『ルーツ・ルインド編』後書き


『ルーツ・ルインド編』後書き

 そのまんま、2章前半のサブキャラクター達の前後編熱戦の後書きです。
 当時拍手に載せていたもの、そのまま転載します。

1.はじめに(次回予告付き)


Web拍手ありがとうございます!

やっぱり更新まで1ヶ月も待たせちゃったよ!
ぶっちゃけプロローグの執筆難易度が半端なかったんだぜ……。
(※この拍手は3章突入時に公開されたものです)
まぁ、今回は先のほうまで少し調整しながらだったので、
ちゃんと気力が続けば、7月は更新多いかもしれません。

さてさて、ひとまず次回予告しときますね。


敵として現れたエルと、始まったデュエル。
しかし、親しみを込めて明菜によびかける謎の行動。
その本当の意図は? 過去のエルと、今のエルは同じ?
すれ違いと交差。そして、襲い来る同じ顔の天使たち。


次回 ――第31話 同じ月のエル



そんなわけで加速するデュエルをお楽しみ下さい。


さて、以降の拍手は過去の編を振り返るコーナーに移ります。
今月はVSルーツ・ルインド編について、お送りします。
具体的には第19話〜第24話ですね。

ではでは、語りに移ってまいります。

2.作品における位置づけ


具体的には、レイ&藤原&オブライエンのデュエルですね。
3デュエルとも、2話にまたがる比較的力の入ったデュエルです。

サブキャラ(準メイン)をここら辺で掘り下げる意図でした。
また、ウロボロスの蛮行を徐々に明らかにもしています。
さらにデュエルでは3人とも苦手要素を含む相手との対峙です。

時系列的にはほとんど進まない寄り道的な3編だったりします。
ですが、その描写やデュエルの構成は、かなり力を入れてます。

もとは、ここはオブライエンのみのデュエルで構想していました。
終盤へのつなぎの、中盤のような位置づけと考えていたんですね。
ですが、GXでサブキャラの活躍しなさっぷりを惜しんだ私です。
サブキャラだって、主張したい何かがあるだろこんちくしょー!と
力みまくった結果が、この3デュエルにわたる大幅な割り増しです。
作品テンポ的には、もしかして鈍くなっちゃったかもしれません。
でも、ヒカコが全体的にいろんな人の想いが交差する物語のように
群像劇的な様相を顕著に呈してきたのも、ここからだと思います。

それぞれの回について、振り返ってみたいと思います。

なお、ここからのコメントは最初からの構想もありますが、
「結果的にそう思う」ことの比重が大きいコメントであると、
あらかじめ注記しておいて、進んでまいります。



3.世界を塗りかえる想い・デュエル編


レイちゃんパートですね。ミルリルとの対決になっています。

正直に言って、一番苦労させられたデュエルなのかもしれません。
年度が変わって、仕事が忙しくなった時期だったのもありましたけど。
少し展開を変えるたびに、ライフが大幅に変わりまくる鬼畜構成です。
1度修正するだけで、全ライフ調整が必要になったりします。

特に最初にこのデュエルはある重要な効果を勘違いして構成しました。
それはデュエルの主役となる《椿姫ティタニアル》の効果なのです。
あれを「無効にして破壊にする」ではなく、《光と闇の竜》と同じく
「無効にする」だけの効果だと思って、構成を練ってたんですね。
そのミスに気付いたのが、前編を掲載した後でした。
それを直したり考えたりで、結局2ヶ月近くブランクになりました。
あの痛恨のミスは本当にきつかったです。《魔法吸収》こわいよう。


新オリカジャンルとして打ち出したミスティックをさらに活躍させて、
その可能性を打ち出すことが、第一の目的とされたデュエルでした。
《魔法吸収》とのシナジーや、《スター・ブラスト》などが主かな。
ライフコストとのバランスの面白みなどを存分に魅せています。
魅せれば魅せるほど、執筆者のライフもすごい勢いで削れるけど!

