『1997年7月7日
流へ、お元気ですか? ぼくは元気です。
今日からぼくは新しい学校へ行くことになりました。1ヶ月もしないうちに夏休みになってしまうんだけど、夏休みに遊ぶ友達を少しでも作ったほうがいいってお母さんが言ってくれたので、今日から行くことにしました。』
ここは岡山県のとある小学校。
ぼくはその5年B組の教室の中、黒板の前に立っていた。
別に宿題を忘れて立たされてるわけじゃないよ? 単に新しい先生に転校生として紹介されているだけなんだ。
「香川県から転入してきた奥里(おうり)そらさんだ。あと2週間で夏休みに入るが、それまでに友達を少しでも作りたいということで今日から登校することにしたらしい。だからと言うより当り前だかみんな仲良くしてって欲しい。では、奥里。自己紹介を。」
自己紹介するのも慣れていたので緊張はしなかった。
「あっ、はい。え〜と、奥里そらです。これからよろしくお願いします。」
簡単に名前だけを言った。実はこれ、ぼくなりの友達を早く作るための作戦。よく聞かれる誕生日とかをあえて言わないことで相手が話し掛けやすくする為にね。前にいた学校に転校するまではちょっとしかいれないって判ってたから逆に友達作らないようにしてたんだけどね。
ぺこりとお辞儀をして顔を上げるとそれに併せてクラスメート、主に男の子の歓声が聞こえてきた。
「「「おお〜」」」
もう何回も転校しているけど、いつもより男の子の反応がすごい気がする。
「奥里はあそこの空いてる席に座るように。」
「あっ、はい。」
ぼくは言われた席に向かって歩いていく。な、なんかいつもより視線が気になるんだけど気のせいだよね?
ぼくが席についたのを確認したのを見計らって先生が言った。
「ごほん、では授業に入る。」
「「「ぶぅ、ぶぅ〜」」」
途端に始まるブーイングの嵐。いままでなかった反応にぼくはちょっと驚いてしまったんだけどそれは秘密。
「と、言ってもみんな奥里のことが気になって授業にならないと思う。そこで1時限目の国語を6時限目のHR(ホームルーム)と入れ換えようと思うがどうだ?」
「「「さんせ〜い♪」」」
どうやら満場一致で決まったみたい。
「では、そういうことにする。ではまず順番に自己紹介をしてもらう。そのあと質問タイムにするからあまりはしゃぎすぎんようにな。」
「「「は〜い♪」」」
『そうそう、今日早速友達できたんだよ。白鳥つばさっていう子。つばさも星が好きでこの前の彗星の話題とか盛り上がったんだ。多分、流とも話が合うんじゃないかな。』
あっと言う間にクラス全員が自己紹介し終って質問タイムになったんだけど、何質問されるのか内心どきどき。まずはワザと言わなかったことをから聞かれた。
「誕生日は?」「5月24日」
「血液型は?」「O型」
「趣味は?」「星を見ること」
「兄弟はいる? いたら紹介して。」「残念。いないよ。ぼく一人っ子だから。」
そう答えたとき、男子の方から「ボクっ娘萌え〜」って聞こえたけど気のせいだよね?
「あっ、そだ。ねぇ、奥里さん、今度から『姫』って呼んでもいい?」
「ふぇ? なんで?」
「今日って七夕だし、苗字が奥里だから何となく織姫っぽいじゃない? でも織姫だと言い難いから姫。」
「あっ、それいい。それに奥里かわいいし似合ってるよ♪」
『かわいい』なんで初めて言われた。なんか恥かしい……。遠慮したいなぁ……。多分この勢いじゃあ無理だと思うけど……。
「あう。あ、あの、恥かしいからその呼び方は辞めて欲しいんだけど……、駄目?」
ぼくは顔を赤くしなから断って見た。
「「「か、かわいい〜〜♪」」」
周りに集まってた女の子たちが一斉に声を上げた。
「ふえ?」
それに対しぼくは思わず間抜けな声を上げた。
「やっぱり、『姫』よ。こんなかわいいんだもの『姫』しかありえない。」
「「だよね〜。」」
うう、やっぱり作戦は失敗したらしい。ますます顔を真っ赤にするぼく。
「あっ、あたしは『ベガ』って呼びたいなぁ。」
そう言ったのは隣の席の白鳥つばささん。『ベガ』っていったらあの『ベガ』だよね。と言うことはもしかして?
「え〜、可愛くな〜い。」「それに『ベガ』ってなに?」
周りの女の子は不満の声やハテナマークを飛ばしているけどぼくはこう返してみた。
「じゃあ、白鳥さんは『デネブ』だね。」
白鳥さん以外の子は全員ハテナマークを飛ばしている。
「あはは、それはいやかな。」
思った通り白鳥さんは意味がわかってるみたいだ。
「やっぱり? じゃあ、できれば『そら』って呼んでくれたら嬉しいな。」
「わかった。じゃあ、私も『つばさ』でいいよ。」
「うん、わかった。つばさも星が好きなの?」
「そだよ。そういえば、この前の彗星観れた? こっちは雨で見えなかったんだけど。」
「ううん、僕もだめだった、晴れ間が射すってラジオで言ってたから友達と二人外で待ってたんだけど……、結局雨が降って来てびしょ濡れになっちゃった。」
「残念だったよね〜」
「うん。」
「あ、あの〜」
つばさと彗星の話で盛り上がっていると他の女の子が入ってきた。
「あっ、私ばかり話しちゃってごめん。そら、またあとでゆっくり話しよ♪」
「うん♪」
『ちなみに『ベガ』はこと座の1等星で俗に言う織女星つまり織姫のことで、『デネブ』は白鳥座の1.3等星のことだよ。この2つにわし座の『アルタイル』(俗に言う牽牛星もしくは彦星だね)を結ぶと『夏の大三角形』ができる。って、流なら言わなくても分かるよね? あはは。
今日はとりあえずこれぐらいかな。HRのあとは普通に授業だったし進み具合もそっちと同じぐらいだったから苦労もしなかったよ。
そういえば帰り道がつばさと同じ方向だったから星の話とかしながら一緒に帰ったんだ。なんか、つばさの従兄弟も星が好きでそれに付き合っている内につばさも好きになったんだって。どんな人かあって見たいって言ったら今度写真見せてくれるって。見せて貰ったらどんな人だったか教えてあげるね。
では、またお便り書きます。
あっ、明日、体育があるんだ……。やだなぁ。体動かすのは嫌いじゃないんだけど着替えが……。あう……』
《後書きと言うかなんちゅうか》
『【天体観測】〜子供だった頃〜』の続きです。
まあ、オマージュ元とのつながりはほとんど無くなっている気はしないでもないですが……。
あと、見え見えな伏線がありますが多分予想通りですw
◆蛇足
・1997年7月7日は月曜日です。
ついでに『【天体観測】〜子供だった頃〜』の舞台は1997年6月27日、香川県木田郡三木町と言うことで。
・デネブは正確には白鳥座の翼ではなく、尻尾にあたります。
・【天体観測】
・プリティーサーラ
・ガルヴェローザ
・胡蝶の見る夢
・探偵物
・目覚めの夜に別れを告げて
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