IP電話サービスの通話品質評価技術

ショートカット

まえがき †

IP電話サービスの普及が著しい
- データ通信との設備共有によるコスト削減効果
- 音声通話とインターネットアプリケーションとの融合による豊かなサービスの創出

IP電話サービスの問題点
- 品質の保証されないネットワークを介したリアルタイム通信サービス
- サービス提供前後の品質管理が重要
  - 主観品質評価技術*1：ユーザが享受する通話品質を適切に表現する
  - 客観品質評価技術*2：簡便かつ精度良く主観品質を推定する

品質要因と品質技術 †

IP電話サービスのネットワーク接続4形態
1. 中継網としてIP網を利用する形態
2. 単一事業者（ドメイン）内に閉じてサービス提供される形態
3. IP網と既存電話網とを接続する形態
4. 複数のIP網を相互接続する形態

品質設計・管理はネットワーク単位ではなくエンドtoエンドの観点で体感する品質に基づく事が重要
- 最終的には、サービス品質の維持向上が必要
  - 標準化された技術の実質的な普及とこれを用いた品質管理の徹底
複数事業者の相互接続形態では次の2つが重要
- 品質評価指標の客観性・共通性を確保すること
  - 国際標準化が進んでいる
- 提供されているサービスの品質を管理するためのシステマティックな手法を確立すること
  - まだ枠組みが提案された段階

品質*3要因
- 心理要因
- 物理要因・品質要因*4
  - ネットワーク：パケット損*5
  - 端末：揺らぎ吸収バッファあふれ*6・符号化ひずみ*7

品質技術
- 品質評価技術
  - 主観品質評価：実際に通話したときの心理評価に基づいて品質を判定する技術
  - 客観品質評価：物理要因に対応する設計・管理パラメータ*8や音声信号そのものから主観品質を簡便かつ精度良く推定する技術
- 品質設計*9技術
  - ネットワークと端末が備えるべき性能や機能条件を明らかにし、設計・設定する技術
- 品質管理*10技術
  - 提供しているサービスの品質を把握・管理し品質の維持・向上を図る技術

主観品質評価 †

オピニオン評価 †

ITU-T勧告のP.800に規定されている
評価対象系
- 絶対的：絶対範疇尺度法ACR*11
- 相対的：劣化範疇尺度法DCR*12
  - リファレンス条件と相対的に評価

評価結果
- 評点（5段階）と、投票率で重み付けけした平均オピニオン評点
  - ACR法：MOS値
  - DCR法：DMOS*13値
- 5段階評価は、言葉によってニュアンスも違う事があるらしい
  - 日本人のそれは、欧米人に比べて低く評価されがち

主観品質
- 受聴品質*14
  - 音声を再生して、被験者が聴いて評価する片方向の評価
- 会話品質*15
  - 双方向の通話による評価

IP電話の総合通話品質評価
- 受聴評価による個別要因の評価
  - 符号化ひずみ
  - パケット損ひずみ
- 理想的な評価
  - 受聴・会話品質評価の併用

等価Q値換算法 †

絶対評価地のMOS*16における問題点の解決法
- 人間の感覚は、実験前に聞いていた音の品質により揺らぐ事もある
- 評価地の普遍性確保の観点

MNRU*17
- 音声信号の振幅に比例して雑音を付加する
- ITU-T勧告 P.810として標準化されている
- そのSNR*18によるQ値（振動の状態）
  - Q値にMOS値を等価換算する（オピニオン等価Q値）

客観品質評価 †

物理的な特徴量に基づいて主観品質を推定する手法
- 主観品質評価は多くの時間や費用を要する
- 端末やネットワークの物理的な特徴量
  - 音量
  - 遅延時間
  - パケット損失率

客観品質評価法の分類
- オピニオンモデル
  - ネットワークや端末の品質パラメータ*19を入力として、会話品質を推定する技術
- 音声レイヤ客観品質評価モデル
  - 音声信号を入力として受聴品質を推定する技術
- パケットレイヤ客観品質評価モデル
  - IPパケットの特徴量を入力として受聴品質を推定する技術
  - パケット転送遅延やパケット損失率等を入力

