読書メモ / 証券分析


第1部 証券分析とそのアプローチ

第1章 証券分析の役割と本質的価値

証券「分析」にとっての大敵は,分析などあてにならないと諦める人間の心だと, グレアム=ドッドは思っていたようだ。両氏は,大恐慌なんて,異常事態なんだ から,少なくとも生きているうちに同じようなことは繰り返さないので,早く忘 れてしまえ・・・と言っているように,私には思える。

これは,日本におけるバブルの時代と,その後の「失われた10年」にも言える ことかも知れない。バブルの時代のような,べらぼうな株価がつくことは,少な くとも生きている間はないかも知れないし,2002年秋から2003年春頃ま での,異常とも言えるほどの市場の非効率さも,二度と目の当たりにすることは ないのかも知れない。

まあ,日本経済が,高度成長期のように右肩上がりの成長を遂げることだけは, 二度とないと思っておいて間違いないだろうが・・・。

この章で書かれていることに,特に目新しいことはない。要は,分析によって本 質的価値(Intrinsic Value)を求め,それによって投資判断をしろ,投機はする な,分析にあたっては色々な要素を色々な角度から検討しろ,という注意をして いるだけで,具体的なことは何も書いていない。さっさと,次の章に取りかかる べきだ。

第3章 情報源

この章では、グレアム=ドッドの時代における,証券分析の情報源へのアクセス の仕方について説明がなされている。

この章も,ほとんど飛ばして読むことになる(笑)

このページを投資の初心者が読まれたのならば,次の方法をとられると良い。

検討すべき資料

  • 有価証券報告書
  • 決算短信
  • 企業のインターネットサイト
  • 業界新聞
  • ようさんのメルマガ
  • 私のサイトとリンクしているサイト

検討すべき事項

  • 事業内容・計画
  • 財務内容
    • 貸借対照表
    • 損益計算書
    • CF計算書

資料の漁り方

  • 四季報を使う
  • EDINET や IR-BOX を探す
  • 企業のサイトにないか,探す
  • 企業に直接請求する

第4章 投資と投機

この章も,書くこと少ないなぁ(笑)この章では,むしろ,「賢明なる投資家」で有名になった,投資の定義についての説明がなされている。

投資とは詳細な分析に基づいて,元本の安全性と満足すべきリターン(投資収益)
を確保する行為である。この原則を満たさない行為を投機と呼ぶ。

以下,投資の定義に対する,詳細な検討結果について,説明する(眠くなるようだったら,すっとばすこと)。

単に特定の証券を購入する行為は「投資」か?

グレアム=ドッドの説明によると,Noである。あくまで,内在価値と価格を比較した上で,分散投資すべきであるとされる。

分散投資の延長線上の話であるが,ある証券を購入すると同時に別の証券を売却するという裁定取引やヘッジ取引も投資に該当するとされる。買いと売りを組み合わせることによって,高い安全性を確保できるからである。

詳細な分析

有益な安全性の指標を複数用い,割安度を判定すること。

元本の安全性

いついかなる時も,元本割れしないことを意味しない。平時において,損失を被らないという程度の意味。相場暴落時において元本割れしない証券など存在しないから。


満足すべきリターン

リターンとは,インカムゲインだけに限らず,キャピタルゲインも含む。また,どの程度だと満足すべきだというのかは,投資家の主観に左右される。

現物買いや長期保有に限られるか?

否。価値と価格の乖離に注目した証券取引ならば,株式の信用買いや,短期売買も投資になりうる。

第5章 証券の分類

この章でも,かなり前置きが長い。要点だけを書こう。グレアム=ドッドが提唱する,証券の分類方法は,次のとおり。

1.確定利付き証券  優良な債券・優先株
2.変動利付き証券
 a.利益が十分に保証された証券  優良な転換社債
 b.利益が十分に保証されない証券 二流の債券・優先株
3.普通株の形態  普通株

で,上記分類は,次のとおりに簡単にすることが出来るとのこと。最初からそうしてくれ(笑)。

  • 投資適格の債券・優先株
  • 投機的な債券・優先株
    • 転換社債など
    • 二流の上位証券
  • 普通株

グレアム=ドッドは,投機はするなと言っているのだから,自然と2.の種類の証券は,取引の対象外ということになる。つまり,転換社債には手を出すな,支払能力に疑問のある企業の債券や優先株もしかり,ということらしく,その典型例が,変動利付きの債券や優先株なんだそうな。

逆に,支払能力に余裕のある確定利付き債券は,常に投資の対象ということになるみたい。金利だとか,株式の益利回りと比較しなくていいのかなぁ?

