認知と嗜好から見た通信サービスのデザイン


日本語文献?

ネットワーク遅延の研究

あらまし

  • 来るべきユビキタスネットワーク社会
  • ネットワークアクセスが時間や場所に限らず自由になった
    • ネットワークアクセスのきっかけは、人間の欲求や行動に影響を受ける
  • 認知や嗜好といった脳の活動が、通信サービスに与える影響を考える
    • 本報告では、その研究事例と今後の研究課題を述べる

はじめに

  • 日本、韓国の人々は携帯電話でインターネットに頻繁にアクセスする
    • いつでもどこでも、マルチメディアサービスを利用可能な状態にある
    • 通信技術の発達による、通信の「時間と場所」からの開放
  • 従来の通信サービスデザインのアプローチとは異なる考え方が今後必要となってくる
    • 例えば、通信トラヒックについて
      • 従来では、時間帯やイベントなど大きなタイムスパンの変化に対応する検討
      • 今後のユビキタス社会では、小さなタイムスパンでの人間の行動との関係を検討する必要が出てくる
    • 脳と通信の関係について
      • 従来では、脳を情報の受信や処理装置として、その特性からユーザビリティの向上を検討
      • 今回は逆に、ユーザの脳が通信システム全体に影響を与える事を検討する
  • 本報告書の章内容
    • 2章:トラヒック変動の予測
    • 3章:ユーザの嗜好把握と予測
    • 4章:ユーザの認知と行動予測
    • 5章:今後の研究課題
    • 6章:まとめ

トラヒック変動の予測

  • トラヒック変動の予測に伴う、通信サービスのデザインを考える
  • 通信サービスの料金設定によって、トラヒック量が変化する
    • 高ければ、利用者は少なくなるって事だろう
    • この様に、ユーザの行動に影響を与える情報を通知する仕組みによる運用が可能

通知情報操作によるトラヒック制御

  • 影響を与える情報の通知
    • ユーザに一斉に情報を通知する代表例が「放送」
      • 放送番組内のアンケート回答
      • オンラインショッピング
      • 災害情報(被災地と発生直後という、空間的かつ時間的な輻輳発生)
  • 通知する情報操作による通信トラヒック制御の実現
    • ネットワークの混雑度に応じて、通信料金の設定を動的に変更
      • 料金設定の情報をリアルタイムでユーザ群に通知することによる、トラヒック量の安定化
      • 情報通知周期は、ユーザ行動の変化に余裕がある設定にするべき
    • トラヒック量が不安定になる場合には、ヒステリシス*1を持たせる手法も考えられている

放送内容によるトラヒック制御

  • 放送内容に対するユーザ行動によるトラヒック制御の実現
    • 反響が大きく、多くの通信トラヒックを必要とする番組は連続して放送しない
    • 通信トラヒックを観測しながら番組内容を選定する仕組み

実際の動的制御機構

  • 実際の制御機構
    • 通知する情報による制御
      • 通信トラヒック経路とは別に、情報通知用回線が必要か
      • 放送波を利用する場合には、番組内容による制御と同じ放送波を通知用回線に使う
    • 番組内容による制御
      • 放送波を用いて番組内容をユーザに渡し、別の通信トラヒック経路からトラヒック量を計測
    • ユーザ行動モデルを構築し、経済的、嗜好的の両方の観点から制御するアプローチ
      • 適切なモデルの構築が必要
      • 番組内容に対する嗜好の把握が重要

ユーザ嗜好把握と予測

把握・予測技術概要

  • ユーザに関わるデータから思考の特性を抽出する
    • 工学・マーケティング分野で活発に行われている
    • ユーザに関わるデータの分類
      1. 行動データ(購買・アクセス履歴)
      2. デモグラフィックデータ(年齢・性別)
      3. サイコグラフィックデータ(商品選択の重視項目心理)
      4. 状況データ(感情・余裕)
      5. 生理データ(心拍数・発汗)
  • 既存の商品推薦技術
    • 協調フィルタリング方式
      • ユーザの行動データから嗜好傾向を探って、似た嗜好の人が好むコンテンツを推薦
      • 大量の履歴データが必要
    • コンテンツ(属性)ベース方式
      • コンテンツや属性の特徴の抽出により、その特徴に類似した嗜好を持つユーザに推薦する
      • 適切な特徴抽出が困難
    • 両者の結果を重み付けして結合する方式
    • 統計的混合分布モデルで結合する方式
      • アスペクトモデルと呼ばれる潜在クラスを用いる

