モバイル環境におけるMMDセッション制御高速化に関する検討


文献まとめ

  • 「Trombone Routing Mitigation Techniques for IMS/MMD Networks」にも同じ内容
    • IEEE WCNC 2007

あらまし

  • IMS*1/MMD*2
    • 各端末の通信制御
    • モビリティサポート
      • Mobile IP(MMDの場合)
  • 問題点
    • SIPとMobile IPは別々の技術なのでセッション制御に時間がかかる
  • 目的
    • SIPとMobile IPをうまく連携させて高速化できるセッション制御を提案したい
      • SIPとMobile IPの並列動作時の冗長性を低減する

研究背景

SIPとMobile IPの独立性による問題点

  • 基本動作
    • Mobile IPの位置登録
    • SIPの登録処理
      • この時の登録処理はHAを介す冗長経路
  • メッセージ
    • それぞれの動作で別々にメッセージを送るので数が多い
    • 認証も別々
  • 影響
    • ハンドオーバ時の通信遮断時間による遅延
  • 目的
    • これらのプロトコルの連携
      • 制御メッセージの経路の最適化
      • 制御メッセージ数の最適化
      • 認証手順の最適化(安全性を低下させずに)
  • 手法の3要素
    • Selective Reverse Tunneling
      • SIPメッセージがHAを経由しない
    • PiggyBacking
      • Mobile IPとSIPの登録パケットをまおめる
    • 認証連携
      • Mobile IPの認証結果をSIPの認証に反映させる

MMDのセッション制御

ネットワーク構成

  • ネットワークの種類
    • ホームネットワークHN*4
    • 移動先ネットワークVN*5

ノード構成

Mobile IP関連

  • MN*6
    • 移動端末
  • HA*7、FA*8、認証サーバ
    • Mobile IPでおなじみのノード
      • HA及び認証サーバはHNに
      • FAはVNにある

SIP*9

  • HSS*10
    • ユーザ情報を扱う
  • CSCF*11
    • SIPサーバとして3種類ある
    • P-CSCF*12
      • SIPプロキシサーバとして動作
      • MNが送受信するSIPメッセージは全て通る
    • I-CSCF*13
      • 管理ドメインの端に設置されるSIPプロキシサーバ
      • ドメイン間や、P-CSCFとS-CSCF間で中継する
    • S-CSCF*14
      • 中心的なSIPサーバ
      • セッション制御機能やレジストラの機能
    • 設置場所
      • I-CSCFとS-CSCFは基本的にHNに配置
      • P-CSCFはHNかVNに配置(手法によって違うが本稿ではVNに配置する手法)

Mobile IP/SIPの基本動作概要

  • 登録処理
    • Mobile IPとSIPの登録処理を行う
    • ハンドオーバしたときも再度同じ処理を繰り返す
  • 登録処理のシーケンス
    • Mobile IPの手順
      • Mobile IPの登録パケットをFAへ送信する
      • FAではAAA*15とMobile IPの認証処理
      • FAからHAへ登録パケットを送信する
      • HAは登録完了後、登録完了メッセージをMNに返す
    • SIPの手順
      • 次に、MNはMobile IP登録メッセージをP-CSCFへ送信する
      • 登録メッセージは、P-CSCF→I-CSCF→S-CSCFへと送信される
      • S-CSCFはHSSからMNの情報を取得してチャレンジレスポンス認証を行う
      • S-CSCFはHSSへユーザ登録完了処理を行い、MNへ登録完了メッセージを送信する
      • なお、SIPメッセージはMobile IPのReverse Tunnelingによって全てHAを経由して送受信される
    • チャレンジレスポンス認証の際に、MNとP-CSCF間で通信を暗号化するための鍵を渡す

Mobile IP/SIP併用時の問題点


基本動作の冗長性

  • ハンドオーバ時の登録処理に時間がかかる
    • セッション制御の遅延を招く
  • Mobile IPとSIPの独立による冗長性
    • MNのSIPメッセージがMobile IPのReverse TunnelingによりVN-HN間を往復する点
    • 登録メッセージがMobile IPとSIPそれぞれで送信されてる点
      • 無線区間のメッセージ数は少ないほうが良い
    • 同じHNに対する認証でも別々で行われている点
      • Mobile IPではFAからAAAへRADIUSによる認証
      • SIPはS-CSCFとMN間でチャレンジレスポンス認証

関連技術

  • Mobile IP Route Optimization
    • 経路の最適化を行う
    • 最適化のために新しいシグナリングが必要となり、メッセージが増える
  • 今回の提案手法の目的
    • 新たにシグナリングを加える事無く、むしろ冗長なメッセージを省略する事が目的

