増額投資の話


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投資競馬の代表的手法?

さて、投資競馬とか馬券投資と言うジャンルで必ずと言って出てくる単語/方法論にマーチンゲールの法則(倍々法)があります。そして、ある周期で必ずと言っていいほどこのテの増額投資ブームと言うものが起こります。
平たく言うと、僕はこの増額投資反対論者だったのですが、ここ最近は意見が変わってきています。ハッキリ言うと今は馬券なんて好きに買えばイイじゃんとしか思っていません。
大体、増額論者は一定周期で現れますし、長い間競馬で負け続けてきた人が最後の望みを増額投資系の馬券購入術に賭けるのも分からなくはないのです。そして、増額投資信奉者を根絶するのは不可能ですし、また根絶する必要性もよくよく考えてみるとないのですね。
しかしながら、一つだけ言えるのは、このテの増額投資を謳った本には、本文には

これであなたは絶対に競馬で儲ける事が出来るのだ

と書いているのに、裏表紙には

本書を実行して受けた如何なる損害に対しても当社は責任は持ちません

等と書いてる事です(笑)。これじゃあ単なる二枚舌ですね(笑)。
ハッキリ言うと、どんな馬券購入術に関しても、100%利益をあげる事が出来る、なんて言い回しは戯言でしかありません。ただし、分割コロガシのページでご覧に入れたように、危険率と言う概念を導入して、破産確率を極めて小さくする事は可能だと思います。
そして、増額投資系に関して言うと、いままで、

「どれだけの準備金を用意したらどのくらいの確率で破産を回避できるのか?」

まるっきり議論がされてこなかった、と言うところに実は問題があるのです。つまり、増額投資信者はリスクへの計算を行う術を持ち得なかった、と言うのが経緯なんです。
ここでは敢えて、増額投資の為のリスク計算法を思いつくままに記述しようと思っています。僕は決して増額投資を奨める立場ではありませんが、ご自分で予算を立てて、ご自分でリスクを計算して、自己責任で増額投資を行いたい、と言うならそれはそれで別に構わないと思います。少なくとも100円からはじめて長く競馬を楽しみたいと思っている方々もいるのは事実なのですから。

馬法の方程式

ここで、マーチンゲールの法則から云々するのもかったるいので、日本競馬投資協会*1が開発したとされる馬法の方程式に付いて考えてみましょう。本来だったらこの式は著作権がある筈なんですが、色々な個人ホームページでも取り上げられている数式ですし、殆ど増額投資の代名詞になっている感すらあります。そこでこの式を議題としてみたいと思います。
ここで、馬法の方程式をご紹介したいと思います。投資競馬を知ってる方ならいざ知らず、そんな投資金算出式等聞いたことがない、と言ったお方もいるとは思いますし、基本を整理するのが出発点だからです。
第n−1レースまでの累積損失金を

S_{n-1}

係数をλ*2、購入馬券のオッズをεとすると、第nレース目の投資金

a_{n}

は次の数式で算出されます。

a_n=\frac{\lambda~S_{n-1}}{\epsilon-1}

上式を馬法の方程式と呼ぶのです。

馬法の方程式の数列化

さて、ここで馬法の方程式を見た場合、

各投資レースの狙った馬券のオッズによって投資金が変動する

と言うのが分かるでしょう。
つまり、どんな計算を行っても正確な投資予算を計算する事は不可能だと言うのがこの増額系投資術でのネックなんです。
そこで、しょーがないんで、あくまで概算を算出するだけに留める、とします。
原則的に、馬法の方程式を初めとする増額投資系馬券購入術での狙い目は、単勝人気や日刊コンピ等で提示された同じ買い目をずーっと買い続ける、と言うのが基本です。*3
そこで「ずーっと同じ買い目を買い続ける」と言った作戦を取るので、「その買い目の平均オッズ」を利用した計算法を提示してみましょうか。
ところで、仮に、馬法の方程式で、平均オッズがεである固有の買い目(例えば単勝2番人気であるとか)をずーっと買い続ける場合、初期投資金を

