※原則的に、来生たかおは“来生”に省略、来生えつこは“来生えつこ”と表記。
2005年に歌手デビュー30周年を記念してリリースされた22枚目のオリジナルアルバムである。
コンサートの映像や来生自身の監修によるプライベートショットを収めたDVDとの2枚組で、「スタートル」のメンバーがメインとなって編曲や演奏を手掛けている。また、編曲者の矢倉銀は来生のペンネームである。
自分の世代には詰まらなく思える昨今のような楽曲を作りたくない来生は、ポール・マッカトニーやザ・ビートルズを意識したと述べている*1。また、前以ってアルバムのコンセプトを決めて制作に入る場合もあるが、本アルバムでは、自身の曲作りのパターン(メジャー系のバラード、マイナー系の切ないバラード、マイナー系のハードなタッチのもの、メジャー系のポップで軽快なもの等)の集大成という雰囲気で、バラエティに富んだ仕上がりになったと語っている*2。来生えつこは、全てがオリジナル曲のフルアルバムは1997年にリリースした『Purity』以来だが、弟の気力は相変わらずで、クオリティーが変わらない事に感心すると語っている*3。
また、来生は前作のオリジナルアルバム『égalité』収録の「サラリーマン」のような、10代の頃に作った楽曲を再び紹介しようと考えていたが、来生えつこの「歌詞が余りにも恥ずかしい」との意見で見送られた*4。また、後の弁によれば、CDが売れない時勢を考慮すれば本作を最後にもうアルバムは作れないかも知れないと思っていたという*5。
5月15日、打ち込み以外のレコーディングが「スタートル」のメンバー(松田真人、土屋潔、千葉一樹、佐藤武美)によって行われた。山崎教昌は後日シンセサイザーのダビングで参加する事になっていたが、見学に来ており、小田木隆明も顔を出していた。来生のデモテープで説明を受けた後、実際に演奏をして楽曲の雰囲気を掴み、録音したものを皆で聴きながら来生の希望を踏まえつつ煮詰めて行った。松田は、最初に録音をした「アゲインスト」について、来生とのやり取りからギルバート・オサリヴァン風のピアノを意識したという。サステインペダルを使わず、2拍目、4拍目を強調してアクセントを付ける等、綿密な打ち合わせがあった。もう1曲の「できたての季節に」に関しては、来生の「口三味線」からイメージのニュアンスを聴き取り、歌のタイミングに寄り添うようにしながら心地好いパターンを考えて演奏をした。来生からは、もう少し高い音域で弾いて欲しいといった希望やフィルインの要望もあったという。そして、ベーシックなリズム録りが終わると、ダビング作業が行われた*6。
5月25日、松田は編曲を頼まれた「あなたに還る日」のレコーディングに、小田木隆明やミキサーと共に臨んだ。まずはドラムの音色を選んで基本的なパターンの打ち込みを作り、次にベースの音色を選んでマスターキーボードで弾いたものを録音しながらデーターを入力して行った。機械的な乗りにならないよう、生の雰囲気を大切にしたという。ブリッジ(1コーラス目が終わって2コーラス目に入るまで)の部分は、松田が考えていたイメージに合うシンセサイザーの音色が中々見付からなかったが、アレンジを少し変えたり膨らませたりした結果、最初のイメージよりも素敵なものになったという。また、小田木やミキサーの意見を参考にしてドラムのフィルインを取り入れたという。その後、楽曲のサウンドが或る程度決まった段階で、来生が仮歌を録音した*7。
5月27日、松田が編曲をした2曲目の「鮮やかな場面」のレコーディングが、小田木やミキサーと共に行われた。ドラムのキックやスネアの音色に適当なものが見付からず、取りあえずイメージに近い音色を充て、他の楽器の音色との兼ね合いを見ながらよりイメージに近付けて行った。また、機材が上手く動かないといったトラブルがあったが、イメージの9割方はデータ入力が出来たという。その後、来生がいつのように仮歌を入れた。また、「あなたに還る日」に参加を依頼していた武沢侑昴にラフな音源を聴いて貰い、自身と来生の希望を伝えた*8。
5月29日、土屋の編曲による「Dムーン」のレコーディングがあり、松田はピアノ、ハモンドオルガン、パッドの音色を演奏した。この日までに完成していたオケを聴きながら、土屋から演奏の説明を聞き、最初にハモンドオルガンの音色で演奏を始めた。休憩の後、残っていたハモンドオルガンを一通り演奏し終えた時点で来生が仮歌を入れ、再び松田はピアノの音色で演奏をし、最後にパッドを弾いた*9。
6月13日は「鮮やかな場面」「あなたに還る日」のダビングがあり、打ち込みと録音の時にやり残したパートのダビングや、その後に気になり始めた部分の手直し、先のレコーディングの際に頼んでおいたギターのダビングのチェックがなされた。更に、来生が編曲をした楽曲のシンセサイザーのダビングが行なわれた。まずは「K-7」という仮タイトルを付けられた楽曲に関して、小田木が自宅録音をしたギターのダビングのチェックし、松田がキーボードで新たにダビングをするパートや修正をするパートを演奏した。また、まだ実行していなかったシンセサイザーの幾つかのダビングに関しても、小田木が自宅録音をしていたので割とスムーズにイメージが伝わったという。最終的な段階では、来生からイントロにもう少しめりはりを付けたいとの意見があり、試行錯誤の結果、イントロは同じパターンにし、ブリッジの奇数小節は現状維持、偶数小節はエンディングと同じパターンにすることになった。他にも、Aメロに間引いたパターンのシェイカーを入れてスピード感を出す等、小田木、ミキサーとも意見を交わしながら進行して行った。その後、来生が編曲を担当した楽曲のダビングがあったが、コンピューターの調子が悪くなった為、結局1曲だけを録り終えて終了した*10。
7月13日は「あなたに還る日」のトラックダウンが行われた。その後は、来生が編曲をして「スタートル」が演奏をした楽曲(「できたての季節に」?」のトラックダウンに移り、来生が最終チェックをして完了した。次に、松田が編曲をした「鮮やかな場面」を或る程度まで仕上げる作業に入った*11。
DVDのコンサートの映像は、2曲目、8曲目、10曲目は『来生たかお クリスマスコンサート2004 égalité』、4曲目、5曲目、7曲目は『来生たかおソロライブ Stand Alone 2005』の模様を収録している(曲番はカーテンショットを含めた数字)。
