真鍋裕司のデジタルシネマ


真鍋裕司のデジタルシネマ

デジタルシネマとは

デジタルシネマ (Digital cinema) とは、銀塩フィルムカメラの代わりにデジタル式のビデオカメラを使って撮影し、さらにその編集から配給、上映に至るまでの一連のプロセスにデジタルデータを使用する映画である。

概要

コンピュータの発達と共に、映画製作の過程でも編集作業や特殊効果をデジタル技術を利用するようになり、光学的に撮影した映像フィルムをデジタル・データに変換して、デジタル処理による動画の加工後に再びフィルムに戻すキネコの作業が不可欠となっている。それならば、いっそ撮影と上映もデジタル化する事で相互変換の工程を省き、時間とコスト、その他アナログが抱えるあらゆる制約を払拭してしまおうと言うのがデジタルシネマの基本構想である。

利点

まず技術的な背景について説明する。化学的な反応とその粒子サイズに制約を受ける銀塩フィルムに比べて、CCDやCMOS撮像素子といった電子部品は20世紀末から急速に進んだ微細加工技術の恩恵を受けて高密度画素と同時に感度が高くダイナミックレンジも広くなっている。

すでに商業映画作品の殆どがコンピュータで何らかの画像処理を行っており、従来はフィルムで撮影した画像をフィルムスキャナで1コマずつデジタル・データに変換していたが、その過程で画像データの劣化が避けられなかった。一方、デジタル機材で撮影されたデータはコンピュータでの加工に適している。

デジタル撮影により、撮影フィルムの現像・スキャンの手間とコストが省かれ、さらに即時に再生確認ができる利点がある。また、従来のフィルムによる撮影では無駄になるフィルムが多く、カメラの起動時にフィルムが安定した速度に達するまでのコマやフィルムマガジンを脱着するだけでも前後のフィルムが無駄になった。更に、カメラに装着できるフィルムの長さに制約があり、連続した長時間撮影が出来なかった。デジタル撮影機材の導入により、それらの問題が解決された。

歴史

2000年ではデジタルシネマの推進に最も意欲的だったのが、『スター・ウォーズ』シリーズで知られるジョージ・ルーカスである。彼は『クローンの攻撃』において長編映画では史上初めて完全デジタル撮影を行うと共に、当初は「本作はデジタル上映以外は許可しない」と発言していたが、後者についてはデジタル上映環境の普及が不十分な事から撤回された。

2006年からハリウッド映画を中心にDigital Cinema Initiatives(DCI) [2]の仕様に統一されている。劇場デジタル投影では、水平方向の画素がハイディフィニションデジタルテレビ配信の約2倍の4000画素になっていて(4K解像度。24プログレッシブ・スキャンの12ビット、すなわち 2^12=4096 を指し、実際の正しい画素数は4096 x 2048、およそ800万画素となる)、日本での劇場も現在この仕様に基づいている。

『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』や『リリイ・シュシュのすべて』、さらに『頭文字D』や『ハリー・ポッターシリーズ』などの映画はHDCAM、HD24Pと呼ばれる高精細度ビデオカメラによって撮影され、編集機材もHDTV用の物が使用されている。また、『スパイ・ゾルゲ』、『ビートキッズ』、『男たちの大和/YAMATO』などはビデオテープすら使用せず、ハードディスクにデータとして記録した。

ハイビジョン撮影による毎秒60コマでインターレーススキャンという"60i"が一時期は使用されていたが、多くの映画館の映写機は従来型のフィルム式プロジェクタが主流であるため、高精細度ビデオ映像をキネコによってフィルムに転写する必要から、プルダウンと呼ばれるコマ数(フレーム数)変換の必要の無い HD24P による毎秒24コマでプログレッシブスキャンでの"24P"で撮影されることが多い。

すでにDCIの規格により、パナビジョンのジェネシス、ソニーのシネアルタF35,F65、ダルサ オリジン、レッドワン、アリフレックス D-20などの4K、或は2Kでの撮影に統一されている。

劇場用に開発されたこれらの4Kプロジェクターも、徐々にゲーム用やホームユース用としても開発・販売されるようになってきている。


上映

キネコされてフィルムに転写されたデジタルシネマは従来型フィルムであるため、多くの映画館で上映可能である。しかし、キネコ作業やフィルムのコピー、配送のコスト削減や時間短縮のために、映像ソフトがデジタル・データのままで配給および上映が試みられており、一部の先進的な映画館にはDLP技術を採用したビデオプロジェクタが導入されて、撮影から上映まで一切フィルムを使用しない映画興行が実現されている。そのような映画館は、映画の上映以外にもスポーツやコンサートの生中継の上映も行なっているところもある。

デジタル上映によって、上映用フィルムの原価やデュープ代、輸送費(デジタルならデータ回線による転送も可能である)や保管費などのコストが削減される上、フィルムの劣化や損傷も無く製作者の意図に限りなく近い状態の上映が可能である利点がある[3]。ただし、製作者側の対応のみで済むデジタル撮影と違い、デジタル上映の普及には各映画館側の設備投資が必要であり、普及には時間を要する。DVDソフト化ではデジタルデータから直接マスタリングできる。DLP方式に代ってレーザーによる単色光を光源とするレーザープロジェクタの実用化に向けた開発も行われている。

デジタル3D映画

デジタルシネマ構想の切り札とされているのが、デジタル3D(立体)映画である。

前述の様にデジタルシネマの最大の障害はデジタル映写機の普及の伸び悩みであり、画質などでは従来のフィルム映写機と大差なく映画館側にとって設備投資するだけのメリットが薄い事が問題となっていた。加えて、ブルーレイやホームシアターなどの家庭視聴環境の進歩による観客の映画館離れを食い止めるため、フィルム上映や家庭では再現できないコンテンツの差別化が必要とされた。

2005年3月、ラスベガスで開催された映画関係者向け展示会ショーウェストにて、ルーカスをはじめロバート・ゼメキス、ジェームズ・キャメロンら著名監督がこの問題についてシンポジウムを行い、打開策として打ち出されたのがデジタル3D映画の推進であった。

同年、ディズニーのCG映画『チキン・リトル』をILMにて3D化処理を行った物を一部映画館にてデジタル上映したところ、入場料が割増だったにも関わらずフィルム2D上映の映画館に比べて4倍前後の動員数を記録、デジタル3D映画の威力が示された。以降も3D上映を行う作品は増加し、2009年には『モンスターVSエイリアン』『ファイナル・デッドサーキット 3D』などメジャー映画会社の3D映画が一斉に公開された。さらに、日本初の3D映画『侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 天下分け目の戦』が公開され、年末には真打ちとも言えるキャメロンの『アバター』が自身の『タイタニック』を抜き興行収入記録を更新した事で、3D化の流れは決定的な物となり、これを受けてデジタル映写機の導入も活発化している。

デジタル加工技術による過去の作品の3D化も考えられているが、最初から3D用に撮影された実写映像やコンピュータ上で再構成が可能なCG映画と異なり、通常の2次元的な実写やセル動画アニメの映画を3D化するのは極めて困難である[5]。キャメロン自身のリメイクによる『タイタニック 3D』に於いても、スタッフ約300人と制作期間60週以上、製作費1,800万ドルをかけてようやく完成させている。