ルーマン 社会システム理論 / 一般システム理論


第II章 学際的パラダイムとしてのシステム論

1.一般システム理論

システム理論によるパラダイムの転換

システム
もともと、要素的なものとの対比において合成されたもののこと いつでも、部分のたんなる総和以上のものである統一体という意味での全体を指示 諸要素の集合を表わす 諸要素の相互関係を表わす
  • 狭義のシステム理論
古典的ニュートン物理学的思考
世界を演繹的方法で数学的に記述しうるものと考えていた どの現象にもあてはまる自然法則の静態的妥当性に表現されるような安定性を具現 いつでも、またとりわけ、個別現象であると全体であるとを問わず世界全体のどこででも、同じ姿勢で対象に向かっていく この思考がつねに相手にするのは宇宙の永遠の法則 世界を解剖しようとする企て 個々の現象を互いに切り離し、何度も技術的な実験を繰り返してその現象を証明することによって、自然の合法則性が探求される
生物学的思考
生命は有機体の物理的過程や化学的過程には還元されえない そうした過程は、切り離して記述することもできるけれど、現実には決して孤立しては出現しない

生物学者たちは、その主要対象―生命―が古典的な科学観では描き出せないことを知っている。だから彼らは、生命を科学外的なカテゴリー―生命力、創造―によって規定しようとするのでないかぎり、科学的観察の新しい形態に訴えざるをえないのである。生物学の内部では、こうした批判は個別現象からシステムへのパラダイムの転換、すなわち個別現象のネットワーク化に導いた。 ↓ システム概念の基本的定義の再発見へ→ある全体の孤立化された諸要素を指し示しているのではなく、これらの要素の関係を視野のうちに収めている

フォン・ベルタランフィの一般システム理論

  • 学際的な一般システム理論 「人口論や社会学のように、また生物学の広範な領域のように、物理的-化学的な法則性の枠に収まらない学問のなかでは、適切に選ばれたモデルの観念によってはじめて到達されうる精密な合法則性が登場する。システムの一般的性格から生じる論理的な相同関係(ホモロジー)がそれである。そうした理由から、形式的に同じ種類の関係がさまざまに異なる現象領域にあてはまり、そうした関係がさまざまな学問の並行的な発展を条件付けるのである」(v. Bertalanffy 1951 : l27)
  • システム理論的であることとは システムと呼ばれる全体のなかにある各要素間の相互関係を扱うという、ある構造上の共通性をもっている
  • システムの特徴
    1. それがある要素と別の要素とのたんなる関係を通じて表現されうるという点にあるのではない。システムは相互関係の総体としてのみ表現されうるのである
    2. それぞれのシステムは、システムとシステムの環境との間に、すなわち、システムに属する要素や関係とシステムに属さないものとの間に、一義的な境界を生み出す

有機的複合体の理論としてのシステム理論

  • ベルタランフィの非有期的複合体と有機的複合体の理論の区別
  1. 非有機的複合体の理論 統計学、変化の法則、熱力学の第二法則から導き出される AからBが生じ、BからCが生じるように、個々の現象の線形的な連鎖として記述されうる
  2. 有機的複合体の理論 AからBが生じるのでも、その逆でもなく、むしろ、AとBとはその相互性を通じて現われるのであって、両者の関係を線形的に表現することはできない ↓ システム理論の本質的対象は、個別要素間の複雑な相互関係の有機的組織化の形態

閉鎖システムと開放システム

  1. 閉鎖システム
    1. 特徴は、ホメオスタシス的に、すなわち内部的に安定した仕方で維持され、平衡状態に達したあとは変化しない
    2. システムの環境といかなる交換関係ももたない
    3. したがって「平衡状態という、時間に依存しない状態へと」(v. Bertanlanffy 1951 : l22)移行しなければならない
    4. 厳密な意味では、いかなる有機的複合体も存在しない。なぜなら、平衡状態にあるシステム構成要素は互いに数学的に一義的な仕方で関係していて、そうした関係の仕方は、システムの閉鎖性を基礎としているかぎり、環境の変化によっても変化しないから
  2. 開放システム
    1. 必ずしも平衡状態に到達しない
    2. ホメオスタシスという停止状態に達することができるが、この状態はそれ自身ふたたび変化し解消されうる一時的な状態であるにすぎない
    3. 「開放システムには入力と出力があり、それによって構成要素の交代が行なわれる」(Ebd : l21)
    4. システムとその環境との間の交換過程と諸要素相互間の内的関係の変化能力は、状態の変化にもかかわらず、すなわち、諸要素が脱落したり新たに発生したりするにもかかわらず、開放システムが維持されることを可能にする
    5. したがって、システムに属する諸要素のレベルでも要素間の関係の有機的組織化様式のレベルでも観察されうるようなダイナミクスが成立する。フォン・ベルタランフィは、こうした事態を記述するために、流動的平衡(vgl. Ebd : l22)という概念を用いることを提案している
    6. 開放システムというのは、環境条件の変化によってただちにシステムの構造を完全に変化させなければならないのではなく、環境との交換過程を通じてダイナミクスを展開し、その状態を変化させうるようなシステムなのである

システムと環境

開放システムの特徴
内的組織の配置を環境が変化するのと同時にみずから転換させるのであって、外から因果的に条件づけられて単線的に規定されるのではない↓
  • こうした事態を正確に記述するために導入される概念       ↓
ブラック・ボックス
未知の機械であって、それは規定可能であるとは想定されているけれど、その規定可能なメカニズムは隠されている(Glanville 1988 : l00f.)↓
  • われわれは、インプットがアウトプットを一義的に規定しているのではなく、システム、ここではブラック・ボックスが、自分自身を規定しているのだと認めざるをえないことになる

自己組織化--サイバネティクス研究の発展

サイバネティクス
制御するものと制御されるものとの関係についての理論。さまざまな過程の相互的なフィードバック効果を研究する (例)サーモスタット(制御体)と室温(被制御体)の例 ・サーモスタットは室温の温度を測って、温度が下がっていれば暖房のスウィッチを入れる。それに対応して部屋が暖まると、サーモスタットは暖房を切り、温度が下がるとふたたびスウィッチを入れる。制御されたもの(室温)は制御するもの(サーモスタット)に反作用する。古典的なサイバネティクスはこれをフィードバック効果と呼んでいる     ↓
セカンド・オーダーのサイバネティクス
一方を制御するもの、他方を制御されるものというふうに一義的に分離することはできず、さまざまな要素が互いに制御しあっている。 グランヴィルによる定式化→<制御される>もの(この役割を負わされているもの)は、同時に<制御する>もの(この役割を負わされているもの)を制御する=制御の互換性
自己組織化
開放システムの組織類型 開放システムは自分に固有な作動様式に準拠し、自分に固有な状態を基礎として作動する システムがその環境によって線形的に制御されているということではなく、その内的な固有の論理に従ってそれぞれに環境の変化に反応するということに照準を合わせている
オートポイエーシス
自己組織化という構想と、自分をみずからシステムとして維持し、自分の固有なダイナミクスと自分の内的な状態に準拠して自分の内的な過程を制御するという根本思想。後の章で詳述

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