普通株については,投資とも投機とも書いていない。つまり,どっちにもなるという伏線を張っているわけですね。

第4部 普通株の投資理論

第28章 普通株の投資基準


前提条件

前章では,古典的な普通株の投資方法が影を潜めてしまったことの説明と,収益トレンドを基調とした普通株への投資が最も安全で有利な投資対象だとする新しい理論に対する批判がなされていた。

おそらく,グレアム=ドッドが証券分析を書くまでは,普通株の「投資基準」という言葉自体が,大変斬新なもので,基準らしい基準というのは存在しなかったのであろう。

今でこそ,我々は,妥当株価とかいった言葉を当たり前のように使っているが,グレアムの時代(70年以上昔)において,普通株の値動きというのは,いわば魔物の足跡のようなもので,得体が知れず,およそ人間の予測など及ばないものであったことは,容易に想像できる。

そこに,あえて,妥当株価という言葉を用い,魔物を制御しようとするグレアムの試みに対しては,尊敬と賞賛以外の態度は何も見つからない。

普通株の投資原則

グレアム=ドッドが提唱する普通株投資の3つの原則は,以下のとおり。

  1. 普通株「グループ」への投資を通じてリスクを分散し,平均的な投資収益を高めるようにする(いわゆる分散投資)。
  2. 確定利付き証券の選択で使用した質的および数量的基準を普通株にも適用して有望な銘柄を見つける(債券投資の基準の普通株投資への応用)。
  3. 債券選択のときよりも多くの努力を払って,その株式の将来の見通しをできるかぎり正確に予測する(事業素質の評価?)。

妥当株価に基づく投資

証券分析では,過去の業績に基づいた妥当な株価を求め,それによって投資判断を行うことが勧められている。読んでいて驚くのは,妥当株価を決める基準が非合理的なものであっても,ないよりはマシだという書き方がされていることである。

妥当株価を求めたら,分散投資をすることによって,リスクの平均化を行うように注意がなされている。分散投資でなければ投資ではないと言い切っているのに近い言い方をしているが,どうなんだろうか?

見逃してはならないのは,「ただし,債券の厳しい安全基準を満たすような普通株への投資については例外である」とある点である。これは,要するに,ネット・ネット株のような投資案件については,分散しなくて良いということ?

投資と株価

投資家は,株式の購入時だけでなく,購入後も常に株価に目を光らせて,株価が妥当株価に達したら,容赦なく売る必要があるとされている。この点,弟子のバフェットとは,かなり立場を異にしていて興味深い。

おそらく,事業というのは,早晩陳腐化する運命にあり,そうなると株価も低迷することになるので,売れる間に売っておけという考えが下地にあるのではないかと思う。多分,ほとんどの企業については,正しいんだろう。

株価の変動について書かれた文章のうち,私の目に留まったのは,「(市場が投機的になっても)われわれとしては普通株投資の安全な基準を確立する可能性についてけっして悲観的には考えていない。」というくだり。

投機の影響から投資家が逃れるための方策として,投資信託が問題解決のカギと書かれているのは,ちょっと笑ってしまう。ごく一部のファンドを除いて,投資信託にお金を預けようという気には,ちょっとなれないなあ。

第5部 損益計算書の分析と普通株の評価


第40章 普通株の分析−−配当

普通株を分析する際に考慮すべき事項

普通株の評価に際して,考慮すべき要素として,次の3項目が挙げられている。

  1. 配当率と配当実績
  2. 損益計算書の各項目(収益力など)
  3. バランスシートの各項目(資産価値など)

私が,普通株の評価のために使っているのは,主にDCF法だけど,上記3つの項目を精査することの重要性は十分に認識しておく必要がある。だって,DCFも,各財務諸表の正確な理解の上に成り立っているのだから。DCF法で企業価値を評価するには,CF計算書だけを見れば十分かと言えばそうでもないだろうし。

で、配当率や配当実績の数字だけで株価を計ろうというのではなくて,どのような配当政策をとっているかを詳細に調べることにより,経営者が株主の利益を考えているのかどうかがわかる・・・(?)というものらしい。

配当しない政策

この箇所を読むと,少しドキッとしてしまう。だって,弟子のバフェットは配当などせずに内部留保する企業に投資してるから。もちろん,バフェットも,内部留保することにより,株主価値を増やすことができないならば,利益は全部配当に回すべきだとしてるけど。

