ルーマン 社会システム理論 / 機能-構造的システム理論


ルーマン 社会システム理論

第III章 社会システムの理論

1.機能-構造的システム理論

パーソンズからルーマンへ

  • パーソンズの社会学的システム理論の批判と継承がルーマンの考察の出発点
  • パーソンズの出発点はホッブス問題(社会秩序はいかにして可能かという問い)
  • この問いに対して、パーソンズは主意主義的解決を提出
主意主義的
あるゲゼルシャフトの構成員が、個人的な利害あるいは外的強制によって共同生活を送るだけでなく、ある規範的な準拠枠の内部で自発的に合意するという事態
主意主義的な秩序
純然たる強制秩序でもなければ、自我中心的に自分の利益しか考えない人びとの行動が寄り集まった結果でもない。むしろ、価値についての一般的コンセンサスを基礎としている
  • パーソンズによると、共有された文化的な価値規範(共有されたシンボリック・システム)は、社会的な行為の経過を制御し、構造化し、そうすることによって共通な共同生活を保障する
  • パーソンズは、分析に際して、つねに、規範価値の特定の範型、すなわち特殊な構造によって特徴づけられる社会システムから出発している
  • パーソンズの関心は、社会的に形成されたものが未来においてもその存立を確保するためには、どんな特殊なはたらきが実現されなければならないかという問い
  • この問いは、特定の構造をもった社会システムを前提にしており、社会的に形成されたものの存続を保証するためにはどんな機能的なはたらきが必要なのかを問おうとする(=構造-機能的システム理論
  • パーソンズの構造-機能的システム理論への批判例
    • ラルフ・ダーレンドフの非難→現状を正当化するものである。なぜなら、パーソンズの理論は静的な構造から出発しており、そのために社会的な変遷やコンフリクトの過程を、否定するか、さもなければ適切に扱えなくなっているから
  • ルーマンはどう反応したか?
    • システム理論的パラダイムは堅持(パーソンズに対するたいていの批判者はシステム理論を放棄)
    • パーソンズ理論の欠陥を克服しようとした(システム理論の道具を改良し一般化)→ルーマン「これは、システム理論に認められるような不備や一面性を一つの対抗理論に鋳直すという方向、例えば統合コンフリクトに、秩序変動に置き換えるという方向へ進んでいくというとことではない。そのようなやり方をすれば、普遍性への要求は放棄され、自分が腹を立てた一面性という非難を、今度は論敵の側から受けなければならないことになる。だから、構造-機能的理論を非難しようとするのであれば、欠陥から始めるのではなくて、この欠陥を産んだ根拠から始めなくてはならないだろう。そのようにしてのみ、統一的な社会学理論の目標を見据えて、この目標に到達するための手段を改良することが可能になるのである」

ルーマンの機能-構造的システム理論

  • パーソンズのアプローチに対するルーマンの態度は、社会システム理論(社会学の対象領域全体をカバーするという要求に忠実な?)の完成を目指すというもの
  • この社会システム理論は、統合、秩序、構造だけでなく、コンフリクト、変動、過程も、すべて余さず考慮に入れようとする
  • この理論完成という目的のため、パーソンズ流の構造-機能主義的システム理論において、構造と機能という二つの概念の関係を転換させ、機能-構造的システム理論という言い方を採用、とともに内容的な二つの修正

1.システムと環境

  • パーソンズは、分析に際して、つねに、規範と価値の特定の範型、すなわち特殊な構造によって特徴づけられる社会システムから出発
  • ルーマンによれば、多様に分化した近代社会では、そうした価値秩序の統一的構造といったようなものはほとんど認められない(=社会システムはもはや、特定の価値範型や構造範型によっては定義されない)
  • 機能と構造という基本概念の順序を逆にすると、社会的なものについての非-規範的な概念を定式化することができるようになる
  • ルーマンによれば、社会システムとは互いに指示し合う社会的行為の連関のこと
  • 多数の人の行為が互いに結合されるときには、いつでも社会システムないし行為システムが成立し、それは環境から区別される
  • 互いに有意味に指示し合うすべての行為は、それぞれの社会システムに属する
  • そうしたそれぞれの意味連関への関係を欠いている他のすべての行為は、システムの環境に属する
  • それ以外のすべての非-社会的な存在や出来事も、システムの環境に属する
  • 本質的なことは、内と外との分化=差異化を可能にする境界という観念
  • あるものはシステムであるか(あるいは、システムに属するか)、それとも環境であるか(あるいは、環境に属するか)のいずれかなのである

