ジョルジュ・バタイユ


実存主義
ジョルジュ・バタイユ(1887〜1962)は、フランスの思想家・文学者。
アンドレ・ブルトンの率いるシュルレアリスム[超現実主義]運動とは一線を画し、ニーチェとヘーゲルの影響下のもと、エロスと死をめぐる弁証法や不可能なものに対する不条理な希求を基調低音とする実存的な思想・文学空間を展開した。
バタイユの思想は、以下のプランに沿って体系的に組み立てられている。
(1)『無神学大全』連作
第一巻『内的体験』、第二巻『有罪者』、第三巻『ニーチェについて』、第四巻『純然たる幸福(生前は未刊)』、第五巻『<非-知>(生前は未刊)』
(2)『呪われた部分』連作
第一巻『蕩尽(現在、『呪われた部分』として邦訳されている)』、第二巻『エロティシズムの歴史(生前は未刊。『エロティシズム』として改変されて刊行される)』、第三巻『至高性』
『呪われた部分』は、太陽エネルギーを起因とする過剰な生命の力を、蕩尽(消尽、消費)するものとして、戦争や祝祭やポトラッチを捉えており、消費を機軸とした普遍経済学の構築の試みであった。それは、マルクス主義をはじめとする経済学の生産力主義へのアンチテーゼであった。バタイユの普遍経済学は、生前は特異な思想として岡本太郎ら少数の選ばれし人々にしか理解されなかったが、その後、ジュリア・クリステヴァやボードリヤール、日本では栗本慎一郎や笠井潔らに影響を及ぼすこととなる。
さらに、社会が戦争や祝祭や交易において過剰を蕩尽するように、個人的レベルにおいては、エロティシズムや罪悪において、消尽がなされるとする。「エロティシズムは、死に至るまでの生の称揚である」とするバタイユの言葉は、エロティシズムを禁制に対する侵犯としてみようとする立場の表れであり、構造(コスモス)とその外部(カオス)の際限なき弁証法を見ようとする彼の思想の特徴を十全に表現している。
バタイユは、昼間は国立図書館で勤務しつつ、夜は『マダム・エドワルダ』や『眼球譚』などサド侯爵から脈々と流れる禁断の文学を書き、美学・考古学の雑誌『ドキュマン』を刊行したり、「民主共産主義サークル」や「社会学研究会」を組織したり、ニーチェをファシズム的解釈から奪還しようとピエール・クロソウスキーらと『アセファル(無頭人)』を刊行、さらに同名の秘密結社を結成し、汚わいに満ちた底辺のなかに聖なるものを探し出そうとした。
(文責:T.Harada)