仕切られていない二つの箱に玉を入れていきましょう。 ただし、玉の体積は箱の体積に比べて十分小さい気体分子の様なものとします。 箱を揺らして玉を観測してみます。
どんな組み合わせでもそれぞれは等しいチャンスをもっています。
4個の玉しかない場合は、右の箱に4個入る場合の数は1通りしかありません。
場合の数を物理では縮退数と呼んでいます。2個ずつ入る縮退数は6です。
この時同じ状態が6通りあるのでこれを縮退していると言います。
では玉をどんどん増やして見ましょう。
玉が N個あったとして右の箱に入っている個数と左の箱との差が 2m の状態数、つまり 右の箱が1/2N+m、左の箱が1/2N-mである縮退数は
です。この関数を縮退関数と呼び、mという値を持つ縮退数を表しています。
玉の数が増えるとガウス分布に近似することができます。
これを全状態数 2^Nで割れば確率になります。
分散は√N/2ですから分布の幅はNで割って1/√N です。
標準大気ではおおよそ、1cm^3に 10^19個/cm^3の分子がいるので分布の幅は10^-10とかなり小さいものとなります。つまりm=0を中心に鋭いピークを持った分布をしています。m=0は 最も現れる配置(most probable configure) です。
実際に観測してみれば、 最も現れる配置 ばかりが観測されるでしょう。
もちろんこれからずれた分布も観測されるでしょうがその揺らぎは無視できるほどです。
この 最も現れる配置が系の性質を決めてしまうといっても言い過ぎではないのです。
玉が全部右の箱に入っている場合も 可能な状態 であり*1、他の状態と等しくチャンスを持っています。
しかし、標準大気中の様に玉の数が多いとこのような分布が観測されることは生きているうちはというより人類が滅ぶまで確率的にはないかもしれません。
熱力学はこのように統計量の多いものを扱います。ここでは熱力学では最も大事な前提を学びました。
最も現れる配置が観測される。
エントロピーの定義は非常にシンプルで縮退数の log をとったものです。
エントロピーは系に許される状態の数の対数である。
なお大気中の分子は運動しているので、箱に配置する位置の分配のエントロピーだけを考えてはいけません。運動量の分配、つまり位相空間上で考える必要があります。