2.等価機能主義

  • 構造機能的システム理論から機能構造的システム理論へと移行するとともに、<どの具体的なはたらきがシステムの存続を因果的にひき起こし、したがって未来におけるその存続を保証するのか>という問いは、もはや問題にならなくなる
  • それに代わって登場するのは、<どの機能がシステムの特定のはたらきを実現し、このはたらきはどの機能的に等価な可能性によってとって代わられうるのか>という問い
  • システムの特定のはたらきとシステムの維持との間の直接的な連関を明らかにしようとするパーソンズの因果的機能主義は、いわば等価機能主義にとって代わられる
  • ルーマンによれば、機能分析は原因と結果の因果関係の発見には関心を向けない。目指すのは、むしろ、問題と問題解決との連関である。しかも機能分析は、出発点の問題について、互いに比較されうるいくつもの選択肢をもった解決の可能性がはたらく場を開示するのである

システムと環境との統一としての世界

  • 機能分析の再考の準拠単位は、システムの存続(パーソンズ)から、システムと環境との統一としての世界(ルーマン)に移動する
  • システムと環境との差異を問題にする機能-構造的理論にとって、すべてのものはシステムであるか、環境であるかのいずれかである。こうした事態の唯一の例外が、システムでもなく、環境でもない世界である
  • 世界はすべてのシステムとそれに属する環境を包括しているので、世界はシステムと環境の統一である
  • 生起するすべてのこと(システムの存続を維持するすべてのはたらきやその存続を危機に陥れるすべてのはたらき、それを絶滅させるすべてのはたらき)は、世界のなかで生起する
  • ルーマンは世界を機能的分析の最高の準拠点として選択する

社会システムによる世界の複雑性の縮減

  • 世界(より正確には世界の複雑性)が機能的分析の最高の準拠問題となる
  • 複雑性とはありうべき出来事や状態の総体
  • あるものが少なくとも二つの状態をとりうる場合には、それは複雑である
  • 状態の数、あるいは出来事の数とともに、それらの状態や出来事の間に生じうる関係の数も増大し、それと同時に複雑性も増大する
  • 世界の複雑性という概念が極限を表すものとなる
  • 世界の極度の複雑性は、人間の意識にとって、あるがままの形態では把握できないし、経験できない=ありうべき世界の状態や出来事(複雑性)は、人間の複雑性受容能力にとっては荷が重すぎる
  • 人間の複雑性受容能力に代わって複雑性の縮減という課題を引き受けた社会システムが機能し始める
  • 社会システムは、世界の無限定な複雑性と個々の人間の複雑性処理能力との間を媒介する
  • 複雑性の縮減とは、ありうべき状態や出来事を解体すること、あるいは減少させることをいう
  • 世界のなかに生じうることのうちのごくわずかなものだけが社会システムのなかにも現われうるのであって、たいていのものは排除されたままになっている
  • 社会システムは、複雑性を縮減することによって、当事者たちに方向づけの助けを与える
  • システムと環境の境界、内と外との境界は、同時に複雑性の落差を表わす
  • 環境はつねにシステムよりも複雑である
  • システムの秩序は、その環境の秩序よりも生じにくい高次なもの
  • 「システム形成はシステムと環境との間の境界を安定化させることによって実現される。その境界の内部では、より高次の価値的秩序が、より少ない可能性(つまり、縮減された可能性)によって、不変なものとして維持されうるのである」

システム固有の複雑性と世界との関係

  • 社会システムが世界の複雑性を縮減しうるためには、システム自身が一定の複雑性を示していなければならず、したがって、ある固有の複雑性(システム固有の複雑性)を形成していなければならない
  • システム固有の複雑性が、世界の複雑性を対象とし縮減するシステムの能力を可能にするのであり、--また、それを限界づけるのである
  • 世界はそれ自体において複雑なのではない
  • 世界を複雑性の縮減によって処理しようとするシステムの視座から見たときにのみ、世界は複雑なのである