a_1

とすると、それぞれのレースでの投資金は、

  • 投資1レース目
    a_1
  • 投資2レース目
    a_2=\frac{\lambda~a_1}{\epsilon-1}
  • 投資3レース目
    a_3=\frac{\lambda~(a_1+a_2)}{\epsilon-1}=~\frac{\lambda~S_2}{\epsilon-1}
  • 投資4レース目
    a_4=\frac{\lambda~(a_1+a_2+a_3)}{\epsilon-1}=~\frac{\lambda~S_3}{\epsilon-1}
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  • 投資n−1レース目
    a_{n-1}=\frac{\lambda~S_{n-2}}{\epsilon-1}
  • 投資nレース目
    a_n=\frac{\lambda~S_{n-1}}{\epsilon-1}

となります。
言わずもがな、これは数列の問題となるのですね。

馬法の方程式と漸化式

そこで、前項で提示した数列の式である最後の2つ

  • 投資n−1レース目の投資金
    a_{n-1}=\frac{\lambda~S_{n-2}}{\epsilon-1}
  • 投資nレース目の投資金
    a_n=\frac{\lambda~S_{n-1}}{\epsilon-1}

に着目します。
元々馬法の方程式そのものが構造上、数列の和である項、Sを自身に含んでいるのですが、これを敢えて除去する事によって、数学的には「一般項」(もしくは一般解)と言われるものに形を変化させる事が出来るのです。
そこで、上の2つの式の辺々引いてみましょう。

a_n-a_{n-1}=\frac{\lambda~S_{n-1}}{\epsilon-1}-\frac{\lambda~S_{n-2}}{\epsilon-1}\\=\frac{\lambda~}{\epsilon-1}(S_{n-1}-S_{n-2})

この形式の数式を特に漸化式と呼びます。*4
さて、ここで右辺の

S_{n-1}-S_{n-2}

に着目してみます。ここは要するに、

前回の累積損失金−前々回の累積損失金

と言う意味なんですが、この答えはなんでしょう?
端的に言うと、

前回の累積損失金=前回の投資金+前々回の累積損失金

と言う関係を必ず保っているのですね(これはちょっと考えれば分かると思います)。
要するに、

S_{n-1}-S_{n-2}=a_{n-1}

の関係が必ず成立していると言う事です。
上の関係式を与式にぶち込むと、

a_n-a_{n-1}=\frac{\lambda~a_{n-1}}{\epsilon-1}

と言う数式が導き出されます。これを書き換えて、

a_n=a_{n-1}+\frac{\lambda~a_{n-1}}{\epsilon-1}~\\~=a_{n-1}(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})~\\~\therefore~\frac{a_n}{a_{n-1}}=1+\frac{\lambda}{\epsilon-1}

となります。

馬法の方程式と等比数列

ところで、前項の最後の式、

\frac{a_n}{a_{n-1}}=1+\frac{\lambda}{\epsilon-1}

に何か意味があるのでしょうか?
次のように考えます。右辺のλは定数、そして平均オッズεを導入している為、右辺の

1+\frac{\lambda}{\epsilon-1}

定数なんです。
そうすると、左辺が示している事は

今回の投資金と前回の投資金の比

なので、つまり、数式全体に対しては、どの投資レースに於いても、

今回の投資金と前回の投資金の比は常に一定である

という事を表しているんです。
もしくは、

a_n=a_{n-1}~\times~(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})

とでもして、

今回の投資金は前回の投資金に定数を掛けたもの

と解釈してもいいかもしれません。
いずれにせよ、比が一定と言う条件では

馬法の方程式は等比数列の一種である

と言った解釈が成り立ちます。
すなわち、初期投資金*5

a_1

とした場合、馬法の方程式の一般項(第nレース目での投資金)は、公比を

1+\frac{\lambda}{\epsilon-1}

として、

a_n=a_1(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^{n-1}

と書き換える事が出来る、という事を意味しているのです。


馬法の方程式と等比数列の和

例えば、前項での数式、

a_n=a_1(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^{n-1}

を実際に使ってみるとしましょう。
ここで、初期投資金を100円で単勝2番人気(平均オッズ約4.1倍)を1日買い続けるとしましょう。λを1.6倍とした場合、第12レース目の投資金は

a_{12}=100~\times~(1+\frac{1.6}{4.1-1})^{12-1}~\\~=9729.663

となり、約9,800円程度になるんじゃないか、と言った予測が成り立ちます*6
ところで、

だからどーした?

