トリプルコンバージョンの受信部 †
周波数構成としてはIFは1stが45.05MHz, 2ndが8.830MHz, 3rdが455kHzという、現代からみてもごくありふれたアップコンバージョン・トリプルスーパーヘテロダイン構成である。
但し、TS-440Sがリリースされた頃の時代背景からして、トリプルコンバージョンを普及機に使ったリグはまだ少なく*1、実際先代機TS-430Sが(トリプルスーパーのTS-930Sよりも簡略化された)45-8.83MHzのダブルスーパーだったことからすると、トリプルスーパーにすることで固定局並みの受信のフィーリングを持った本格HF機を目指したことが推察される。
標準仕様(OP未搭載状態)では、8.83MHz IFにはMCFが搭載されているだけで、SSB/CW用のIFフィルターは刺さっていない。
小型機にしてオートアンテナチューナー初内蔵 †
TS-440の目玉の一つであった「小型機にして初めて筐体に内蔵したオートアンテナチューナー」は、日本市場では内蔵品が標準仕様として売られていた。
しかし海外市場ではアンテナチューナーは別売りオプションとなっていたらしく、海外のサイトでは単に”TS-440S”と書かれているとアンテナチューナー非内蔵、TS-440SA又はTS-440SATとかかれていると内蔵らしい。
工業的デザイン †
瀟洒にして精悍げな色と配置を有するTS-440Sのフロントパネルの工業デザインは、ケンウッドのリグとしてはまさに「異色」であった。
たいてい時代時代で、メーカーごとにリグのフロントパネルには共通のフェイスがあった*2。これはラインナップとしての統一感を持たせるためという以上に、製品生産におけるパーツの共通化・メンテナンス上パーツの流用性というのが大きいと思われるが、TS-440と類似したフロントパネルを持つのは通信型受信機R-5000のみ*3であり、後にも先にも440的なフェイスを持つHF機が現れることはなかった。
ヒートシンクの形状も、放熱器が筐体にガッチリとマウントされている構造は以降のどのリグにも受け継がれる事はなかったようだ。
操作性 †
- 小型サイズの中ではとても操作性が良く、少し無線機を使ったことがある人ならば直感的に使用可能と思われる。
- 当時のケンウッドのリグに共通のツマミのアサインなのだが、ツマミはフロントパネル右側に集まっており、右端・真ん中の段にAF/RF、その左隣がRIT/XITである。右利きの人ならばとても操作しやすいはず。
- 周波数・メモリーNo.のテンキーによる直接入力が小型機で実現したことも当時売りの一つだった。
受信機としての極私的見解 †
- パリッとした音質。ノイズが少ないためS/Nが良好。悪く言うならば、音が硬くて音域が狭い。最高級機TS-940とは雲泥の差。
- プリアンプが無い(アッテネーターのみ)。ハイバンドでは感度がもう10dBぐらい欲しい。
- 混変調に強く、AGCが暴れたりすることもないので、バンド中が騒がしい場合でも聴感的な信号の滲みはあまり感じられない。大型アンテナを繋いでも3.5/7MHzを運用可能な数少ない小型機。
- AGCが重たい。SSBは悪くないが、CWのAGC定数はもっと短くてよい。
- 455kHz(3rd IF)のIFフィルターがセラミックフィルター。SSBはもちろんCWでも信号の浮きが物足りない。特に弱いCWでは高級機に比べて了解度不足を感じる。
- 強い局が居並ぶときには快適に使える一方、ここ一番ノイズフロアのカスカスな信号に耳を澄まそうとする際には高級機に比べてノイズからの分離が今一つであり、拾い上げがやや困難。凡百の小型機の受信性能とは比べるべくもないが、実戦機に比べるとやはり分が悪く、この辺がこの小型機の受信性能の限界のようにも思われる。
ということで、今となっては古さばかりが目立つものの、そこらの小型機よりも受信性能は良好なので、バーサタイルに使えるHF機に他ならない。
感度が低めで、か弱い信号の拾い上げが苦手なことから、どちらかというと弱い信号をS/Nよく聞き分けるDX向けよりも、7MHz SSBの国内QSO、あるいはペディションやコンテストなど、強い局が居並ぶ中で運用すると、より実力を発揮するリグだと思う。
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