減圧症の章で説明したとおり、今のダイブコンピューターは中途半端です。減圧症を防止する目的から考えると心もとなく過信することはできません。にもかかわらず、ダイブコンピューターは必須だ、NDLがゼロにならなければ安全だという神話がまかり通っています。多くのダイバーはダイブコンピューターの欠点を理解せず、お守りとして使っています。実際の用途は安全停止タイマーとログ付けの道具になっているにすぎません。本来は窒素の動きを監視し、減圧症を防止するのがダイブコンピューターの役割です。
ではダイブコンピューターは不要な器材かというと、そうではありません。NDLの監視は減圧症を避ける必要条件です。何よりダイブコンピューターを過信しているガイドやダイビングサービスが多い以上、無用な軋轢を生まないためにも持参するのがベターです。
おすすめを相談されることが多いので、ふたつあげておきます。
ひとつめはSuunto D5。理由は減圧症の章で記載したとおりです。Suunto D9txはとても良いダイブコンピューターなのですが、すぐに電池がなくなるため、頻繁に電池交換をしています。20万円のダイブコンピューターを自分で電池交換するのは勇気がいります。今のところトラブルはありません。D9(D9txのひとつ前の型)は電池交換の失敗で水没させたという過去があります。
もうひとつはTUSAのソーラータイプ。ソーラータイプということで選ぶ方が多いですが、このダイブコンピューターの神髄はM値警告機能にあります。ただしマイクロバブルの変化には対応していませんので、この点ではSuuntoに分があります。このふたつを同時に使うというのが今のところ最も安全度が高いのかもしれません。
購入、テストができていないので未評価ですが、ScubaproのAladin A1/A2も良さそうです。ビュールマンアルゴリズムにマイクロバブルの評価を追加したものを搭載しています。適切な浮上停止(浮上速度管理)を指示するようです。もっとも厳しいモードで使うと、かなり安全なダイビングができそうです。A2では心拍数を実測し、評価に加味する機能もあるみたいです。ダイバー自身の体調を監視し、計算に反映させることは今後のダイブコンピューターに必要な機能でしょう。
おすすめした二機種に限らず、ダイブコンピューターを購入したらコンサバティブモードで使うことを強くおすすめします。ダイブコンピューターが論理モデルである以上、誤差を安全域のほうにもっていく必要があるからです。
最後に電池交換です。新規購入される場合は充電式あるいはソーラータイプがおすすめです。筆者のように予備を何本も持っている、自分で気軽に電池交換するようなダイバーは稀です。通常はダイブコンピュータが電池切れを起こすと対応に困ります。ダイビングサービスに電池交換を依頼しても、筆者がおこなっている作業と大差ありません。水圧試験をし、検査結果を添付してくれるのは正規ディーラーやサービスセンターになります。蓋がかたくて開かないようなケース(自分で交換できない場合)は信頼のおける時計屋を使っています。高級時計をあつかう時計屋は水圧検査装置を持っていますので、そのような時計屋に依頼しています。メーカーに出すより安く、その場で交換してくれるのが最大のメリットです。