LABYRINTH


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※原則的に、来生たかおは“来生”に省略、来生えつこは“来生えつこ”と表記。

概要

1984年にリリースされた企画アルバムである。

提供曲のカヴァーとオリジナル曲「今のままでいて」とで構成されており、来生のアルバムでは初めてデジタルレコーディングで制作された。なお、ポール・モーリアのプロデュース及び全編曲による邦楽のヴォーカルアルバムは、本作1枚だけである。

企画アルバムVisitor』の選曲から溢れた楽曲が沢山あった為、その時点で既にもう1枚、同様のアルバム『Visitor II』を制作する計画があった*1。来生は、『Visitor』では新し目の提供曲を選曲したが*2、古いけれど埋もれさせたくない楽曲の中からバラードを集めた本アルバムでは「めぐり逢い」や「あしたの風」等が紹介出来て嬉しかったと述べている*3

研ナオコのアルバム『スタンダードに悲しくて』(1983年9月21日リリース)に収録された提供曲「夜に蒼ざめて」もカヴァーの候補に挙がっており、オケまで制作されたが、収録は見送られた。

企画当初、名のあるフランスの音楽家に全編曲を委ねようとミシェル・ルグランに打診をしたが、高額のギャランティーを要求された為、断念した*4。次に、日本でも親しまれているポール・モーリアの名が挙がり、先方から、まずは楽曲を聴いてから仕事を受けるかどうかを決めたいとの返答があり、デモテープを送った所、承諾して貰えたという*5

この事に関して来生は、真意は判らないとしながら、日本贔屓のポール・モーリアが提示するギャランティーは良心的な金額だったのかも知れないが、自身の楽曲を気に入って貰えたのが第一の理由だったとすれば、光栄の至りだと述べている*6。ただ、元々自身の発案ではないこの企画に対し、2人で大々的に何かをやるつもりはなく、単純に編曲をして貰う感覚で、レコーディングに関しても、ストリングスの録音は日本よりも進んでいる海外の方が都合が良いと判断したまでと明かしている*7

当のポール・モーリアは、必然性を感じないという理由で、それまで日本のアーティストからのプロデュース依頼を断っていたが、来生の楽曲と自身の編曲は合うと感じ、東洋と西洋の「幸せな結婚」を成し遂げられるのではないかと感じ、引き受けたと述べている*8(なお、日本の音楽事情に詳しいポール・モーリアの方から関心を持ち、1984年初頭、来生に打診して来たとする記事*9も存在する)。

曰く、来生は一見シンプルだが人の耳を惹き付ける明快でロマンティックな音楽を創るアーティストであり、そのメロディーとヴォーカルが持つオリジナリティーに尊敬の念を抱き、また、その作品は多少ヨーロッパ的に聞こえ、もしフランス人が歌ったらフランスの楽曲だと思われるかも知れないが、そのメロディーが持つセンチメンタル且つロマンティックな雰囲気はフランスにはない日本的な響きに聞こえると語っている*10

1984年1月、ポール・モーリア側との契約が成立した。4月にまず来生側のスタッフが渡仏し、ポール・モーリアの指揮の下、5曲のオケの録音を済ませた。来生は、9月14日に約18時間を掛けて渡仏し*11、10月2日に掛けてポール・モーリアがよく利用していたパリの「スタジオ・ダム」でヴォーカルのレコーディングを行った。自作品のメロディーを生かしてくれる美しいストリングを嬉しく思うと同時に*12、編曲においては全ての楽器に書き譜が用意されており、ピアノの譜面は音符で真っ黒で、ドラムのフィルインまで例外ではなかった事に驚き、実にアカデミックなポール・モーリアを改めて凄いと思ったという*13

ポール・モーリアの作業は、約250曲に上る来生作品の半分以上を聴き*14、全歌詞をフランス語に訳させる所から始まった*15。最も神経を使ったのがストリングで、来生作品の魅力を生かすにはヴァイオリンによるコントル・シャン(対偶主義)が一番と考え、対するリズムアレンジは現代的にし、この組み合わせは大成功だったと語っている*16。また、来生の求めに応じて何度でも気軽に録音をやり直した結果、日本でナンバーワンのアルバムになったと保証している*17

来生は、4つ星クラスのホテルに宿泊したが、シャワーのお湯の出が悪く、電気スタンドの電球は切れている等、日本とは随分違うと思ったと語っている*18。また、約2週間(3週間とも*19、17日間とも*20)の滞在中、パリはほとんど雨天で寒く(青天は3日程度*21)、人々の姿も寂しそうだった為、汚い印象を受け*22、雨に濡れた石畳の舗道を歩きながら、不図「佐川君*23もパリの寂々とした孤独に堪えられなかったんだろう」と心の中で呟いてしまったという*24

また、食事に余り馴染めず、早く帰りたくて仕方がなかった為、滞在期間の半分くらいは日本料理店に行き、フランス料理は数回程度で、また、2回程ポール・モーリアから食事の誘いがあったと回顧している*25

