーにあわせるのが鉄則です。ところが実際にこれをおこなうと、ダイビング時間が短くなったとクレームするゲストが出てきます。ダイバー全体にたいする安全教育がもっとなされるべきです。それができない以上、気の許せるもの同士で少人数(バディ同志あるいはガイドと二人)で潜るほうが良いです。タイ時代は限界ぎりぎりまでのダイビングが多かったので、潜水前にはバディ同志で現在の窒素量とダイブプランを確認し、厳しいほうにあわせたダイビングをするようにしていました。