シナリオ

　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・風景が流れていく、どこかの学校の校舎のようだ。建物が震えて、天井が降ってくる。地面が瓦礫に埋まる。無機質な塊の中に不自然なものを見つける。瓦礫の中から腕が生えていた。その指には見慣れた指輪。遠くに闇より暗い長い何かが広がるのを見た。

＊世界が分かれる日

ずきん、ずきん、ずきん、ずきん、ずきん、ずきん、ずきん鈍い痛みで目が覚めた。「ッツ、なんだって今日なんだ。受験だっていうのに。」愚痴をいうが意味はない。いつもより酷いがコレぐらいなら大丈夫だろう。身支度を整えて家を出る。「・・・・・・・・ん。」朝日に霞むマンションを見上げる。うちのマンションは今年建ったばかりで、周りには高い建物がないので見晴らしがいい。実家から離れてこんなとこにいるのはあの親父のせいだ。義務教育が終わったからって叩き出すのはどうかと思う。まあ、金が出ているのが救いだろう。マンションを後にする。地図を見ながら見なれない道を行く。学園は近いようだ。幾度か曲がると遠くに校門が見えてくる。学校の敷地に足を踏み出す。突然、視界がグラリと揺れた。いつもを遥かに超えるめまい。体が地面に衝突するのを遠のく意識の中認識した。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・眼は新たに世界を認識する。どこかの校舎。瓦礫の土に植わる腕。ああ、コレは今朝の夢だ。そう思い至った時、意識はさらに深い闇に沈んでいった。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ここはどこだろう？「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」徐々に覚醒する。眼に映るのは白い天井。清潔そうなカーテンが揺れている。ベッドに寝ているようだ。思考がまとまる。「そうだ,受験・・・・・・・・・」時計を探す。時刻は９時、もうすでに始まっているだろう。「おお,起きたか。」白衣をきた女性が現れた。おそらく、養護教諭だろう。「今から試験って受けれますか？」「まあ受けれんことはないが・・・・・・・・。」「ならここからこの教室までの道順を教えてください。」戸惑う養護教諭に問いただす。家まで準備されて家から追い出されたのだ。親父に負けるようなきがして、こんなことで落ちるのは嫌だった。保健室を飛び出し教えられた道を辿る。教室に駆けこむ。一斉に顔が振り向く。けれど、そんなものに構ってる暇なんかない。一つだけ空いた席に向かう。「先生、問題用紙をください。」残りは三十分。「ふぅ、」問題用紙を受け取ってすぐに書き込む。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「ふぅ、」なんとか最後までいった。コレぐらいならなんとかなるだろう。残りは特に問題なく消化した。きーんこーんかーんこーん、チャイムがなって、受験が終わった。浮かれる雰囲気の教室を出ようとドアに手を掛けた時、ズキリと、鋭い痛みと共に既視感が、過った。ケサノコウケイガウカブ。クズレルコウシャ、ガレキニウワルウデ。ソウダ、アノウデハ、ボクノモノダ。ナラ、ボクハココデ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕はここで死ぬ。唐突にそう気づいた。この風景が学校ということは、おそらくこの３年間の間なのだろう。僕は・・足元から崩れていく感覚に・・・・襲われた。

＊運命の朝　　　　　　　　　ズキリ、と鋭い頭痛で眼が覚めた。時計は八時を指している。「ああ、」今日もかと憂鬱になる。だけど学園を休むわけにも行かない。「全く、こんな役立たずな力なんかいらないってのに。」誰に言うでもなく独りごつ。殺風景な部屋はいつにも増して暗い。制服に着替え朝飯を適当に食べて家を出る。「はぁ、まったく。新学期だっていうのに何で雨なんか降るかな・・・・」目に映る世界は真っ黒でまるで一切を無に帰すかのような終焉を連想させる。久しぶりに起きた頭痛がこんな錯覚を見せているのかもしれない。・・・・・・・本当に気が滅入る。時計は二十分、十五分は立ち尽くしていたようだ。「いいかげん行かないと遅刻するな。」いつもの悲鳴と既視感を打ち消すように、暗い暗い雨の中俺は走り出す。

＊二学期の始まり　　

　今日から新学期。うれしいことがいっぱい。今まで会えなかった友達に会える。何よりもうれしいのは制服が変わること。私の学園では二学期に生徒全員一斉冬服に替わる。この学園の冬服はとてもかわいくて制服目当てで受ける人もいるくらい。実は私もそんな一人だったりする。私はまだ硬い制服の袖に腕を通して鏡の前に立つ。「うん、似合ってる似合ってる。」鏡の前で一回転。スカートがふわりと浮く。栞：「千沙ちゃん、まだいるの？」誰かが呼んでいるようだ。ふと時計を見ると、長い針は三を指していた。「お母さん、どうしてもっと早く言ってくれなかったの。」階段を抜かしながら駆け下りる栞：「何言ってるの何回も呼んだわよ、昨日から浮かれすぎなのよ。」話を聞いている暇はない。近いといってもこの時間だと走らないと間に合わない。もう目の前は玄関だ「いってきます。」栞：「待ちなさい，外は雨よ。傘を持っていきなさい。」何か言っていたみたいだけど、構わず私は外に飛び出した。・・・・・・・・・・・最悪。雨なんて聞いてない。天気予報だって晴れだって言ってたのに・・・・お母さんが何か言ってたのはこのことだろう。急がば回れって諺が頭の中に浮かんで消えた。折角の制服が泥まみれ，髪も台無しだ。「はぁ、ジャージかぁ」乾燥機はあるけれど乾くまでしばらくはしょうがない。「新学期早々なにやってるんだろう。」目の前には赤い信号、こんなときでも待ってしまう。おばさんが私を追い抜いていった。「いいよ、こんな雨だったら運転手さんも見難くて轢かれちゃうからね。」と、負け惜しみをしてみる。もちろん、おばさんには聞こえないように。ようやく信号が変わって私は駆け出した。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何か嫌な感じ。左を向く。見えるのは巨大な巨大な光を放つ塊。しかもものすごいスピードで私に向かってきている。神様、私何かいけないことをしましたか？たしかにテストも平均点だし、運動も普通です、音楽だっていつもまあまあね、て言われますけど、悪いことはしてないです。今日だって信号守ったし、むしろ轢かれるのはあのおばさんです。そうです、なんで私なんですか、マリア様見てくれてるんですよね？もう、仏様でもガンジーでもこのさい金正日でもいいですから助けてください。お母さんお父さん先立つ不孝をお許しください。私は川原で石積みをします。突然視界に黒い何かが映った。と思ったら、既に足は地面から離れていた。ジェットコースターとも違う浮遊感のなか意識が暗い暗い底に沈んでいく。ああ、そういえば、死ぬ前に走馬灯、みたかったかも・・・・・。

＊降りかかる災難

ズキン、ズキン、ザー、ザー、ズキン、ズキ、ザザー、ズキン、ズキズキズキザーザーザザザザーーーーーーーさっきよりも頭痛が激しくなる。打ち付ける雨音が頭痛なのか、この頭痛が雨音なのかわからない。頭に届くのは耳障りな雨音だけ。視界は靄がかかって不明瞭だ。体はしっかり動いてはいるが、自分の体を認識できない。どこをどう曲がったかわからないが、体は学園に向かっているようだ。クラリと体が沈む、転んではいないようだ。いつもより酷いがアノ時よりはましだ。だんだんと既視感が強くなる、交差点に出た。現実と夢が重なっていく。靄のかかった世界が急にクリアになる。「パァァァ。」目の前には不快な音を立てて少女に吸い込まれていくトラック。ソウダ、ボクハ、アノトマレナイトラックカラアノショウジョヲタスケナイトボクハサッキトオナジヨウニショウジョヘカケヨリ、ショウジョヲタスケル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ズキン、鈍い頭痛でふと気づく。俺は少女を抱きしめる形で道端に倒れている。少女は気を失っているようだ。「つ、」思い出せるのはトラックが少女に向かっていく光景までだ。また厄介ごとを呼び込んだようだ。時間はまだ間に合いそうだが、このままにしておくこともできないだろう。「ああ、完全に遅刻だ、まったくめんどくさい。」いつもいつもこうなのだ、まったくいやな力だ。けど、思うより先に体が動くのだ仕方がない。丁あたりなんかは羨ましがるが、絶対に損のほうが多いだろう。今日もこのとおりなのだ。動かない少女を見ながら途方にくれる。うちの制服でこの時間に徒歩なのだ、家は近いのだろう。けど意識がないのでは場所がわからない。とりあえずこのままにはできない。学校に行くよりはうちのほうが近い、気づくまでうちで介抱するか、「はぁ、かったるい。」そう呟いて少女を背負い、来た道を引き返した。

＊私・・・・・死んじゃった？

・・・・・・・・・暖かい。とても気持ちがいい。もしかしたら死んでしまったかもしれない。なんだ、死んでも意識ってあるのか。司：「・・・・・・・ぃ・・・・ぉぃ・・・・・・おい」なんだか声が聞こえる。天国の住人にしては言葉づかいが雑だもしかしたら地獄に落ちてしまったのかもしれない。悪いことなんかしてないのに・・・・・「・・・・・・っ！！」驚いて飛び起きる。急に目の前が明るくなる。「・・・・？？」どこかの部屋みたい。む、なんかほっぺが熱い。ふと気づくと目の前に不機嫌そうな顔の男の人がいる。手には缶コーヒーしかもブラックを持っている。この人が缶コーヒーを押し付けたに違いない。「何するんですか！」目の前の人はめんどくさそうに脚を組み替えながら、司：「命の恩人に対してその態度は何だ。」なんて良くわからないことを言う。司：「何も覚えてないのか？もう少しで死ぬとこだったんだよ。」あ、そうか、私は助かったんだ。まだ死んでいないんだ。「もしかしてあなたが助けてくれたの？」司：「さっきからそういってるだろう、ここは俺の家だ。交差点の近くだ。ちなみにいたずらはしてないぞ。まあ、服を見ればわかるだろうが、うちの制服は妙に凝ってるからな。」「ふぇ？」何で制服の話なんか出るんだろう。司：「・・・・・・・・・分からないならいい。」「？？」ますますよくわからない。司：「えっと、」「あ、私は星神学園1年天童千沙です。」司：「あー、天童、何でつったタままだったんだよ。十分よけれただろうに。」その言葉で思い出し、私は握りつぶされそうになった。背筋に悪寒が走り、ひざが笑い出す。心臓を握られているような圧迫感。いくら吸っても酸素が取り込めない。息遣いが激しくなる。頭が朦朧として何も考えれない。私のそんな異変に彼は気づいたようだ。霞む世界を男が近づいてくる。と、全身が温かいもので包まれた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あったかい、肌を通って心まで温まる。ゆっくりと時間がながれる、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、心臓が動き出したようだ。体の震えが止まり、体温がもどってくる。考えれるようになって初めて、自分の状況がわかった。｢・・・・・・・・・・・・・・・・・、｣どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、顔がどんどん赤くなるのが分かる。けれど、彼の手はすぐに離れた。司：「落ち着いたか？」さっきの恐怖は消えたけど、少し心臓の音がうるさい気がする。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」恥ずかしくて顔が上げれない。司：「・・・・・・・・・・・悪かったな。」うつむいてるのを気にしたのだろうか、謝られてしまった。「い、いえ、あり、ありがとう・・ございまし・・た。」必死でそんなんじゃないって言いたいけど恥ずかしすぎて声が出ない。どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、司：「俺はこのまま学校に行くが、まだ動けないようだったらここを自由に使え」彼はそれだけ言うとカンコーヒーをこっちに投げて、「あ、あの、」呼び止めるまもなくさっさと出ていってしまった。「これからどうしよう・・・・・・・。」急に一人になって心細くなる。さっきのことが思い出されて、なぜだか体温がよみがえって安心できた。どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、なにげなく、部屋を見渡す。さっきは気づかなかったけど、この部屋はなんだかおかしい。部屋にあるのはベッドとたんすに机。散らかってもいない。けど、片付いているというよりも、片付けるものがないみたい。どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくんブルっと体が冷える。お風呂に入りたい。シャワーぐらいはこの家にもあると思う。立ち上がるとパラっとバスタオルが落ちた。バスタオルを被っていたことにはじめて気づいた。あの人は結構良い人なのかもしれない。そういえば助けてくれたんだっけ。あまり現実感がない。とりあえず、シャワーを浴びよう。部屋から出てお風呂場を探す。お風呂場はすぐに見つかった。全然つかってなさそうな乾燥機も見つけた。服を乾燥機に入れお風呂場に入る。ザ-------------------- 雨とは異なる柔らかく、暖かなアメ。まるで、生まれ変わるような感覚。ようやく体が温まり、人心地がつく。「そうだ、お母さんに連絡しないと。うん、服が乾くまでここにいさせてもらおうかな。」すこし寂しくなって独り言を言ってみる。シャワーをとめてお風呂場から出る。真新しいバスタオルが横に置いてあった。本当に気の利く人だ。けどその心遣いがうれしい，ありがたく使わせてもらおう。どっくん、どっくん、どっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんとても大きなバスタオルで、照る照る坊主みたいになってさっきの部屋に戻り、携帯を取り出して家に電話をかける。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「・・・・・・・・・でない。」出かけているようだ。何時だろうと思って時計を探す。時刻は9時17分、今日は少し遠くで特売セールがあるって張り切ってたっけ。あの人は学校へ行くっていてたけど、今日は始業式だからいかなくてもいいかな。どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくんそう思って少し冷めた缶コーヒーのプルタブを引いた。

＊学校へ

部屋を出て、そのまま家を出る。知らない奴を一人にしとくのは無用心だったか。まあ、取られるものもないしいいだろう。又同じ道を通る。今度は頭痛はない。あんなに間隔が短いのは初めてだったな。いつもは2・3日の間隔があるのだが。もう遅刻は確定だから特に急ぐ必要はない。当然周りには誰もいない。遠くに校門が見えてきた。下駄箱で靴を履き替え、静まり返った廊下を歩く。遠くからはどこか異国の声。一人残された廊下はまるで異界のようで、何処か虚ろ。薄壁一枚なのに、それはこの世を分ける境界。どちらが彼岸でどちらが此岸なのか。境界は曖昧で、世界は糢糊。人がいるということだけでこんなにも世界に影響している。この世界との切れ目はいたるところに存在している。「・・・・まったくどうかしてる。」だからなんだって言うんだ。この世界はもうすぐ消えるって言うに。「遅れました。」教師にそう言い席に着く。教師も生徒もが驚いているが特に何か言うことは無い。沈黙も一瞬で霧散する。ホームルームが再開する。時計を見ると九時十七分、つい先ほど式から戻ってきたようだ。今日は来る必要が無かったかもしれない。でも家には居たくなかったから仕方が無い。滞りなくホームルームが終わり、チャイムの音と一緒に世界はひとつに収束する。庚丁がやってくる。丁：「よお、どうした。」とても楽しそうだ。「ただの寝坊だよ一瞬、丁の目付きが鋭くなった。「そうか、ほどほどにしとけよ。始業式に、遅刻するのは、普通じゃないぞ。」相変わらず察しがいい。話したことは無いが、あの力についても分かっているのかもしれない。その後は、流石に人の数が尋常じゃなかったのだのー先生の新刊は素晴らしいだの、夏休みの思い出を延々と聞かされ続けた。家に帰ろうとも思ったが、なんとなく帰る気がしない。そのまま、繁華街へ出る。当ても無く辺りを彷徨う。ズキリ、唐突に脊髄を貫く不可避の衝撃、倒れそうになるが何とか踏みとどまる。「くそっ、何で今日はこんなに連続してるんだ。」視界が黒一色で塗り固められる。全身を駆け巡る悪寒、今朝とは比べ物にならない。イケナイイケナイイケナイイケナイイケナイイケナイイケナイコノサキヘイッテハイケナイ。アレニ、アッテハイケナイ、ミテハイケナイ、ニンシキシテハイケナイ。ダメダオモイダシテシマウ。ズキリズキリズキリズキリズキリズキリズキリズキリ。アタマガヒメイヲアゲルガカマウモノカ。ボクハハヤクハヤクアレヲ・・・・・・・・・・・・・・・。