一方で、コーヒー(エスプレッソ*26)が美味しかった事や、日本では手に入らないようなホテルの家具類、ルーズなイメージだったフランス人がポール・モーリアを中心にタフで仕事熱心だった事は、良い印象として残ったと述べている*27。ただ、スランス人スタッフは夕食の休憩にたっぷり2時間は費やす為、いつも近隣の大衆食堂で簡単に済ませる日本人スタッフは待ちぼうけを食らったという*28

因みに、来生に同行した松田真人は、来生が連日のようにレコーディングをしている最中、パリを満喫したと明かしている*29

来生は、同年に開催されたポール・モーリアの来日公演『PAUL MAURIAT JAPAN TOUR 1984』の11月23日、12月2日にゲスト出演、更に11月2日にも登場し、TBS系『ザ・ベストテン』で生中継された。また、上記ゲスト出演映像を含む『LABYRINTH TAKAO KISUGI with PAUL MAURIAT』も制作されている。

ジャケット、バックカバー、歌詞カードには横尾忠則のアートワークが施されている。これは、横尾がメキシコ旅行で描いたスケッチを元に田島照久がデザインしたもので、横尾は自身の日記に、他人にデザインを任せる事は滅多にないが、最近はこうした方法の方が楽しく思えると記している*30。同日記には、1984年10月16日の午後、田島照久が本アルバムに使用するドローイングを選びに横尾の下を来訪し、同年11月28日には本アルバムを持参した事も記されている*31。また、来生は本アルバムを額装して自宅に飾っている*32

LP版の帯では、既出の企画アルバムVisitor』やオリジナルアルバムROMANTIC CINEMATIC』、第17弾オリジナルシングル白いラビリンス(迷い)」が写真入りで宣伝されている。

収録曲

※各曲の収録時間はLP版、CT版に記載がないためCD版(機器による読み込み)に準拠

トラックタイトル作詞作曲編曲収録時間トラックタイトル作詞作曲編曲収録時間
LP/CTCDLPCTLP/CTCDLPCT
SideA-11逢瀬来生えつこ来生たかおポール・モーリア3:4420:42SideB-16さよならのエチュード来生えつこ来生たかおポール・モーリア5:1019:44
SideA-22今のままでいて来生えつこ来生たかおポール・モーリア4:24SideB-27白いラビリンス(迷い)来生えつこ来生たかおポール・モーリア5:03
SideA-33めぐり逢い来生えつこ来生たかおポール・モーリア3:53SideB-38疑問符来生えつこ来生たかおポール・モーリア4:34
SideA-44あしたの風来生えつこ来生たかおポール・モーリア4:24SideB-49星のくちびる来生えつこ来生たかおポール・モーリア4:59
SideA-55デイ・ブレイク来生えつこ来生たかおポール・モーリア4:19

参加ミュージシャン

※記載なし

参加スタッフ

  • Produced and arranged by:Paul Mauriat
  • Directed by:本間一泰 & 石谷仁
  • Recorded at:Studio des Dames, Paris(April / September 1984)
  • Engineered by:Dominique Poncet
  • Assisted:Mark Perignon
  • Production Supervised by:Velentin Coupeau & 宗像和男
  • Special thanks to:Mike Nakamura、キョードー東京 and 日本フォノグラム
  • All songs written by 来生たかお & えつこ
  • Cover Art:横尾忠則
  • Design:田島照久
  • Exective Producer:多賀英典

録音

  • 1984.04-09/Studio des Dames

初出 & 復刻

リリースメディア:規格品番レコード会社/レーベル備考
1984.12.01LP:28MS-0068キティレコード○帯は2種類あり(シール仕様・ジャケットとの一体型仕様)
○LP:オリコン最高17位(売上累計48,140枚)/CT:オリコン最高17位(売上累計33,930枚)
CT:28CS-0058
CD:3133-20(35KT)
1991.04.25CD:KTCR-1055キティレコード
2007.03.21CD:UPCY-6374ユニバーサルミュージック○21枚組CD-BOX『来生たかお大全集』に1991年版を収録
○帯なし
2019.01.30CD:UPCY-9889ユニバーサルミュージック○限定
○紙ジャケット仕様
○デジタルリマスター
○SHM-CD

アルバムタイトルの表記

ジャケットケースの側面部
LPラビリンスLABYRINTHLABYRINTH
CT※帯がないので該当なしLABYRINTHラビリンス
CDオリジナル版ラビリンスLABYRINTHLABYRINTH ラビリンス
1991年版ラビリンスLABYRINTHLABYRINTH ラビリンス
2019年版ラビリンス(復刻LP版)
LABYRINTH(新版)
LABYRINTHLABYRINTH

パッケージの体裁

  • オリジナル版CD:ジュエルケースに2つ折りのカード(及び、歌詞カード)を挿入
  • 1991年版CD:ジュエルケースに2つ折りのカード(及び、オリジナル版CDのものを基調とした歌詞カード)を挿入
  • 2007年版CD:ジュエルケースに2つ折りのカード(及び、オリジナル版CDのものを基調とした歌詞カード)(及び厚紙製ケース付き)
  • 2019年版CD:紙製ケースにLP版のものを基調とした歌詞カードを挿入

