TS-440Sの実力


強み

小型機なりの割り切りはあるにしても、堅実に回路・部品におカネを掛けて作られているため、トータルバランスのいいオールインワン・コンパクト機と言うのが特徴だろう。
無線機の良し悪しのほとんどは受信部によって判断され、実際メーカーの持つ受信部のノウハウと受信部へのおカネのかけ方で性能が変わるのも確かではある。

受信系

  • IFフィルターの切り替え(SELECTIVITYツマミ)が4段階*1で、オプションフィルターを2つ切り替えて使用可能*2
    • 特にSSB/CW/AM/AFSKモードでは、搭載されている全フィルターの切替が可能なのは便利。
  • フロントエンドの受信BPFのバンド分割数が小型機の割に多い*3このため1stミキサーに突入する信号が少なく有利。
  • 標準的だが堅実な回路で、かなり混変調に強い。ローバンドでも実践的に使用可能。

送信系

  • 小型機ながらオートアンテナチューナー内蔵(3.5〜28MHzで動作*4 )。
  • ヘビーデューティな送信部
  • フルブレークインが実用レベル

その他

  • メモリーが100ch可能

弱点(贅沢じゃない悩み)


受信系

  • 受信音が堅い。
    • IF帯域が狭いのが主因→改造可能。
  • 感度が他社機に比べると低め。ハイバンドでは特に10dB程度プリアンプがほしい。
  • BC帯でアッテネーターが掛かっており、感度が非常に低い→アッテネーター除去可能
  • IFフィルターまわり
    • オプションフィルターが挿さっていない場合、SSB/CWの選択度が悪い。「8.83MHz-6kHz/-6dBのMCF + 455kHz-2.2kHz/-6dBのセラミックフィルター」で決まるので、十分な特性が得られない→2nd IF(8.83MHz帯)のフィルター内蔵でかなり解消
    • IFフィルターの切替が純アナログ(ロータリースイッチ)で行われるので、モードを換えるごとにフィルターのツマミもいじりなおす必要がある。

送信系

  • SSBの送信音も堅い
    • これも帯域が狭いのが主因。
    • AF段(マイクアンプなど)も了解度重視のパリパリとした音のデザインをしている模様→コンデンサの値変更である程度改善する
  • CWのブレークイン動作(OFF/SEMI/FULL)とSSBにおけるVOX(OFF/ON/-)と共通なので、SSB/CWモードを変える際に注意が必要*5
  • CWの接点容量の関係で、エレキーなどでトランジスタ・キーイングをすると、容量不足の場合容易にチャピる。
  • データ通信(PSKなど)を行う場合、マイク入力・ヘッドフォン出力でも使用できないこともないが、ACC2(13ピン丸型DINコネクタ;PTT, 音声入出力・マイクミュート可能)が事実上必須。

全般

  • 故障しやすい。
    • 特にPLLのアンロックが非常に起こりやすい。
  • 送信・受信音が硬い→改造でかなり解消可能
  • もしモービル機として使うならば、イージーオペレーションの対極にあるため操作が煩雑すぎる
  • 待機・送信時とも消費電流多め
  • 小型機としてはかなり重い
  • 外部端子が特殊
  • 12V動作ではなく、13.8V動作である!*6
  • 周波数を飛ばすダイアルがない
    • 最近のリグではサブダイアルとして、クリック感のある1kHzステップ程度の粗動ダイアルがあるので周波数を振るときに重宝するが、当時はまだその思想は無かったのでメインVFOノブの周波数ステップを粗動に変えて動かすのが普通だった*7

高級機に比べたときの物足りなさ(少し贅沢な悩み)

