理想気体における散逸と圧力損失


熱力学入門


理想気体における散逸と圧力損失

前回は散逸が仕事の効率を減らしてしまうことを見ましたが、理想気体の流れがどの様な影響を受けるかを見てみましょう。

管のなかに流れを妨げるような多孔質の障害物があり、圧力p2の気体のなかに置かれています。 左側のピストンを押して右側のピストンを動かします。 もし障害物がなければ右側のピストンを押す圧力はp2ですむでしょうが、障害物があるときは もっと高い圧力で押さなければいけないでしょう。よってp1はp2より高くなっています。

JThomson.png

この時障害物の内部では秩序だった流れが乱されるのでエントロピーが生成され、圧力が落ちます。 この時点では甚だ飛躍的な解釈ですが、エントロピーが生成されると気体の流れでは圧力が減少します。 このことを圧力損失と呼んでいます。

この過程を詳しく見てみましょう。この過程は断熱的に行われています。 右から左へ単位質量が移動したとしましょう。小文字の量は全て単位質量あたりの量です。 移動する前の内部エネルギーはu1で移動した結果 u2となっているので u2-u1だけ内部エネルギーが変化します。 系1でなされた仕事は単位質量分だけ押されたので p1v1 で、系2ではp2v2の仕事を外にするのでエネルギー保存則より u2-u1=p1v1-p2v2となり、変形すると u1+p1v1=u2+p2v2 となります。 すなわちエンタルピー h = u+pv が保存しています。

断熱的流れではエンタルピーが保存する。

理想気体の場合はh=cpT なので、両系の温度は実は同じです。 非可逆過程があると理想気体はどうなるのでしょうか?それには理想気体のエントロピーに関する式を求める必要があります。今粒子数が一定なので

t08_1.png

これを積分すると2項目が0であることに注意して

t08_2.png

温度は一定でなので

t08_3.png

エントロピーが非可逆過程で増えている場合はV1<V2が必要です。 体積が増えれば状態の数が増えるので当然の結果です。 温度が同じで pv積が一定だから、圧力は減らなければなりません。 散逸があるということは流れが邪魔されているということなので圧力が減るのは直感に合っています。

断熱非可逆流れでは圧力が損失する。
reserver.png

まとめ

  • 圧力勾配があると流体が流れるのはエントロピーが増えることができるから。(機械的な接触をしている系で定義した圧力の定義を思い出そう。体積を変化させることでエントロピーを最大にしている。)
    t05_3.png
  • 流体の秩序だった流れを邪魔する(粘性がからむ)ようないわゆる散逸過程はエントロピーを増やす過程であり増加できるエントロピー分はそこで食われてしまう。
  • よって散逸の多い配管でも流量を確保するには圧力勾配をきつく、つまりエントロピーをより増加できるようにしなければならない。それを圧力損失と呼ぶがこの言葉は物理的な意味合いよりも工学的な意味合いが強い。
  • エントロピーを通して見ると圧力が減ったというよりは体積が増加すると見た方がわかりやすい。

Next >> 圧縮と散逸 Back<<仕事と熱