《恋する乙女》との相性を兼ね、ミスティックはデザインしました。
あのデッキはライフを尋常じゃなく必要としてきますしね。
でも、結果的にはレイのいろんな特性を反映したデッキになりました。
回復は、ゲームで杏子が愛用していたように、乙女的イメージです。
ベビーからの成長はレイの可能性とかも暗示されたりしてるのかな。
コストを大胆に支払うのも、レイの直感的な行動力を反映してます。
さらに本編でも言及している通りに、マスターとモンスターの団結、
協調的で世話焼きな面もあるレイの性格が現れてるように思えますね。
結果的にそうなったところも大きいのですが、思い入れがあります。

ミルリルさんはオーソドックスな植物族デッキになってますね。
そこまで特筆することは無いですが、植物族はイラストが凝ってます。
そこら辺をしげしげと観察して、描写を捻るのは結構楽しかったです。
《ボタニティ・ガール》かわいいよぅ《ギガプラント》でけえww
《椿姫ティタニアル》はフリーザっぽいw とか面白がってましたw
機会があれば、また植物族使いのデュエリストも書いてみたいですね。



苦労させられた分密度の濃いデュエルだなーと、今はしみじみ思います。


4.世界を塗りかえる想い・ストーリー編


状況説明も多いので、尺としては一番長いシナリオになってます。


想いを失ったミルリルと、想いを信じ続けるレイの闘いですね。
とてもロマンチックな面が目立つシナリオが展開されてく中で、
ウロボロスの冷笑的な態度もコントラスト効果で引き立ちます。

前半は無機質にセオリーのデュエルをするミルリルをレイが諭します。
後半は感情を揺さぶられたミルリルがレイにその怒りをぶつけます。
嫉妬、回想、防衛機制などなど複雑な攻撃衝動をカードに込めます。

後半のひたむきにミルリルの攻撃に耐え続けるレイが印象深いかな。
一番失いたくないものを失ったミルリルと、保ち続けるレイ。
ミルリルが激しく攻撃したくなるのも、当たり前のことかもしれません。
たくさんのモンスターに囲まれながら孤独のままのミルリル。
一人のモンスターのみ従えながら、しっかり繋がっているレイ。
その姿を《銀幕の鏡壁》で映し出されたとき、本当の動揺が生じます。

レイの亮との回想シーンはもっと長く書いていた覚えがあります。
尺的におかしいことになるから、あれだけ圧縮していますが、
構想が暴走していたときは、祭りの催しで偶然見かけた亮のデュエルを
見ていたレイが惚れて、それから通いつめるという長いシナリオでした。
そんなの詰め込めるはずないので、泣く泣くカットしたのですが、
レイの想いの始まりを想像していると、胸が何だか温かくなりました。


想いで世界は確かに色を変えるかもしれない、これがこの話のテーマです。
それをひたむきに表現しているのが、レイのまっすぐな想いですね。
それで鮮やかに見えた世界に胸を躍らせ飛び込んでいく少女なのです。
そこにチラつく現実もありますね。タイトルには少し皮肉を込めてます。
変わるのは色や気分だけなんです。形や構造は想いだけで変わりません。
その現実を本編で象徴しているのが、言うまでも無くウロボロスですね。
伝承のウロボロスは、キリスト教では物質界の象徴としても解釈されます。

それでも、想いは誰かを勇気付けるものであることは間違いないです。
それを純化したまま信じ続けるレイの主張が、このお話だったと思います。



5.闇の果てのそれでも続く道・デュエル編


藤原VS佐藤の、すごく一般的な苗字同士の対決のパートですね。
にしても、こんな誰かと一致しそうな名前、作品で使っちゃあかんw

前回とは打って変わって、周到な計算と戦略を強調した大人デュエルです。
どちらもデュエリストレベル高ということを前提としたデュエルであって、
うめえwwはまりすぎwww詰むよこれwwwとか言わせるのが狙いです。
前回は感情と一手のリンクを徹底的に強調し、ドラマ的だったのに対して、
こちらは戦略的妥当性を前面に出して、リプレイ的楽しさを持たせました。