＊再会？

ふと気づく。ココは、どこだ？すでに、繁華街ではなく公園にいる。繁華街の近くにこんな公園があったなんて。けど何かおかしい。空気は冷たく、重く、周囲に人影は無い。視線を感じて振り向くと、目の前には目を見張る美少女。違うことなく俺の目を見ている。まっすぐに腰まで伸びた鴉の濡れ羽色の髪。きめ細かい肌は、透き通るような白。目はガラスだまのようで、存在そのものが人形じみている。けど、コレの及ぼす影響は常人が束になったものを遥かに凌ぐだろう。それは鈴を転がすような声で言う。？？？：「ごきげんよう。」見る限りうちの生徒のようだが、こんなやつを知らない。話し掛けられる理由も思いつかない。？？？：「お久しぶりです、司さん。」「・・？」ひさしぶ・・り？人違い？けど確かに俺の名前を。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」なんか視線がいたいのは気のせいか？「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」「えっと、」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」「人違いじゃ?」ぴし、まずい、今空気が。？？？：「・・・・・・雨宮司さん、ですよね？」「いや、そうだけど。」「北条水葉です。覚えていらっしゃいませんか？」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「誰だっけ?」ビシ、あー、完全に空気が変わった。北条：「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」その沈黙が怖いんだけど。北条：「絶対に、」「ん？」北条：「絶対に思い出させて上げますわ。」その少女は宣戦布告するようにそういった。

＊歯車の胎動

どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくんお昼に合わせて家を出る。親切なのかよく分からないあの人の名前は雨宮司、実は先輩みたい。失礼だけど物色してしまった。いつのまにか雨はやんでいた。空には重く横たわる厚い雲。けれど恐ろしくはない。家を出てみて驚いた。実は六階だったのだ。うちの近くにこんな高い建物はない。ここは去年立ったマンションだ。そういえばそれぐらいの広さだったっけ。今まで気づかなかった。ここからならすぐ家に帰れるだろう。エレベーターで一階まで降りてマンションを後にする。どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、家にはすぐに着いた。「ただいま。」すぐにお母さんの笑顔がのぞいた。栞：「おかえりなさい、あら？鞄どうしたの？」鞄はまだ少し濡れている。「えーとね、驚かないでね。私今日トラックに引かれそうになったの。」お母さんは案の定笑顔のまま倒れた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「とゆうわけなの」栞：「あらあら、それじゃあその男の子にお礼をしないといけないわね「そうだよね、ちゃんとお礼しなきゃね」栞：「今度うちに連れてきなさいね。」「うん、そうする。」また会える、いや会わないと。なぜか心が踊る。どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、どっくん、その日、眠るまであの人の面影がちらついていた。

＊戸惑い

「チッチッチッチ・・・・」昨日と違って頭痛もなく、いくぶんか気分が良い。「ま、あまりかわらないかな。」顔を洗いに洗面所へ行く。「ピンポーン」聞きなれない電子音に顔をしかめる。顔についた水を拭って玄関へ向かう。「ピンポーン」やっぱり空耳ではないらしい。しかもしつこい。「どちらさ・・・・・・・・・ま？」ドアを開け、頭痛がした。いつもと同じようで違う。予想もしなかった、こんな状況。天童：「おはようございます、先輩。」そいつは人の気も知らないで、ニコニコ笑っていた。いったい、何がどうなっているんだ？なんで俺は一緒に歩いているんだ？いや、そもそもなんでこいつがここにいるんだ？「おい、何でお前。」天童：「あっ・・・・・・」たたたたたたっつながれている犬の前でかがんでいる。犬も慣れているのか、腹を見せて転がっている。「はぁーー」聞いてないしまったく、何だってんだよ。呆れて歩き出す。天童：「ドキドキしたの。」「はっ？」天童：「胸がドキドキしたの」まったく・・・とんだことになったものだ。俺はそいつの晴れやかな笑顔に深いため息をついた。

＊丁の友人っぷり

「はぁ～」昇降口で少女と別れた後、またため息をついた。丁：「どうした青年、悩み事か。」後ろからラリアットをかけられる。「なにすんだよ」丁：「いや、友人が朝っぱらから世界が滅んだような顔をしてたから、景気付けだ。」「はー、そうかもな。」思いだして、またため息が出る。丁：「どうした、いつも死んでるような顔してるが今日は健康そうだぞ。「はっ、どこが健康だよ。」丁：「そうやって、困っているほうが健康的だよ。」こういうときのこいつはやりにくい。丁：「・・・・・あれか、おまえの頭痛の種は。」「いったい何・・・・」指の先には別れたはずの天童。思わず、ため息が出る。「なんで、まだ手を振ってんだよ・・・・・」ポンっと同情するようにカタに手がおかれた。

＊北条の評判

「キーン、コーン、カーン、コーン」ホームルームが終わって教師が教室を出ていく。内藤：「・・・なぁ、おい、声かけろて・・・・」柏木：「いや、だってお前・・・」近くにいる生徒たちの声が聞こえる。内藤：「やっぱり、北条さんはキレイだなぁ。」柏木：「だな。」そいつらの視線の先にはアイツの姿がある。なぜかアイツはいすに座ったまま窓を見上げている。「ニコッ」どきりと、急に目があった。けど、それも一瞬ですぐ、窓の外に目を転じる。柏木：「うぁ。こっち見た。」内藤：「ああ、なんて美しい笑顔なんだ。」なぜか俺は、そいつの顔が寂しそうに見えた。

＊犬も歩けば棒に当たる

慎重に、昇降口へ向かう。アイツがいるかもしれない。見回すが姿はないようだ。胸をなでおろして靴をはく。「・・・・・・・・・・・・」昇降口付近で違和感に気づく。振り返りたくない。きっとおれのカンはあたる。観測者が観測しない限りものは存在しないのだ。そう、思い違いだ。そうに違いない。俺は何も見ていないし見る気もないんだ。だからそんなもの存在しないんだ。そう、自分に良い聞かし、歩き出す。「・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・」「ああ、もう」俺は我慢できずに振り返る。「たく、何なんだこいつは」立ったまま寝ているこいつに心底呆れた。

＊お願い

「いやだ。」天童：「えーどうしてーー」「嫌なものは嫌だ」天童：「ぇーーーー」全くどうかしてる。なんだって俺が。「別に恩返しなんか期待してやったわけじゃない。そうだな、そんなに恩返しがしたいのならもう俺に話しかけるな。」天童：「あっ。」そう言って俺は家に向かう。天童：「もーー」後ろからは非難する声が聞こえてきた。

＊断りの代償

「・・・・・・・・・・・・・・・・」うるさい。一体なんだ。ドアを通り越して外の喧騒が届く。時計を見ると8時、まぁ、丁度良い時間だ。トーストを焼いている間に服を着替える。コーヒーを煎れて簡単な食事をとる。「15分か」鞄をもってドアをくぐる。「・・・・・・・・・・・・・・・・」バタン。何だアレは。いや、落ちつけ。きっと目の錯覚だ。「キィィィーー」恐る恐るドアを開く。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」どうしよう。入り口は一つだしなぁ。人も意外にいたしな。「はぁ、・・・・・」俺は、覚悟を決めてドアを開けた。

＊まだまだ続く災難

「はぁ～」自然、体を机に体を預ける。丁：「どうした、今日はいつにもまして不機嫌だな」「分かっているなら話しかけるなよ。」丁：「まぁ、まて。いいかげんアレをどうにかしてしくてな。」クイッと親指を動かす。見なくても分かる。というか、絶えず聞こえてくる。「はぁ～」俺は盛大にため息を付くと廊下へと向かった。

＊根気負け

「はぁ～」ニコニコニコ怒る気にすらならない。「なぁ、家に行くんだからもうなくなよ。」天童：「うんっ」ニコニコニコ「はぁ・・・・・・・」

天童：「着いたよ。」「ん・・・・・」そこは何の変哲も無い一建家。天童：「ただいま～。」ここまで来たのだ、腹を括ろう。「おじゃまします。」そう言って中に入っていった。

＊天童さんちの食卓

「うわっ。なんだこれ、本当にご馳走だな。」栞：「いっぱい食べてね。」「は、はい」栞：「遠慮する事ないわよ。貴方はこの子の命の恩人なんですからね。」「・・・・・・・・・・・・」ニコニコニコ同じような笑顔が２つ目の前にある。「あの、そんなに見られると食べにくいんですが・・・・。」栞：「そうね、ごめんなさい。コラ、千紗もダメでしょう」天童：「はーい。」そうしてようやく視線から解放された。「・・・・！おいしい。」栞：「そう、よかったわ」こんなにおいしいものは、食べた事がない。夕飯を食べ終わり、お茶が出された。「この子から聞いたのだけど・・・・」「？何でしょう？」栞：「司さん、貴方は一人暮らしだそうだけどご飯とかはどうしているの？」「その辺で買ってますよ。」栞：「そう・・・・」「・・・・・・・・・・」考えこんでしまった。栞：「良ければこの子にご飯を作らせましょう。」「！！」危うくお茶を吹きだすところだった。悩みの種はその横で目を輝かせていたのだった。

＊やってきた悪魔

ピンポーン物音を聞いて普段とは違う頭痛が起きる。けれど長く放置しておくわけにはいかない。絶対に、ガチャ・・・・。天童：「おはようございます。」ああ、なんて元気なんだろう。天童：「台所はどこですか？」「そこを奥に行ったところだ。」「はぁ～」何だってこんなことに、俺はテレビをぼうっと眺める。天童：「できたよ。」重たい体を引きずってテーブルへ向かう。「・・・・・！」正直驚いた。・・・まともだ。限りなくまともだ。きっとあんなのとかこんなのを作ってると思っていたが。天童：「さっどうぞ。」「あ、ああ・・・。」恐る恐る箸を伸ばす。・・・思ったよりうまい。さすがに栞さんには敵わないが。天童：「ねえ～、おいしい？」「・・・・まあまあだな。」天童：「照れなくたって。」「照れてない！」こうして少しずつ俺の周りが騒がしくなっていった。

＊寒空の昼食

丁：「司。」けだるげな顔を前に向ける。丁：「お客さん。」クイッ「はあ・・・。」またか、「わかったよ。」カツカツカツ「おい。」天童：「ひゃぁ！」リアクションのでかいやつ。「何の用だ。」天童：「えっと・・・。」ガサガサガサ天童：「はい、お弁当。」ニコニコニコ・・・・・・「ありがとう、じゃっ。」受け取ってさっさと逃げるに限る。背を向けたあたりで嫌な予感がする。天童：「・・・・・・。」肩越しに振り返ると、うるうるうるうる・・・サーーーーーーー「な・何が望みだ？とりあえず落ち着け。なっ。」あーー、何だってこんなことを、天童：「・・・一緒に・・・・・」「？」天童：「・・・・・・一緒に食べたい。」はあ、なんなんだよ。「わかった、わかったからもう泣くんじゃないぞっ。」最大級のため息をつき、教室を後にした。寒いがあえて屋上で食べる。なぜならこんなところを見られるのがいやだったからだ。特にあいつには見られたくない。何を言われるのか分かったものではない。「はぁー。」俺は仕方なく弁当の包みを開く。「む・・・・。」これも手の込んだものだ。これはおそらく栞さんの方だろう。天童：「ねえねえ。」進めていた箸を止めて顔を上げる。「なんだ？」天童：「気になったんだけど先輩ってどうして一人暮らしなの？」「勘当された。」天童：「えっ・・・・。」よほどショックが大きかったのだろうか固まっている。「なぜだかな、中学卒業と同時に追い出された。まあ金は貰っているから問題ない。」天童：「で、でも・・・・。」こいつは両親と仲がいいみたいだから理解できないのも無理はない。俺自身なぜ勘当させられたのか皆目見当もつかないが。天童：「・・・・ごめんなさい。」「お前が謝ることじゃない。」天童：「先輩。」食べ終わり教室に向かう途中、天童：「私、毎日誘いに来ますから。断ったって諦めませんから。」そういって駆け出していった。

＊気になるあの人

「ピンポーン」天童：「おはようございます。」宣言通り今日もやってきた。俺はもうすでに追い払う気も失せていた。天童：「こっちです。」「あ、ああ。」なぜ俺はこいつと買い物なんかに来ているんだ。「・・・・で、俺が荷物持ちなんだな。」だがまあ、めし代もかなりういてるわけだし文句の言いようもない。天童：「ねえ、先輩。」「なんだ？」天童：「先輩クラスのあの人。・・・・いつも一人なんですか？」「あの人？」天童：「うーんと、あの髪の毛がすごく長くてきれいな人。」「ああ。」北条のことか、「あいつは転入生だからな、仕方ないんじゃないのか？」天童：「うーん。」それっきり黙りこんでしまった。

＊おかしな関係の始まり

「・・・・しまった、弁当だけでも持ってくるんだった。」「むっ。」仰ぎ見る空には一点の曇りもない。「ガチャ」「おそ・・い・・・ぞ？」ドアを開けてたっていたのは北条だった。天童：「ほら、早く～。」北条：「えっ、ちょ、ちょっと。」後ろからピョコピョコと跳ねているのが見える。「はあ、先に言っててくれってのはこのことか。」北条：「あ、あの・・・。」やっぱり北条は戸惑っている。俺は無言で天童をにらむ。天童：「今日から三人でご飯を食べましょう。」ニコニコニコニコ「はあ・・・・・・・・・・。」俺のため息だけが青空へ抜けていった。