とか思っている人もいるとは思います(笑)。

そんなのは初めのスタイルの馬法の方程式だって、計算できるんじゃないの?
わざわざ等比数列の一般項としてのスタイルに持ち込んだ意味が分からん。

この指摘はもっともで、実は馬法の方程式を等比数列の一般項になおしただけではあまり意味がないのです。本題はここからです。
数学がありがたいのは、等比数列が出て来たと同時に等比数列の和と言うのも定式化されていると言う部分なんですね。
分割コロガシのページで見たように、一般に初項が

a_1

公比rの等比数列

a_k

のk=nまでの和は

\sum_{k=1}^n~a_k=\frac{a_1(1-r^n)}{1-r}

で表されます。
この公式を当て嵌めると、馬法の方程式での第nレース目までの累積投資金は、

\sum_{k=1}^n~a_k=\frac{a_1~\{~1-(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^n~\}~}{1-(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})}~\\~=\frac{a_1~\{~1~-~(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^n~\}~}{-\frac{\lambda}{\epsilon-1}}~\\~=\frac{a_1}{\lambda}~(\epsilon-1)~\{~(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^n~-~1~\}

となります。
これを先程の条件、λ=1.6として、単勝2番人気(平均オッズ約4.1倍)を100円からはじめて一日中買い続けるとすると、第12レース目までの馬法の方程式での累積投資金は

\sum_{k=1}^{12}~a_k=\frac{100}{1.6}~\times~(4.1-1)~\times~\{~(1+\frac{1.6}{4.1-1})^{12}~-~1~\}~\\~=~28387.14

つまり、約28,400円が予算として必要だ、という事が分かります。

破産危険率と馬法の方程式の累積投資金

さて、ここで分割コロガシのページで見たように破産危険率の議論を導入してみましょう。
詳しくは分割コロガシのページに譲りますが、原理的には増額系馬券購入術も、一番やっかいな敵は連敗と言うシロモノです。そこで、数学的な詳細な議論は分割コロガシのページに書かれていますが、幾何分布の累積分布関数で求めた解を危険率による最大不的中回数+1として、馬法の方程式に転用できるのです。
破産危険率α、不的中確率qを用いた最適分割数は

n=\log_q~\alpha

で表される、と言うものでした。
ここで、例えば破産危険率αを1%、単勝2番人気の的中率を約18%とすると、最適分割数nは、

n=\log_{0.82}~0.01~=~23.20559

つまり、的中率18%の馬券ですと、99%の確率で24レース以内に出現する*7事が言えるわけです。
そこで、上で求めた分割数を利用して、係数λ=1.6で単勝2番人気を100円から買い始めるとして、24レース目までの累積投資金はどうなるかと言うと、

\sum_{k=1}^{24}~a_k=\frac{100}{1.6}~\times~(4.1-1)~\times~\{~(1+\frac{1.6}{4.1-1})^{24}~-~1~\}~\\~=~4215894

つまり、計算上は、準備金を4,215,900円程度用意しておけば、単勝2番人気に対する100円玉からの増額投資でも99%の確率で破産を回避できるのですね。
なかなか凄い数字が出てきましたが(笑)。100円からはじめて400万円台だそうです(笑)。

予算と初期投資金の関係

次にもうちょっと現実的な増額投資に於ける手持ちの予算と初期投資金の関係を見てみたいと思います。
今、手持ち予算がS円ある場合、馬法の方程式に拠る第nレース目までの累積投資金と手持ち予算Sとは破産を回避する為、次の条件を満たしていないといけません。