佐藤のデッキはシナジーを生み出すのが、とても楽しかったですね。
闇属性のデッキ全般に言えるのですが、シナジーがとても面白いです。
一時期【トマハンミーネ】を愛用していたこともあったりしたので、
とても楽しみながら、このデュエルの構想をしていました。闇楽しい。
回収やサーチですらすら繋がるコンボがとっても心地いいんですよね。
佐藤先生もなんだかんだでノリノリでデュエルしてるなぁ、と思います。

反面、藤原は自分の枠を超えていく、という新しい挑戦がテーマです。
前回(ヒカコ初回)は天使ストラクの模範的なデュエルでしたが、
今回はかなりトリッキーな要素も用いたり、果ては儀式してみたり、
とにかく挑戦的な試みをさせています。でも、オネストは欠かしません。
だけど、決して新規オリカを使えないことに、作者の悪意を感じますw
逆にでも、これは思い入れでもあるでしょう。藤原は普通の子なのです。
それを努力と苦悩の、その生真面目さで克服してきたと思うんです。
既に自分の中にあるものを慎重に探り出す、その堅実な姿勢ですね。
そこに斬新なスター性はなくても、人間的な強さがあるかもしれません。

派手さはないものの、堅実にまとまったデュエルになりました。
だから、挑戦状叩きつけたけど、せめてリバース明かせば良かった!
まぁこのデュエルもそんな思い入れのあるデュエルになりましたね。



6.闇の果てのそれでも続く道・ストーリー編


テーマとしては、罪を犯した二人の選んでいく道、となっています。
ダークネスの力に溺れ、友を裏切り、世界を危機に陥れた藤原。
教師のプライドを踏みにじられた怨恨を教え子にぶつけた佐藤。
その2人が自分の罪と向き合い、新しい在り方を闘わせています。

言ってしまえば、過去に罪を犯したことは覆ることはありません。
取り返しも後戻りも、その事実は厳然として残ったままなのです。
それでも罪が平気になるのは、罪の重さは人が決めるからです。
相手が許すことも大事ですが、自分が許すことも必要なんです。
その意識の変化があって初めて、罪の牢獄から抜け出せます。

今回はその内省的な、自分を許せるかどうかが焦点になります。
でも、それって結構難しいことでもあったりするんですよね。
これでいいのか、開き直りだろう、という疑いは消えません。
その責める自分自身の厳しさと向き合うことは難しいのです。
人は自分自身から逃げることは、ほとんど不可能ですから。
でも、逆に言えば、責める自分がいる人は、つまり自分自身の
あるべき状態・理想を目指そうとする意識が強い人です。
まぁ藤原も佐藤も見ての通り、かなり理想は高そうですね。
理想を前向きに醜くても少しずつでも歩みだすことができるか。
この検討が彼らの場合は非常に凄惨で、困難なものになります。
だからこそ、罪の悪循環を克服したときの力は強いでしょう。

その辺の清濁をキャラが自覚・自嘲しながらやってたりするから、
この編はアニメ二次創作のはずが、アダルトな仕上がりになりました。
深く彼らと対話するのは、とても共感できて嬉しかったです。



7.せめてこの悲劇に終焉を・デュエル編


オブライエンVSコブラのありそうでなかったデュエルです。
なんだかんだでこのデュエルが一番原作っぽいかもしれません。

仕上がりとしては、これまでの2つを足して2で割った感じです。
計算も感情もどちらも適度に入り混じったデュエルな気がします。

オブライエンはトリッキーさが目立つので、罠重視になりました。
ひたすら突っ込んでくる相手を罠で食い止めるのに終始してます。
というか、今作の展開がこれで言い尽くせたりするから困りますw
本編ではヴォルカニックが表に出てましたが、罠テクニックも
オブライエンの戦術の中である程度重要な地位を占めてましたし。
違和感無く《積み上げる幸福》を使えることに、びっくりです。
このデュエルだとほとんどバーン攻撃をできてませんが、
手札に余裕がひたすらなかったからです。炎族ドローきつい。
バーンに手を出すって、手札にしっかり余裕がないとできません。
サポート皆無の冷遇っぷりが凄まじくて、消費が厳しかったです。