送信系

  • 送信音のモニター機能がない
  • コンプレッサーがAFで音が悪い
  • エレキー非内蔵(当時は最高級機TS-940Sでも内蔵されていなかった)
  • リニアアンプに繋ぐことは考慮されているが、あまり向いていない*8。なお、リニアに繋ぐ場合のコツは以下の通り。
    • CAR(キャリアコントロール)つまみでいじれるのはFM/CW/AFSKの出力のみ(SSBのパワーコントロールはできない)。SSB運用時、リニア側のゲインが大きい(入力電力を低減する必要がある)場合には、マイクゲインを下げることを忘れないこと。安全を考えると最大出力を50W化するか、ALCの半固定抵抗で最大出力を低減しておく方がよいかもしれない。
    • リニアに繋ぐ場合のスタンバイ・ALCとPTT(フットスイッチ)などは、7ピン丸型DINコネクタで出力されている。*9

受信系

  • 混信除去機能が物足りない
    • IF SHIFTのみで、PBTすらない*10
    • NotchはIFではなくAF
  • ノイズブランカーがイグニッション用のみでNarrow/Wide切替がなく、LEVELノブもない
  • AGC定数がSLOW/FASTのみ
  • 近接周波数妨害に有効な455kHz (3rd IF)に、スカート特性のよいクリスタルフィルターを内蔵できない→ムリヤリ改造している人もいたらしい
  • アッテネーターが-20dBのみである*11
  • 受信用アンテナ端子が無い

基本性能

  • 高安定水晶のオプションがなく、周波数安定度を向上させられない
  • 高級機に比べて各部のシールドが甘く、ノイズに弱そう。

ということで、固定リグとして考えた場合には、サブ機としてはかなり優秀な部類に入ると思われるが、割り切られている機能は少なくなく、実戦機・高級機を使い慣れた人にとっては物足りなさを感じさせるリグではあると思う。


*1 W/M2/M1/Nと、あとモードによって自動的にフィルターが選択されるAUTOポジションがあり、CWだとN(ナロー)、SSBだとM1(SSBフィルター)に挿したフィルターが選択される。
*2 もちろんCWで500Hz, 250Hzの2本を積むことも可能。
*3 HF帯を10分割;通常は普及〜実践機クラスで5〜8分割ぐらい、実戦機でも10〜12分割ぐらい
*4 つまり1.9MHz帯では動作しません。
*5 特にCWをセミブレークインで運用後、SSBに切り替えるとVOXが作動しているので、状況次第ではいきなり誤送信してしまう可能性がある。
*6 実は、TS-440Sは電源電圧12Vでは動きません。13.8V動作です。「何をバカなことを!」と仰るかもしれませんが、本当です。もしTS-440Sをお持ちでしたら、ためしに電源電圧12V, 13.8VそれぞれでSSBで送信し、受信して音質をモニターしてみてください。個体にもよるようですが、12Vだと送信音が歪んで聞こえる個体でも、14V〜16Vにするとひずみがピタッと止まるのではないでしょうか。これはファイナルとドライバのバイアス電流として13.8V 200mAずつしか流していないのが原因で、12V動作の場合、バイアス不足気味の状態でパワーを出すので直線性が損なわれてしまうのです。12Vでも問題なく動作させたいのであれば、ファイナルユニットのVR1, VR2をいじってバイアス電流を増加させると良いと思います。経年変化でバイアス電流が落ちてる場合もあるかもしれませんので、その場合も要調整です。以上を読んで、意味が分からない人は触らないほうが良いと思いますが。とりあえず電源電圧16Vぐらいで動作させるのが、TS-440Sをうまく使うコツだったりします。
*7 ケンウッドで初めて装備されたのはTS-680S/140Sからかと思われる。
*8 電源さえ用意すれば運用可能なオールインワン・ベアフット機がコンセプトだからだろうか?
*9 スタンバイを出力させるためにはSwitch unitのジャンパーをOFFからONに挿しかえること。マニュアルに書いてあるが、結構見落とされるポイント。
*10 それでも、SSBフィルターを入れるとIF SHIFTの特性が著しく改善される
*11 私見であるが、実践的な運用ではローバンドでも-20dBのアッテネーターを使うことは少ないが、-10dBだとローバンド・ハイバンド問わずしばしば使う気がする。そういう運用スタイルの方であれば、抵抗を取り替えてATTを-10dBに変更してしまう方が便利かもしれない。