化学ポテンシャルの応用例をもう一つ見てみましょう。
固体はバンド構造を持っています。
原子と原子の間隔が長いと電子の波動関数はお互いに影響されないので電子の軌道のエネルギーはどの原子も同じです。
近づくとお互いに影響し合い、波動関数は重なり合い、軌道のエネルギーが分裂してバンドをなします。
根本的に違う軌道は違うバンドをつくるのでバンドとバンドと間には軌道が存在しないギャップができます。
絶縁体はギャップ間隔が大きく、下層のバンド帯には電子がすべて詰まっていて(これを充満帯という)身動きができず、上層のバンド帯(伝導帯)に電子が存在しないので電流を流すことができません。
金属は伝導帯に電子が多数存在し、バンド内の軌道は密なので軌道を自由に乗り換えることができます。
半導体は金属ほど導体ではないという意味ですが、これには3通りの型があります。
真性半導体に不純物を入れて、充満帯の空席より伝導帯の電子のほうを大きくした半導体をN型半導体といいます。
逆に伝導帯の電子よりも充満帯の空席が多い半導体をP型半導体といいます。
流れる電流は電子が受け持ちますが、むしろ空席の方に注目してこれをホールとよんでいます。
真性半導体は温度の割にエネルギーギャップが小さく、絶縁体でありながら充満帯の電子が励起して伝導体に電子が、充満帯にホールが存在し電流を流すことができる固体です。
フェルミ分布のところで述べたように化学ポテンシャルは粒子の存在確率が半分のところの軌道のエネルギーに等しいので真性半導体では丁度エネルギーギャップの中間になります。この分野ではこれをフェルミ準位*1と呼んでいてその意味は場がない時の化学ポテンシャルです。
そんな訳でフェルミ準位は N型半導体ではそれより上側にシフトし、P型ではそれより下にシフトします。
いま、P型半導体とN型半導体をくっつけるとどうなるでしょう?
N型の電子は濃度拡散によってP型に移り、ホールと再結合し、P型のホールはN型に移り電子と再結合します。
電子が不足しホールが流れ込んだN型には+の電場が、P型にはーの電場がかかります。電場は図の折れ曲がったところにできます。*2
なお、接合部でお互いに再結合してキャリアが無くなった場所を空乏層といいます。
この系は拡散的な接触をしている系の平衡状態なので
化学ポテンシャルはどこでも同じでなければなりません。
化学ポテンシャルはフェルミ準位に電場のポテンシャルを足したものです。
結局フェルミ準位が一致するまで図のように軌道がシフトします。
もちろん、接合部での化学ポテンシャルはフェルミ凖位に電場のポテンシャルが足されて(拡散とドリフトが釣り合って)一定を保ちます。
電子は濃度拡散と電場で移動します。
移動が止まるのは濃度拡散と電場の移動が釣り合ったときか、濃度差がない時です。
平衡状態なら高度が同じならば気体の濃度はどこでも同じであったように
ポテンシャルが等しい軌道上の電子濃度、ホール濃度はP型、N型とも同じです。
P型にプラスつまり正バイアスUをかけると同じエネルギーの軌道をみると電子濃度はN型の方が濃く、ホールはP型の
方が濃くなるので接合部では濃度拡散によって電子はP型に移動し、ホールはN型に移動してお互いに再結合します。
そうやって電流が流れます。電極から接合部までは電場でドリフトします。
ある軌道(エネルギーε)の濃度差はボルツマン分布だとすると
です。室温では e**(eU/kT)の項は 0.6V 付近で急激に増加します。 回路屋さんはダイオードやトランジスタのベースエミッタ間の電圧を 0.6V として回路設計をします。
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