反面、コブラは《ワーム・リンクス》で好き放題やってますね。
実質ドロー3回になるとか、あの子、すっごい力ですね……。
実戦だと間違いなく狙い撃たれそうですが、除去の少ない創作は
そうは簡単にやられないから、おいしくいただきました。
ワームは世界観の完成度が高くて、結構好きなジャンルです。
A〜Zのアルファベット全ているとか、天才的な発想に思えます。
カードをしっかり使い捨てて、うまく墓地を肥やせましたね。

ラストは真正面からの攻略で、これを軸に構成を考えました。
最初は《大火葬》も考えてましたが、相手依存はきついですし、
カードメッセージ的にかなりアウトなので、《魂の解放》ですw
どちらの二人も原作のイメージが強いのでオリカ少なめですが、
いろんなカードとイメージを重ねやすくて楽しかったですね。
《強制終了》、《バーニングソルジャー》、《万能地雷グレイモヤ》
などなど、軍事っぽいカードがじわじわはまるのですよ。


8.せめてこの悲劇に終焉を・ストーリー編


オブライエンがその仁義を貫く物語になっています。

客観・打算から感情・忠義まで、ちゃんと理解する感性のある
オブライエンはバランス感覚が優れているかもしれませんね。
一見、冷徹そうに見えて、芯には熱いものを持ち続けている
オブライエンらしいストーリー構成に引っ張られたと思います。

オブライエンとウロボロスは激しく対立し合っています。
これは単純にコブラに危害を加えたからというのもあるのですが、
お互いの性質がかなり相克的なものになっているのが大きいです。
さらにどちらもある程度同じものを見てきているから、
その上での信じるものの違いは、対立性を増します。
どちらもお互いの信条について決して無関心ではないからです。

ウロボロスは凄惨な戦場を見てきた上で、無秩序とみなします。
オブライエンは凄惨な戦場を見てきた上で、それでも自分はまだ
そこに息づく人の心を信じていたい、という風に思っています。
しかも、どっちもその信条が重要な行動原理になってるので、
対立してしまうのは火を見るより明らかになってるんですね。
だから逆に、どうやっても決着できないのが分かっているので、
お互いに主張した上で、キリがないから話を打ち切っています。
ある意味お互いのことを理解し合っている関係とも言えますね。

コブラはというと、その中間に位置しているかなーと思います。
義理の息子への愛情があった点や、生徒を遠ざけようとした気持ち。
しかし、その手段の容赦なさや、理解を求めようとしない姿勢。
それでも弟子の熱意に心を動かされたか、または行いを恥じたか、
最後はオブライエンに賛意を示しているようですね。

もちろん兼平くんは、経験などは3人に比べたら少ないのですが、
グレ兄貴と慕っている分、オブライエンに大賛成なのです。
というか、ウロ・オブ・コブの3人の経験値がおかしいのです。
空想で仁義や闘争の世界に憧れる方が、本当は当たり前のはずw

とまあ、いろいろ各人の信条のバランスが対立軸となっています。
これは本当にバトル漫画らしい対立軸で、少年誌してると思います。



9.魂の変質編 裏テーマ


変わってしまったものたち――ルーツ・ルインド――との対決。
それでありながら、毎回訴えかけるものは同じものです。

それは『変わらないもの(the changing same)』です。
時間や揺さぶるものに左右されつつも、本当に大事なことは、
何があっても、少しずつ形くらいは変わるかもしれないけど、
ずっと同じまま自分の中で大事なものとして在り続けるのです。

ルーツ・ルインドは根源を壊されたものであり、変質しています。
その変えられてしまったものの中にも、変わらないものがある。
そこに訴えかけて、失った心を突き動かすことだってできるはず。

第2章は空想避行編も含まれますが、これも同じ目標ですね。
最初から大事だったことにもう一度目覚めるようなテーマです。

なんとなくこれは私の見つめていきたいテーマかなーとも思います。

そんなこんなが、ルーツ・ルインド編で思うことかなーと思います。

拍手も次で10回目となり、終わりです。
なんか適当なコメントがあればどぞどぞー。
好きなお話とか聞かせてもらえると喜びます。