三つの社会システム--相互行為、組織体、ゲゼルシャフト

  • 社会システムは以下の三つの特殊なタイプに区別される
    • 相互行為システム(Interaktionssysteme)
      • そこに居合わせている人たち(互いに目のあたりにしている諸人格)が行為することによって成立
    • 組織体システム(Organisationssysteme)
      • ある一定の条件のもとに結びつけられている構成員からなる組織体の行為システム
      • 組織体は、構成員に適用される規則を用いて、「高度に作為的な行動様式を、かなり持続的に再生産する」ことができる
      • 組織体の一つの重要な機能は、組織体システムの環境のなかではこのような仕方で予期できない、特殊な行為の経過を確定して、その経過を組織体の構成員にも非構成員にも予測しうるようにすることにある
    • ゲゼルシャフト・システム(Gesellschaftssysteme)
      • もっとも包括的な社会システムである(=すべての相互行為システムとすべての組織体システムはゲゼルシャフト・システムに属するが、逆に、ゲゼルシャフトが相互行為や組織体の一部になるということはありえない)
      • ゲゼルシャフトは相互行為システムではない(∵ゲゼルシャフトは、明らかに、そのときどきにそこに居合わせている人たちの間で行なわれるさまざまな行為をも含む包括的なシステムなのだから)
      • ゲゼルシャフトは組織体システムでもない(∵われわれは、大学に入学したり退学したりするのと同じように、ゲゼルシャフトに出入りすることはできないから)
      • ゲゼルシャフトは、あらゆる相互行為システムと組織体システムの総和以上のものである(∵ゲゼルシャフト・システムのなかには、相互行為システムや組織体システムからは産み出されないような多数の行為が現われるから)
      • ゲゼルシャフトは、もっとも包括的なシステムであると同時に、別のタイプのシステム(相互行為と組織体)と並んで存在する一つの特殊なタイプのシステムでもある
      • あらゆる社会的な結びつきをとらえようとする普遍主義的なアプローチは、三つのタイプのシステムのすべてに目を配らなければならない

社会学的啓蒙のプログラム

  • ルーマンのいう社会学的啓蒙とは、「世界の複雑性をとらえ縮減する人間の能力を拡大する」という、機能-構造的理論にとっての理論的関心
  • 理論は対象領域について一定の認識を獲得しようとするのであるが、ルーマンの理論はまさにその対象領域に属している
  • 機能-構造的理論は社会学の一部をなすものであり、したがって近代科学、あるいは近代科学という行為システムの一部をなしている ∴理論は、自分自身も対象の一部として現われるような仕方で、その対象を表象する

ハーバーマスとの論争

  • ルーマンはつまるところ社会工学的保守的な関心を定式化したのだという非難が一部で起こる
  • ハーバーマスによれば、「世界の複雑性の縮減を社会科学的機能主義の最高の準拠点として正当化しようとする企て」の背後には、「支配に従順な問いの立て方をする義務、つまり既存のものの存立を維持するための弁護をする義務を、理論にひそかに負わそうとする態度」が隠されているという
  • ルーマンは、ハーバーマスが機能構造的理論が議論している思考のレベルを誤認(科学的な理論を政治的な概念によって批判)していると指摘
  • 社会システム理論は学問上の連関と政治的な連関とを慎重に区別する
  • そうだからといって、学問上の発言が政治的な帰結をよび起こすようなことはありえないとか、政治的な決定は科学システムに影響を及ぼすものではないとかと主張することにはならない
  • こうした区別をすることによって主張されるのは、科学的な理論は政治的空間のなかでも同じ意味をもって作用し続けるものではないということである
  • 学問上の発言と政治的な態度との間にはいかなる線形的な因果関係もないとするならば、ルーマンによれば、社会システム理論の理論的な説明力に関して問いただす代わりに、その特定の政治的含意に関してとやかく言うのは、見当違いの単純化なのである


  • 重要基本概念のまとめ
    • 社会システムとは、互いに指示し合う社会的行為の意味連関のことであり、それは環境から区別される
    • システムは、一つ以上の状態をとりうるときに、複雑である。複雑性とは、ありうべきもろもろの状態の総体のことである
    • 複雑性の縮減とは、世界のなかで起こりうべき出来事の総体を制限するというシステムの中心的機能を指す
    • 等価的機能主義とは比較による方法を表わすための概念であり、この方法は、選び出された準拠問題を研究して、どの機能的等価物によって問題の解決が可能になるかを明らかにしようとする

(このページ了)



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