オピニオンモデル †

歴史は深い
- ITU-Tでいくつかのモデルが提案されていたが、国際標準として一本化されなかった
  - ITU-T P-series勧告Supplement3として複数案を併記する状態
- E-modelが提案された
  - AT&T提案のTRモデルの「品質実測値のTR値(0～100)へのマッピング」を取り入れた
  - NTT提案のOPINEモデルの「心理尺度値による指標化」という考え方がベースになっている
- ITU-Tは1998年にE-modelをITU-T勧告G.107として標準化
- E-modelはネットワークプランニングモデルとして広く採用されている
  - 欧州のETSI*20
  - 北米のTIA*21
- 日本でも郵政省令*22の改正に伴ってIP電話サービスに対する通話品質基準を定めた
  - E-modelに基づいて算出される評価指標のR値（ネットワーク品質を表す数値）
  - TTC*23はE-modelをベースとした具体的な通話品質評価法を標準化した

E-model
- 20の入力パラメータがある
  - 端末要因
  - 環境要因
  - ネットワーク要因
- その出力がR値
  - 入力パラメータの関数で表現される出力評価値
- 心理要因ごとの評価値を心理尺度上で表現し、相加する計算モデル
  - 雑音感*24
  - 音量感*25
  - 遅延・エコー感*26
  - ひずみ・途切れ間*27
  - 利便性要因*28
- 音質劣化をEquipment Impairment Factorとして定量化している点が特徴的
  - 低ビットレート符号化
  - パケット損
- ハンドセットを用いた電話帯域音声通話(300～3400Hz)が前提
  - PCのハンズフリー通話や広帯域音声通話の品質は評価できない
  - 実際のサービスを考慮すると、必要な項目なのに標準化の進捗はない
- Annex B
  - R値と会話MOS値の創刊をマッピングする関係式
  - ITU-T勧告G.107で提供されている
  - 欧米用なので、評価値が低くなりがちな日本での値はTTC標準の提案する変換を行う

音声レイヤ客観品質評価モデル †

SNRから始まる
- PCM符号化音声の評価におけるもの
- 波形符号化方式の主観品質とは比較的よく対応する
- スペクトル符号化やCELP符号化などの評価では主観品質を低く推定する傾向がある
1980年代
- 主に音声スペクトルのひずみに着目したモデルが多く提案された
PSQM*29に標準化
- ITU-T勧告P.861（1998年）
- 符号化ひずみの評価では、十分な品質推定精度
- 問題点があった
  - ビットエラーなどの時間軸上離散的発生する劣化の評価では十分な制度が得られなかった
  - IP電話におけるパケット損の評価が出来ない事を意味する

PESQ*30を標準化
- ITU-T勧告P.862（2001年）
- 2つのモデルを統合化
  - PSQM
  - PAMS*31
- IP電話の音質（受聴品質）評価に広く用いられている
  - パケット損の評価においても実用的な性能
No-reference音声レイヤ客観品質評価モデル
- ITU-T勧告P.563（2004年）
- 音声生成過程を考慮したときに評価対象音声信号に観測される「非音声的要素」を評価
  - 座右音声、断絶、不自然製
- リファレンスとして原音声信号を必要とする技術*32とは区別
  - 評価対象システムに試験音声信号を入力するアクティブな品質評価

パケットレイヤ客観品質評価モデル †

IPパケットの情報から音質を推定する技術
- 音声信号を呼ごとにいちいち複合して調べるのは手間

P.VTQ
- ITU-Tが技術の方式評価を進めている
- PhaseⅠ
  - ネットワーク・端末の性能指標から通信品質推定に必要な中間パラメータを推定する部分
- PhaseⅡ
  - 中間パラメータから主観品質（受聴品質）を推定する部分
- 同じ条件でも、機器の実装特性の違いによって中間パラメータや最終的な主観品質は異なる
  - 揺らぎ吸収バッファ：多いとバッファあふれが少なくなって揺らぎは少ないが、遅延が生じる
  - パケット損補償PLC*33アルゴリズムの性能の違いによる主観品質の違い
  - ネットワークのパケット伝送特性だけでは評価できない品質要因
  - 機器ごとにその特性を記述する校正データベースを用意する手法も提案される

