ログの再利用について


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旅行

全く関係ないですが、管理人は、今週末に旅行に行っていたため、更新ができませんでした。今後は、プライバシー保護の観点から、法律関係を考えてみたいと思います。

略語例

法 ・・・特に断わらない限りは、著作権法のこと

作花・・・作花文雄「詳解著作権法第3版」ぎょうせい

渋谷・・・渋谷達紀「知的財産法講義2 著作権法・意匠法」有斐閣

著作権法によって保護されているもの

「著作物・・・・(の)著作権者等の権利」(法1条)

著作物の定義

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(法2条1項1号)

著作物の例示

「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」等(法10条1項1号)

なお、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、・・・著作物に該当しない」とされています(同条2項)

定例会や定期総会のログは、事実の伝達にすぎない雑報と言えるので著作物に該当しない(著作権の客体とならない)と考えます。したがって、ログを渡そうが再利用しようが、著作権の侵害にはならず、守秘義務違反すなわちプライバシー権の侵害が問題になるだけ。

講演や講義のログは、明らかに著作物に該当するでしょう(それが何次的な著作物であるか、それとも単に複製物に過ぎないのかは別にして)。


二次的著作物(法2条1項11号)

作花(114頁)では、二次的著作物とは、「既存の著作物に新たに創作性を付加して創作されたもの」とされ、その態様は、翻訳・編曲・変形・翻案の4種類だと説明されています。

要約筆記が該当するとすれば、上記のうち「翻訳」であろうと思われますが、「言語の著作物について、言語体系の違う他の国語で表現すること」という翻訳の定義(作花同頁)からは離れること、また、同じく作花が、「文章をローマ字に直したり、あるいは点字に変換することなどは、確かに改変する労力はかかるとしても、著作物として新たな創造性が付加されるものではなく、ここでいう『翻訳』ではなく『複製』の範疇に入るべきものである。」と説明していることから、要約筆記は純然たる翻訳行為とは言えず、複製あるいは、複製と翻訳の混合物であるとするのが相当だと考えます。

そうすると、(講演や講義などの)ログは、複製物あるいは複製物と二次的著作物の混合物と考えるべきだということになります。

なお、二次的著作物の利用にあたっては、二次的著作物の著作者の許諾に加えて、原著作物の著作者の許諾も必要となります(法28条)。

複製(法2条1項15号)

渋谷(61頁)によれば、「著作物が再製される有形媒体の種類、すなわち、著作物がどのような有形媒体の上に再製されるかは問わない。著作物を信号化して再製する磁気ディスクのような媒体であってもよい。」とされています。ログを保存することも、複製に該当し得ることになります。

また、渋谷(同頁)には、「再製は、継続を要素とする概念ではない。したがって、コンピュータのRAMに一時的に著作物を蓄積する行為も複製である。」とあります。IPtalkで入力することも、複製行為に該当し得ることになります。

著作権の内容

著作権は、著作者人格権と著作財産権の2つに分かれますが、ここでは、著作財産権のうち譲渡権について説明します。

著作者は譲渡権を専有します。もちろん、著作権も私権であるので、著作者がその権利を処分すること、すなわち放棄することは可能ですが。

また、著作者は、複製権(法21条)・翻訳権(法27条)を専有します。講演等の要約筆記が認められるのは、著作者の許諾(法63条1項)を得ているからにほかならないと考えます。

譲渡権(法26条の2)

著作物等の複製物の譲渡により公衆に提供する権利のことです(作花参照)。

要約筆記が単なる複製あるいは複製と翻訳の混合物だとすれば、著作物の複製物たる(講演等の)ログ(の一部分)を第三者に交付するのは、著作者の譲渡権を侵害することになります。

著作者

「著作物を創作する者をい」います(法2条1項2号)。講演であれば講演者が原著作者になるのは間違いないでしょう。

大学の講義の場合、原著作者は講師であろうと考えるのですが、創作従事者が職務上作成する著作物について当該創作従事者の雇用者である法人その他使用者が一定の要件の下に著作者となるとされている(法15条)ので、大学が著作者になるのかもしれないという疑念は残ったままです。誰か、解決して下さい。

私としては、講師の授業の著作権が大学に帰属するとなると、憲法で保障された学問の自由(憲法23条)もへったくれもないので、講師に帰属すると考えています。

また、講師が原著作者の一人だとして、学生はどうなんだろうという疑問があります。大学での授業は、単に一方的に教授から知識を得る場ではなく、教授と学生の意見交換により、学生だけではなくて教授もまた知見を得る場であると考えられるからです。


大学の講義における著作権

 (学校その他の教育機関における複製等) 著作権法第三十五条 学校その他の教育機関 (営利を目的として設置されているものを除く。) において教育を担任する者及び授業を受ける者は、 その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、 必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。 ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし 著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 つまり、大学講義の場合は、複製に問題はないことになります。

  • http://www.medbooks.or.jp/textbook/ によると、学生自身が複製することが要件となっています。複製の複製が許されるのか、少し態度を留保です。 -- Makky? 2007-11-29 (木) 23:34:50
  • また、講義内容が、すでに「公表された著作物」にあたるのかどうか、検討を加えてみようと思います。 -- Makky? 2007-11-29 (木) 23:35:58
  • さらに、上記サイトには、「授業の過程を離れても使用可能なように複製する場合」には許諾が必要だとあります。ログを残すことは、これにあたるかも。 -- Makky? 2007-11-29 (木) 23:39:00

授業での使用

作花(345頁)によれば、「複製物の使用目的が『授業の過程における使用』である必要があり、授業とは関係のない生徒の自宅学習用とか、長期休業中の課題学習用のために複製することは許容されない」とされています。

つまり、授業の副教材であるとか、参照するために、既に公表された著作物を「予め」複製することが認められているのであって、授業そのものを復習するために認められているのではないと思われます。

公表された著作物

これは、複製の対象となる著作物の著作者が有する公表権(法18条)の侵害にならない場合に限り、複製は許されるとする趣旨でしょう。

いかなる場合に公表されたとみなされるかについては、法4条3項に定義となる規定があります。授業での口話が、著作物の無形的再製(口述)にあたるか否かですが、「口述権の対象となる行為は、公になされるものに限られる。教室内での教科書の読み上げは、公の要件を充たさないものとして、口述権の対象から外れる」とされています(渋谷76頁)。

したがって、授業は、公表された著作物には該当せず、許諾なしに複製は認められないということになるのではないでしょうか。

利用許諾

著作権者は、その著作物の利用を他人に許諾することができます(法63条1項)。

許諾の態様は様々であり、どこまでの利用が許されるかは、契約内容によります。

要約筆記にまつわる法律関係のありようも様々ですが、公的派遣の場合は、主催者が講演者(著作者)に一時的な複製の許諾を得た上で(「著作物複製許諾契約」とでも言いましょうか)、主催者がなすべき一時的複製行為を要約筆記者に請け負わせている(請負契約)のだと考えます。

ここで重要なのは、おそらくは、主催者が著作者から許諾を得ているのは、著作物の一時的な複製(IPtalkでの入力)までであり、固定的な複製(ログの保存)については許諾を得ていないだろうということです。これは、ログを保存することは違法であるということを意味します。

したがって、保存されたログに関しては、主催者も要約筆記者も権利を有しないということになります。

仮に、保存したログを利用者等に渡すならば、主催者がその旨の許諾を著作者(講演者)から得た上で、要約筆記者が主催者にログを渡し、主催者から利用者等に交付するという経路を通るべきなんでしょうね。