＊慣れてしまった日常

「ピンポーン」耳障りな電子音でぼんやりと頭が覚醒する。まだ布団の温もりを手離したくない。もう１２月なのだ。一歩でも出れば凍えてしまうだろう。「それは言いすぎか。」仕方なく布団から這い出てのろのろと着替えて玄関に向かう。千沙：「おはようございます、先輩。」ドアを開けると目の前にはいつからか当たり前になった少女の笑顔。その少女はいつもと同じように家にあがる。勝手知ったるなんとやらで、エプロンを取りだし台所へ向かう。時刻は７時。朝食を作ってくれるのは嬉しいが起床時間が１時間は早まってしまった。とんとんとんとんとんとん食材を切る音が聞こえる。こういうのも良いものだ。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか最近おかしいな。」千沙：「はい？何か言いました？」少女が顔を出す。「いや、なんでもないよ。」つい、苦笑してしまう。千沙：「そうなんですか？それよりもご飯できましたよ。」テーブルに朝食を並べながら言う。「わかった。」千沙：「いただきます。」少女は手を合わせる。俺は味噌汁に口をつける。千沙：「む～、何でいただきますって言わないんですか？」いつものように非難してくる。けど、言うのがなぜか気恥ずかしい。だから一度も言ったことがない。千沙：「いいですよ、いつか言わせますから。」その言葉にずきん、と胸が軋む。俺には後１年ぐらいしか時間は残されていない。千沙：「先輩、どうかしましたか？顔色、変ですよ？」顔に出ていたらしい。「大丈夫、何でもない。」朝食を食べ終わり席を立つ。千沙：「あっごちそう様ですよ、もう。」悔しがる声を聞きながら準備をする。千沙：「先輩、そろそろ行きませんか？」「ああ、そうだな。」見ると８時。揃って学園に向かう。少女は学園に着くまで今朝のニュースとか昨日あったことなんかを話す。昇降口で少女と別れる。少女は手を振って去っていく。「本当にどうかしてるな。」一人を味気ないと思うなんて。

＊いつもの学校

あの雨の日から俺の生活は狂い始めた。あの少女を助けた後、俺は少女の家に招かれたのだ。これ以上係わり合いになるのはごめんだったが、断りきれなかった。翌日から家の前で、しまいには教室の中で泣こうとするのだ。断れるものなんていないだろう。何故、あんな少女を助けたのかと後悔した。家に行ったのがとどめだった。少女の母親は少女に勝る天然だったのだ。つい口を滑らしてしまった。一人暮らしで、食事は出来合いのものと言ったのがまずかった。その母親は、ならこの子にご飯を作らせましょうと言った。頭痛を感じながら丁重に断って家に帰ったのだが、意味を成さなかった。翌日、少女はやってきた。もう,そのときの心境は推して知るべしと言うやつだ。いつもと違う頭痛に頭を抱え、それを許すしかなかった。もう教室で泣かれるのだけは、やめて欲しかったから。それから毎日、朝昼晩と食事を作りにくる。無愛想にしていたし、第一礼など一度も言ったこともない。それなのに少女は毎日来る。そして、そんな行動が俺をさらに混乱させるのだ。ふと気づくと、目の前は教室。思考を中断し、扉を開ける。教室にいる生徒の数はまばらだ。真中の最後尾に眼をやる。「ふぅ、」あいつはまだ来ていないようだ。何故かあいつが気になる。確かに桁はずれの美少女ではあるが、そういうのとは違う気がする。そういえば向こうは俺のことを知っていたようなこともいっていたような・・・・・・。水葉：「司さん、おはようございます。」「うわぁ、」突然、背後から声がかかる。振り返ると目の前には件の少女。「はぁ、びっくりした。」まだ鼓動が早い。水葉：「ごめんなさい、驚かすつもりじゃなかったんだけど。」「いや、大丈夫。おはよう、水葉。」キーンコーンカーンコーン「おっと、席に着くか。」水葉：「ええ。」そのまま席に向かう。水葉：「そういえば司さん。」「ん？」水葉：「最近変わりましたね。」「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」背中を送りながら思う。やっぱり変わったのだろうか、と。

＊いつもと違うケシキ

ほってった体に冷たい空気が当たって気持ち良い。千沙の家から出る。なべは多いほうがおいしいとかいう理論に、あの家族は完全にやられてしまっていた。一番驚いたのは父親だった。一家揃って天然と言うのもどうかと思う。むしろ息子のように扱われた。俺の親父よりよっぽど父親らしかった。気になって振り返ると、案の定まだ玄関先に出ている。千沙はまだ手を振っている。俺は苦笑しながら歩き出す。角を曲がる。ふと、眼の端にいつか見た黒い広がりが映る。「あれは？」どこで見たのか思い出す。と、それより前にグラリと、体が傾ぐ。なんとか踏みとどまる。ボクは歩き出す。あの広がりを求めて・・・・・・・。「なんだここは？」眼の前には燃え盛る炎、崩れ落ちたコンクリート、ほとばしる紫電。一面火の海で、まるで戦場のようだ。幸い銃弾が飛んでくることはないが。周りに人影はない。ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちゆらゆらと炎が揺れる。あついあついあついあついあついあつい熱さで脳が溶けそうだ。「あれは・・・、」僕は揺らめく景色の中に黒いものが広がるのを見た・・・・・・・・・・。

＊記憶喪失・・・？

「うわぁ」勢いよく上体を起こ・・・・ガチン、「つっ、何だぁ、一体・・・・・・。」鼻先が痛い、何かにぶつかったみたいだ。視線を巡らす、自分の部屋だ。？？？：「うぅ～いったぁ～。」泣きそうな声がする。声のした方に眼を向けと、ベッドの脇に何かがいるのが見える。うめきながら小刻みに震えている。ぶつかったのはこいつか。「おい,おまえ、何でここにいる。」そいつは眼に涙を浮かべながら振り向く。千沙：「ひどい、昨日あんなに愛し合ったのに。」「ぶっ、」すさまじいことを曰いやがる。「ふざけてると、不法進入で訴えるぞ。」千沙：「あ～,うそうそ訴えないで、まだ前科者にはなりたくない。」まだってどういうことだ？つうか、不法進入の自覚はあるのか。頭が痛む。「もう一度言う、何でおまえがここにいる。」千沙：「うーん、えっと・・・・」待て、何で考え込む。千沙：「返事がなかったからドアノブまわしたの。そしたら鍵かかってなかったからラッキーってなかに・・・・・」言い終わる前に頭をはたく。千沙：「む～、鍵かけてないほうが悪いんだよ～。」なんつう理論だ。「ん？待て。鍵がしてなかったのか？」千沙：「だからそう言ってるよ。」俺は記憶を手繰る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。どういうことだ、帰ってきた記憶がない。俺は何時帰ってきた？ふと、どこかの風景が浮かんだ。赤い紅い世界。そこでボクは・・・・・千沙：「そんなことよりも、早くしないと遅刻するよ。」俺の思考は現実に引き戻される。時計を見ると８時２０分。「もっと早く起せ。」千沙：「ずっと起してたよ。」何か言っているが無視だ。「おまえ先に行け。」俺は構わず着替え始める。千沙：「わぁ、いきなり着替えないでよ。」文句を聞いている暇も無い。千沙：「あれ？首、やけどしてる。どうしたの？」言われて鏡を見る。確かにやけどしている。気にするほどでもない。何故やけどをしてるかは気になるが、今は時間がない。「そんなことはどうでもいい、ほらさっさといくぞ。」着替え終えて千沙の手を引いて家を出る。千沙：「はぁはぁ、ちょっ、速いよ,も、もう少しゆっくり。」「喋ってると舌噛むぞ。」話を聞いてやる余裕はない。校門が見えてきた。校門に駆けこむと同時に予鈴が鳴った。「ふう、なんとか間に合ったな。」振り向くと千沙はしゃがんでいる。「しゃがむと制服汚れるぞ。」千沙：「ぜぇぜぇ、ん、はぁはぁ、は,速すぎ・・・」「おまえ、運動不足なんだ・・・ん、予鈴？・・・・・」確かにおかしい。予鈴は３０分になる。家からは走って１０分。家を出たのがおそらく２５分。俺はいつもの２倍の速さで走ってたのか？しかも全く息が切れてない。どうしたっていうんだ？千沙：「んん、ふぅ、もう大丈夫。早く行こう」「ん？ああ、そうだな。」校舎に向かって進みだすと、ズキリと、頭痛がして、何か嫌な予感と共に、胸に黒い何かが広がるのを感じた。

＊胸に広がる黒いもの

「よお。」丁：「ぉ、今日は遅いじゃないか。」「まあな。」ふと見ると、水葉がない。「水葉はまだ来てないのか？」丁：「なんだ、気になるのか？」何故か嬉しそうだ。「なんとなくな。」丁：「そうか、つまらん。だけどいないな、珍しいこともあるもんだ。」きーんこーん、かーんこーん。会話をやめて席に向かう。結局その日水葉は学園に来なかった。

＊気になるケシキ

ぼんやりテレビを眺めていると、「ピンポーン」千沙：「ご飯作りにきたよ～」いつもの時刻に千沙がやってきた。家に上げるとすぐに台所へと向かう。ん？何かを抱えている。千沙：「今日はカレーだよ。」そうか、あれはカレーか。と言うことは今日は栞さんの料理か。千沙の料理も悪くはないが、栞さんの料理にはかなわない。コトコトコトコトコトコトコト温めながらサラダを作っている。話しかけるのも気が引けて、居間に戻る。テレビではニュースキャスターの口が動いている。ふと、見知った光景が眼に映る。「今朝近所の住民によって発見され、調査されていますが、未だ詳細は不明です。建設中の建物で火の気のないことから、警察は放火の疑いを強めています。」放火？アレはそんなものじゃない。もっと悪質で陰湿で邪悪なものだ。そう、アレハ・・・・・・千沙：「もしも～し、おきてますか～？」目の前で上下する手。見上げると千沙の顔がある。テレビでは地震対策をやっている。千沙：「あ、気づいた。ご飯できたよ。早く食べよ。」「ああ、わかった。」そう言い、立ちあがる。クラリ、と目眩がした。

＊おかしな水葉

食事を終え、千沙を家まで送っていく。冬になってすぐに日も暮れる。最近はこの辺りも物騒になってきた。と言っても被害は建物なので、それの全てが建設中の建物だ。だからか人に被害は出ていないようだ。だからと言って暗い夜道を一人で帰らせるわけにもいかない。千沙：「で、澄香がね、犯人は私だ～って。」「何言ってんだおまえ。」千沙：「だから、澄香が犯人だったんだって。」「犯人？」こいつの友人どももねじが抜けかかってる。いや確実に致命的に部品が飛んでるな、絶対。千沙：「あ～、聞いてなかったな～。もういいよ。」「あ、おい。悪かったって。」小走りで進んでいく。あ、こけた。違う。前に人影がある。誰かにぶつかったみたいだ。ぶつかった相手も倒れている。「大丈夫ですか？」？？？：「ええ、大丈夫ですわ。ありがとうございます。」それはよく知った人物だった。「水葉がなんでここに？」水葉：「あら、司さん。ごきげんよう。私は散歩ですわ。司さんこそ、どうして？」千沙：「うぅ、痛いよ～」足元から声が聞える。水葉：「あら、千沙ちゃんも。ごきげんよう。」千沙：「あ、先輩こんばんは。」水葉：「二人は本当に仲が良いわね。」納得したように言う。まずい、何か勘違いしている。「いやっ、そんなことはないぞ。俺たちはそんなに仲良くない。」水葉：「あら？そうですの？千沙ちゃんは不満そうですけれど。」見ると、頬が膨らんでいた。「何が不満なんだよ。誤解されてるんだぞ。」水葉：「分かってないみたいね。」肯いてやがる。なんだってんだよ。「そういや良いのか？散歩なんかしてて。」水葉：「？、何か問題でも？」「いや、問題って言うか、今日来なかっただろ。体調が悪いんじゃないのか？」水葉：「それなら大丈夫です。体調が原因ではないの。」「なら、なんで休んだんだ？」水葉：「用事が有っただけです。それよりも、良いのかしら？」あの子、と指を差す。指された方を見ると千沙がこっちを睨んでいる。「あれがどうかしたか？」まぁ睨まれてるのはわかるが。水葉：「やっぱりわかってないわね。」ふふふっと微笑む。「だからなんなんだよ、さっきから。」何故笑われているのかわからない。水葉：「そろそろお暇しますわ、ごきげんよう。」さっさと会話を切り上げて歩き出す。すれ違うとき、見たことの無い真剣な顔がのぞけた。振り返る。目の前には暗い暗い道。街灯も届かない黒い沈黙。その中に浮かぶ闇より濃い何か。あれは・・・・・・・・・。異質な振動で世界が揺れる。自我の境界が強くなっていく。千沙：「・・・・ぇ、ねぇってば。」俺は千沙の声で我に返った。「あれ？水葉は？」千沙：「もう、先輩帰ったじゃない。私たちも行こうよ。」そう言い早足で歩き出す。「おい待てって。」俺は追いつくために駆けだす。足を踏み出した瞬間、ズキリ、と頭痛がした。

＊夢

目の前は燃え盛る炎。崩れ落ちるコンクリート。隆起する大地。これまでと同じような景色。ただ違うのは少しずつ鮮明になってきていることか。遠くで火が爆ぜる音がする。黒いものがぱっと広がる。あれは・・・・・・・・・・・・髪か？

＊騒がしい街

「次のニュースです。Ｎ町でまたも火災です。工事中の建物からの出火で、警察はこれまでと極めて似た手口であるため同一犯による犯行とみています。」「最近こればっかだな。」千沙：「うん、そうだね。」独り言だったんだが返事が返ってきた。「放火なんかして楽しいのかな？」「楽しいんじゃないか？もっともそいつにとってだけど。」「そうかな、きっと楽しくないよ。」最近のニュースは放火と地震のことばっかりだ。放火は今のところ死者は出ていない。現場は決まって廃屋や工事中のビル。そのためか街の住人はあまり危機感を持っていない。もうすぐクリスマスだと言うのに、今人々の関心は地震に集まっている。規模もかなりのものだそうだ。１０何年前の関西で起きた地震を凌ぐと言うから、そうとうのものだろう。ここ最近前兆のような地震が起こっている。最近だとやっぱり空気が違う。皆口に出すわけではないが、どことなくピリピリしている。千沙：「そろそろ行こう。」　　　　「ああ」マンションを出る。もう完全に二人で登校することにも慣れてしまった。いつもと同じように昇降口で別れる。周りの生徒と共に教室に入る。クラスメイトに挨拶をして席に着く。不思議なことに俺は以前のように人と接するようになった。どことなく以前と違う生活。最近よくそう感じるようになった。「おっ、」珍しい。水葉がいる。最近なかなか学校に来ない。目が合って、にこりと微笑む。どことなく疲れているようだ。水葉：「ごきげんよう。」「あはよう。」水葉：「あまり夜は出歩かないほうが良いですわ。それと、あまり余計なことに関わらないほうがよろしいですわね。」意味がわからない。「なんのことだ？」俺が聞くのとチャイムが鳴るのは同時だった。水葉：「では。」一言言って席へと向かう。すぐに教師が入ってきた。

