BlowUpSMB


フロート

 フロート(SMB)の打ち上げはガイドでも下手な人がいます。見様見真似の自己流ではなく、なぜ上手くいかないのかを理論的に考えるべきです。上手くいかない例をいくつかあげておきます。フロートにエアーを上手に入れることができない。打ち上げるときのリール操作がスムーズにいかない。打ち上げたフロートのリールが他人が打ち上げたフロートのリールに絡まる。充分にエアーを入れていないのでフロートが海面で立たない。そして何よりフロートと一緒に浮上してしまうというケースもあります。
 フロートとリールは安かろう悪かろうが多いです。高ければよいというわけではありませんが、安いものはそれなりの作りになっています。具体的にはダイビング器材のところで説明します。
 フロートの打ち上げは手際の良さが要求されます。ガイドによってはモタモタして、ゲストのことがおろそかになってしまいます。自分のことに集中しないといけないガイドは半人前です。フロートやリールをポケットから取り出す動作、あるいはBCDからの取り外しは目をつむっていてもスムーズにできるよう慣れておきます。自分のBCDを使い、どこにどのように収納するのか決めておきます。水中では、どの程度手をのばせば良いのかまで練習しておきます。筆者はスライドクリップの向きまで決めてあります。これはクリップをスライドさせる親指の位置がそのまま腕の向きになるからです。
 フロートを打ち上げると決めたら、BCDから少しエアーを抜いておきます。これはフロートを打ち上げるときは浮き気味になるため、あらかじめマイナス浮力にして、フロートにエアーを入れている最中も中性浮力がとれるようにするためです。この理論は中性浮力のところでマスターした内容の応用です。このオペレーションを忘れるとフロートにエアーを入れている最中に体が浮いてくるので心理的に焦ってしまいます。
 次にフロートを準備します。収納中のフロートは丸まっていますので、巻物を開くかのごとく平らにします。これはフロートにエアーが入りやすくするためと、立ちやすくするためです。ビニール製の安いフロートは固まってしまい平らになりにくいです。フロートの展開が済んだら、フロートにリールをアタッチします。リールをフロートにしか使わないのであれば最初からアタッチしておく方法もあります。
 いよいよフロートにエアーを入れます。入れる方法は大きくわけて三通りあります。くわえているメインのセカンドステージを口から外し使う方法。予備のセカンドステージ(オクトパス)を使う方法。そして口から吐き出したエアーをフロートに入れる方法(オーラルで入れる方法)。水中でセカンドステージを口から外すのは好ましくないので、一番目の方法はおすすめしません。オクトパスからエアーを入れるダイバーが多いように思います。そのように教えるインストラクターも多いです。筆者はオーラルで入れます。この理由を説明します。フロートにエアーを入れるコツはフロートの下部を正確に上に向けて、流入口を大きく開くことです。オーラルで入れる場合、両手が自由に使えます。両手を使い、しっかりとフロートの口を開きセカンドステージのエアーの排出ルートの真上に持ってきます。こうすることで無駄なく確実にエアーを入れることができます。オクトパスを使う場合、片手でフロートを持ち、片手はオクトパスのパージボタンを操作するのでフロートの流入口が傾くとエアーを正しくフロートに入れることができません。オーラルで入れるときは大きな呼吸が発生しますので中性浮力が乱れやすいという欠点があります。中性浮力はすべてのスキルの土台になりますので、オーラルを使っても中性浮力が保てるよう練習しておきたいものです。
 さてフロートにはどのくらいエアーを入れたら良いのでしょうか? インストラクターに相談すると「適当」「水中でフロートが膨らむまで」とかの返事が返ってきます。適当というのは論外ですが、いずれも間違っています。海面でエアーがちょうどいっぱいになりフロートが立つのが適正量です。エアーが少ないと折れてしまいます。多すぎるとエアーを入れるのに時間がかかり急浮上しやすくなります。水中のエアーは海面が近づくにつれて膨らむことを思い出してください。水深10m(2気圧)のエアーは海面では2倍の量になります。すなわち海面でちょうどいっぱいにするには、水深10mでは半分の量で良いことになります。これを正確に計測するにはどうしたらよいでしょうか? 新しいフロートを買ったら海面でエアーを入れます。筆者はオーラルで入れますので、呼気何回でフロートがいっぱいになるか計測します。仮に6回の呼気でいっぱいになったとします。水深10m(2気圧)では3回、水深5m(1.5気圧)では4回の呼気で良いことがわかります。オクトパスを使わずにオーラルでエアーを入れるもうひとつの理由が正確な量を入れることができることにあります。実際には少し多めのほうが海面で綺麗に立つので、0.5呼気くらい余分に入れるようにしています。オクトパスを使う方は海面での時間を計測し、同様の計算方法で水中での流入時間を短くします。
