genome-research-2006-april


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注目論文

Word frequency analysis reveals enrichment of dinucleotide repeats on the human X chromosome and [GATA]n in the X escape region

  • 概要
    • 長さ 9 の塩基文字列の出現頻度をカウントし,ヒト染色体全般に観察される特徴,X 染色体特有に観察される特徴,さらには,X 染色体 PAR 領域特有に観察される特徴について調べた.
  • 手法
    • 概要に同じ
  • 結果
    • ヒト染色体全般に観察される特徴
      • CpG を含む word は観察されにくい
    • X 染色体特有に観察される特徴
      • [AT]n, [AC]n, [AG]n が常染色体の 1.2 〜 1.5 倍程度出現している
    • X 染色体 PAR 領域特有に観察される特徴
      • X 染色体 PAR 領域には [GATA]n が多く出現しており,そのため染色体の不活性化から逃れられている可能性がある.この特徴は,chimp,さらには,dog にも保存されている
  • 考察
    • 非コード領域に多く出現する word は,"to" や "the" のような common word であり,それ単体では意味をなさないが,"to puzzle" や "the puzzle" などのように,より特徴を持った word と組み合わさることにより,異なる意味をもった文を作ることができる
    • ゲノム言語では,common word が染色体の折りたたみの形,さらには遺伝子調節に関わっていると考えれば,まさに common word と同様の役割を果たしているといえる

X chromosome and autosomes evolve at similar rates in Drosophila: No evidence for faster-X protein evolution

  • 概要
    • 「X 染色体上の遺伝子 (タンパク質) は,常染色体上の遺伝子 (タンパク質) よりも進化速度が速い」という仮説があるが,その仮説をショウジョウバエを用いた懐石により検証した.その結果,"faster-X" 仮説は実際には成り立っていないことが判明した.
  • 背景
    • faster-X 仮説は,以下の二つの現象を説明するために提唱されていた.
      • X 染色体は不釣合いなほど多くの遺伝子座を有している (large X effect).
      • 種間で交配した際に生存や生殖ができない混成体が生まれるのは,異型配偶性の性染色体が原因である (Haldane's rule).
    • 手法
      • Dme-Dya 間の dn/ds を X 染色体,3L 染色体について調べ,さらに,Dps-Dmi 間の dn/ds を XL 染色体,XR 染色体について調べた.
      • Dmi のゲノム配列は得られていないので,シーケシングすることにより各遺伝子配列を決定した.
    • 結果
      • X/3L の値と XL/XR の値が等しい結果が得られた.これにより,"faster-X" 仮説が成り立っていないことが示された.

Evolution of exon-intron structure and alternative splicing in fruit flies and malarial mosquito genomes

  • 背景
    • エキソン・イントロン構造に注目すると,alternative splicing と関わっているエキソンよりも,関わっていないエキソンの方がより保存されやすいことが,哺乳類(ヒトとげっ歯類)を用いた実験により明らかになっている.
  • 概要
    • ショウジョウバエと蚊を用いた実験により,上記のことが,哺乳類に限定されたことなのか,それとも昆虫にも当てはまることなのかを検証する.
  • 手法
    • ショウジョウバエ2種間比較,ショウジョウバエ・蚊間比較を行い,alternative splicing に関わっているエキソンとそうでないエキソンの保存度を比較した.
    • ショウジョウバエ1種については,どのように alternative splicing が行われているかが実験的に確かめられている.そこで,ショウジョウバエのもう1種と蚊については,"spliced alignment algorithm" によってエキソン・イントロン構造を決定した.
  • 結果
    • ショウジョウバエ2種間比較,ショウジョウバエ・蚊間比較のどちらにおいても,alternative splicing に関わっているエキソンよりも,関わっていないエキソンの方が保存されやすいことが明らかになった.

Evolution of Arabidopsis mocroRNA families through duplication events

  • 背景
    • microRNA は進化の過程で,ステムを形作る領域は保存されやすく,ループを形作る領域は保存されにくいことが知られている.しかしながら植物の microRNA においては,ループ領域にもまた,高い相同性が観察される.このことは植物の microRNA ファミリーは重複によって形成されたと考えられる.
  • 目的
    • タンパク質ファミリーの形成過程と同様に,microRNA ファミリーもまた,重複によってファミリーを形成したことを確認する.
    • このことは,ある生物種の microRNA ファミリー内遺伝子に進化的な関係があるかどうかを調べること,さらにはそれぞれの遺伝子の発現パターンを解析すること(機能の差を解析すること)により達成することができる.
    • 本実験は,シロイヌナズナを用いて行った.
  • 手法
    • シロイヌナズナにおいては,92 個の miRNA 遺伝子前駆体配列が既知である.
    • 該当研究ではまず,これら 92 個の miRNA を 26 ファミリーに分類している.
    • その後,tandem duplication によって生じたと考えられる miRNA を,既知 miRNA の近隣の非コード領域を配列相同性 (BLAST?) によって発見した.これにより,26 個の miRNA (from 6 families) を発見することができた.
    • さらに segmental duplication を検出するため,ある miRNA の upstream, downstream それぞれ 10 個ずつの遺伝子タンパク質配列をピックアップする Perl スクリプトを使い,今までで既知の miRNA 間の重複関係を発見した.
  • 結果
    • 重複によって対応付けられた領域に含まれる miRNA について考察すると,同じファミリーに属する miRNA は 116 個 (22.42 %) 観察されたが,異なるファミリーに属する miRNA は 1.3 % しか観察されなかった.
    • これにより,miRNA は重複によってファミリーを形成したことがわかる.
    • さらに,重複によって生じたと考えられる miRNA の発現部位・発現タイミングを調べると,多くの miRNA が異なる部位・タイミングで発現しており,このことは,重複によって新たな機能の獲得が行われたことを示唆している.

