Autism


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自閉症とは

自閉症は社会性や他者とのコミュニケーション能力の発達が遅滞する発達障害です。自閉症の中には高機能自閉症や低機能自閉症があります。 現在では先天性の脳機能障害によるとされており、多くの遺伝的因子が関与すると考えられています。日本では1000人に1〜2人の割合で生まれていますが、どこまでを自閉症の範囲とするかによって発生率は大きく異なります。また男性に多く見られます。 日本自閉症協会によると現在全国に推定36万人で、知的障害を伴わない高機能自閉症など含めると120万人いると言われています。 「自閉症」の語感から、ひきこもりに至るような精神状態やうつ病の事を含んでいるように思われることもありますが、これは自閉症に対する誤った認識です。 特に高機能自閉症の場合は、一般的に恥ずかしいと思って秘密にする様な事でも正直に話してしまう等、むしろイメージ的には自閉とは逆の「自開」であると言う人もいます。 研究初期は自閉症といえばほとんど言葉を話さないようなタイプをさしていたため、統合失調症の状態を表す「自閉」という用語を当てて「自閉症」と訳されていましたが、徐々に自閉症の概念が拡大するにつれて、自閉症という訳語が不適切になってきたと言われています。

特徴

一般的な低機能自閉症児は、おもちゃ・本物の自動車の車輪や床屋の回転塔等の回転するものへの強い興味、数字や風景等に対する高い記憶能力、ある特定の音に対する強い不快感、物を規則正しく並べる行動、何かして欲しい事柄があった場合に近くの人の手を引っ張って対象物まで持っていく「クレーン現象」という行動などの特徴があります。 また「心の理論」の障害により、他人のする事を自分の立場に置き換えられずにそのまま真似する為、手のひらを自分側に向けて振ってみたり、自分を「あなた」などの二人称で、相手のを「わたし」などの一人称で呼んだりする等の現象が見られます。 自閉症児は、耳で聞く事よりも眼で見る事の方が認識しやすいという視覚優位の特性がある。この為、自閉症児に注意を与える時は紙等に書いて見せると効果があるとされています。 また一部の自閉症児では、カレンダーも見ずに特定の日の曜日を答えたりする、サヴァン症候群と呼ばれる能力がある場合もあります。 他の例として時間の「概念」が希薄な場合もあります。時計で時間が分かる様な自閉症児者の中には、時間に強迫的になり全ての事柄がまさにその定められていた瞬間に起こる事を要求したりします。「5分待っていて」と約束したくせに6分14秒も待たせたと被害感を持つ場合もあり、逆に4分30秒で戻れば、まだ5分経っていないので待ち続けると言った場合もあります。 高機能自閉症の場合は知能には問題はないが、やはり「心の理論」の障害の為、会話の雰囲気を理解出来ない等、対人関係に問題を生じやすいです。 なお自閉症の症状は人によってかなり違い、特徴は必ずしも当てはまらない場合もあります。

自閉症の分類

自閉症は症例が多彩であり、健常者から重度自閉症までの間にははっきりとした壁はなく、虹のように境界が曖昧であるため、その多様性・連続性を表した概念図を自閉症スペクトラムや自閉症連続体等と呼びます。 なお「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」、「低機能自閉症」と「カナー症候群」は基本的には同じものであり、臨床的には区別しなくてもよいとされています。しかし、言語障害がないものをアスペルガー症候群、言語障害があるものをカナー症候群と分類する場合もあります。

低機能自閉症

自閉症スペクトラムの内、知的障害がある場合を低機能自閉症やカナー症候群と呼びます。一般的にはIQ70以下を指します。自閉症研究の初期は主にカナータイプが問題視されていた為、古典的・典型的な自閉症といえばこのタイプです。


高機能自閉症

自閉症スペクトラムのうち、知的障害がない場合を高機能自閉症 やアスペルガー症候群と呼びます。一般的にはIQ70以上を指します。「高機能」というのは知能指数が高いという意味ですが、平均的な健常者より高いとは限らず、知的障害との境界域の場合もあれば、平均的な健常者をはるかに上回る場合もあります。1980年代以降、急速に認知されてきました。

診断名

「自閉症」という言葉には様々なイメージがあり、中には誤っているイメージも多くあります。この為、医師が保護者に話す際に「自閉症」という言葉を使うと、保護者が誤ったイメージを持ってしまう危険があります。この為、より広い概念の「広汎性発達障害」や「軽度発達障害」という言葉を使う場合もあります。

