仕事と熱


熱力学入門


仕事と熱

エネルギーの移動には二つの種類があります。

一つは仕事です。 我々が何かに仕事をするには秩序だったエネルギーの輸送が必要です。 筋肉のエネルギーをボールに伝える時、ボール全体に運動エネルギーをあげなければなりません。 仕事そのものはエントロピーを増やしません。

一方、手のひらから伝わる熱ではボールを加速することはできません。 ボールを運動エネルギー分だけ暖めても飛ぶことはまずありません。 熱の移動はミクロな分子にエネルギーを無秩序に渡します。 無秩序なエネルギー移動があるときはエントロピーが増加します。

仕事は秩序だったエネルギーの移動、熱は無秩序なエネルギーの移動
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上図のバネをゆっくり押したり、引いたりすれば均等に伸び縮みしますが速く動作させると玉に余計な振動を与えてしましいます。本来は仕事に使われるべきエネルギーの一部が散逸して余計な振動を与えてしまうのです。

ピストンをゆっくり押せば中の気体は一様に圧縮されますが、早く押せば中の気体は乱されて 仕事をすべきエネルギーの一部が無秩序に気体に与えられ、思ったよりも圧縮できません。 圧縮するときは一般的に不安定であることはこの図からもイメージできるでしょう。

この時無秩序なエネルギーに変換されたので熱が発生し*1、エネルギーが散逸したといいます。 ただし、ここでいう熱はエネルギー保存式で使われるQとは違うことに注意してください。 保存式のQは外界との熱のやりとりのことです。

散逸というのは仕事(秩序だった)エネルギーの一部が(無秩序な)エネルギーに取られてしまうことであり、 そこには必ず不可逆な過程が存在しています。

散逸とは仕事をすべきエネルギーの一部が仕事をせずにただ加熱のために使われてしまうこと

まとめ

  • 非平衡とはエントロピーが最大となっていない状態
  • ゆえに非平衡から平衡に移ろうとする
  • 不可逆過程とは非平衡が存在し、全体のエントロピーが増える過程
  • 不可逆過程があると仕事の効率が落ちる
  • 仕事をすべきエネルギーの一部が温めるだけに使われてしまうことを散逸という

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*1 あまり適切な言い方とは思えません