エイブラハム・マスロー


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 エイブラハム・マスロー(1908.4.1.-1970.6.8.)はCWに楽観主義への手掛かりを与えたアメリカの心理学者。ニューヨーク、ブルックリン生まれ。実験心理学や精神分析などを学んだが、精神疾患者中心の心理学に疑問を感じて、健康人の心理学への転換を実現した。その心理学を会社での組織経営に応用することで、具体的な成果を与えている。その著書も多数邦訳されている。CWの『至高体験』はマスロー心理学への優れた入門書ともなっている。

マスローの心理学

 マスローは学生時代から行動主義と精神分析の二つの流れの中で研究を進めた。彼はJ・B・ワトソンの弟子のE・L・ソーンダイク、マックス・ウェルトハイマー、エーリッヒ・フロム、カレン・ホルナイ、クルト・ゴールドシュタインといった著名な心理学者たちから教育を受けてきた。動物実験と人間の治療という二つの側面を両立させることで、彼は独自の心理学的立場を確立することになった。彼の問題提起は精神異常を中心とした心理学研究を疑問視することにある。彼は健康な人々や天才の心理に注目して、健康人に特有の精神状態として至高体験(絶頂体験)の存在を指摘した。また、欲求のレベルを区別して、食欲といった低次のレベルの欲求から、芸術作品の創作といった高次の欲求までさまざまな段階が存在すると考えた。マスローはこの欲求の階層理論を企業における組織経営に応用して、経営者と労働者の関係を見直して、労働者の創造能力を発揮させるように促す方法を追求した。

 peak experienceの訳語はコリン・ウィルソンの著作の邦訳が『至高体験』となったことから「至高体験」と訳されることになったが、この他に、「絶頂体験」とも呼ばれることがある。マスロー自身は「P. E.」と略して呼んでいた。

CWとマスローとの交流

 マスローが『敗北の時代』を読んでCWの見解に大きく共感して、CWに手紙を出したのが二人の交流の始まりだった。マスローの手紙には、『敗北の時代』でCWが示した、陰鬱と敗北感が無意識の誤謬である、という説について、マスローは「ヨナ・コンプレックス」という自分の考えと似ていると書かれてあった。同封されていた論文の中に、至高体験に関する記述があり、CWはその内容を知って強く魅了されることになる。

 その後、10年間に渡って二人は文通を交わすようになり、CWはマサチューセッツのマスローの自宅を訪ねたり、1967年には、ブランディス大学のマスローの教室で講演したこともある。

CWのマスロー心理学に対する評価

マスローが至高体験を発見したことをCWは高く評価しながらも、マスローにとっての至高体験があくまでも受身のものである、という点を批判した。