 フロートにエアーが入ったら、次はリリースです。このときのリール操作がポイントです。フロートと一緒にダイバーも浮上しないようにします。急浮上は減圧症の原因となりかねません。万が一、フロートにつられて浮上してしまいそうになったら、すべてを手放します。フロートやリールなど失ってもかまいません。減圧症になって苦しむことに比べれば安いものです。フィンガーリールを使うときは穴に指をいれるなり、二本の指で輪っかを作りリールが回転しやすいようにします。通常のリールを使う場合はリールのリリース操作をおこないます。良いリールはリリース操作がやりやすいです。安いリールはリリースが堅すぎたり、軽すぎたりします。フロートが海面に到達したころをみはからいリールを固定します。何もしないと流れに乗って海面でフロートが流されていくので海面にあがるタイミングを見極めることが重要です。筆者のリールには5mおきに印がつけてあります。これによりリリースした長さがわかるようになっています。ドリフトダイビングではフロートは上にあがらず、うしろに飛んでいきます。リリース中の長さの確認は習慣にしておきます。リールの長さが水深くらいになったらいったんリールを固定します。上に引っ張られるような感覚があるときは、フロートが海面に到達していないか、流れが強いので、少しリリースして様子をみます。
 フロートをあげるときの他のダイバーとの位置関係は重要です。流れの下手あるいは上手のダイバーもフロートをあげるときは、流れからすこし外れたところであげます。そうしないと他のダイバーがあげたリールと絡まることになります。万が一、絡まった場合はおちついて、絡まったフロートを持つダイバーとタイミングをあわせながら大きく円形に泳ぎ絡みをとるようにします。どうしても絡みがとれない場合は、あきらめてどちらかのダイバーがリールを外しフロートを開放します。
 フロートは海面に9割くらいの顔を出し、直立になるのが理想です。軽すぎる場合はフロートあるいはリールに若干の錘をつけたほうが安定します。筆者は釣り用の錘をつけて調整していたことがあります。
 リールを巻くときは浮上速度に注意します。リールをひと巻きするつど、水深を確認する余裕が必要です。フロートをあげているからといって安心せず、浮上時は基本通り片手を先に海面に出して他の障害物がないこと、船がやってこないことを充分に確認したのち海面から頭を出します。
 海面に出たら、フロートを使い船のクルーに合図を送ります。一般には両手でフロートの両端を持ち、おおきなOKサインを作り上げます。このあと迎えがきてくれるか、自分で船まで泳ぐかはケースバイケースです。浮き輪になるフロートを使っている場合は初心者に渡して浮き輪替わりに使ってもらいます。そうでないときは海面待機中にさっさと片付けます。フロートとリールをまとめてクルーに渡すガイドもいますが、少しでもお互いの手間をはぶくため先に片付けることができるものは片付けるのが筆者の方針です。使い終わったものをいつまでも持っていると、いざというとに手が塞がってしまうというリスクもあります。
 実際の講習ではエクジット直前にフロートの打ち上げを練習します。しかしながら最初の一回目から本番さながらの実践をおこなうことは危険がともないます。ダイビング終了直前は体内に窒素がたまっており、急浮上した場合は減圧症のリスクが高まります。はじめてのフロート講習は窒素がたまっていないエントリー直後に着底した状態でおこなうのが良いです。水深は7-8mくらいだと体が安定しやすいです。エントリー直後はオーバーウェイト状態なので急浮上の危険性も低くなります。
 上手なガイドは無駄な動きがいっさいなく、フロートを準備している最中もゲストを視認しています。安全停止中も中性浮力を保ち、水平姿勢をとれるのが理想です。よく調整されたフロートとリール、そして上手にあげたフロートはリールから手を放してもフロート自身が中性浮力を保ち海面に浮いています。このような状態になるようフロート(あるいはリール)につける錘を調整します。
 潜航ロープのそばで浮上するときでも必ずフロートをあげる習慣になっているダイブエリアもあります。通常はガイドがあげてくれますが、自分でもあげれるようになっておきたいものです。

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