目次

Research

Articles

  • Ancient duplicated conserved noncoding elements in vertebrates: A genomic and functional analysis
    • タイトル
      • 脊椎動物間で保存されている重複された非コード領域:ゲノム解析と機能解析
    • 概要
      • 種間で保存されている非コード領域は,転写因子結合領域であったりと,何らかの機能を有している可能性が高い.当該研究では,特に重複されており,なおかつヒト・フグ間で保存されている非コード領域を同定した.これにより大規模な重複が脊椎動物の初期に起こったことが明らかになり,大規模な重複により脊椎動物のボディプランが形成されたのだと推論できる.
  • Genome-wide identification of direct targets of Drosophila retinal determination protein Eyeless
    • タイトル
      • ショウジョウバエ網膜誘導タンパク質 Eyeless ターゲットのゲノムワイドな同定
    • 概要
      • ショウジョウバエにおける初期の眼の発生に関わる Eyelss は転写因子 (TF) であり,PSSM によってそのターゲット遺伝子を推定することができる.PSSM に加え,Eyeless 正常型と非正常型の発現データを組み合わせることにより,20 の遺伝子を Eyeless のターゲット遺伝子として推定することができた.これらの遺伝子について,Eyeless をノックアウトした際の発現を確認したところ,3 つの遺伝子について,Eyeless のターゲットであることが新たに発見された.このことから,今回のように PSSM と発現データを組み合わせることの手法の有用性が確かめられた.

