BCD


BCD

 BCDほど購入に悩む器材はないでしょう。価格はピンキリだし、カタログを読むと素晴らしい内容が列挙してあります。しかしながらBCDの必要機能はブラダー(浮き輪)にエアーを入れることと出すことだけです。各社がエントリーモデルとして販売している廉価版で充分です。筆者はレギュレーターとセットで5万円のBCDも使っていましたが、特に不満はありませんでした。
 とはいうものの、せっかく買うのだから熟考したいという方もいるでしょう。そういう方のためにカタログや販売店のセールストークではわからないところを記載します。
 BCDは基本構造で三種類に分類されます。違いはブラダーの構造です。そしてブラダーを考察するにあたり大事な点は適正ウェイトで潜るのであれば水中でBCDにエアーを入れることはほとんどないということです。BCDにエアーを入れた状態は海面です。そして海面での浮力確保はBCDの重要な役割です。これはBCD選びにおいて忘れてはならない要素です。しかしながらこの点を議論するとBCDの種類によっては欠陥となるため忖度されることが多いです。
 バックフロートタイプは背中のみにブラダーがついているタイプです。わかりやすく説明すると浮き輪を背負っている形です。セールストークは「背中のみにエアーが入るので、何もしなくても自然に水平(うつ伏せ)になります」です。これだけ聞くと初心者向けの良いBCDだと思ってしまいます。上に記載したとおり、水中でBCDにエアーを入れることはほとんどありません。もちろんブラダーの素材はプラス浮力ですので、エアーを入れなくても背中全体が浮き上がり水平になるのは事実です。しかしながらもう一度よく考えてみてください。海面でエアーを入れたらどうなりますか? 何もしなくてもうつ伏せになります。シュノーケルを使い水平移動するときは便利ですが、常にうつ伏せ状態ではこまります。もちろん気合を入れて立ち姿勢をとればできます。しかしながら少し気を緩めると前かがみでうつ伏せになってしまいます。海面待機に難のあるBCDはレクリエーショナルダイビングでは致命的です。一番の問題はレスキューにあります。事故者の海面での浮力確保はレスキューのファーストステップです。浮力確保しようと、BCDにエアーを入れたら事故者はうつ伏せになってしまいます。筆者のようにダブルタンクを背負っている構成だとタンクの重みを利用して背面姿勢が楽にとれます。シングルタンクのバックフロートレスキューは浮力確保時にエアーを入れすぎないようにする必要があります。バックフロートは構造的にブラダーを大きくすることが可能です。このためタンクを2本、4本、5本と持っていくテクニカルダイバーご用達のBCDです。それをレクリエーショナルダイビングに流用すること自体に無理があります。
 ジャケットタイプは体全体にエアーが入る構造です。水中では背中に浮き輪があり、海面では首から浮き輪をかぶっている状態になります。一般にはScubaproのスタビライザー(通称スタビ)と言ったほうがわかりやすいでしょう。海面待機という点ではスタビは最強です。気を失っても首から上が海面に出ています。このため講習を頻繁におこなうインストラクター(海面で講習生に説明することが多い)、クルーズのガイド(ピックアップ待ちで海面待機が多い)にはスタビ命という愛用者が少なくありません。しかし海面待機が楽という点以外はすべて欠点です。まず価格が高いです。構造的にショルダー部分を分離することができません。サイズの調整もできません。このため脱着がとても面倒です。レスキューで事故者がスタビを使っていた場合は脱がすのに倍以上の時間がかかるだけではなく、事故者の顔面を水中に沈めかねません。サイズ調整ができないため体にフィットさせることができません。水中でタンクがぐらぐらするので初心者向きではないです。サイドマウントのごとく背中の上にタンクが何となく不安定に乗っかっているという状況になります。締め付けられず背中の上にタンクが浮いているような感覚が好きだというダイバーもいるのでここは好みでわかれるところです。ただこれらの欠点があるにせよ海面での安定性、安全性は大きな魅力となります。機能面以外の特徴をあげるならばブランド力でしょう。かなり昔のことですが、有名俳優がオレンジ色のスタビを身につけた映画のポスターで一世を風靡しました。このオレンジ色のスタビは機能改善され復刻版が販売されています。とてもカッコ良いです。筆者もひとつほしいです。
 もっとも一般的なBCDがフロントアジャスタブルタイプになります。最大の特徴はサイズ調整が可能なので自分の体にフィットさせることができます。フロントショルダーの部分が外れるので脱ぎやすいです。各社エントリー用の廉価版を出していますので安価に入手できます。レンタル器材はフロントアジャスタブルタイプが多いです。特に大きな欠点がないので、初めて買うのであればフロントアジャスタブルにしておくのが無難です。
 どのBCDも似たようなものであり、何を買ったらよいか悩むところです。無責任ながら、一番安い機種で良いと答えています。それでも検討したほうが良い項目をいくつかあげておきます。インフレーター機能に関しては各社特徴があります。インフレーターは別章にしましたので、そちらをお読みください。
 タンクを固定するバンドの金具には金属製を採用しているメーカー(ScubaproやAqualung)と合成樹脂を採用しているメーカー(TUSA)があります。固定する構造に違いがありますが、どちらもしっかりと固定できますので差異はありません。金属製は指を挟みやすいので注意が必要です。
 最近はウエイトシステムを内蔵しているBCDが増えました。ウエイトシステムがあればウエイトベルトと併用することでウエイトを分散することができます。上級モデルでは背中や上半身にもウエイトポケットを装備しています。上半身にもウエイトポケットがあると6kgや8kgなどの総ウエイトを装着する場合、全体バランスを適度に保つことが可能です。
 使われている素材により適正ウエイト量が大きくかわります。背あてなどに水圧でつぶれる素材を使っている場合はウエットスーツ同様水深により中性浮力の調整が必要になり面倒です。筆者が長年愛用しているBCDは背中部分は合成樹脂の板があるだけです。ラッシュガードだけで潜ると最大深度でもBCDにエアーを入れる必要がありません。浮く素材が多用されているBCDはウエイト量を増やす必要があります。BCDにより2kgくらい差があります。レンタル器材を使ったときに上手く潜航できない理由のひとつにBCD単体の浮力差があります。良いBCDほど浮力素材の使用は最小限になっています。
 Dリングの数や位置、ポケットの大きさ、色やデザインなど気になる点はたくさんあります。これらは普通のお洋服選びと同じです。最後は自分の好みで決めます。

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