ジャン=ポール・サルトル


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ジャン=ポール・サルトル
フランスの哲学者。作家。劇作家。実存主義の思想家として活躍。
ハイデッガーの『存在と時間』の影響を受け、「意識は常になにものかについての意識である」というフッサールの志向性のもとに、『存在と無』を書き、現実参加(アンガージュマン)に力点を置いた実存主義の思想を展開した。人間はもの(即自存在)ではなく、対自存在であり、なにものかに関与することなしに存在しない無であるというのである。
サルトルによると、実存主義とは「実存は本質に先立つ」とする立場であり、人間は自らの責任を伴った選択によって、未来の自分を選び取らねばならないとされる。実存主義の哲学を、無神論的実存主義と有神論的実存主義に分類し、自身を前者に規定し、神は存在せず、「人間は自由の刑に処せられている」とした。
サルトルの小説『嘔吐』は、マロニエの木から本質が剥がれ落ち、存在の裸形となったとき、主人公のロカンタンが嘔吐を覚えるというものである。ロカンタンは、この状態からの脱出口をサキソフォンの美しい調べ、すなわち芸術に求める。芸術は、存在しないものを存在させる試みであるからである。
しかし、サルトル自身は、ロカンタンのように芸術への道に進まず、政治的なものへの参加(アンガジェ)を行い、『ヒューマニズムとテロル』を書いたメルロ・ポンティの影響もあって、マルクス主義への接近することになる。
サルトルのマルクス主義への接近は、カミュとの論争を引き起こし、さらに『弁証法の冒険』で非マルクス主義左翼に転向したメルロ・ポンティからの弁証法を失ったウルトラ・ボルシェヴィズムとの批判を受ける。
サルトルはメルロ・ポンティの批判を踏まえ、『弁証法的理性批判』を書く。これはマルクス主義を、現代の乗り越え不可能な状況を踏まえた思想として高く評価し、実存主義をマルクス主義の中に寄生するイデオロギーとするものである。こうして、プラクシス(実践作用)を重視する主体主義的マルクス主義が登場する。
サルトルの実存主義は、レヴィ=ストロースが『野生の思考』で構造主義を展開するまで、現代の代表的イデオローグとして圧倒的な覇権を築いていた。
コリン・ウィルソンは、自身の新実存主義を、楽観主義的な実存主義として規定し、サルトル的実存主義を悲観主義的と批判する。コリン・ウィルソンは、サルトルの『嘔吐』に、疲労感に満ちた不健全な意識状態に由来すると考える。また、後期サルトルのマルクス主義への接近に対しても、マルクスの思想はルサンチマンに基づくものとし、否定的である。