合併症

自閉症は広汎性発達障害(PDD)の一種である為、ADHDや学習障害等を併発する場合があります。低機能自閉症は知的障害も合併しています。わずかですがダウン症と合併する例もあります。 なお、自閉症者は健常者と比べて統合失調症に罹患する確率が極めて低いと言われています。健常者の統合失調症罹患率は0.8%だが、自閉症者の罹患率はずっと低く、世界で10例に満たないです。ただし文献によっては一般人と同率、あるいはより高率で発生すると書かれているものもあります。

治療

現代医学では根本的な原因の治療は不可能とされています。「TEACCH」「ソーシャルスキルストーリー」等のプログラムによって、健常者に近い社会生活が送れるようになる場合もありますが、プログラムは補助的な方法であり、根本的な原因が治癒したわけではないとされています。

歴史


自閉症の発見

自閉症は、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の児童精神科医であるレオ・カナーが「早期幼児自閉症」として1943年に報告した事に始まります。カナーは、「聡明な容貌・常同行動・高い記憶力・機械操作の愛好」を特徴とする幼児に対し、統合失調症(精神分裂病)の状態を表す用語である「自閉」という言葉を用いて、「自閉症」と名付けました。カナーは、自閉症の原因は親の愛情不足だと考え、自閉症児の母親を「冷蔵庫マザー」と呼び、愛情を持って育てれば治癒するだろうと考えていました。またカナーは自閉症を統合失調症の幼児版と考え、「小児分裂病」とも呼んだのです。またカナーは自閉症児について、「先天的な知的障害があるわけではなく、心を閉ざしているだけであり、本来は聡明なのだろう」と考えました。なおカナーはこれ以降、自閉症の研究で自説に反する新事実が発見されると、自説の誤りを認識し訂正していきました。カナーの報告した幼児は、現在の低機能自閉症に当たるとされています。 翌年の1944年、オーストリアのウィーン大学の小児科医ハンス・アスペルガーが、カナーの報告よりも一見軽度ではあるものの、共通点がある子供達のことを報告しました。ちなみにこの両者に交流はありませんでした。当時ヨーロッパは大戦中であり、オーストリアは敗戦国側であった為、この報告は戦勝国側では80年代まで脚光を浴びる事はありませんでした。アスペルガーの報告した子供達は、現在の高機能自閉症に当たるとされています。

愛情不足説の提唱

カナーの報告から1960年代頃まで、精神分析家のブルーノ・ベッテルハイムらにより後天的原因説が唱えられていました。各地の治療施設では、虐待によって発症したのならばその逆をやればよいとの考えの下、「絶対受容」という治療方針が取られたましたが、あまり治療効果はなく、むしろ成年以降の社会適応が困難になったと言われています。ベッテルハイム自身も障碍児の入所施設の所長でしたが、入所児童への虐待やデータ捏造等があったという疑惑があります。なお、ベッテルハイムはのちに自殺しました。 アメリカの精神分析の中心と言われるカール・メニンガー病院では、一時期自閉症も精神分析治療の対象としましたが、精神分析が自閉症に効果がないと判明すると、潔く自閉症部門を閉鎖しました。この様に精神分析や受容療法などの試みが一時期脚光を浴びましたが、あまり効果がないと次第に分かってきました。

脳障害説の提唱

1960年代後半、イギリスのモズレー病院のマイケル・ラターによって自閉症は先天性の脳障害だという説が発表され、自閉症の学界は大きな転機を迎える事となりました。現在でも自閉症の原因は諸説ありますが、現在主流の説はラターの説が元となっています。 またこの頃になると、自閉症と統合失調症はまったく違う障害である事が分かってきました。

高機能自閉症の再発表

アスペルガーの死去の翌年の1981年に、自閉症の娘が居るモズレー病院の医師ローナ・ウィングが、英語圏では殆ど忘れられていたアスペルガーの論文を英訳して再発表し、高機能自閉症の存在を広く知らせました。それまでのイギリスでは知的障害のある自閉症児にしか福祉の手が差し伸べられていませんでしたが、自閉症の本質は知的障害や言語障害ではなく対人関係の障害である為、高機能自閉症も支援の対象にするべきだとの考えを示しました。

世間からの理解

遺伝子の異常が原因だとの説、水銀などの重金属の蓄積が原因だとの説等があります。現在は、自閉症は先天性の障害であり、育て方が原因ではないとされています。 日本ではベッテルハイムの著書「虚ろな砦」が広く読まれた為、未だに自閉症は虐待や過保護が原因である「母原病」であるとの認識が一部に根強くあります。

 

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2006-02-28
 
 

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