前作『égalité』同様、デザインワークには来生自身の意向が多分に反映されており、タイトルの「アヴァンタージュ」(フランス語)は、英語の「アドヴァンテージ(advantage)」に該当し、『égalité』(英語の「イーヴン(even)」=五分五分の形勢・同点・引き分け)から一歩進んだ心境を表現している。
青空をバックに色取り取りの洗濯物が干されているジャケット写真は、千葉県館山市にある来生えつこの別宅で撮影された。これは、来生が傾倒する小津安二郎の映画作品に同様のショットが多く使われている事からの発案で*12、長く過酷なレコーディングが終了すると、撮影場所を求めて自ら足を運び、Tシャツ等の洗濯物を持ち込んで指示を出したという*13。来生えつこは、昭和30年頃の物干しを再現する為に、夫が木材を確保したり、家の裏手で入手した竹を加工したり、暑い中、弟やカメラマンの三島浩他の男性スタッフが作業に取り組む姿は見物だったと述懐している*14。また、プライベートショットを収録した48ページのブックレットは、東京都新宿区のゴールデン街で撮影した写真を表紙に使用しており、これもまた小津作品に登場するネオン街をイメージしたものである*15。また、店舗の看板には「Bar 浅い夢」「avantage」「SNACK たかお」「遊歩道」「Etsuko」等、過去のアルバムや姉弟の名が嵌め込まれている。なお、付属の厚紙製ケースは『ホワイト・アルバム』をイメージした真っ白なものになっている。
ブックレットには、オフィシャルサイトのURLが記載されている。
なお、本アルバム名を冠したコンサートツアー『来生たかお 30th Anniversary Concert Tour 2005 avantage アヴァンタージュ』『来生たかお 30th Anniversary X'mas Concert Tour 2005 avantage アヴァンタージュ』においては、Disc1の「ねじれたハートで」を除いた全収録曲が披露されている。
トラック | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 収録時間 | トラック | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 収録時間 | |
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1 | アゲインスト | 来生えつこ | 来生たかお | 矢倉銀/小田木隆明 | 5:04 | 7 | 余白の街 | 来生えつこ | 来生たかお | 矢倉銀/小田木隆明 | 7:03 | |
2 | できたての季節に | 来生えつこ | 来生たかお | 矢倉銀 | 4:00 | 8 | Dムーン | 来生えつこ | 来生たかお | 土屋潔 | 5:38 | |
3 | Around and around | 来生えつこ | 来生たかお | 矢倉銀 | 3:47 | 9 | あなたに還る日 | 来生えつこ | 来生たかお | 松田真人 | 5:38 | |
4 | 鮮やかな場面 | 来生えつこ | 来生たかお | 松田真人 | 4:16 | 10 | 夢の途中譜 | 来生えつこ | ? | Takao All Stars | 2:08 | |
5 | 霧のこころ | 来生えつこ | 来生たかお | 板村文 | 4:44 | 11 | ねじれたハートで | 来生えつこ | 来生たかお | オリジナル編曲:星勝 | 3:56 | |
6 | スプラッシュ | 来生えつこ | 来生たかお | 山崎教昌 | 4:17 |
トラック | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 収録時間 | トラック | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 | 収録時間 | |
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1 | 浅い夢 | ※該当なし | 来生たかお | ※記載なし | 0:40 | 7 | 夢の途中 | 来生えつこ | 来生たかお | ※記載なし | 5:20 | |
2 | 浅い夢 | 来生えつこ | 来生たかお | 記載なし | 3:54 | 8 | Goodbye Day | 来生えつこ | 来生たかお | ※記載なし | 5:41 | |
3 | カーテンショット1 | ※該当なし | 来生たかお | ※記載なし | 0:42 | 9 | カーテンショット3 | ※該当なし | 来生たかお | ※記載なし | 0:31 | |
4 | もうすぐ、たそがれ | 来生えつこ | 来生たかお | ※記載なし | 4:00 | 10 | サラリーマン | 来生えつこ | ※記載なし | ※記載なし | 3:48 | |
5 | 挿話(エピソード) | 来生えつこ | 来生たかお | ※記載なし | 4:44 | 11 | 浅い夢 | ※該当なし | 来生たかお | ※記載なし | 2:43 | |
6 | カーテンショット2 | ※該当なし | 来生たかお | ※記載なし | 4:17 |
※タイトル表記=1:オープニング(浅い夢BGM)/8:Goodbye day/11:エンディング(浅い夢BGM)/
※1,3,6,9,11:インストゥルメンタル
発売年月日 | メディア:規格品番 | 発売元/レーベル | 備考 |
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2005.10.19 | CD+DVD:ANYC-12024/5 | 日本音声保存/ANY | ○制作:エニー/TEN YEARS ○CD-10,11:ボーナストラック ○DVD-1,3,6,9,10:インストゥルメンタル |
帯 | ジャケット | ケースの側面部 |
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アヴァンタージュ | avantage | アヴァンタージュ avantage |