考える


考えることについて

はじめに

「ITエンジニアにとって極めて重要な“考える力”が不足してきている」──

 日経ITプロフェッショナル5月号で「思考の技術」と題した特集記事を書くため,第一線で活躍しているITエンジニア十数人に話を聞く機会があった。そのときに,少なからぬ方から冒頭のような指摘を受けた。

 他人が作った提案資料をそっくり流用する。ITの知識に欠けるユーザーからの要求をそのまま要件定義書に反映させる。計画通りプロジェクトが進んでいないのに,どうしてよいか分からず手を打たない。そんなITエンジニアが散見されるのだという。

 取材した30代のあるITエンジニアは自戒を込めて,自身の経験をこう打ち明けてくれた。「予算を立てるときに前例をそのまま踏襲しようとして,上司に厳しく叱られたことがある。上司の指摘はもっともだった。予算の根拠を,自分自身でしっかりと理解できていなかったからだ」

 前例をそのまま踏襲するのでは,満足できる結果を出せなくなっている。ユーザー企業,IT企業ともにビジネス環境の変化が激しくなっているのに加えて,新しいITの登場やシステムそのものの複雑化も進んでいるからだ。従来のやり方が通用しないケースが増えたことで,ITエンジニアは様々な面で一から自分でやり方を考え直す必要性に迫られている。このことが,考える力が不足している背景にある。

「考える」と「悩む」は違う

 ビジネスの変化やシステムの複雑化に対処するには,以前に増して自分自身で考え抜く姿勢が求められる。ただし考え抜く姿勢だけで,考える力の不足を補えるわけではない。

 日ごろITエンジニアを指導する機会が多いあるコンサルタントは,こう指摘する。「本人は一所懸命に考えているつもりでも,悩むばかりでただ時間を浪費しているケースが少なくない」

 「考える」と「悩む」は別ものである。問題に対する解決策を導き出すシーンで言うと,両者の最も大きな差は,最初に問題を明確化するかどうかだ。

 「悩む」ケースでは,問題があいまいなまま,いきなり解決策にたどり着こうとすることが多い。例えばユーザー企業から「最近,商品在庫のだぶつきが目立ってきた」という相談を受けたとしよう。この問題に対して,需要予測システムや自動補充発注システムといった解決策をいくつか思いつくかもしれない。しかし,どんな解決策がユーザー企業にとって最適かという答えを出すことは無理だ。

 「だぶついている」とはどういう状態か。だぶついているのはどの商品か。どうして「目立っている」と感じるのか。ユーザー企業の誰にとって問題なのか──。こうしたことがあいまいなままで,解決策が適切だという根拠を示せるわけがない。

「考える」ケースでは,最初に問題をできる限り明確にする。そのうえで必要な情報を収集し,整理するといった具合に,手順を踏んで解決策を導き出す(図[拡大表示])。もちろん,これで常に適切な解決策にたどり着けるとは限らない。しかし的はずれな解決策を提示したり,どうして良いか分からずに悩み続けるといったことは避けられる。

考える手順を身につける  「考える」ために,手順を踏むことの重要性を分かってもらえたと思う。考える手順には,汎用的に使えるものがある。これが,ご存じの「思考法」だ。代表的な思考法としては,「ブレーンストーミング」や「KJ法」,「ロジックツリー」などがある。そうした思考法を身に付けることが,自分の考える力を高める助けになる。

 思考法については,書籍が多数出版されているほか,セミナーも数多く実施されている。思考法を身に付けるには,それらを利用してほしい。日経ITプロフェッショナルの読者の方は,5月号の特集「思考の技術」をご覧いただきたい。ここでは数ある思考法を整理・分類するとともに,思考法を身に付ける際の注意点について述べる。

 数多く提唱されている思考法のうち,基本となるものは「発想法」と「構造化手法」の2つに分けられる。

 まず発想法は「クリエイティブ・シンキング」とも呼ばれ,アイデアをどんどん出すことで考えの幅を広げることを目的としている。「ブレーンストーミング」や「KJ法」,「マンダラート」などが,発想法として広く知られている。

 構造化手法は,「ロジカル・シンキング」といったほうが馴染みがあるかも知れない。たくさんの情報やアイデアを,相互の関係を基に論理的に分析・整理する手法だ。全体と部分の関係を把握したり,背景にある法則や重要なアイデアを見つける助けになる。「ロジックツリー」のほか,「マトリックス(表)」などいくつかの方法が提唱されている。

 そして実践手法として,この2つを組み合わせて問題の原因と解決策を考える「問題解決の手順」がある。先に示した考える手順は,問題解決手法を極めて単純化したものだ。マッキンゼー・アンド・カンパニーの「PSA(Problem Solving Approach)」をはじめとして,大手コンサルティング会社などがそれぞれ独自の問題解決手法を提唱している。

考える力の根本は知識と経験

 これら提唱されている思考法の多くは身に付ける価値が高いが,そのまま役に立つわけではない。考えるという行為は,極めて自由度が高い。当然だが,その人に合った考える方法は異なるし,考える対象によっても方法を変えるべきである。そのため思考法を杓子定規に使うのではなく,アレンジすることが極めて重要だ。日々の仕事で一般的な思考法を実践しながら,自分なりの方法を編み出すぐらいの気構えが必要である。