帯のコピー

  • LP:ポール・モーリアプロデュース・アレンジ 来生たかお待望のフランス・レコーディング Including The New Single 白いラビリンス(迷い)
  • オリジナル版CD:ポール・モーリアプロデュース・アレンジ 来生たかお待望のフランス・レコーディング、 全作詞:来生えつこ/全作曲:来生たかお/ジャケット:横尾忠則
  • 1991年版CD:※記載なし
  • 2019年版CD(復刻LP版コピー/新版コピー):ポール・モーリア プロデュース・アレンジ 来生たかお待望のフランス・レコーディング来生たかおオリジナルアルバム18タイトル 紙ジャケット・コレクション ポール・モーリア プロデュース・アレンジ 来生たかお待望のフランス・レコーディング 曲目―逢瀬/今のままでいて/めぐり逢い/あしたの風/デイ・ブレイク/さよならのエチュード/白いラビリンス(迷い)/疑問符/星のくちびる 全作詞:来生えつこ/全作曲:来生たかお/ジャケット:横尾忠則


*1 『TAKAO KISUGI NEWS 8』( テイトムセン/1985.11)
*2 『FM fan』1985年1月14日号“ミュージック・スクランブル”(共同通信社/1985.01.14)
*3 『近代映画』1985年1月号“フランス感覚の効いた名曲がよみがえる 来生たかお”(近代映画社/1985.01.01)
*4 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*5 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*6 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*7 『シンプジャーナル』1985年1月号“天辰保文のCatch the wind 連載第25回 来生たかお”(自由国民社/1984.01.01)
*8 「キティサークル」の総合機関誌『HEAD ROCK』Vol.41“TAKAO CLUB VOL.12 インタビュー ポール・モーリア 来生たかおを語る”(キティ・ミュージック・コーポレーション/1984.10.25)|オフィシャルファンクラブ会報のダイジェスト誌『DECADE』(1985)
*9 『読売新聞』1984年11月16日付“芸能 ポールの“息吹”… 来生たかおが新LP”(読売新聞社/1984.11.16)
*10 「キティサークル」の総合機関誌『HEAD ROCK』Vol.41“TAKAO CLUB VOL.12 インタビュー ポール・モーリア 来生たかおを語る”(キティ・ミュージック・コーポレーション/1984.10.25)|オフィシャルファンクラブ会報のダイジェスト誌『DECADE』(1985)
*11 『近代映画』1985年1月号“フランス感覚の効いた名曲がよみがえる 来生たかお”(近代映画社/1985.01.01)
*12 『PAUL MAURIAT JAPAN TOUR 1984』のツアーパンフレット
*13 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*14 『読売新聞』1984年11月16日付“芸能 ポールの“息吹”… 来生たかおが新LP”(読売新聞社/1984.11.16)
*15 「キティサークル」の総合機関誌『HEAD ROCK』Vol.41“TAKAO CLUB VOL.12 インタビュー ポール・モーリア 来生たかおを語る”(キティ・ミュージック・コーポレーション/1984.10.25)|オフィシャルファンクラブ会報のダイジェスト誌『DECADE』(1985)
*16 「キティサークル」の総合機関誌『HEAD ROCK』Vol.41“TAKAO CLUB VOL.12 インタビュー ポール・モーリア 来生たかおを語る”(キティ・ミュージック・コーポレーション/1984.10.25)|オフィシャルファンクラブ会報のダイジェスト誌『DECADE』(1985)
*17 『読売新聞』1984年11月16日付“芸能 ポールの“息吹”… 来生たかおが新LP”(読売新聞社/1984.11.16)
*18 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*19 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*20 『TAKAO KISUGI NEWS 8』( テイトムセン/1985.11)
*21 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*22 『近代映画』1985年1月号“フランス感覚の効いた名曲がよみがえる 来生たかお”(近代映画社/1985.01.01)
*23 「パリ人肉事件」の犯人である佐川一政
*24 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*25 『TAKAO KISUGI NEWS 8』( テイトムセン/1985.11)
*26 来生たかお Concert Tour '88〜'89 With Time』のツアーパンフレット
*27 『近代映画』1985年1月号“フランス感覚の効いた名曲がよみがえる 来生たかお”(近代映画社/1985.01.01)
*28 FM COCOLO『THE MUSIC OF NOTE 来生たかお ノスタルジーへの誘い』(2016.09.04)
*29 『松田真人“MASATO MATSUDA”OFFICIAL WEBSITE』のPhotoGallery?
*30 横尾忠則著『横尾忠則の画家の日記』(アートダイジェスト/1987.02)
*31 横尾忠則著『横尾忠則の画家の日記』(アートダイジェスト/1987.02)
*32 来生たかお Since 1976 Concert Tour FROM NOW』のツアーパンフレット