日本の竜


日本の竜

・中国大陸で生じた霊獣である竜は、中華文明の広がりとともに東アジア全域に伝わり、弥生時代には、銅鏡の意匠として我が国にも知られる様になり、4世紀には土器にその姿が刻まれるまでになっていた。 有名な高松?古墳やキトラ古墳の壁画にも、四神の一つとして竜が登場する。

・姿は四足・五色で角があり(『倭名類聚抄』)、足には羽があるともいう(『塵袋』)。 日本産の竜は通常三本指であるが、中国ではこれは最下級の竜の特徴であり、格が上がれば四本指となり、竜王なら五本指となる。文禄の役の後、明の神宗万暦帝から豊臣秀吉に贈られた衣装に刺繍されていた竜は、諸侯相応の四本指であった。四本指以上の竜は飾りに使われる例もあまり無かったので、日本には主に庶民的な三本指の竜が伝わったのであろう。

・訓読みでは「たつ」。<b style="color:black;background-color:#a0ffff">昇天</b>して「立ち上る」事に由来するともいい、<b style="color:black;background-color:#99ff99">雷</b>や竜巻は竜の仕業とされた。文献では、日本神話の中で玉依姫が「竜」の姿で出産したという一説が記されているものや、斉明天皇の元年(655)5月朔に、 「空中にして竜に乗れる者有り。貌、唐人に似たり。青き油の笠を着て、葛城嶺より、馳せて胆駒山に隠れぬ。午の時に及至りて、住吉の松嶺の上より、西に向ひて馳せ去ぬ。」 という奇怪な事件があったというのが古い例である(『日本書紀』)。

・竜は、自然の脅威を操る強大な存在として畏怖の対象となった。弘仁10年(819)には、京中に白竜が出現して暴風雨を起したといい(『日本紀略』)、「竜は鳴神の類」であって(『<b style="color:black;background-color:#ffff66">竹</b>取物語』)、足を見ただけで気絶するとか(『今昔物語集』)、瞬きが雷光になる等と囁かれた(『雑談集』)。

・文治6年(1190)には竜が降って来たので地震が起きたと言われ(『吾妻鏡』)、応永23年(1416)にも大雨が降った日に竜が下りて来たという噂が広まっていた(『看聞御記』)。

・勿論、悪い事ばかりでは無い。竜が降らしてくれる雨は恵みの雨でもあり、清廉な人の為に雨を降らしてくれた龍神や(『日本霊異記』)、自分の命と引き換えに雨を降らせてくれた竜も存在した(『法華験記』)。

・京都の神泉苑や奈良の猿沢池には竜が住むという伝説があり(『日本三代実録』・『富家語』・『古今著聞集』・『宇治拾遺物語』)、旱が続けば雨乞いが行われた。

・人々は、海が荒れれば「一の宝」を海中に放り投げて鎮まる事を祈り(『打聞集』)、旱が続けば馬の骨を滝壺に放り込んで降雨を祈った(『政基公旅引付』)。 始皇帝の望んだ鼎を引き上げさせなかったという中国の故事に由来する説であろうが、戦国時代の日本には、「竜が好きなので、鐘を船に積んではならない」という俗信があり、宣教師ルイス・フロイスを不思議がらせている(『日欧文化比較』)。

・ヨーロッパのドラゴンは悪魔の象徴であったが、我が国では仏典に竜(実はインドのナーガ?=那伽)が登場する事から崇拝の対象とされる事が多く、天狗を倒して僧侶を救出してくれる存在とされる事もあった(『今昔物語集』)。

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