StrayFortune:TeamC:Story


Prologue

 かたや疲れた顔で、かたや鼻歌など歌いながら二人の男が座り込んでいる。その周りには数多くの犬の残骸が散らばっており、床や壁は爆撃があったかのごとく破壊されていた。
 「要さんよぉ、やっぱあれ罠だったんじゃね?」
疲れた顔の男が言う。
 「俺としては実験体に不足せず、かつ、これほど面白い生き物を調べることができて嬉しい限りなのだがね。」
要と呼ばれた男がタップダンスのように指をキーボードの上で躍らせる。しばらくして、データを入れ終わったのか、少しのため息と少しの間を置くと,満面の笑みを浮かべた。
 「この調子で出てきてくれると、改良版の実験まで出来そうだ。直のそれもあと3倍ぐらいまで出力上げられそうだから上げてみたいのだが。」
そのにやけた視線は、直の右腕を覆っている鉄隗に向けられていた。
 「やめてくれ、渾身の力を持ってやめてくれ。俺死ぬから。」
げっそりした顔で直と呼ばれた男は言った。近くにまだ残っていた壁に背を預け目をつぶる。 苦虫を噛み潰すように、そして小声で言う。
 「もうすぐだ。すぐ迎えに行く。だから無事でいろよ、朋子……」

20日

0:00〜1:00

 この建物の中は、十分放送規制がかかりそうなほど悲惨な状態だった。所々に転がっている人間だったもの。赤黒くなった壁や床。ぬっとりとした鉄のような臭い。とてもじゃないが、製薬の研究を行っている場所とは思いがたい風景。直も初めはこの状態を見たとき、耳鳴りがするほど叫び、胃の中が全部出たんじゃないかというほど嘔吐した。要は少し顔をしかめ、ボソッと「酷いな……」とつぶやいた。とりあえず、その場所から逃げるように別の場所に向かい始めた二人だったが、自販機を見つけたところで直がミネラルウォーターを買う。直は口の中が気持ち悪かったのか、豪快にペットボトルの水を口に流し込んだ。その様子を横目に、要も何か飲もうと自販機に向かい、牽いていた尋常じゃない大きさのトランクのようなものを自販機の横にとめる。そこで、自分の飲むものを吟味しながら、ふと口を開いた。
 「して、壁を破ってまでここに侵入したわけだが、これからどうするつもりだい?」
ペットボトルの水を半分ぐらいにまで飲み干したところで一息つき、ペットボトルをくるくる回しラベルを見ながら直は答えた。
 「とりあえず、地下への入り口を探そうと思う。」
 「ほぅ、それはまたどうして。また、なぜ地下があると?」
要は片眉をひそめ、オレンジジュースを片手に、椅子に座る。
 「悪人が捕虜を捕まえておくと言ったら地下牢だろ。」
その言葉を聞くなり要はケタケタと笑い出した。
 「なんで笑うよ。」
 「そりゃまた単純な。と思ってね。」
直の眉間にしわがよる。それを見て要も笑うのを止めた。
 「おっと、失敬。」
言いながらも、要はまだ含み笑いはしていた。
 「だが、その可能性は否定できない。よし、下への入り口を探すとしよう。」
要は飲みかけのペットボトルをかばんにしまうと立ち上がった。つられるように、直ももたれかかっていた壁を離れ、飲み干したペットボトルをごみ箱に放り投げた。
 「まずはエレベーターか。」
そういって直は来た道を正面に周りを見回す。それらしいものを見つけられなかったのか、少しの間宙を仰ぐと右に歩きした。要はふっと少し鼻で笑ってその後を追った。
 「しかし、初めのあれ。なんだったと思う?」
要が横に並んだあたりで直が話し掛ける。
 「さぁ。ただわかっていることは、普通の犬などではないということだけであるといえよう。」
 「そうなのか。それなら俺にもわかる。首が三つあるなんて漫画かゲームでしか見たことが無い。」
この二人は壁を破ってこの研究所に入ってきた。その時、この二人を出迎えたのが首が三つある犬だった。見るなり直に襲い掛かったが、反撃をうけ逃走。あまりに吼えながら逃走するものだから、黙らせるために追ったところ、この犬の群れに囲まれると言う結果になった。
 「だが、まさかあんなものに囲まれるとは思いもしなかったな。」
要は少し笑いながらいった。それを見て直は少し眉間にしわを寄せる。
 「誰のせいだ誰の。罠だろうといったのに真っ先に追いやがって。」
 「だが、あれだけ吼えてたんだから相手に気づかれたらまずいとは思わないかね。」
直はハハッと少し笑い、少し呆れた感じで要のほうを向いた。
 「あぁそうだな。見せられるなら、あの時のおまえの顔を見せてやりたい。」
 「ほう。俺がどんな顔をしていたと。」
 「あぁ、それはもうバッタを初めて見た子供のような顔だったよ。あんな満面の笑み見たこと無い。」
 「的確な表現ありがとう。今思い出してもぞくぞくする。」
要の顔にあの犬を始めてみたときの表情がよみがえる。
 「何しろあれは頭が三つだ。それがそれぞれ的確に襲ってきた。これはいったいどういうことか。」
要の口調がだんだん早くなってくる。その目もまるでこの場所を見ていないようだった。
 「人間の奇形児として頭が二つついて生まれてきたケースは多々存在する。だが、頭が三つというのはあまりにも多い。これは尋常ではない。一体、体の制御はどの頭がやっているのか。一体でないとすればどのような役割分担をしているのか。気道は、骨は、内臓はどうなっているんだ。それに囲まれたときのあの数。同じ奇形児があのように多数存在するはずが無い。誰かが意図的に作っているのか。作っているとしたら何のために。考えるだけで心が躍る!そうだろう!?」
 「はいはい」
聞きながら、適当に回りの部屋の名前などを確認する。その間にも、要はとても大きい独り言を延々と話しつづけていた。
 「で、あれを倒した後調べてただろ。それでも何もわからなかったのか?」
必死で話していたところを中断され少し不満そうな顔をしたが、すぐに質問に答え始めた。
 「結論で言えば、あれは普通の犬に首を二つくっつけた『だけ』のものだった。まるで小学生の考えた産物だ。生命として成り立たない。中央の首以外は行動不可能だ。」
 「でも、現に俺達を襲ってきたじゃないか。」
直は右腕についている鉄隗の傷を指差した。そこには、いくつもの引っかき傷と歯形があった。
 「そうであるからこそ、『普通じゃない』としかいえないというのが現在の状態であるといえよう。」

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