＊夢と現実の境界

目の前には建設中のビル。いつもと同じ夢か。いや、違う。これは夢なんかじゃない。はっきりと感じる、これは夢じゃない。既に夜の帳が降りている。どうやって来たのか思い出す。千沙を家に送ったところまでは覚えているけどそれからの記憶がない。ずきり、ふらりと体が揺れる。遠くから音が聞こえる。誘われるように歩き出す。急激に世界が変質した。目の前には血の水たまり。足元には肉片が転がっている。むせかえる血の匂い、屍骸の腐臭。「うっ。」たまらず口を押さえる。吐き気を我慢して、立ち尽くす。「なんだってんだよ・・・・。」引き戻そうと振り向くと、そこも既に異界だった。ざっざっざっざっ後ろから足音がする。助けを求めて走り出す。少し行くと向こうからスーツ姿の男がやってきた。「あの、」どくんっ心臓がはねる。こいつはチガウ。向きを変えて走り出す。血が絡まり、人間の欠片に足を取られてうまく走れない。振り返るとソイツはすさまじい速さで追ってくるのがわかった。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ追いつかれる。追いつかれる寸前、俺は横に飛ばされた。ずざーーーー「つ、今度はなんだよ。」見ると、ヤツの前に立ちふさがっている奴がいる。？？？：「止まりなさい！」立ちふさがっている奴がそう言うと、ピタっとヤツは動かなくなった。その様子を見届けてからこちらに振り向く。そいつはよく見知った顔。水葉：「うろうろしていたから忠告したのに、聞かないからこういう目に合うんですよ。」「うろうろしてたって何のことだよ。」水葉：「とぼけないでください。私が気づいてないと思っているのですか。」「だからなんのことだ。」水葉：「もう、いいかげんに・・・・、しっ。」水葉は急に体を寄せると、俺の口を押さえ地面をけった。「んん？」一蹴りでとんでもない高さまで飛ぶ。そのまま家の屋根に降りると俺の頭を屋根に押しつける。「ぷは、なっ。」水葉：「しっ、黙って。説明は後。」水葉はさっきの男が来たほうを指差す。「なんだ、あれは？」目玉が浮いている。んなばかな。「目玉・・・・・か？」水葉：「そうよ、アヤトの目。」ぎょろ、目がこっちを見る。「ひっ。」水葉：「見つかった。しょうがない、引きましょう。」「え、うわ。」水葉は俺の腕を引っ張って屋根を跳んで行く。「ど、どこ行くんだよ。」速すぎて呼吸しにくい。水葉：「取りあえず私の家に行くわ。貴方も放っておけないし。」そういって速度を上げる。「ぜい、ぜい、」く、苦しい。顔を上げると見知らぬマンションがある。ウチの近くにはマンションなどない。あんな短時間でかなり離れたところまで来てしまったようだ。エレベーターに乗って８階まで行く。水葉：「どうぞ、」水葉はドアを開けてそう言う。俺は戸惑う。水葉：「入らないの？」入れるわけがないだろう。「いや、まあ、だってなあ・・・・。こんな時間に男を上げて良いのか？」水葉：「大丈夫よ、誰もいないから。」「だったら余計駄目だろう。」全く何を考えているんだ、こいつは。水葉：「もしかして、貴方私を襲うつもり？」「そんなこと有るわけないだろ。」水葉：「ならいいじゃない。何か問題有るの？それに貴方じゃ私は襲えないわ。」「だけど・・・・・・・・・・。」水葉：「いいから早く入りなさい！」「はいっ！！」気迫めいたものを感じ俺はおずおずと中に入った。一歩中に入ると空気が違った。「なんだ、ここは？」少し息苦しい。チリチリと肌を刺す空気。空間そのものが牙を向いているみたいだ。水葉：「貴方にはきついわね。」「？」水葉：「まって、お茶でも煎れましょう。」さっさといってしまう。俺は慌てて追いかける。とりあえず勧められたソファーに腰かける。チッチッチッチッチッチッチッチ時計の音がやけに大きい。ふと、既視感を感じた。水葉：「はい、どうぞ。」目の前にお茶が出される。「ああ、ありがとう。」水葉：「どういたしまして。」温かいお茶が体にしみわたる。ようやく人心地がついた。「でだ、質問してもいいか？」さっきから疑問に思ってたことだ。「さっきのはなんだよ」水葉：「さっきの？」「あの異様な血はなんだよ。目が飛んでたし、」思い出すだけでもおぞましい。水葉：「しょうがないわよ、あそこで殺しあいがあったんだもの。」なんだって？水葉：「貴方もよく入れたわね。結構強力な結界だったのに。さすが雨宮家の跡取りね。」何を言ってるんだ？目が飛んでたのだって私の跳躍だって拡張じゃない。貴方だって出来るでしょう？」「俺にはそんなこと出来るわけないだろう。」水葉：「あら、拡張はしてないの？まあ、あれだけ便利な力があればそれもありか。」うんうんそうかも、なんて一人で納得している。「いいかげん話を聞けって、さっぱり分かんねぇよ。」水葉：「何が分からないの？」本当にこっちが言いたいことが分からないみたいだ。「あのなぁ、目が飛んでるとかあんな跳躍をさも当前の様に言うし、しまいには俺にも出来るとか、便利な力とかそんなこと言われて分かるわけないだろ。」いいかげんキレそうだ。水葉：「・・・・・・・・・・・もしかして、本当に分からないの？」「全く分からない。」分かるわけがない。水葉は何故か呆然としている。水葉：「だって貴方雨宮家の人間でしょう？」「？」大げさにため息をついている。水葉：「呆れた、本当に知らないのね。・・・・・・・・・・え？、じゃあもしかして・・・・・」少し考え込んでいる。「どうかしたか？」水葉：「いえ、なんでもないわ。そうね、説明するわ。さっき言ってた拡張っていうのはそのまま。体の器官を強くしたり離したりできるの。この力は訓練次第で誰でも手に入れられるわ。さっき私は足を強化していたし、飛んでいた目はアヤトが切り離したものなの。離すと言っても限界は有るのだけれど。」「ロケットパンチみたいなものか？」水葉：「まあ近いと言えば近いわね。切り離しても普通の腕と同じ事が出来るわ。」「なら、さっきスーツの男を止めたのもそれか？」水葉：「いいえ、それは別の力よ。うーん、そうね。手で出来ることって何が有るかしら？」「握るとか叩くとかか？」水葉：「そう、けど違うのは本当に概念ってことなの。ある事柄にだけ特化しているってこと。つまり、握ることが出来る。その力のことを私たちは拡張に対して上位概念と呼ぶの。そして、その上位概念もそれぞれ人と違っている。昔は使役とかいっていたけど、ある時からuseとか英語で表現するようになったみたいね、その方が的確だとか。」「・・・・・・・・・・・・さっぱりだ。」水葉：「そうね、あそこに空き缶が有るでしょう？あれを投げるとすると、貴方だったらどうする？」「？空き缶を持って投げるけど。」というかそれしかないだろう。水葉：「拡張だと空き缶のとこまで行かなくても、その近くに腕を切り離して投げることが可能よ。けれど、上位概念はここにいるまま、腕を切り離すことなく空き缶をなげれるの。」「念動力ってことか？」水葉：「そう、けれどその人は投げることしか出来ないわ。潰したりするのは無理って事ね。最も二つ持っていればよいのだけれど、二つ以上持っている人なんかほとんどいないわ。あと最高位概念と呼ばれる伝説みたいな力も有るわ。」「まだ上が有るのか？」現実感のない話だ。水葉：「ええ、でたらめよ。例えば火をつけるとするでしょう？普通はライターでも使って火をつけるわね、拡張なら手を切り離して遠くに有るものに火をつけれる、さらにモノによるけど、useの上位概念ならライターに燃やさせることが出来る。けれどfireの最高位概念なら直接そのものを燃やすことが出来るのよ。」「直接っていきなり燃えるのか？」水葉：「そう、いきなり燃やすのよ。」要するに過程がないってことなのだろう。確かにそれはでたらめだろう。「すごいな、なんでもありじゃないか。」水葉：「そうでもないわ。拡張はほとんどないけど、上位・最高位は使う度合いによって頭痛とか酷いときには死ぬことも有るの。概念だからなんにでも影響するけど、その分肉体が傷つくの。」それなら全く意味がないんじゃないか？火をつけるだけで頭痛がしたんじゃ損だろう。水葉：「でもメリットも有るわ。」「なにがある？」水葉：「だって火をつけたのが誰かわからないじゃない。証拠が出ないのよ？その点についてのみ優れている。」「そう、だな。」本当にそうなら完全犯罪なんてたやすいだろう。「でたらめだな。」でたらめすぎる。普段そんなこと言われても信じられないけど、実物を見たから信じるしかない.。「そういえばさっき言ってたけどそれと雨宮が何か関係してるのか？」水葉：「ええ、だってこの力って雨宮の家系的な力だもの。」「え、ならお前」「ええ、貴方の遠い親戚よ。」「何で今まで黙ってたんだよ・・。」水葉：「だって貴方思い出してくれなかったんだもの。」「・・・・・・・・・・・・。」水葉：「今はそれより聴きたいことがあるんじゃないのかしら?」「ああ、そうだ。あの血とかはなんなんだ？あと、俺が誰かに狙われるとか言ってなかったか？」水葉：「言ったわね。」「教えてくれ。」水葉：「そうね、貴方を巻きこんでしまったのだし、教えないといけないわね。まずはアヤトについて話すわ。アヤト、土森アヤトは貴方と同じ雨宮の人間よ。正確には分家。アヤトは幼い頃に両親を失っているわ。本当なら本家が引き取るのでしょうけど、受け入れなかったようね。結局遠縁に当たる私の家、つまり北条家に引き取られたの。アヤトはもうその頃から力が顕在化し始めていたわ。そんなアヤトの能力を抑えるために父はアヤトを鍛えるようになった。アヤトは綿が水を吸うように力をつけ始めた。今思うとその頃からアヤトがおかしくなったわ。手にいれた拡張をおもしろ半分で使うようになった。アヤトにはほとんど反動はなかったみたい。それだけならまだいいけれど、アヤトはその力で小さな生き物を殺すようになった。だんだんそれがエスカレートして犬とか大きな生き物も殺すようになったわ。父もやめさせようとしてたけど無駄だった。父はアヤトを鍛えることをやめたのだけど、それがまずかったわ。アヤトはだんだん話さなくなっていった。そんなある日、街で事件が起った。人々が殺し合いを始めたの。小さな子供から老人までほとんどすべての人間が、よ。異変に気づいた父が調べると上位概念が働いていることが分かった。その持ち主がアヤトだった。父はアヤトには上位概念がないと思っていたようね。上位概念に目覚めたアヤトはついに人を殺める様になった。父と母はアヤトを止めるために上位概念を抑えようとしたわ。両親は話しあいをしようとしていたけれど、いらだったアヤトは力を使って父と母に殺し合いをさせた。両親はそれに抗うことができなかった。幼かった私は震えながらその光景を見ていた。ただ怖かった。両親が動かなくなるとアヤトは私を見た。アヤトは笑っていた。私は壊れそうになった。憎いだろう、憎いだろう、なら俺を殺すがいい。強くなって俺を楽しませろ。と、笑いながらそう言うとアヤトは家を出ていった。それから私は親切な親戚のもとで育ち、アヤトを倒すために力を鍛えていったわ。その間にもアヤトを探していたわ。今年の始めにようやくアヤトがこの街にいることをつきとめた。そして私もこの街に来たってわけ。」昔のことを語る水葉はどこか悲しそうで、自分のすることを確認している様に見える。俺はどう言えばいいのか分からない。水葉：「アヤトは人が殺しあったりしてるのを見て喜んでいる狂人よ。この街でも既に行方不明者が出ているはずよ。さっきの血や肉片はその証拠。殺し合いをさせたみたいね。早くアヤトをしとめないと。」自分のすることを確認するように決意を込ているようだ。水葉：「あと貴方が狙われるって言うのは、私と一緒なのを見たから。」「は？それだけか？」なんでそれだけで殺されるんだ。水葉：「おそらくね、狂ってるけどバカじゃないもの。私を逃がしたのは抵抗するのが見たかったからだし、そんな私と一緒にいる能力者がいたら仲間だと思うでしょ？」「んなばかな。能力なんて今知ったんだし、第一使い方だって分からないんだぞ。」水葉：「残念だけどそれは貴方の事情で、アヤトには関係ないわ。」「だから言ったじゃない、夜出歩くなって。」喜んでいるのか同情しているのか、よく分からない表情で言う。「おい、何がおかしいんだよ。」水葉：「？、別におかしくないわよ。」なんのことか分からないようだ笑っている気がするが、まあ気のせいだろう。だけどこれからどうしようか。アヤトって奴は拡張だったか？が使えるらしいから、隠れてもすぐ見つかるだろうしいったいどうすればいいんだ。水葉：「遠くに逃げても無駄よ、面白そうなおもちゃを見逃すような奴じゃないわ。」心も読めるのかこいつ。水葉：「あ、ちなみに心は読めないわよ。」笑いながら言うが、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。水葉：「そうね、貴方の上位概念が何か分からないけど、とりあえず力を制御しないとアヤトに丸分かりよ。」「出てるのか？そのなんとかってのは？」手を見ても何も感じないけど。水葉：「ええ、強力なのがね。eyeの拡張にはどんな力かまでは分からないけど、力の流れぐらいは分かるわ。」「どうやって制御すればいいんだ？」水葉：「そうね、認識するのよ。」「認識？」水葉：「ええ。例えば、{　　難しい式　　　}っていう数式があると貴方はどう解く？」「いや、無理。」水葉：「なぜ無理なの？」「そんな見たこともないものなんか解けるわけないだろ。」水葉：「そう、貴方はこの式を識らないから解けない。けれどこの式を解けるものもいる。それが私と貴方の違い。あらゆるものは認識されることで顕在化し、識らなければそれは存在できない。目に映る、耳に聞こえる、感触がある、味がする、匂いがするそして理を解する、世界はこれらによって作られる。先ず認識しなさい、力があるということを。」ライターが有っても使いかたが分からないとどうしようもないということか。いや、ライターが有ってもそれが何か分からないとこか。認識についてはなんだか似たことを聞いた覚えがある。