では、さらに4つの水素原子の原子間距離を近づけたらどうなるでしょうか?もちろん現実には常圧では結合はしないのですが例えば爆弾等を用いて超高圧をかけて閉じ込めれば良いのです*1。
1s 軌道の重ね合わせ方は4つあります。
一番下の図がゆるやかで節が少ないのでエネルギーが最低です。上に行くほど節の数が増えるのでエネルギーが高くなります。ここでいえる事は一つの状態(ここでは1s)の N 個の重ね合わせは N個の分子軌道(非局所電子)を作るということです。
原子の数を増やしていくと長さが増え多少の組み合わせの違いはそれほどエネルギー差を生まなくなるでしょう。するとN個のレベルが接近してバンドを作ります。固体の密度ともなるとエネルギレベルはほとんど連続といってもいいでしょう。このような状態になった時、電子はずらっと並んだ原子核と電子が作る周期的な平均ポテンシャルの中を動くというモデルを使用した方が実態に近くなります。
異なるレベル、例えば 2s 軌道の組み合わせは異なるバンドを作ることは簡単に予想できます。このような構造をバンド構造といいます。今、 N 個の水素の電子に対し、軌道の数は Nでそこに2個まで入ることができるので電子が収まるべき席は 2N 個あり、いつも N 個の席が空いています。バンド内のエネルギレベルの差はほとんどないので電子はほぼ自由に振る舞えることができ、自由電子と呼ばれています。このような状態が金属です。
電子を下から詰めて最後に残った電子のエネルギーをフェルミエネルギーといい、温度が低いときはおおよそこのエネルギーの中に電子は収まります。下の図は速度空間上の電子の配置を表しています。図の球面をフェルミ面と呼びますが、温度を上げるとフェルミ面から電子が飛び出せるようになり面がぼやけます。逆に温度は面のぼやけ具合を見れば分ります。
電池を繋ぐと電子はほんのわずかな電場で加速され他の軌道に飛び移ることができます。そして電子全体が平均して加速され(フェルミ球が動く)、電荷が移動するので電流が流れることになります。その加速が無限に続く訳ではありません。不純物や欠陥や格子振動による散乱(弾性的な散乱)を受けます。(図の赤い線は散乱を表しています。)その影響はフェルミ面近傍の電子が特に受け易いのです。
図のようにフェルミ面付近の電子は散乱されやっぱり別のフェルミ面付近に移動し,結局球はそれほどシフトしません。