提案手法

制御メッセージの経路の最適化 Selective Reverse Tunneling

  • SIPメッセージをHAを経由する冗長な経路を通過させずにP-CSCFへ送信させる
    • Selective Reverse Tunneling
    • SIPメッセージのトラフィック量と遅延の削減を図る
  • 手順
    • Mobile IPの登録完了後、MNはP-CSCFのSIPメッセージをFAへ送信する
    • FAで、パケットを解釈してP-CSCFへ送る
      • 同じVN内にあるP-CSCF宛のSIPメッセージならカプセル化してP-CSCFへ直接送信する
    • P-CSCFはパケットからIPアドレスの対応付けをする
      • 内部メッセージのIP(MN)と、外部パケット送信元のIP(FA)
      • IPMN宛のパケットはカプセル化をしてFAへ送信する、FAはカプセル化を解いてMNへ送る
      • この対応表は、MNがMobile IPの登録を解除するか、一定時間経過後に削除される

制御メッセージ数の最適化 PiggyBacking*16

  • Mobile IPの位置登録パケットと、SIPの登録パケットをまとめる
    • PiggyBacking
  • 手順
    • Mobile IP登録メッセージの拡張部にSIP登録メッセージを格納してFAへ送信する
    • FAでは先にMobile IPの登録処理を行う
      • Mobile IPの登録メッセージからSIPの登録メッセージを分離して待機させる
    • FAはHAから登録完了メッセージを受け取ると、SIP登録メッセージの登録処理を行う

認証手順の最適化

  • 安全性を低下させずに認証手順の最適化を図る
    • 認証連携
  • 手順
    • Mobile IPの認証情報をSIPの登録メッセージに付加する
      • チャレンジレスポンス認証を省くことができる
      • MNは先にMobile IPの認証手順を踏み、AAAは認証済みRadiusの返信メッセージが返ってくる
      • 次のSIP登録メッセージにはその情報を付加するので、すぐにSIP登録完了メッセージが返ってくる
  • 悪意のあるMNの認証情報改ざん対策
    • MNがAAAの認証情報を改ざんしてSIPの認証を行う可能性がある
    • AAAとHSSの間に信頼関係があることに着目して電子署名を利用する
      • S-CSCFではHSSから受け取ったAAAの鍵を用いてその正当性を検証する
  • 通信暗号化にしようする共通鍵
    • SIPではMNとP-CSCF間の共通鍵は本来チャレンジレスポンスのシーケンス中に交換する
      • 本手法では、SIP登録完了メッセージに付加してMNに渡す

提案手法の統合化

  • 3つの要素を統合する
  • 相乗効果
    • PiggyBackingとSelective Reverse Tunnelingの相乗効果がある
    • Mobile IPの認証が完了した段階でMobile IPの登録完了を待たずしてFAからSIPの登録メッセージを送信する事ができて高速化が可能となる

実装と評価

実装

  • ネットワーク
    • バックボーン網
      • ルータにより構成される
    • 無線アクセス網
      • RAN*17 Emulator及び、PDSN*18
    • ネットワーク上の各ノードはEthernetで接続し、遅延はルータで変動させる
  • SIPノード、Mobile IPノード、MN
    • Fedora Core3のOSのPCを用いて実装
  • 遅延を入れるためのルータ、RAN Emulator
    • FreeBSD 5.5-Release

評価


対象

  • モデル
    • Model1:MMD基本動作のみ
    • Model2:認証連携手法の適用
    • Model3:全提案の統合手法の適用

指標

  • セッション処理における
    • 登録時間
      • 最初のMobile IP登録メッセージ送信からSIP登録完了メッセージを受信するまでの時間
    • 再接続時間
      • MNがハンドオーバ前にCNから最後のデータパケットを受信してから、ハンドオーバ後にパケットを受信開始するまでの時間
      • つまりはVoIPなどで通話中にハンドオーバした際に、音声が遮断される時間

測定方法

  • 無線アクセス網とバックボーン網の遅延を変化させて測定
    • 物理的な遅延を想定(東京〜ワシントン)
  • 登録処理による遅延時間
    • (ネットワーク遅延)×(ネットワークを通過するメッセージ数)
    • これを無線アクセスネットワーク、バックボーンネットワークそれぞれの和で評価する

測定結果

  • MMDにおける登録時間の削減が実現できた
    • しかし、以前、登録処理に約3秒、再接続に約7秒の時間を要する
  • 要する時間の内訳
    • 通信遅延時間
    • 処理遅延時間
    • 無線リンク切り替え時間
  • 本手法の効果が適用されない時間
    • 無線リンクの切り替え
      • 無線LANよりも高速な手法を用いることで短縮可能
    • 各ノードでの処理
      • 専用装置を用いることで高速化を図ることが可能

*1 IP Multimedia Subsystem
*2 MultiMedia Domain
*3 Session Initiation Protocol
*4 Home Network
*5 Visited Network
*6 Mobile Node
*7 Home Agent
*8 Foreign Agent
*9 Session Initiation Protocol
*10 Home Subscriber Server
*11 Call Session Control Function
*12 Proxy-CSCF
*13 Interrogating-CSCF
*14 Serving CSCF
*15 Authentication Authorization Accounting
*16 肩車
*17 Radio Access Network
*18 Packet Data Serving Node