「あれか、プロタゴラスのいう人間は万物の尺度ってことか？」そうだ、プロタゴラスはすべての事は人間によって決められると考えていた。つまり、世界に絶対の真理なんて存在しないってことだったはずだ。いやむしろそれを絶対の真理と人間が認識するということか。だからこそ認識する事が世界を創るのか。水葉：「その通りよ。どう？認識できそう？」「なんとなく分かったけどあまり実感がない。」水葉：「それはそうよ。頭で分かった気になっても、実際にどれだけ影響しているか分からないんだもの。」笑いながら言う。今日はよく笑うと思う。「だったら意味ないじゃないか。」全く、バカにしてるのか。水葉：「意味あるわよ。さっきのが一番大切な事だもの。貴方が使うのは概念よ、識ろうとする姿勢が大切なのよ。」正直よくわからない。水葉：「ここからが本番。私の力で貴方の力のリミッターを外すわ。そのとき自分を見失わないように自分の形を強く意識しなさい。そうそう、何か力に心当たりない？」「心当たり・・・・・・・。」思い当たるのは一つしかない。そうかあれが力だったのか。「俺、夢を見るんだ。」水葉：「夢？」「起きたときはあまり覚えてないんだけど、そのときになると唐突に思いだすんだ。そうすると決まって夢の通りになるんだ。大抵物が落ちてきたり、人が階段から落ちるとか。」水葉：「予知夢ってこと？」「多分そうだと思う。」「・・・・・・・・・・・・・・・。」水葉：「わかったわ、今からリミッターを外すから、神経を研ぎ澄まして。」そう言いながら近づいてくる。どくん、心臓が跳ねる。駄目だ駄目だ駄目だ、ずきんずきんずきんずきんずきん。激しい頭痛で意識が飛びそうになる。けれど俺は意識しなくてはいけない気がした。目で、耳で、肌で、舌で、鼻で世界を象どる。目に映る霞む世界に広がりが浮かぶ。かろうじて手だと分かる。それが触れた時、いつも頭痛のようにだんだんと世界が鮮明になる。けどいつもとは決定的に違う。細胞一つ一つが熱を帯びているみたいだ。圧倒的な覚醒感。体が広がる感覚。水葉の姿が見える。と、すぐに視界が変わる。いや、世界が重なる。ぐるぐるぐるぐる世界が回る。生物、無機物関係なく声が聞こえる。声が渦巻き神経を引き裂く。五体はすべて拡散する。あらゆる匂い、奇妙な味で気分が悪くなる。たくさんの声の中ひときわ大きい声が聞こえる。水葉：「っく、そのままじゃ危ないわ、自分を強く持って。」少し焦ったような真剣な声。その声を聞いたとたんに、感覚が正常になる。世界は一つに収束する。目の前には髪を乱し、肩で息をする水葉。突然ふらりと上体が揺れる。「どうしたんだ？大丈夫か？」すんでのところで抱きとめる。水葉：「ええ、なんとかね。貴方、やっぱりすごいわね。危なかったけどね。」ふふっと辛そうに微笑む。「おい、本当に大丈夫か？」顔色がかなり悪い。水葉：「大丈夫よ、それより貴方はなんともない？」立ち上りながら言う。そういえば、何か違和感がある。「何か変だ。」水葉：「よかった、成功ね。」「さっきのはなんだったんだ？」水葉：「あれは貴方の力を少し開放したの。だけど、思ったより強かったのよ。それと貴方の力、予知夢じゃないわ。見て、結構酷い状況よ。」手を広げて大げさに言う。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」まぁこの状況はもう笑うしかない。整頓されていたはずなのに、足の踏み場もない。「・・・・・・・・・・・・これは何の冗談だ。」かろうじて声を出す。水葉：「冗談だったらいいんだけどね。これが貴方の力よ。うーん、台風が来たみたいに見えるけど、違うわね。花瓶は落ちてるけど机とか大きなものは場所が移動してるだけね。貴方の上位概念はきっとmoveね。」確かに小物は散らばっているけど、下にあったものが移動して散らばったようだ。驚く事は家具がそのまま移動している事だ。今あるところまで引きずった跡がある。たまに壁に花瓶とかがめり込んでる。そのまま突っ込んだみたいだ.。水葉：「じゃあ、先ずあの箪笥を動かしてみて。」「どうやればいい？」水葉：「動かせるって強く思って動かそうと思えば動くわ。そのうち感覚が伴うわ、先ずは頭の中で動かすの。」まあ、よく解らんが動くと思えばいいのか。「よし。」動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け！ピクッ。「うわ、動いた。」少しだけだけど。水葉：「貴方、半信半疑だったでしょ。」と、非難してくる。「まああまり信じれる話じゃないしな。」水葉；「いいわ、もう一度やってみて。今度は動かす先も決めるのよ。」「今の見てなかったのか？全く動かなかったぞ。」あんなぐらいしか動かせないんじゃ一日かかっても終わるわけがない。水葉：「いいからやって。」釈然としないまま強く思う。ズ、ズズズ、ズズズズズズズズズズ、ドシン。「は？うわっ。」箪笥はそのまま壁に激突した。水葉：「だから言ったじゃない、どこまで動かすか決めろって。」ため息をつく。「そこまで動くなんて思わないだろう。あれだけしか動かなかったんだぞ。」水葉：「私の話、まだ信じられないの？」「いや、そんな事はない。」水葉：「ならしっかり私の言うとおりにして。」なんかこっちが悪いみたいじゃないか。水葉：「なんで今のはあんなに動いたんだよ。」｢当たり前でしょう。さっきは動くか半信半疑だったからあれだけだったの。でも今は動かせるっていう確信を持って能力を使った。分かり易く言うと、動かせるってことを識ったってことね。言ったでしょ概念を使うには強い認識が必要だって。」なんだかなぁ、それにしてもこれは便利だ。先ずは家具を元どうりにするか。水葉：「待ちなさい。」力を感じ取ったのか静止の声がする。俺はその声を無視する。「・・・・・・・・すごい。」本当にこれを俺がやっているのか信じられない。10秒もかからないうちにすべての家具が元どうりになった。「あれ？」目の前が歪む。体が傾く。倒れる前に支えられた。水葉：「もう、だから言ったのに。力はただじゃないのよ。目覚めたばかりなのにそんなに使ったら倒れるのも当然よ。まあ、気持ちは分からないでもないけど。」俺を座らせると真剣な顔を向ける。水葉：「けど、その先にいるのがアヤトなの。おもしろ半分に力を使うのはやめなさい。取り返しのつかない事になるわ。」アヤトという言葉に強い感情がこもっている。その意味の重さを知って深く反省する。「ごめん、俺・・・。」水葉：「いいわよ、貴方は反省してくれたみたいだし。」いっそう明るく笑う。もう軽軽しく力を使わないようにしよう。水葉：「体調はどう？」「ん、大丈夫だ。」水葉：「驚いた、貴方すごいわね。」心底驚いているようだ。「なにがだ？さっきの力か？」水葉：「それよりも、もう回復してるところね。さっきもだけど。」「さっき？」水葉：「ええ、リミッターを外した時ね。」あの不快感が頭を過った。「あれが？ただ気持ち悪かっただけだぞ。」水葉：「どう気持ち悪かった？」「いろんな音とか匂いとか映像とか全部いっしょくたになってたんだよ。体だってどこかにいったみたいだった。」水葉：「・・・・・・・・。」「？おい、どうした。」水葉：「え、ええ、驚いていたのよ。」「何がどうなってるんだよ？」水葉：「それが拡張よ。」「あれが？」水葉：「そう、普通は鍛錬しないといけないけど、貴方はリミッターを外しただけでいけるなんて怖いぐらい、しかも五感全てなんて。もしかしたら貴方最高位もつかえるかもね。」何が楽しんだろうか。「じゃあそれって使えるのか？」しまった、また便利だとか思ってしまった。そんな様子を察したのか微笑む。水葉：「いいの、むやみやたらに使わなければね。大事なときだけに使うと決めていたらね。」ほっと胸をなでろす。さっき反省したばかりなのに。硬く心に誓う、どうしようもない時にしか使わないようにしよう。水葉：「あの時貴方のすべての器官が拡張されていた、けれど貴方のリミッターは強力みたい。拡張は地道な鍛錬が必要よ。だから貴方の場合誰よりも時間がかかるわ。もっとも身に付けてしまえば誰よりも強力になるでしょうけど。」つまり当分、いや、かなりの間おあずけのようだ。水葉：「もう貴方は自分で能力を制御できるわ。使うのと逆ね。」うん、力の流れが分かる。意識的に抑制してみる。水葉：「そうそう、できてる。」頭がはっきりとする。もしかしたら今まで無意識に何かを動かそうとしていたのかも知れない。ずきり。痛みに顔をしかめる。水葉：「どうかした？」心配げに顔をのぞきこむ。「なんでもないよ。」ふと、何かよくない事が浮かんだ気がした。「そういえばアヤトの力はなんだ？」無理やり話題を変える。このまま考えてはいけない気がした。水葉：「おそらくuseだと思うわ。人に殺し合いをさせているのが証拠。それに拡張の量も質もすごいわ。私なんか足元にも及ばないかもしれない。」さらりとそんな事を言う。「おい、それじゃ危険じゃないか。大丈夫なのか？」水葉：「ええ、私の力、holdならね。」 hold、あのスーツを止めた力か。水葉：「アヤトの力を封印するわ。そうすれば私にも勝てる。」「だけど危険じゃないのか？俺に出来る事はないか？」水葉：「なら、貴方は極力隠れていて、お願い。」「俺じゃ戦えないのか。」水葉：「そうじゃないの、貴方を巻きこみたくないだけなの。」俺を心配してくれているのが分かる。けど、水葉が戦っているのを知って黙っているわけにもいかない。相手がそんな奴だったらなおさらだ。何故か不思議とそう思う。「俺にも手伝わせてくれ。お前が戦っているのを知ってほかって置くことなんか出来ない。」水葉：「ありがとう、でもこれ以上私を困らせないで・・・・・。」少し嬉しそうな困った顔。そこまで言われたんじゃ、これ以上無理は言えないか。「わかった。けど一人がつらくなったら言ってくれ。いつでも力を貸すから。」水葉：「ありがとう。」安心したように微笑む。水葉：「そうだ、忘れてたけど、一つ言わなければいけない事が有ったわ。」一転して真剣な表情になる。水葉：「貴方、自分の力を予知夢だって言ってたわね。」「ああ、でも違ったんだな。」ずっとそう思っていたんだけど。水葉：「ええ、でもその通りにもなったのよね？」「ああ、全部その通りになった。」あ？おかしいな、ならなんで分かったんだ？口を開いたけどすぐ閉じてしまった。ダメダダメダキイチャイケナイ「どうしたんだよ。」絞りだすように言う。水葉：「それね、全部貴方が力を使って、夢の通りにしたんだと思うわ。」なんだって？「は？、あれを、俺が・・・・・・・？」水葉：「そう、貴方の力はさっきも言ったようにmoveよ、予知夢を持っているはずがないの。」「でも、２つ持ってる奴が、いるかもしれないんだろ？」俺は、なんで反論してるんだ？水葉：「残念だけど、貴方が見えたものはいろいろな風景、これは拡張なの。本当に予知夢ならもっと違うものが見えるはずなの。」それが本当なら、あれらは全部俺がしたのか・・・・・・・・・・・。目の前が真っ黒になる。俺は今まで何人の人間に力を使ってきたんだ？俺は頻繁に頭痛を感じていた。ならかなりの人間に影響しているかもしれない。もしかしたら殺してしまったことがあるかもしれない。あれだけのことができたんだ。少なくとも多くの人間を危険な目に合わせているはずだ。心臓を鷲掴みされたような圧迫感。呼吸の音さえも俺を不安にさせる。どうしたらいいのか分からない不安感と、罪悪感で心が傷む。「お、俺はどうしたらいい。」声が震える。「今までにどれだけ力を使ったか分からない。も、もしかしたら死人だって出てるかもしれない。俺は、俺は、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」俺は膝を抱え、いつか感じた絶望感に似たものに討ち震える。世界が暗く暗く沈む。キュウキュウと、心臓が、腸が締め付けられる。体を強く強く抱く。世界は極寒で、灼熱。この身を苛むは良心と言う名の蛇。後悔と罪悪感に切り刻まれた心が悲鳴を上げる。声が、聞こえる。多くの人間の呪そが。声が声が声が。耳から侵入して体内をじゅうりんする。「は、は、は、は、」息が切れる。ボクハボクハボクハ、、、、、、「あ、」急に何かに包まれたような感覚。それはまるで羊水のような安心感。蛇は姿を消し、声は霧散する。頭のすぐ傍から別の声が聞こえる。水葉：｢よく聞いて、確かに貴方は取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない。このまま殻に閉じこもっていれば、貴方がこれ以上傷つく事はないわ。けど心の傷も癒えることはない。罪は無くなる事はないけれど、償う事は出来るわ。貴方が多くの人を傷つけてしまったのなら、多くの人を救えばいい。」耳の近くから言の葉が体の中心を通って全身に広がる。けっして不安が無くなったわけでも、罪悪感が消えたわけでもない。けれどあの暗い世界は崩れていく。世界は色を取り戻し、感覚は外へと向いていく。そこで気づいた、俺を包むものの正体を。いつかした光景。まあ、立場は逆だけど。なんとかものを考えれるようになったみたいだ。「ありがとう、落ちついた。」体を離す。水葉：「そう、よかった、」「どうかしたか？」水葉：「え、何が？」まあ、気のせいだろう。お互い会話もなく時間だけが過ぎていく。けれど何故か気まずい感じはしない。ポーン、、、、、、、時計を見ると１時になっていた。「そろそろ帰るよ。」そう言い、立ち上がる。水葉：「送っていくわ。」変なことを言う。「送っていくのは普通俺だろう？大丈夫だよ。」水葉：「え、あ、そうじゃなくて。」何か言おうとするがそのまま玄関に向かう。「じゃあ、おやすみ。」水葉：「あ、」ばたん、追ってくる水葉を制してマンションを出る。ホールから歩き出して気づいた。「どうやって帰ればいいんだ？」ふと、目にとまった所番地には隣の市の名前が書いてあった。あいつの言ってたことはこのことか。「はぁ～、今日中に帰れるよな・・・・・・。」本当に、送ってもらえばよかったな。「さて、行くか。」俺は軽い足取りで、家へと歩き出す。