Letters

  • Word frequency analysis reveals enrichment of dinucleotide repeats on the human X chromosome and [GATA]n in the X escape region
    • タイトル
      • 単語頻度解析によってヒト X 染色体には2塩基リピートが豊富にあり,また X 染色体の不活性化を逃れる領域には [GATA]n リピートが豊富にあることが明らかになった
    • 概要
      • 長さ 9 の塩基文字列を word と定義し,ヒトゲノム中における word の使用頻度をカウントした.それにより,ヒトゲノム全般に CpG が現れにくいこと,ヒト X 染色体には常染色体よりも [AT]n,[AC]n,[AG]n が多く出現すること, ヒト X 染色体のうち不活性化を逃れる領域には [GATA]n が多く出現することが明らかになった.
  • Alu-mediated 100-kb deletion in the primate genome: The loss of the agouti signaling protein gene in the lesser apes
    • タイトル
      • 霊長類における Alu 配列を媒介した 100-kb の欠失: テナガザルにおけるアグーチシグナルタンパク質遺伝子の欠失
    • 概要
      • 霊長類におけるアグーチシグナルタンパク質の分子進化的な解析を計画していたところ,テナガザルにおいてアグーチシグナルタンパク質が欠失していることが明らかになった.この欠失の機構について調べたところ,Alu 配列が介在した 100-kb の欠失が起こっていることが判明し,このことは,霊長類ゲノムの進化のダイナミズムにおいて Alu 配列が重要な役割を果たしている証拠となった.
  • Genetic variation in the zebrafish
    • タイトル
      • ゼブラフィッシュにおける遺伝的バリエーション
    • 概要
      • モデル生物として主に発生学の研究に重宝されてきたゼブラフィッシュであるが,未だに変異体については詳しく解析されていない.そこで EST データと全ゲノム配列とを照らし合わせ,高品質の SNPs 候補を同定した.それによるとゼブラフィッシュのヘテロ接合体間の変異が 37% にも及ぶ領域も観察され,ゼブラフィッシュは非常にバリエーションの度合いの大きい生物種であることが判明した.この事実は,ゼブラフィッシュは他のモデル生物とは大きくことなった特徴を持っていることを表しており,実験計画のデザインや,実験結果の解釈に取り入れてゆかねばならない.
  • X chromosomes and autosomes evole at similar rates in Drosophila: No evidence for faster-X protein evolution
    • タイトル
      • ショウジョウバエにおいては,X 染色体と常染色体は同じ速度で進化している: X 染色体上に位置するタンパク質の進化速度が速いという証拠は得られない
    • 概要
      • 古くから X 染色体上に位置するタンパク質は,常染色体上に位置するタンパク質よりも進化速度が速いと考えられてきた.当該研究では,ショウジョウバエの近隣の4種の X 染色体の進化速度と,常染色体の進化速度を比較することにより,古くからの考えを実際に検証した.その結果,古くからの考えを裏付ける証拠は得られず,X 染色体に位置するタンパク質も,常染色体上に位置するタンパク質と同等の進化速度で進化していることが明らかになった.
  • Evolution of exon-intron structure and alternative splicing in fruit flies and malarial mosquito genomes
    • タイトル
      • ショウジョウバエとマラリア蚊ゲノムにおけるオルターネイティブスプライシングのエキソン・イントロン構造の進化
    • 概要
      • ヒトやげっ歯類など哺乳類においては,オルターネイティブスプライシングに関わるエキソン領域は,オルターネイティブスプライシングに関わらないエキソン領域よりも保存されにくいことが明らかになっている.当該研究では,ショウジョウバエやマラリア蚊など昆虫においても上記の観察結果が得られるかを検証した.実験結果は,昆虫においても,オルターネイティブスプライシングに関わるエキソン領域は保存されにくいことを示した.
  • Evolution of Arabidopsis microRNA families through duplication events
    • タイトル
      • シロイヌナズナの microRNA ファミリーは重複によって進化した
    • 概要
      • タンパク質が重複によってファミリーを形成したように,植物の microRNA もまた重複によってファミリーを形成したと仮説を立てることができる.この仮説を裏付けるため,当該研究では,重複領域を同定し,その領域内に含まれる microRNA が同一ファミリーに属するかを調べた.その結果,多くの microRNA が重複によって変異体を生じさせていることが明らかになり,さらに microRNA の発現解析により,重複によって生じた microRNA は新たな機能を獲得していることが示された.
  • Disentangling information flow in the Ras-cAMP signaling network
    • タイトル
      • Ras-cAMP シグナルネットワークの情報の流れを解き明かす
    • 概要
      • 出芽酵母の Ras-cAMP シグナルパスウェイに外乱を与え,その結果を元に特異点分解を行い,タンパク質間相互作用の強さを重みとしたタンパク質ネットワークグラフを描いた.

Methods and Resources


Methods

  • Broad-spectrum respiratory tract pathogen identification using resequencing DNA microarrays
    • タイトル
      • 再シーケシングマイクロアレイ法を用いた呼吸器病原体の同定
    • 概要
      • 様々な病原体の塩基配列が急速にシーケシングされていることを背景に,マイクロアレイを用いた解析は病気の初期段階における病原体の同定に潜在的な有用性を秘めている.しかしながらマイクロアレイ解析は実用に耐えれない部分もある.当該研究で提案する再シーケシングマイクロアレイ法は,実用に耐えれるマイクロアレイ法であることを,熱性病原体感染患者の例を用いて示す.

Resource

  • An isochore map of human chromosomes
    • タイトル
      • アイソコアのヒト染色体へのマッピング
    • 概要
      • アイソコアとは,GC 含量に起因して見られる染色体のモザイク構造である.GC 含量に注目し,ヒト染色体上にアイソコアをマッピングしたところ,5つのファミリーに属するアイソコアをマッピングすることができた.アイソコアは遺伝子密度,複製時期,相同組み換え等生物学的に重要な性質と密接に関連していることが知られており,アイソコアを染色体上にマッピングすることは,ゲノムの構造,機能,そして進化についての考察につながる.
  • Computational modeling of the Plasmodium falciparum interactome reveals protein function on a genome-wide scale
    • タイトル
      • マラリア原虫の遺伝子ネットワークのコンピューテーショナルなモデリングは,ゲノムスケールなタンパク質機能を解明した
    • 概要
      • マラリア原虫はヒトに寄生し,マラリアを引き起こす.マラリアは致死性の病気であり,人類がマラリアを克服するためには,マラリアのもっているタンパク質の機能について知る必要がある.ベイズ推定を用いた遺伝子ネットワークを形成することにより,マラリア原虫の持つタンパク質の機能が明らかになった.
  • GeneDesign?: Rapid, automated design of multikilobase synthetic genes
    • タイトル
      • GeneDesign?: 数キロ塩基対における合成遺伝子デザインを行う高速自動化ツール
    • 概要
      • 遺伝子配列を人工的に改変すると,コードするタンパク質のアミノ酸配列を変化させずに,発現効率や制限酵素部位を改良することができる.このような遺伝子配列のデザインを手動で行うのは困難であるため,この作業を高速に自動化するためのウェブベースのツールである GeneDesign? を提案する.