\sum_{k=1}^n~a_k=\frac{a_1}{\lambda}~(\epsilon-1)~\{~(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^n~-~1~\}~<~S

という事は、初期投資金

a_1

を決定するに当たり、次の不等式での関係を満たしていないと破産するという事を示しているのです。

a_1~<~\frac{\lambda~S}{~(\epsilon-1)~\{~(1+\frac{\lambda}{\epsilon-1})^n~-~1~\}~}

例えば、今、手持ちで100万円あるとします*8
前項で見たように、400万以上の資金を用意出来ないので、λ=1.3と利益率を少々落してみます。また、危険率も5%程度としてみましょう(これでも20回に1回は破産する覚悟は必要だという事です)。そして同じく、単勝2番人気(的中率約18%、平均オッズ4.1倍)を狙い続ける、としてみましょうか。
前項と同じロジックを使って、不的中率82%、破産危険率を5%にした場合、最適分割数nは、

n=\log_{0.82}0.05=15.09558

となり、16分割辺りだったら95%の確率で破産が回避出来そうです。
そこで、手持ち資金100万円がある時、破産回避できる初期投資金設定は次の不等式を満たします。

a_1~<~\frac{1.3~\times~1000000}{(4.1-1)~\{~(1+\frac{1.3}{4.1-1})^{16}~-1~\}~}=1551.421

つまり、手元に100万円あれば、増額投資の成功率95%の下で、計算上は初期投資金が1551円未満だったら何とか破産を回避する目処がつきそうだ、と言う事が言えるのです。この場合、1,600円は初めの資金としては賭け過ぎですが、1,500円だったら何とか持ちこたえられるギリギリの初期投資金ではないか、と考えられるのです。

増額投資に対しての私的見解

如何でしたでしょうか?増額投資の数学的議論は面白い事は面白いですし、馬券購入予算が500万円くらいある方なら、ある程度の確率なら破産は回避出来るでしょう。
しかしながら、このように「危険率」を細かに設定してみて、計算してみると、予算としては

「思ったより資金がかかるな」

と感じた方も多いのではないでしょうか?そしてそれはその通りなんです。
そして、上記の計算を見てみれば分かりますが、例えば初期投資金を500〜1,000円のレベルに上げるのさえ、実は無作為に行うのは凄く危険なのです。
つまり、端的に言うと、

「100円からでもはじめられる」

と言うより、確率論的には

「100円でしかはじめられない」

と言った方が正しいのかもしれません。
そして、総予算の話をマジメに考えてみる限り、とても

「100円玉から気軽に始められる」

と言うようなものではありません。その先には何百万円もの予算を必要とするのです。それでなければ高い確率で破産を回避できないのですから。
原則的に、この増額投資系馬券購入術とは庶民の馬券購入法と言うより、お金持ちの為の馬券購入法だと言うのが僕の個人的な結論ではあります。

ちょっと議論が長くなってきたので、別ページを立てます。-- 亀田? 2006-07-14 (金) 16:36:29

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*1 ちなみにそんな団体は実在しません。架空の団体です。
*2 一般にこの係数λは1.3〜1.6辺りを使うと言われています。
*3 ターゲットとなる馬券を買い続けるので、通称「追い上げ」等と呼んだりします。
*4 ちなみに僕は高校時代このテの数列や漸化式の議論が大ッ嫌いでした(笑)。高校時代は本当に勉強せんかった(笑)。こんなモン何の役に立つんだ?って悪たれてたもんですが、その後こうやって、競馬で役立つとは正直思ってもみなかったです(笑)。世の中何が何の役に立つか、なんて正直分からない物ですね。現高校生で昔の僕のように悪たれてる子供を見かけたら、“競馬で役に立つかもしれん”と厳しく指導してあげましょう(笑)。
*5 数学的には初項です。
*6 あくまで予測です。
*7 ちなみにこれは的中率18%で試行回数24回の二項分布で少なくとも1回以上的中する確率に相当します。その値は、99.14585%です。
*8 競馬用の予算として100万円手持ちがある、と言う事自体が実際は非現実的なのかもしれません(苦笑)。