IETF*34
- RTCP-XR*35：端末やゲートウェイ装置がお互いに品質情報を交換するためのフォーマット
- 情報の記述フォーマットの規定で、実際の取得や導出は装置の実装に任されている
- P.VTQとの相互関係もある(Description formatと連携)
  - PhaseⅠ処理後のIntermediate outputs
  - PhaseⅡ処理後のListening MOS

客観品質評価の精度向上 †

この論文の提案手法

E-modelの性能評価 †

遅延と音質劣化の交互作用の影響 †

E-modelの仮説
- 個々の品質要因による品質劣化量は心理尺度上で独立で、加算付加である
  - 音質
  - 遅延
  - エコー及び音量
- しかし、実際には特に品質劣化が顕著な領域で必ずしも成り立たないといえる

個別品質要因の影響 †

個別の品質要因に関してE-modelの性能評価をする
- 前項は遅延と音質劣化が混在する場合の評価特性

音質
- 的確な主観品質を推定している
  - 標準的な総合ラウドネス定格OLR*36

遅延
- 100msまでは主観品質劣化はないとしている
  - 実際は若干の品質劣化が存在する
- 300ms以上の遅延条件において品質を過小評価する傾向がある

エコー
- 影響が極めて小さい条件
  - 主観品質評価特性と一致する
- エコーが通話の妨害となる領域(MOS_CQS_j*37<3.0)
  - 主観品質評価特性と乖離（かいり）する傾向にある

提案技術 †

修正E-model
- 問題点を考慮して、より主観品質評価特性と整合するオピニオンモデルへと改良

遅延とエコーによる影響のモデル化 †

遅延による品質劣化Idd*38
- 片道遅延時間Taの2次式でモデル化
エコーによる品質劣化Idte
- エコー経路遅延時間Tに関する対数関数とエコー経路ラウドネス定格TELRに関する指数関数の線形結合でモデル化

遅延と音質劣化の交互作用のモデル化 †

品質劣化Iddと音質劣化Ie,effを統合した劣化量を2次関数でモデル化
- これら2つには相互作用がある事が確認されたから

提案技術の有効性評価 †

実際にIP電話システムの品質推定に適用して比較した
- 提案法は平均値の意味で、現行E-modelの品質推定誤差を約半分に抑える事に成功

次世代通信サービスの知覚品質評価 †

次世代通信サービスのキーワード
- 広帯域
- マルチモーダル（視覚・聴覚を含め、複数（multi）のコミュニケーションモードを利用）
- 多地点通信
その為の品質評価法研究の課題を考察する

広帯域・マルチモーダル通信への対応 †

ブロードバンド化により、メディアに対して十分な符号化ビットレートを与える
- 対象とする信号周波数帯域の広帯域化を可能とする（付加要素）

サービスの豊かさを表現する多次元尺度が必要となる
- 心理要因によるサービスの特徴付け
  - 臨場感
  - 一体感
  - 精細感

マルチモーダル通信サービスの品質
- 各メディアが総合品質に与える影響とその相互作用の解明が重要
  - 時間的な同期品質に関する検討（既に様々なアプリケーションの観点から進められている）
  - メディアの品質の最適バランスに関する検討などは必ずしも十分に行われていない

多地点通信への対応 †

多地点に分散したユーザが情報を交換するN対Nの通信体系の日常化
- 個々のユーザ端末の不均一な通信品質が総合的なコミュニケーションに与える影響
  - デスクトップPC
  - モバイルPDA

品質評価法
- 自動音量制御機能AGC*39
- 騒音抑圧機能

むすび †

IP電話サービスの通話品質評価技術の解説

品質評価
- 主観品質評価
  - リファレンス条件との相対関係に基づく品質表現（等価Q値換算法）が有効
- 客観品質評価
  - 技術分類を行い、最新の標準化動向を照会

新しいモデルの提案
- 従来法よりも約1/2の誤差でIP電話の総合通話品質を推定可能

品質評価法研究の今後の研究課題
- 広帯域
- マルチモーダル
- 多地点通信

IP電話サービスの通話品質評価技術

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