 ここまで思考法について述べてきたが,考える力を高めるために重要なことはそれだけでない。繰り返しになるが,考え抜く姿勢が大前提である。さらに,演繹(えんえき)・帰納,集合論の基礎といった「基本的な論理学の知識」も不可欠だ。「きみの話は筋が通っていない」とよく言われる人は,思考法の前にここから取り組むべきだろう。

 また考える力の根本は,その人が積み重ねてきた知識と経験であることも,しっかりと認識しておく必要がある。日々の仕事に真剣に取り組んで,どん欲に知識と経験を身に付ける。その知識や経験を最大限に活用するため,思考法という「道具」を使う。これが,考える力を伸ばす最良の方法である。

(中山 秀夫=日経ITプロフェッショナル)

思考法

ブレインストーミング

ブレインストーミング (Brainstorming) は、アレックス・F・オズボーンによって考案された会議方式のひとつ。集団思考とも訳される。集団発想法、ブレインストーミング法(BS法)、ブレスト、課題抽出ともいう。 1941年に、良いアイデアを生み出す状態の解析が行われた後、1953年に発行した著書「Applied Imagination」の中で会議方式の名称として使用された。

概要

ブレインストーミングとは、集団でアイデアを出し合うことによって、相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法である。

人数に制限はないが5〜7名、場合によっては10名程度が好ましく、議題は予め周知しておくべきである。

ブレインストーミングの過程では、次の4原則(ルール)を守ることとされている。[1]

ブレインストーミングの4原則 

判断・結論を出さない(結論厳禁) 自由なアイデア抽出を制限するような、判断・結論は慎む。判断・結論は、ブレインストーミングの次の段階にゆずる。ただし可能性を広く抽出するための質問や意見ならば、その場で自由にぶつけ合う。たとえば「予算が足りない」と否定するのはこの段階では正しくないが、「予算が足りないがどう対応するのか」と可能性を広げる発言は歓迎される。 粗野な考えを歓迎する(自由奔放) 誰もが思いつきそうなアイデアよりも、奇抜な考え方や、ユニークで斬新なアイデアを重視する。新規性のある発明は、たいてい最初は笑いものにされる事が多く、そういった提案こそを重視すること。 量を重視する(質より量) 様々な角度から、多くのアイデアを出す。一般的な考え方・アイデアはもちろん、一般的でなく新規性のある考え方・アイデアまで、あらゆる提案を歓迎する。 アイディアを結合し発展させる(結合改善) 別々のアイデアをくっつけたり、一部を変化させたりすることで、新たなアイデアを生み出していく。他人の意見に便乗することが推奨される。


KJ法

KJ法(-ほう)は、文化人類学者川喜田二郎(東京工業大学名誉教授)がデータをまとめるために考案した手法である。データをカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、図解し、論文等にまとめてゆく。KJとは、考案者のイニシャルに因んでいる。共同での作業にもよく用いられ、「創造性開発」(または創造的問題解決)に効果があるとされる。

概要

川喜田は文化人類学のフィールドワークを行った後で、集まった膨大な情報をいかにまとめるか、試行錯誤を行った結果、カードを使ってまとめてゆく方法を考え、KJ法と名付けた。またチームワークで研究を進めてゆくのに効果的な方法だと考え、研修方法をまとめ、『発想法』(1967年)を刊行した。それ以降、川喜田が企業研修や琵琶湖移動大学などで指導を行い、普及を図った。

次第にKJ法の名称も一般化し、企業研修や学校教育、各種のワークショップなど様々な場面で広く用いられるようになった(大学で経営工学などを専攻するとカリキュラムの中で集中的に取り上げられることもある)。

フィールドワークで多くのデータを集めた後、あるいはブレインストーミングにより様々なアイディア出しを行った後の段階で、それらの雑多なデータやアイディアを統合し、新たな発想を生み出すためにKJ法が行われるのが一般的である。

多くの断片的なデータを統合して、創造的なアイディアを生み出したり、問題の解決の糸口を探ってゆく。プロセスそのものは川喜田二郎の著作に明確に記されており、一見シンプルで容易にみえる。しかし、プロセスの随所で細かい注意が必要であり、実際に使いこなすためには訓練が必要である。

ロジックツリー

ロジックツリーとは、問題の原因を深彫りしたり、解決策を具体化する際に、論理的な階層として分解・整理した原因や解決策をツリー図として作成する思考技術です。 見た目は、以前に紹介したマインドマップと似ていますが、マインドマップが連想のための思考ツールであるのに対して、ロジックツリーはあくまで論理的な思考による分析のための思考ツールという点で大きく異なります。 ロジックツリーには、課題の原因や解決策をツリー状に分解・整理することでMECEに捉え、広がりと深さを追求することを可能にできるというメリットがあります。 また、6σなどで用いられる特性要因図(フィッシュボーンダイアグラム)も、ロジックツリーの1つの応用例として考えることもできます。

http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/logictree.gif