嗜好の個人差と状況依存性に基づく研究

  • 従来の手法では、状況や気分は考慮されてなかった
    • 重み付けの変更など、様々なデータ間の複雑な依存関係が必要となる
  • ベイジアンネットワーク
    • 確率変数間の複雑な依存関係をグラフ構造によって表現する手法
      • ソフトウェアの機能推薦やプリンタの故障診断等で利用されている
    • このモデル化を用いて、個人差と状況に応じて最適なコンテンツ推薦が出来る方法を検討した
      • 構築には、ベイジアンネット構築ツール「BayoNet」を使った
  • モデル化のためのデータの取得
    • 1回目に取得したデータ
      • ユーザ属性
      • コンテンツ属性
      • コンテンツ評価履歴
    • 2回目に取得したデータ
      • 状況属性
  • モデル構築
    • 基にする3つのデータ
      • ユーザ属性
      • 状況属性
      • コンテンツ属性
    • そこから、「感じ方に関する共通属性」を導く
    • そして、最後にそこから「総合評価」を行う
  • 実際の映画推薦システム
    • 候補のコンテンツ全てと照らし合わせるのは計算時間がかかりすぎる
      • 推薦要求時の推論回数を抑える必要がある
    • 保存済みのコンテンツ特徴ベクトルとのマッチングを行い、近いコンテンツから推薦
      • 平均的なユーザに対する、共通属性の事後確率を基に、コンテンツ特徴ベクトルとしてあらかじめ保存しておく
    • 推薦後も、ユーザからのフィードバックを基に、予測制度の向上の為の学習に用いる
  • 今後の課題
    • ユーザの入力付加を軽減する
      • ユーザの状況の入力は、生理データから予測して省く等
    • より良い、モデル構造
      • 脳の活動に関する研究の検知から検討

ユーザの認知活動と行動予測


行動評価研究の概要

  • 情報通信技術ICT*2を利用するユーザの反応・行動についての研究
  • 情報通信の分野
    • 通信品質評価のための音声・映像の主観評価指標
      • 5段階指標で評価
      • 通信サービスに対するユーザの反応を評価している
  • 情報通信以外の分野
    • コミュニケーションという大きな枠組みの中での研究
      • 「communis(共通の)」という語源に強く関係
      • ユーザに引き起こされる共感性などを対象としているものも多い
  • 社会学や社会心理学の分野
    • コンピュータを介したコミュニケーションCMC*3を利用するユーザの行動傾向・心理状態
    • アンケート調査などによる、内観指標により、ユーザの社会的行動への影響を検討
    • ウォレス氏の研究
      • 匿名性といったネットワークの特徴に着目
      • 攻撃行動や援助行動、ジェンダー*4・ステレオタイプ*5への影響
    • 山下氏の研究
      • ブログ利用ユーザに着目
      • 開始の同期や継続意向等を、歴史的変遷という時間軸に沿って評価
  • 認知科学・認知心理学の分野
    • ICT端末利用時の反応や、目的達成時間や誤操作頻度測定による認知的特性の検討
    • 原田氏の研究
      • 高齢者のATM等の利用に着目
      • 加齢による身体や感覚とは別に、判断や行動統制などの機能低下が関係
    • 原田氏の研究2
      • テレビ電話による通話を行うユーザの違和感に着目
      • 視覚による違和感や、メンタルモデルの不足
      • チャットと比較しても共感性が得づらい

これからの研究

  • これまでに、ICTサービスを利用する知見は多く得られている
  • 岡田氏の研究
PC端末通信
仮想空間を高速に通信できる
携帯電話通信
リアル空間を効率的に移動、仮想空間との接続も可能
  • これから、さらにリアル空間での状況の影響が強くなる
    • 有線通信技術の普及により、「時間と距離」からの開放
    • 無線通信技術の普及により、「場所」からも開放
  • 今後のコミュニケーション行動はそれぞれの場所の状況に強く依存するようになる
  • コミュニケーションを開始するトリガ(きっかけ)が重要となってくる
    • これまでは通信可能な環境という制限
      • 多くのユーザのトリガは同じ傾向
    • 通信技術の発展による、通信環境の多様化
      • トリガに対して認知的な側面からの研究が必要となる
  • 著者らの研究
    • ユーザの行動の検討において、通信デバイスの使用時の「快適性」に着目

脳と通信の研究における課題

  • 放送コンテンツに対するユーザの通信行動を例に挙げていく
  • ワンセグ*6が2006年4月より開始された
    • 「放送」は多数のユーザの興味を引くため、トラヒックの集中は起こりやすい
    • 実際に、そのような現象も確認されている
  • 集中的なトラヒックの懸念による問題点
    • 通信システムでの輻輳の原因となる
    • 当然、サービス品質の低下につながる
    • ピーク時に対応したシステムは過剰な設計で無駄
  • その対応策
    • 今までは、トラヒックの集中を予想して発信制限などの強制的な手段
      • ピークの発生そのものを抑える手法の検討も必要ではないか
    • ユーザがどの放送コンテンツを選択を知る
      • 嗜好の推測をするために、適切なモデルの作成が必須
      • 推測制度の向上のために、整理データからの状況データ予測などの工夫も
    • 選択されたコンテンツのどのような情報に反応するかの把握
      • 脳の構造を明らかにすることでプロセスを明らかにするのが求められる
  • 脳の研究との兼ね合い
    • トラヒック変動の検討には、脳の活動の正確で包括的なモデルが必要
    • 通信トラヒックが人間の反応のデータとして大量に集められ、脳の研究へフィードバック

まとめ

  • これまでの研究事例を通して、通信サービスのデザインに脳の活動が与える影響を検討した
  • 放送コンテンツを具体例に、必要な事を提示
    • ユーザの認知・嗜好を正しく推測する技術(とその課題)
  • 精度の高いトラヒック予測により、通信システムの安定な運用が可能となる
    • 効率的なシステム設計
    • サービス品質の向上
    • ライフラインの保守

*1 少し反応を遅らせる事
*2 Information and Communication Technology:IT+Communication
*3 Computer Mediated Communications
*4 社会学的性
*5 同じ考えや態度や見方が、多くの人に共有されている状態
*6 ISDB-T:Integrated Service Digital Broadcasting-Terrestrial