光の選択則を理解する


量子力学超入門


光の選択則

電磁波が軌道に作用して励起する場合を考えてみましょう。今原子の大きさよりは長い波長の電磁波とすると電磁波の電場は電子の位置(r)にはよらないとして良いでしょう。原子核を中心に考えると一様な電場がz軸方向に形成される(z軸方向に偏光した電磁波)としてそのポテンシャルは ezE です。波動方程式はエネルギーに関する式なので電場ではなくポテンシャルを作用させます。今,基底準位の1s に電磁波が作用した時 ezE|1s> という重ね合わせ状態になります。

それが上準位にどのくらい重なるかは励起確率を決める重要な要素です。例えば2sに励起できる確率は<2s|ezE|1s>の2乗です。ここで 2s状態に移行できるかどうかをおおざっぱに見てみます。

光は y 軸方向から侵入します。電場は z 軸方向に向かっているとします。前に見たように波動関数や電磁波を単純にプラスとマイナスの領域に分けてみるともともと節平面を持っていなかった 1s> が電磁波によって節面を持つようになります。電磁波のポテンシャルは(zに比例するので)l=1 のような形(双極子)をもっているのでこうなります。形の上では |2pz> になったのですから他の軌道と重ね合わせてもゼロになります。2番目の例では 2px 軌道が3d軌道に、逆に3番目の例では l が一つ減って,2pz> が3s 軌道のようになります。

quantum04_01.png

こう見ると方位量子数 l が Δl±1の時以外は遷移が禁止されている可能性があり、実際式の上ではそうなっています。励起と放射は逆過程ですから、今までの話はすべて放射にも当てはまります。

磁気量子数でも許容遷移が決まっているのですが、磁気量子数を基準に考えると図示しづらいので*1答えだけを書くと z方向に電磁波が向いているときは Δm=0、x、yではΔm=±1です。

いったんイメージを掴んだら細かい事は数式でみるようにしましょう。

問 上図の最初の例で2s, 2px, 2py 軌道に励起できない事を図を描いて説明しなさい。

光の放射

一つの原子を見れば光を放射して励起している m から n に遷移する瞬間は突然ですが、多数の原子を観察すれば平均寿命があり、ここではそのような時間程度では両方の状態が共存する中間状態が存在すると考えます。ではその中間状態はどんなでしょうか。

quantum05_01.png

a*a と b*b はそれぞれ電子が m 状態、 n 状態にいる確率だからその和は1です。

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光を放出する前のt=0 では a=1, b=0, ですが放出後 t=∞では a=,0, b=1 です。いま電子の平均位置を計算するとΨ=φe^(-i(2πE/h)t)であることに注意して展開すると次式になります。

quantum05_03.png

ここで ν =(Em-En)/h です。式のおおまかな意味を考えてみましょう。初めの2項は時間変化がありません。3項目は振動数 ν で振動しています。電子が振動すれば光を放出します。振動数は10^15/sec 程度でm から n に遷移する寿命はそれよりもずっと長い(10^-8sec程度)ので 振動そのものにa, b の変化がそれほど影響を与えませんがこれが光のスペクトル線幅に関係しています。寿命Δt とΔE の積はh/2πです。

また、3項目の積分は前にみた光の選択則の式と同じであることに注意して下さい。


原子から分子へ


*1 例えばp軌道は3つの独立した軌道をもっている。それぞれにm=1, 0 -1 を割り当てた軌道は px, py, pz といったおなじみの形にはならない(球面調和関数の形を見ればわかるが)。pz はm=0の軌道だがpx, py は m=±1の波動関数の線形和で表される。根本的に違う軌道の作り方はいろいろあり、独立である限りどれをとっても正しい。