こなきじじい


こなきじじい

徳島県の妖怪
体が老人だが子供の声で啼く。または赤ん坊の姿に化けることもある。騙された人間が抱こうとするとにわかに重くなって、振り払おうとしてもしがみついて離れず、最後にはとりついた者を押しつぶして殺してしまうという。

成立

ビジュアルとしては鬼太郎に登場する「腹掛けを蓑笠を着た小柄な爺」の姿が有名だが、これは水木しげるが創作したデザイン。
実は姿だけではなく、「こなきじじい」という妖怪が民間伝承の中で存在していなかった可能性がある。「こなきじじい」の言葉を徳島県で調査してみると、まったく伝承されていないのである。

文献としては、民間伝承の会1938年『民間伝承』第四巻第二号に収められている、地元民俗学者、武田明の報告「山村語彙」に

コナキヂヂ 子供の泣聲を眞似る怪。

とあるのが初出。
これを柳田國男が「妖怪名彙」(『妖怪談義』に収録)に、赤児に化ける爺の妖怪としてとりあげた。そして水木しげるが、この「妖怪名彙」から着想して描いたのが、日ごろ目にする「こなきじじい」の姿なのである。

では「山村語彙」に書かれた「コナキヂヂ」とはなにか?
「山村語彙」が採集された三好郡山城町上名平の付近には「コナキヂヂ」という妖怪の伝承は存在しない。ただ、赤ン坊の声を真似る老人が実在していたという。この老人をダシにして子供を嚇かすとき「コナキヂヂが来るぞ!」と言っていたものが、怪異として採集されたのだと思われる。
その怪異を、柳田が子供を通りすがりに人間に背負わせるウブメや背負うと重くなるというウバリオン、ゴギャナキなどの妖怪の要素重ね合わせることで、妖怪として解釈してしまったのだろう。

参考

タキタ氏による「こなきじじい」調査の現状報告ログ
http://scene5.com/yokai/bbs/pslg126.html
『日本妖怪学大全』所収 京極夏彦 通俗的「妖怪」概念の成立に関する一考察

ウブメ