著作目録

  • 主要著作 『サルトル全集』(人文書院)
    第一巻 自由への道 第一部 分別ざかり
    第二巻 自由への道 第二部 猶予
    第三巻 自由への道 第三部 魂の中の死
    第四巻 自由への道 第四部 補遺 最後の機会(断片)
    第五巻 短編集 壁 (→『水いらず』新潮文庫)
      水いらず、壁、部屋、エロストラート、一指導者の幼年時代
    第六巻 嘔吐
    第七巻 汚れた手
      汚れた手、墓場なき死者
    第八巻 恭々しき娼婦
      蠅、出口なし、恭々しき娼婦
    第九巻 シチュアシオン II 文学とは何か
     文学とは何か、創刊の辞、文学の国営
    第十巻 シチュアシオン III
     沈黙の共和国、占領下のパリ、協力者とは何か、大戦の終末、アメリカの個人主義と画一主義、アメリカの町々、植民地都市ニューヨーク、アメリカ紹介、唯物論と革命、黒いオルフェ、絶対の探求、カルダーのモビル
    第十一巻 シチュアシオン I
     フォークナーの『サートリス』、ジョン・ドス・パトス論、ポール・ニザン著『陰謀』、フッサールの現象学の根本問題、フランソワ・モーリアック氏と自由、ナボコフ『誤解』、ルージュモン『愛と西欧』、フォークナーにおける時間性、ジロドゥー氏とアリストテレス哲学、『異邦人』解説、アミナダブ、新しい神秘家、往きと復り、人間と事物、縛られた人間、デカルトの自由
    第十二巻 想像力の問題〜現象学的心理学
    第十三巻 実存主義とは何か〜実存主義はヒューマニズムである
    第十四巻 狂気と天才〜キーン
    第十五巻 悪魔と神(→『悪魔と神』新潮文庫)
    第十六巻 ボードレール
    第十七巻 ネクラソフ
    第十八巻 存在と無〜現象学的存在論の試み 第1部
    第十九巻 存在と無〜現象学的存在論の試み 第2部
    第二十巻 存在と無〜現象学的存在論の試み 第3部
    第二十一巻 シナリオ 賭けはなされた
     賭けはなされた、歯車
    第二十二巻 シチュアシオン VI マルクス主義の問題1
     冒険家の肖像、チトー主義論、今の世はデモクラシーなのか、『希望の終り』序文、共産主義者と平和
    第二十三巻 哲学論文集
     想像力、自我の超越、情緒論粗描
    第二十四巻 アルトナの幽閉者
    第二十五巻 方法の問題〜弁証法的理性批判序説
    第二十六巻 弁証法的理性批判 I
    第二十七巻 弁証法的理性批判 II
    第二十八巻 弁証法的理性批判 III
    第二十九巻 言葉
    第三十巻 シチュアシオンIV 肖像集
     見知らぬ男の肖像、芸術家と彼の意識、ねずみと人間、生きているジード、アルベール・カミュに答える、アルベール・カミュ、メルロー・ポンチ、ヴェネツィアの幽閉者、ジャコメッティの絵画、マッソン、指と指ならざるもの、カプチン修道女の土間、ヴェネツィアわが窓から
    第三十一巻 シチュアシオンV 植民地問題
     一つの中国からもうひとつの中国へ、植民地主義は一つの体制である、『植民者の肖像と被植民者の肖像』について、「みなさんは素晴らしい」、「われわれはみな人殺しだ」、一つの勝利、「志願者」、侮蔑の憲法、王様をほしがる蛙たち、人民投票の分析、夢遊病者、『飢えたる者』、パトリス・ルムンバの政治思想
    第三十二巻 シチュアシオンVII マルクス主義の問題2
     ルフォールに答える、<カナパ>作戦、改良主義と物神、ピエール・ナヴィルへの回答、スターリンの亡霊、警察が芝居の幕をあける時…、文化の非武装化、『イヴァンの少年時代』
    第三十三巻 トロイアの女たち
    第三十四巻 聖ジュネ〜演技者と殉教者I(→『聖ジュネ』(上)新潮文庫)
    第三十五巻 聖ジュネ〜演技者と殉教者II(→『聖ジュネ』(下)新潮文庫)
    第三十六巻 シチュアシオンVIII
    第三十七巻 シチュアシオンIX
    第三十八巻 シチュアシオンX
  • その他の作品
    『家の馬鹿息子(ギュスターヴ・フロベール論)』(人文書院)
    『マラルメ論』(ちくま学芸文庫)
    『反逆は正しい〜自由についての討論』I・II(人文書院・対談集・全二巻)
    『サルトル〜自身を語る』(人文書院)
    『知識人の擁護』(人文書院)
    『サルトル対談集』I・II(人文書院)
    『ユダヤ人』(岩波新書)
    『革命か反抗か〜カミュ・サルトル論争』(新潮文庫)
    『マルクス主義と実存主義〜弁証法についての討論』(人文書院)
    『反戦の原理〜アンリ・マルタン事件の記録』(弘文堂)
    『文学は何が出来るか』(河出書房新社)
    「普遍的単独者」(『生けるキルケゴール』に収録)(人文書院)
    『否認の思想〜1968年5月のフランスと8月のチェコ』(人文書院)
    『マルクス主義論争(サルトル、ルフォール論争)』(ダヴィッド社)

(2005.1.1 T.Harada)