＊日常を蝕むモノ

？？？：「ﾁｯ、逃がしたか。」せっかく見つけた玩具だったが。まあ、いい。ゆっくりみつけるさ。？？？：「それにしてもなかなか強くなってるじゃないか。」笑いがこみあげる。？？？：「待った甲斐があったってもんだ。面白そうなガキもいたことだし。」ク、ク、ク、ク、ク、ハーハッハッハッハッハ。持っていた頭蓋を投げ捨てる。ダン、壁にぶつかって破片が飛び散る。？？？：「さあ、ゲームの、始まりだ。」ハーハッハッハッハッハッハッハッハ。

＊不吉なソラ

「次のニュースです。Ｎ町でまたも火災です。今回も遺体が発見されました。警察は身元の確認を急いでいますが、やはり遺体の損傷が激し、、、、、、、」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」崩れ落ちたコンクリート、歪んだ大地。またか、あれからほとんど毎日。水葉は大丈夫なのだろうか。あれから学園に来ていない。千沙：「どうしたの？」千沙が心配そうに声をかける。「ああ、別に・・・・。」千沙；「うわぁ、またなの。怖いなあ。」ニュースを見て怖がっている。それはそうだと思う。今の世の中人が殺されるなんてことは滅多にない。少なくとも実行犯はすぐに捕まる。けれどこの犯人は目撃さえされていない。その実態のない、けれど有る確実な死。しかもあんな犯人なら・・・・・・・・。「お前も気をつけろよ？」千沙：「え。うん、わかった。」にこにこにこにこ「何がそんなに嬉しいんだ。」千沙：「べっつに－。」にこにこにこにこ全くもっておかしな奴だ。「まあいい。ほら、行くぞ。」さっさと玄関に向かう。千沙：「あ、待ってよ～。」そんな抗議を無視して玄関を抜ける。ドアを開けると雲一つない青色が目に映る。青く蒼く吸いこまれそうな世界。どこか不吉な、真っ青な空。くい、くい、「ん、」袖が引っ張られる。千沙：「どうしたの？早く行こ？」出て来たのさえ気づかなかったみたいだ。今日の俺はどうかしてる。嫌な感覚が心を覆う。「気のせいだろう。」わざと声に出す。千沙：「？何か言った？」前にいる千沙が顔を向ける。「何でもないよ。」俺は少しだけ軽くなって、学園に向かって歩き出した。

＊水葉の決意

千沙：「あ、今日は少し遅くなるかも。６時までには行けると思うけど。」「ああ、わかった。」千沙：「じゃあね、」手を振って去っていく。姿がきえる頃、後ろから声がかかる。？？？：「いつも仲が良いわね、貴方たち。」まさか、と思って振り向く。と、水葉：「ごきげんよう。」目の前には変わらない水葉。ほっと胸をなでおろす。「よかった、無事だったのか。」教室に向かって歩き出す。「来たってことは倒せたんだな。」すこし表情をきつくさせる。水葉：「いえ、まだ戦ってないわ。」思わず立ち止まる。「ならなんで来たんだ？ずっと戦ってたんじゃないのか？」水葉：「違うの、ずっと探していたのよ。あの日以来完全に見失ってしまったの。でもようやく、居場所をつきとめた。今夜、戦うわ。」言葉の一つ一つから強い決意がにじみ出ている。正直俺も戦いたい。何が出来るってわけでもない。けどこいつが戦っているのを指をくわえて見ているしかないってのも嫌だ。なんでも良い、こいつの力になりたい。そんな事が喉まででかかったけど、俺はそれを必死に押しとどめた。「そうだったのか、頑張ってくれよ。すでに死人も出ているみたいだしな。あれってあいつの仕業だろ？」考え込んでしまった。水葉：「ええ、それなんだけど、よく分からないの。確かに人は死んでいたわ、助ける事が出来なかった。けどアヤト自身はあそこにいなかった。だから探すのが困難だったのだけれど。」「アヤトがいない？」どういうことだ。今になって隠れるような奴じゃないだろう。それに奴は聞く限り人の苦しみを見るのが楽しいのだろう、ならそれを見逃すのはもっとおかしい。待てよ、なら・・・・・・。「もっと楽しい事を見つけた・・・・・・・・・・・？」水葉：「ええ、私もそう思うの。けどそれが一体何かは見当もつかないわ。」くそっ、今度は一体何をするつもりなんだ。もしかしたら相当の人間が死ぬかもしれない。なおさらあいつを野放しには出来ない。気づいて苦笑する。俺ってこんなに強い正義感が有ったんだな。水葉：「まあいいわ、考えてもしかたがないしね。」そう言いながら歩き出す。「そうだな。」俺は無力感を引きずりながらその後に続く。ふとさっきの答えを聞いていない事に気づいた。「そういやさ、なんで学園に来たんだ？」教室のドアを開けたところでこちらに振り向く。水葉：「最後に貴方の顔を見たかった、じゃ駄目かしら？」笑顔でそう言うとさっさと席に向かってしまった。「最後に、か。」俺は学園にいる間ずっと、『最後に』と言う言葉が脳裏にまとわりついてけっして消える事がなかった。

＊丁の忠告

キーンコーンカーンコーン・・・・・・・・・・・授業が終わりそれぞれが思い思いの場所へ行く。内藤：「じゃあな雨宮。」「ああ、」本当に最近はクラスメイトともよく話すようになったものだ。丁：「あれ、今日は来ないのか？」「ああ、今日は用が有るんだと。」丁：「そうかそうか、ついに振られたか。」こいつはいつもすぐそう考える。「何度も言ってるだろう。そんなんじゃないっての。」丁：「ああ、わかってるって。」絶対分かってない。あの笑みは断じて違う。まったくこいつは。まあ、毎日来てればそう思われてもしかたがないか。やめろって言ったんだが全く聞きやしない。「それより水葉ってもう帰ったか？」丁：「ああ、真っ先に教室出ていったな。」「そうか。」もう、行ってしまったのか。今日の物言いからすると命をかけて挑むのだろう。ギリッ、奥歯が鳴る。くそくそくそくそくそくそ、俺にもっと力が有ればあいつを助けることが出来るのに。丁：「おい、」顔を上げるといつになく真剣な顔。丁：「恥じかいたり失敗したりなんざ、いくらでもしてもいい。けどな、後悔だけはどんな事が有ってもしちゃいけない。自分にとって何が後悔なのか、よく考えろ。」じゃあな、とそれだけ言うとドアへ向かう。「後悔、か。」知らずつぶやく。するとドアの前で立ち止まり、無茶はするなよ、なんて言いやがった。自然と笑みがこぼれる。全く、一番怖いのはあいつなんじゃないのか。なんでもお見通しとは恐れ入る。すでに教室には誰もいない。「さて、行くか。」言われなくったって、最初からやる事は一つなんだ。俺は決意を込めて一歩を踏みだす。ふと、背後に気配を感じて振り向く。あるのは赤い紅い夕日に染まる教室。まるで血にまみれているように陰惨な世界。けれどそこに気配はない。「馬鹿馬鹿しい、誰もいないじゃないか。」俺は向きを変え、赤い世界を去る。赤く歪んだ世界のさらに暗い場所に人影が映る。？？？：「くくくく、感が良い。ますます気に入った。あとは・・・・・・・・・。」それは奇妙に歪んだ笑顔を浮かべ、満足げに窓から飛び立つ。

＊千沙誘拐

ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、時計の音がやけに大きい。ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、ぼーん、、、。時計が６時を示す。たしか６時くらいに来るような事を言っていた気がした。少し、心配になってきた。ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、不安が次第に大きくなる。時計を見るとまだ３分も立っていない。ただ遅くなっているだけだろう、心配するような事じゃない。ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、何故か、とても嫌な感じがする。コートを羽織っ玄関を開ける。「え、」目の前に広がる赤い液体。「な、うっ。」口を抑える。むせかえる血の匂い。まるでこの間のように。？？？：「女は預かった。」声が、聞こえる。周りを見渡すけど誰もいない。？？？：「おいおい、しっかりしろよ。」今度は耳元から聞こえてきた。「なっ。」？？？：「とりあえず、そうだな、学園に来い。来ないなら、女がどうなっても知らないからな。」くっくっくっくっくっくと笑い声が尾を引いてきえていく。「なんだってんだ・・・・。」目の前に血だまりなんかない。「・・・・・・・・・・・！」違うものを見つけて俺は呆然とした。あれは、あいつの・・・・・・・・。

＊雨宮司の戦いⅠ

「はあ、はあ、はあ、はあ、、。」アイツだ。アイツに決まってるなんで千沙をさらったか知らないが、あんな事の出来る奴はアイツしかいない。手の中のナイフを握りしめる。強く、強く。水葉のところへ行くつもりだったが探す手間が省けた。俺が、倒してやる。夜の道には誰もいない。ただ俺の足音と息使いが響くだけ。怖くないなんてことはない。いや、正直かなり怖い。けど黙っていている事なんて出来ない。それに俺は千沙を助けたい。目の前にようやく校門が見えてくる。「はあ、はあ、はあ、はあ、、、、ふぅ」息を調えてから校門を乗り越える。校門から飛び降りると、世界が変わった。いる、奴だ。どこにいる。息を潜めて周囲を探る。ふぅ、、、ふぅ、、、、ふぅ、、、、俺の息使いだけが黒い空間にある。「・・・・・・・ﾄﾞﾝ」遠くから音がする。俺は音のしたほうに駆ける。音に近づくにつれ心臓が締め付けられる。なんで俺はこんなところにいるんだろう。勢いで来てしまったけど俺に何が出来るんだろうか。自然と足がとまる。俺に出来る事なんて、、？？？：「きゃあ、」突然聞こえる悲鳴。戻りかけた足を止める。「水葉っ！！」くそ、あいつが戦ってるんだ。このまま逃げるわけには行かない。震える足を地面に叩きつける。そのまま考える前に駆ける。校庭に出ると人影が見えてくる。「な、なんだ。」うごめく影、影、影。離れたところには水葉が倒れている。「くそ、」俺は危険を省みず駆けよる。「おい、大丈夫か？」抱えると首がダランと垂れ下がった。「！」慌てて口に手をかざす。・・・・・・・・・大丈夫だ、息はしてる。俺は水葉をかばうように立つ。「お前、アヤトだな。」ありったけの憎悪を込めて声を出す。人の群れの後ろから男が出てくる。アヤト：「ようやく来たな、遅かったじゃないか。まあ、水葉のお陰で退屈しのぎにはなったけどな。」ククっと笑う。アヤト：「全く、強くなったかと思ったけど期待外れだった。所詮holdなんかで俺に適うはずがない。」「なんだと、てめぇ。」アヤト：「怒るな怒るな、とりあえず話しを聞け。」バカにしてるのか両手を上げて笑っている。「ふざけるんじゃねぇ、水葉をこんな目に合わせやがって。」アヤト：「！、あっはっはっはっは。そいつはついでだ。おい、完全に忘れられてるぞ。」腹を抱えて笑っている。すると奥から一人の人間がでてきた。「千沙！！」そいつは拘束された千沙を引きずっている。「おい、何してんだよ！」アヤト：「こいつは景品だ。俺を倒せたら、返してやる。」「てめぇ、」ふつふつと怒りが込みあがる。俺はアヤトめがけて走りだす。けれどそれは大勢の人間に阻まれる。「くそ、どけ。」そいつらを振り解こうと必死に暴れる。けれど尋常じゃない力で地面に抑えつけられる。「くそ、くそ。」アヤト：「おいおいもう終わりかよ。」大仰にため息をつく。アヤト：「ふん、つまらん。こいつはもう用済みだな。」アヤトはけだるそうに千沙に近づく。手にはきらめくナイフ。「やめろ、やめろ、やめろーーーーー！！」と、唐突に拘束力がきえた。俺は自由になった体でアヤトに近づき力の限り殴り飛ばす。ズザーーーーーーーー。アヤト：「くっ、」アヤトを吹き飛ばす。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」なんとか立ちあがる。俺は体に付いた手を引き剥がし、千沙の拘束を解く。「おい、しっかりしろ！」話しかけても返事がない。「くそっ。」いそいで水葉のところまで運ぶ。アヤト：「くっくっくっくく、あっはっはっはっはっはっはーーーーー。」異様な笑いが耳に付く。振り向くと起き上がったアヤトが狂ったように笑っている。アヤト：「はっはっはは、、やるじゃないか。こうじゃないとつまらない。」喜悦の笑みをたたえ、にやりと顔が歪む。「ちっ、」こんしんの一撃だったのに全くの無傷か。俺は二人をかばうように前に出る。アヤト：「さて、力はなんだろう。あいつら全部吹き飛ばしたのか。手首だけついてたな。sendかreboundか、ハッ、そのうち分かるか。」ぶつぶつと何か言うのをやめて俺をみる。アヤト：「それならこれはどうだ？」そう言うとアヤトの背後がきらきらと光る。「なんだ？」ぞく、寒気が体を通り抜ける。そう思ったときすでに体は右に飛んでいた。ザシュ、みると、さっきまでいた場所に沢山のナイフが刺さっている。「な、」間一髪、あのままいたら確実に死んでいた。アヤト：「ち、避けたか。」間髪いれずにアヤトの背後にナイフが飛ぶ。さっきまでとは比べものにならない数。そういえば水葉はアヤトの力はuseだと言うような事を言っていた。確かにあの男たちは操られていたようだったし、ナイフもそうだ。あれはアヤトが使役しているんだろう。ふん、種の知れた手品ほどつまらないものはない。アヤト：「今度は避けきれるか？」アヤトが叫ぶ。無数のナイフは俺を貫く、はずだった。「な、」アヤトのナイフはピクリとも動かない。「ようやく力の使い方に慣れてきたんでね。」俺は会心の笑みを浮かべる。アヤト：「なんだ、お前使いかたが分からなかったのか。」落胆したように言う、と急にナイフはアヤトの後方に飛んでいった。アヤト：「ふん、なるほどな。お前の力は弾くんじゃないな。飛ばす、のも微妙に違うな。動かす、か。いや、にしては強過ぎだな。でもまあ、そんなところだろうな。」またぶつぶつ言い始めやがった。バカにしてるのか。俺は体を力を使って動かす。「いいかげん黙れ。」俺は普段ありえない速さでアヤトに切りつける。「な、」手応えがない。見事に外した。アヤト：「ふん、そんな程度で俺を殺そうってのか。」耳元に声。「うわ、」その場から飛びのく。見ると口だけが笑っている。「な、」アヤト：「おいおいさっきから驚いてばっかりだな、拡張ぐらい知ってるだろう。」ダ、ダメだ。なめてた。アヤト：「お前拡張も出来ないのかよ。まあいいか、それだけ上等な上位があれば楽しめそうだ。」クククク、と笑う。っくそ、レベルが違いすぎる。アヤト：「だがその程度じゃあこいつは返せないな。」見るとアヤトは千沙を抱えている。「！、くそっ、いつの間に。」アヤト：「ふん。お前、こいつが大切みたいだな。わざわざ力まで使ってる。」何を言ってるんだ、こいつは。アヤト：「そうか、お前の力はmoveだな。それなら全て辻褄が合う。」この先を、聞いちゃいけない。ダメダ。アヤト：「やっぱりそうか、吊橋効果だな。お前もよくやるよ。」ククっと憎らしげに笑う。「なんの、ことだ。」なぜか潰れそうな心。ダメダダメダ。アヤト：「お前も俺と同じだってことだよ。」「そんな訳あるか！お前みたいに力を使った事なんか・・。」アヤト：「ないって言えるのか。」言えない、俺はすでに力を使っていたんだ。無意識だからって許されるはずが、ない。アヤト；「ふん、黙ったってことは図星か。まあこいつの心臓に異常なほど力が流れてるから当然か。」そう言って千沙を見る。待て、こいつは何のことを言っている？アヤト：「さっきまでの威勢はどうした。水葉を助けた時みたに攻撃してみろよ。」それより俺はさっきこいつが言った事が気になる。アヤト：「ん？そうか、お前を怒らせれば、楽しめそうだ。」ククククク、っと言う笑い声で我に帰った。アヤト：「そいつを置いていくからせいぜい強くなることだ。そうだな１週間後にまた来い、それまでこいつに手は出さないでおく。」クククククっと声が闇に沈んでいく。「おい、待て！」辺りを探すがもう影も形もない。「くそっ、」俺は地面を殴りつける。拳の形に地面が窪む。こんな力があったって、人一人助けられないなんて。あいつの顔が頭に浮かぶ。・・・・・・・や・・りそう・・・・つ・・ばしこ・・・・・・・。なんだ？何か引っかかる。こい・・・・・・ち・・・ら・・・・・・。「やっぱりそうか、吊橋効果だな。お前もよくやるよ。」「・・まあこいつの心臓に異常なほど力が流れてるから当然か。」アヤトが言っていた事、か？千沙にちから・・・・・・・・・・が？と、急に、あの日のことを思いだした。そうだそうだそうだ、確かにあの日俺は夢を見たんだ。車に弾かれる少女の姿を。あいつは言っていた。俺の夢があたるのは俺が力を使っているのだと。ならあの日のあのトラックは、俺のせいだった、と言うことになる。そうか、ようやく分かった。あいつは勘違いで俺に付きまとっていたのか。吊橋効果、か。まったく、知らないところですさまじい力だな・・・・・・・。ハッ、あいつの気持ちは俺が作ったってことか。これじゃあアヤトと変わりないじゃないか。は、はは、ははははは、、俺は呆けたように笑う。水葉：「それは、違うわ。」後ろから声がかかる。「もう大丈夫なのか？」背を向けたまま俺は言う。こいつに限っては何があっても驚かない。水葉：「そんな事はどうでもいいの。ただね、これだけ言いたいの。」足音が近づいてくる。それは俺を追い越し目の前でとまる。水葉：「貴方いいかげんにしなさい！！」バチンと頬に衝撃が走る。水葉：「自分の力を過信しないの！いい？人の心なんか操れるわけがないじゃない。もう、本当に鈍いんだから。確かにきっかけはそれだったかも知れないけど、吊橋効果？そんな心臓の鼓動が速くなる程度の気持ちなんかすぐに消えてしまうわ。あの子はね、ちゃんと貴方の事が好きなの。今の不抜な貴方なんか見たくもないわ。」ソイツはそれだけ言うと、さっさと行ってしまった。