結局,配当政策についての留意事項は,経営陣と株主の利益は,相反するものになりがちだという一言に,尽きるのだろう。いくら経営陣が,今期配当率を抑えるのは,内部留保により新たな投資を実施し,将来の株主様の利益を増やすためです・・・などと言っても,そのほとんどは信用しない方が良いというグレアム=ドッドの主張は正しいと思う。

少なくとも,そのくらいの目で,配当率の低い企業が,内部留保した利益を有効に使えているかどうかのチェックをすべきだろう。30年もの間,内部に留保した利益が,たった1年で吹き飛んでしまったUSスチールの事例の紹介は,正に圧巻である。

利益再投資の起源

内部留保した利益を,企業がどのように使うのか,過大資本の是正という側面から説明している箇所は興味深い。

株式を公開する際に,普通株に相当するのれん代を計上したウールワース社と,会社設立時に固定資産を過大表示していたUSスチール社の事例を見ると,設立して間もない企業や,株式を新規公開したばかりの企業のバラスシートは気を付けてみないといけないんだな,と自然に思わせてくれる。

おっと,両社は,いずれも配当せずに内部に留保した利益を,のれん代や,過大表示された有形固定資産の償却費用として使用してしまったのだそうだ。

第6部 バランスシートの分析--資産価値の意味合い


第42章 バランスシートの分析--帳簿価格の重要性

多分,一般的な理解とは異なると思うが,グレアム=ドッドは,簿価のことを次のように定義している。すなわち,

・・簿価・・とは,バランスシート上に記載された資産の価値を意味する。(しかも)
・・有形資産に限定され・・(無形資産)などは含めない。

低PBR 株への分散投資の有効性についての議論があるが,保守的な態度を取るならば,少なくとも無形資産の価格を調整した上で,分散投資すべきであろう。

USスチール普通株の簿価計算

普通株の簿価の求め方は次の2通り。

  1. 有形資産−普通株式の先順位負債−優先株の累積配当
  2. 普通株+剰余金・任意積立金−優先株の累積配当
    (バランスシートに無形資産項目があれば、これも控除すべき)

普通株の簿価を計算するときの優先株の扱い方

要は,優先株は、バランスシート上に適切な価格で表示されないことが多いので,普通株の簿価を求めるときには,注意しろということ。

社債券とか,優先株とかのことを,(普通株に対しての)上位証券と呼ぶことがある。初めて読むと,「一体、何のこっちゃ」と思ってしまうが,上位証券というのは,要は、普通株の所有者にとって目の上のたんこぶだとか,顔のシミのようなものだと思っておけばいい。

つまり,少なければ少ないほどいいということ。で,優先株の額をバランスシート上,過少に記載するのは,いわば見合い写真を原形をとどめないくらい合成してしまうようなものだと思えばいい。

優先株の簿価計算

第一優先株の簿価の求め方は次の2通り。

  1. 総資産−無形資産−準備金のうち負債の性質を持つもの−債券−流動負債
  2. 第一優先株+第二優先株+普通株+剰余金−無形資産

第二優先株の簿価の求め方は次の通り

第一優先株の簿価−第一優先株の額面額

流動資産価値と現金資産価値

簿価と類似する概念として,「流動資産価値」と「現金資産価値」の2つがある。

流動資産価値とは,当座資産からその証券の全ての先順位負債を差し引いたもの。

現金資産価値とは,現金資産からその証券の全ての先順位負債を差し引いたもの。

証券分析では,現金資産というのは,日本のCF計算書の「現金及び現金同等物」と同じものを指している。

ちなみに,英国では,CF計算書上の資金を手元現金と要求払い預金(当座借越を控除したもの)に限っているそうだ。まあ,英国株に投資しようというような人は,よほどのマニアだろうから,こんなことは知っているだろうが・・・。


簿価の実際的な重要性

ここで,グレアム=ドッドのもって回り症候群が炸裂する。

私も,もって回った性格(優柔不断とも言う)をしているが,さすがにここまで酷くはないから,私なりの解釈を加えた要点を記しておく。

  • バランスシートに記載された企業の資産価値は,信用できない。
  • それでも,バランスシートには目を通しておくべきだ。
  • 株式の(正味)簿価が,株式時価総額の10倍以上というような,極端な不均衡を生じている時は,投資のチャンスである。
  • 自分がどのような投資をしているのか,自問自答した上で,簿価から出発して(無形資産も含めて)自分なりの評価を下すべき。

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