＊犯した過ち

ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、俺は全てを思いだしていた。どんな夢があったか、を。そして、あいつが轢かれそうになった事も。そう今なら思いだせる、あのトラックが止まれない事を知っていた事を。何故かその日に限って朝に風呂がわいていた事を。僅かな差異、けれど確かな違和感。俺は決してそれに気づく事はなかった。おそらくそれは気づいてはいけない事だったんだろう。心の均衡を守るために・・・・・。今ならよく分かる。気づいたからこうなった。もう人間とは関わらないほうが良いだろう。今度は本当に。自分ならいいが他人を傷つけるのはいやだ。俺はいたって普通の弱い人間だから。だから罪悪感に苛まれる一生なんて、嫌だ。どれくらいたったのだろうか。何をしていたのだろうか。時間は刹那にも悠久にも感じられる。まるでモルヒネ。ああ、そうか。世界の全ては電気信号。そこに在るという電気さえ脳に流れれば触れた気にもなる。辛くも苦しくもないけれど在るのはただ思考だけ。記憶がくるくると廻る。初めて予知夢を見たのが中学の入学式。少し大きい制服を着て座っていた。そのときに照明が校長と名乗った人の上に落ちてくるのが分かった。そう、俺は分かったんだ。今朝同じ夢を見たのだと。だから走り出した。周りを無視して走った。驚くその人を押し倒した。その一瞬あとに盛大な音。会場は一時パニックに陥ったがすぐに収まった。そんな事があったから、俺はすぐに名前を知られるようになった。俺は特に内向的だと言う事もなかったから、すぐに友達も出来た。その後も頭痛と共に夢を見た。正確に言うと夢のないようなんか覚えていなかった。むしろ夢を見た事も覚えていなかった。それを俺に教えたのが、そういう事が起きる日2・3日前の頭痛だった。そして今の俺を蝕む出来事が起きた。生徒が２人大怪我をした。一人は何故か転落した。それは俺の教室での出来事だった。喋っていたその少女は突然窓から落ちた。それ以外に表しようのない状況だった。飛ぶそぶりすらなかったのだ。その日の帰りに頭痛を感じた気がする。そんな日が他にもあった。つまりもう一人が不可思議な事にあった日の事だ。その子はふざけて刃物で遊んでいたそうだ。けれど止めようとしても体がかってに動く。一緒にいた子たちも驚いて止めようとしても全く動かなかったそうだ。幸いにも静脈を切ることはなかった。俺は当時何かの冗談だと思っていた。それに今だって俺に責任があるかどうかはわからない。けれど今は俺のせいだと確信している。あの時の危惧はやはり既にあったのだ。

＊本当にすべきこと

暗い昏い心の奥。何もない空間。いや、何もない空間がだけがある世界。ああ、俺の思考が渦巻いていた。後悔、罪悪感。ああ、声が聞こえる。誰のものでもない誰かの声。怨嗟、呪詛。前にも一度聞いたことがある。この声に埋もれるもの悪くない。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よく聞いて・・・・・・・・をしてしまったかもしれない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人を救えばいい。」その中に何か異質なものが過った。はっきりとはしない、けど暖かな記憶。けれどその声もすぐに霧散してしまう。また、闇が満ちる。空いた穴をすぐに埋めてしまう。俺にはもはや光はない。そうやっぱり俺は死ぬべきなんだ。あの日の通りに。あの夢の通りに。「よく聞いて、確かに貴方は取り返しのつかない事をしてしま・・・・・・・・・・・・・・・・・貴方がこ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない。罪は無くなる事はないけれど、償う事は出来るわ。貴方が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えばいい。」もう、遅いんだ。俺の心はもう、、　　　　　　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、なんだと言うのだろうか。本当にもうおしまいだとでも言うのだろうか。まだやれる事があるんじゃないか。少なくともあいつは捕まっている。俺が行かなきゃ、殺される。俺はあいつを操っていた。償いようもない。けどこのままじゃそれより酷い事をしてしまう事になる。せめてあいつを助けなければ。そうだ、こんなところでくすぶってる暇なんかないんだ。早く速く迅く。「よく聞いて、確かに貴方は取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない。このまま殻に閉じこもっていれば、貴方がこれ以上傷つく事はないわ。けど心の傷も癒えることはない。罪は無くなる事はないけれど、償う事は出来るわ。貴方が多くの人を傷つけてしまったのなら、多くの人を救えばいい。」そう、そうなんだな。今度は俺の意思でこの力を使おう。あいつを千沙を助けよう。ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、ち、のどが渇く。唇もひび割れて視界も霞んでいる。時計の音だけが聞こえる。「・・・・・・・・・・・・・・よし。」視覚も戻ってきたようだ。時刻はすでに０時を回っている。外には月が見える。「今日は何日だろう。」焦る気持ちを抑え玄関に行って一番新しい新聞を探す。「は、はは・・・。」幸か不幸か、今日はすでアヤトの言った一週間後だった。

＊水葉の素顔

「ピンポーン。」夜に響く電子音。バタバタバタバタバタ、、扉の奥が騒がしい。「バン！」扉が勢いよく開かれる。「よう、うわっ。」いきなり正面から衝撃が走る。勢いあまって後ろの格子まで飛ばされた。「痛って、なんだぁ。」体の上に何か乗っている。それを見て驚いた。乱れた黒髪。泣いていたのか潤んだ瞳。「、、どう、したんだ？」動揺を必死にかくす。水葉：「ひっく、えっぐ、、、」急に泣きだしてしまった。「ちょ、え？」普段とあまりにもかけ離れた姿に戸惑う。水葉は泣きつづける。音が以外に大きかったのだろうか、深夜にもかかわらず、人が集まってくる。「と、とりあえず中に行こう、な。」肯くのを確認してから家の中に導く。カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ落ちつかない。キッチンを借りてコーヒーをいれたけど、水葉は黙ってカップを見ている。うつむいているせいか泣いているように見える。こういうときに何か良い方法があった気がするけど、どうしても思い出せない。所在なく部屋を眺める。相変わらずものがない。ふと、目にとまるものがあった。あれは、、。水葉：「・・・・・・・・・・・・・びっくりさせてごめんなさい。」過去の景色から引き戻された。俺が声を出す前に話しだす。水葉：「私ね、あのあともずっとアヤトを一人で倒すって思ってた。だからあのあともずっと探してた。でも見つからなかった。それでね、私見つからなくて、安心してた。ひどいわよね、千沙ちゃんが捕まってるっていうのに。」指先が震えている。「水葉：明日が近づくたびにどんどん怖くなるの。前はこんなのなかったのに。」「・・・・・・水葉。」水葉：「だから嬉しかった。貴方が来てくれて。あれだけ偉そうなこと言ったから、もう来てくれないと思ってた。」伏せていた顔を上げて微笑む。　目の端に残った涙が痛々しい。水葉：「今更って思うかもしれないけど、私と一緒に戦って。」そんなの頼まれるまでもない。俺はあいつを許せない。こいつにこんな顔をさせるあいつを許せない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、今はあいつを倒す事だけ考えよう。水葉：「でも、どうやればアヤトを倒せるのかしら、、。」急に表情が沈む。「それなんだけど、良い考えがある。奴が油断してる今がチャンスだ。」俺は自信たっぷりに言った。

＊黒い部屋

かっ、かっ、闇夜を引き裂く音。きらめく閃光。壁に刺さっていく無数のナイフ。？？？：「ちっ、臆したか。」闇を纏った男が苛立たしげに呟く。？？？：「さて、こいつをどうするか・・・・。」視線の先は乱雑な部屋に転がった少女。？？？：「ただ殺すんじゃ意味が無い。そうだな、・・・・うん？」男が異変に気づく。自分の空間に異分子が入り込んだことに。？？？：「一人、か。逃げたのか。まあいい。」落胆と期待の入り混じった独白。？？？：「さて、お前のご主人さまのところへ行くか。」クククククと笑い声が闇に響く。

＊雨宮司の戦いⅡ

ざっざっざっざっざ、土を踏む音だけが空気を伝う。「ふ～、流石に冷えるな。」不思議と緊張感は無い。むしろ平素よりも安定している。「まさか、今まで脅えていたものが役に立つなんてな。」自然と笑みがこぼれる。ふっ、と空気が変わる。「来たな。」日に日に力が強くなっていくのがわかる。怖いくらいだ。そうだな、この戦いが終わったら俺も力を封じてもらうか。「そのためにも、勝たないとな。」目の前には漆黒を纏った男が音も無く現れる。「そいつを返してもらう。」千沙は意識を失っているようにぐったりと地面に横たえられている。あーはっはっはっはは、そいつは本当に愉快そうに笑い出す。アヤト：「ふん、それは俺を倒してからだ。」ざ、と土を踏む音が聞こえた途端、周囲に人垣ができた。「そうだ、一つ聞くけど。そいつらって死人だよな。」男は少し驚く。アヤト：「ほう、よく気づいたな。死んでるほうが操り易いんでな。」やっぱりそうか、これで気兼ねなく戦える。流石に人間を殺すなんてできない。「おしゃべりは終わりだ。せいぜい俺を楽しませろよ。」アヤトがそういうと、一斉に飛び掛ってくる。俺は意識を集中させる。ブン、顔の辺りを腕が掠める。流石に二つの方向に力を使うのは難しいか。でもやるしかない。幸い大勢に囲まれても直接殴られる数は限られる。せいぜい４・５人ってところだろう。足を狙った攻撃を跳んでかわす。浮いたところに四方から手が伸びる。それを無理やり体を地面すれすれまで沈めてかわす。「ドッ！」そのまま全員のがら空きの足を払う。人垣が途絶えると、そこへ後ろにいた連中が飛び掛ってくる。それをその獣より低い姿勢で一方へ駆け抜ける。それらはぶつかって背後で積み重なる。まだまだ見渡す限り人、人、人。しかも決定打がないから数が減らない。「ちっ、キリがないな。」思わず舌打ちする。アヤト：「ふははは、どうした？もう終わりか。俺を倒すんだろう。」遠くから愉快そうな声が聞こえる。っと、計画通り。内心ほくそえむ。奴は一歩遠のく。よし、奴は下がっていることに気づいていない。あと３歩、突っ込んできたやつの腕を掴んで周囲の奴らを蹴散らす。あと２歩、アヤト：「ほう、やるな。これならどうだ。」あと１歩、一斉にナイフが投げられる。「ちっ、」飛び上がってかわす。すると、丁度落ちてくるところだった。アヤト：「まだだ！」「くっ」後ろにいた奴らの手にあるナイフが一斉に投げられる。俺は体を思い切り地面に落とす。「つぅ、」当たるはずのだったナイフは虚空へ飛んでいく。思ったより衝撃が大きかった。水葉はどうなった？慌ててアヤトのほうを見る。二人は組み合っていた。「ちっ、気づかれたか。」まあ、これで終わるんなら苦労しないか。アヤト：「ハッ、気配がしないと思ったら隠れていやがったか。そのまま力を抑えようって魂胆だろうがそうはいかねぇ。力なんか使わせねーよ。」水葉：「くっ、」アヤトが攻撃し始めた。ここからじゃよく分からないが、それでもアヤトの力を少しは抑えれてるみたいだ。人形たちの動きが鈍くなっている。集中できないのかもしれないけど。「もう少し待っていてくれ。」俺はイメージを続ける。アヤトに向けていた力を人形の動く向きと逆にかける。随分とやりやすくなった。「くそ、まだか。」焦る。かなり焦る。落ち着け、落ち着くんだ。ゆっくりとイメージするんだ。動くのを。人が、建物が、大地が。ずきん、「く、」視界が霞む。ふと長い髪が目に付いた。

＊北条水葉の戦い

アヤトの蹴りを左腕でガードする。と、急にアヤトの右足が消え、右側に衝撃を受ける。「くっ、」それをとっさに左に飛んで衝撃を逃がす。やりにくい。アヤトの拡張はほとんどの器官でできる。でも私だって、拡張はできるのだから時間稼ぎくらいにはなってみせる。奇襲は防がれてしまったけど今度のは防げないはず。全力で避ける。目に見えるものだけで判断しては駄目だ。結局私に当たるのは２本の腕と２本の足だけなのだ。それを見抜く。拳が飛んでくる。見えた。避けた先に二つ力を感じる。背後に一つ退路が断たれた。なら、前に進むだけだ。地面をけって、拳の下を潜る。迫るアヤトは笑っている。まずい、すでにアヤトの体に手足が戻っていた。「うっ、」私は足を体の前に出して自分の体を蹴って後ろに飛ばす。「はぁ、はぁ、」アヤト：「どうした、そんなんじゃ俺の力封じることなんかできないぞ。」ククククと笑う。アヤト：「さて、そろそろ遊びは終わりにするか。」「くっ、」さっきの無茶な動きで体が、、「死・・・・・・・、っ！！。」グラッ、「来たっ。」痛む体を必死で宙に浮かす。そこへ後ろから死人たちが大きな球になって飛んでくる。動揺したアヤトに命中する。司：「こっちだ。」私は千沙ちゃんを担いで校舎に入っていった。

＊決着

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、」長い廊下の突き当たりのドアから校舎を出る。司：「ここで、決める。」「、、ええ、」コツ、コツ、コツ、、廊下に響く靴音。「来た。」校舎の中の廊下にアヤトガ姿を現す。アヤト：「ふん、そのまま逃げようたってそうはいかねぇよ。地獄の果てまでおいかけてやるからな。」何が楽しいのか笑っている。死地に飛び込んだとも気づかないで哀れな奴め。司：「もう逃げないよ、お前はここで終わりだ。」アヤト：「なに？」司：「じゃあな。」俺はありったけの力を込める。グラァァ、さっきとは比べ物にならない揺れ。バキ、ガシャーン、ベキ、ガラ、ドン地面が裂け、コンクリートが砕ける。無数のガラスがアヤトに降り注ぐ。アヤト：「な、これは貴様が。」崩れ行くなか校舎の中アヤトの驚く声が聞こえる。司：「ああ、そうだ。俺の2年分の苦痛だ。さっさとくたばれ。」ガッシャーン、一際大きな音とともに校舎が完全に崩れ去った。「・・・・・・・・・・・・・・・・終わったのね。」ようやく声が出た。司：「ああ、終わったんだ。」なんだか呆気なく終わってしまった気がする。隣に座る彼を見ると少し複雑な表情をしている。司：「なあ、」「なに？」司：「これで、よかったんだよな。」「うん、よかったんだと思うよ。」それだけは言える。確かに人を殺してしまったことは悪いことだけど、でもそれで多くの人を救えるのだったら正義だと、私は思う。「誰かが貴方を責めたって私は貴方の味方よ。」司：「ありがとう。」今なら素直に言える気がする。彼は立ち上がって校舎のあったほうに振り向く。司：「まったく、最後まで夢のとおりになるなんてな。」おかしそうに笑う。「仕方ないわよ、だってそういう仕組みだったんでしょう？」司：「そうだけどさ、」「それにしてもすごいわよね、地震まで起こすなんて。私なんか役に立たないじゃない。貴方本当に人間？」自然と笑顔になるのが分かる。司：「どうなんだろう、人間じゃないのかもな。」彼はまた笑う。司：「でもこれも、あの時の夢のお陰だな。ま、そのお陰で2年間頭痛に悩まされたんだけど。」「いいじゃない、結果オーライなら。」司：「それもそうだな。さてと、騒がしくなる前に帰るか。」「ええ、そうね。」私は立ち上がって歩き出す。

選択肢　　危ない。→千沙ED 　　　　　　　ぇ？　　 →水葉ED

水葉ED

＊不意打ち、そして懐かしい再会

司：「あぶない！」「え、」突然後ろから聞こえる叫び声。振り向くと胸にもたれかかる彼の体。何が起きたのかわからない。見ると背中にナイフが刺さっている。生暖かいものが体にかかる。「・・・・・・・・・ぇ？」崩れるからだの向こうに人影が見える。「！！」アヤトらしきものが起き上がってこちらを向いている。「あ、あ、あ、」うまく空気がすえない。腰が抜けて地面に座り込んでしまう。首がだらりと肩の辺りまでたれている。体から折れた骨が無数に飛び出し、液体でぐちゃぐちゃになっている。「い、いや。」必死にあとずさる。けれどもソレは歩みを止めない。「いや、いや、いや、、」ﾄﾞｸﾝ、ﾄﾞｸﾝ､ﾄﾞｸﾝ。引きちぎられそうな意識の中確かな鼓動が聞こえる。ドクン、ドクン、ドクン。それはどんどん大きくなっていく。アヤトの腕が振り下ろされる。「！」恐怖のあまり目をぎゅっと瞑る。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・？」けどいくら待っても私の意識は途絶えない。恐る恐る目を開けると、そこには倒れたはずの彼の姿。「つ・・・・・・・・・！？」アヤトは腕を振り上げた姿でとまっている。けれど彼の様子がおかしい。顔つきがまったく違う。「ググググゥゥ、、」アヤトが低くうなりだす。アヤト：「ムッ、」彼はそれを訝しそうに睨む。アヤト：「ガァァァ！」それはいきなり彼に飛び掛る。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」耐え切れずに目を瞑る。「死ね。」彼からとてつもない力が溢れる。その力がアヤトに向かうと地面に何かが落ちる音がした。「えっ、」何が起こったのかさっぱりわからない。目を開けると動かないアヤト。歪なままでも動いていたアヤトが動かなくなった。本当に呆気なくアヤトは動かなくなった。彼がこちらに振り返る。戦慄に体が震える。「・・・・・・・・・・・・・貴方は、誰？」司？：「おいおい、俺を忘れたのか？野犬から助けてやったじゃないか。」急に優しい顔になる。言われて思い出す。「え、」司？：「まったく、こいつにも困ったもんだ。油断し過ぎだっての。」忌々しげに呟く。「貴方、司さん・・・・・よね？」司？：「ああ、少し違うかな。司は眠ってるよ。むしろ死んだ、かな。」「！？」驚いて声が出ない。司さんが、死んだ？「貴方動いてるじゃないの。」司：「だから俺は司とは違うって。」「じゃあ、貴方はなんなのよ！」自然と声が大きくなる。司？：「落ち着けって。そうか、お前知らなかったんだな。」ふむ、というと彼は考え込んでしまった。司：「俺は“死”そのものだ。」「え、ちょ、ちょっと待って。もしかして司さんは最高位概念まで持ってるの？」司？：「ああ、そうなるな。だが厳密に言うと違う。俺は言った通り“死”そのもの。こいつの力じゃない。」「どういうこと？」司？：「つまり死なんていう概念は生きてるやつが持てるはずないんだよ。概念は識らないと使えないだろう？だから識ったとき、つまり死んだ時現れる存在。けれどこいつはおかしな体質をしていてな、俺を死んだ時だけ自分の死体を媒介にして体現できる。つまりこいつの一族が作った最高位概念ってことだ。」「じゃあ、貴方があの時の・・・・そう、あのことを司さんが知らないのは・・・・・あの時に死んでいたってこと？」ツカサ：「ああ、そうだ。だからこそあいつは覚えていない。」「でも、おかしいじゃない。司さんはさっきまで生きていて貴方はいなかったわよね？」ツカサ：「それはな、俺を封じたからだよ。お前の母親がな。」「え？」ツカサ：「あいつが消えて俺が現れるんなら、俺が消えたらあいつが現れる。ただそれだけだ。ああ、時間がない。早く俺を封じろ。じゃないとお前まで危ない。俺は死そのものだ。たとえ話しているだけでも命が削られる。」生者に恋焦がれそして決して触れ合えない運命。けどそれは悲しすぎないだろうか。「でも、貴方が、」ツカサ：「いいんだ、俺は死そのもの。俺には、生者がまぶしすぎるんだ。」儚げに微笑む。ツカサ：「人は常にしに向かって生きている。生きることはすなわち死ぬということの裏返し。そして人は死を忌み嫌う。だからこそ俺はどこにでも存在する普遍で孤独な存在だ。けれど、けれど俺は一度恋をした。その体は借り物で紛い物だが其れでも本来ありえないその奇跡だけで俺は幸せだ。そしてその者の為になるんだったら永遠にだって眠れるさ。だから泣かないでくれ水葉。」涙が溢れて止まらない。幸せだって言ってくれる。きっとそれに偽りも誤魔化しもない。だからこそ悲しい。それだけで幸せになれるなんて。「わかったわ。貴方がそう望むなら。」ツカサ：「そうだ、一つ言い忘れた。力の反動でな当分こいつは目を覚まさない。それとお前も力を失うだろう。」「どれくらい？」ツカサ：「数年かもしかすると10数年かもしれない。」「そう、大丈夫よ。私はいつまでも待ってるから。」自分でも驚くくらい穏やかな声だったと思う。意識を集中させる。ツカサ：「もう、へまはやらかすなって言っておいてくれ。」「ええ、」ズキリ、ズキリ、ズキリ、、今までと比べ物にならない痛み。けど耐えないければ。あの人の為にも。ズキリズキリズキリズキリ、視界が霞む。痛みで立っているのかわからない。ズキンズキンズキンズキンズキンズキンズキン、途絶える意識の中声が聞こえた。「ありがとう。」と。

＊Epilogue　長い長い今

あれからすでに3年が経っている。あのあと私は病院で気づいた。その病院に司さんはいなかった。目を覚まさない司さんは父親の手によって隔離されていた。私は司さんの父親に事情を話して世話をさせてくれるように頼んだ。はじめから嫌っていたのだろう、司さんをもといた家に戻してもらえることになった。さすがに不憫だと思ったのだろうか、専属の看護士をつけることにもなった。私は毎日彼に会いに行く。確かに感じるぬくもり、時折握り返す手。それだけで、心がいっぱいになる。「ピンポーン」あの子が来た。私は玄関に向かう。千沙：「おはようございます、先輩♪」「おはよう千沙ちゃん。」この子も私と同じ。彼は悩んでいたみたいだけど、３年間も影響を受けなかったんだからこの子も本当に彼のことが好きみたい。「ふふ、」千沙：「どうしたんですか？」突然笑い出した私を見て不思議そうに首をかしげる。「いえ、なんでもないわ。」千沙：「え～、なんですか？おしえてくださいよ～。」「内緒よ。」考えたら笑ってしまった。彼が目覚めたら私と千沙ちゃんのどっちを選ぶんだろうって。「３人で暮らすのもいいかも。」千沙：「ん、何か言いました？」今度の呟きは聞かれなかったみたい。「いつになったら目を覚ますのかなって。」千沙：「そうですよねー、こんなに可愛い子を二人も待たすなんて。」二人で笑いあう。やわらかい風が差し込む。もうすぐ春が来る。千沙：「もうすぐ春ですね。」「そうね。」窓から見上げた空は透き通るほどに蒼くて、頬に当たる風が心地いい。「・・・・・・・・・・ベレシート、」千沙：「英語ですか？」遠くから聞こえる声は穏やかで眠ってしまいそう。「ヘブライ語で創世記って言葉よ。始めにって意味ね。」千沙：「じゃあ、私たちの創世記は先輩が目覚めてからですね。」そうそれからが始まり。けど本当は、始まりはそんな遠くじゃない。今この瞬間だ。きっとこれからも辛いことがあるだろう。けど、私たちならどんなことでも乗り越えていける気がする。もう一度空を見上げる。新しい風が私の心に吹き込んでいった。

千沙ED 　＊不意打ち、そして・・・・・・

水葉：「危ない！」「うわっ、」体が横に飛ばされる。いったい何が起こったんだ。「っ、、」何とか立つ。「っ！！」「水葉！！」「なんで・・・・・・・・・」手がべっとりと赤く染まる。いやな感じがしてアヤトのいた方を見る。「なっ、」体がちぎれ、骨が飛び出る異様な姿。それは立っていたかと思うと急に沈んだ。けれど、それはこちらにズリズリと這いずってくる。「！！！！！！！！！！」おぞましさに鳥肌が立つ。だけどこんな状態の水葉を置いておくわけにも行かない。「・・・・・・・うぅ・・」「！、水葉っ！」うっすらと開く瞳を見つめる。水葉：「・・・・・・私・はもう駄目ね、、」「そんなわけないだろう、大丈夫だ。」水葉：「駄・・目よ、わかる・・・わよ、わた・・しのから・・・だだ・・もの。」「気をしっかり持て。」ずりずりずりずりずり水葉：「さいごに、いっておかな・・い、と・・」ぎゅっと、手を握る。水葉：「あの・・こはね、本・・当に貴方・・・が好き・・なの・・・・・よ、それを、わすれ・・・ないげほっ、かは、」「水葉っ！」ずりずりずりずりずりずりずり水葉：「いっしょに・・・・いれて、うれしかっ・・た、」「・・・・・・・・・・おい、水葉、嘘だろ、」ガクガク、「なあ、冗談はやめてくれよ、」ずりずりずりずりずりずり・・・水葉が・・・・死・・・「ちっくっしょおぉぉぉぉぉぉ！」頭がオーバーフラッシュする。白く塗りつぶされていく。ふっと変な感覚に潰される。まるで上書きされたかのように。？？？：「ほう、死を見て感応したか。」耳の奥から聞こえる不思議な声。「ふん、不甲斐ない。むざむざ死なせやがって。」な・・・・なん・・・・だ・いっ・・たい、？？？：「お前は大人しく黙ってろ。」死ね、と最後にそう言うのを聞いて、意識は完全に沈んでいった。

＊Ｅｐｉｌｏｇｕｅ　今への旅立ち

あれから一週間が経った。あのあと俺と千沙だけが病院に担ぎ込まれたらしい。今も瓦礫の撤去は続いている。中から二人分と思われる肉塊が見つかったらしい・・・・・。そしてアレは地震と処理されたようだ。「水葉・・・・・・・・・。」つぶやいて気づいた。あいつの存在がこんなにも大きかったなんて。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。「move、か」知らないうちにあれだけの力になってたなんてな。あの日からずっと俺はあれを起こす為に力を使っていたのか・・・・・・・。本当だったらあの日の夢を実現させて俺が死んでいたのか、、今にして思えばまるで悪夢のような日々だったな。「・・・・・・・・・・・・・・・ん。」窓から風が通り抜ける。ふと、水葉の言葉が頭によぎる。「・・・・・・・・・・ベレシート」？？？：「なんですか、それ？」ドアを開けて入ってくるのは守りきったもの。「ベレシート、あいつの好きだった言葉だ。ヘブライ語で創世記って意味らしい。」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　微妙に回想ね「創世記？」水葉：「そう、全ての始まり。でもそれはいつかの昔でもないし私たちが生まれた時でもないわ。私たちにあるのは『今』だけ。過去も未来も『今』という時間にしかないわ。いつだって『今』が全ての始まり。だからこそがんばろうって思えるの。私の好きな言葉よ。」

千沙：「先輩、どうしたんですか？」「・・・・・・・いや、なんでもない。」そう、だな。水葉はいなくなってしまったけど俺にとっては今が始まりか。いつまでも悔やんでる場合じゃないか。「とりあえず、親父に話をきかないとな。」この力を使いこなす為にも。あの時の声、アヤトを倒した声にも関係があるはずだ。そして俺を嫌った理由もおそらくそこにあるのだろうし。俺は前を向こう。水葉のためにも、そしてこいつのためにも。そう、俺はいつの間にかこいつなしではいられなくなっている。でも、当分の間は言わない。気恥ずかしさもあるが、それ以上にまだ俺の力の影響が残っているのが怖い。だから待ってもらおう。・・・・ただの言い訳だってのは分かってるんだ。まあいいか、俺が胸を張って言えるまで待ってもらおう。もうすぐ年が明ける。まだまだ寒いけれど、暖かくなる時は来る。だから大丈夫。俺が俺のままならきっと・・・・・・・・・・・・・・・・。

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