読了.
湾岸戦争を題材にし,映画化もされた小説.
主人公のサーリング中佐には,湾岸戦争中に味方の戦車を誤射し部下を殺してしまうという,苦い経験があった.
戦後もトラウマから抜け出せず,書類仕事に回されていた彼は,懇意の中将に志願して,湾岸戦争で戦死した救命ヘリのパイロットである女性大尉,ウォールデンの名誉勲章受賞資格調査を任される.
しかし,関係者が語る戦死状況は食い違っており…
話の流れ自体は,サスペンスやミステリーとしてはありがちな部類で,その舞台を軍隊にし,当時はやっていた戦争のPTSD関係をくっつけたような印象を受けた.
軍隊やホワイトハウスという組織に対するスタンスも,何か言いたそうだがいまいちはっきりとしない.
「中立」ではなく「中途半端」な感じ.
フィクションだけに,都合の良い設定がかえって目についてしまう.
ストーリー自体,英語版アマゾンで突っ込まれてるが,「勇気」といってもいろんな勇気があろうとも思う.
しかし,戦闘の描写は秀逸.
ウォールデンの戦死状況は,様々な人々の目線から語られるが,それぞれの描写が,非常に臨場感あふれる形で描かれている.
また,サーリングが戦車中隊長として参加した戦車戦も,作中で回想されるが,戦闘描写だけでなく心理描写も,非常に丁寧で素晴らしい.
訳文はそれほどおかしいところもなく,読みやすい.
映画は未見だが,訳者の解説を読んでいると,映画の方が筋としては面白そうな感じに見える.
なお,訳者解説は原作と映画の主要な相違を,結末を含めてばらしているので注意.
映画版のwikipediaに,米軍が積極協力しなかったと書いてあったが,軍隊に大して批判的でもない(モルヒネくらいか?)小説を読むに,実は兵器を借りるお金が足りなかっただけではないか?と思わないでもない.
総合すると,他人におすすめはしにくいかなあ.
戦闘描写が目的なら,読んでみては?という程度に感じた.
映画は,センチュリオンを改造してM1戦車もどきを造るような,大変な手間をかけて戦闘シーンを撮影したものなんで,金がなかったってことは考えにくいかと.
なんか一昔前は米軍って,エラい映画撮影に非協力的だったじゃない.
今はリクルートに必死だから,活躍シーンがあれば大体協力してるみたいだけど.
その当時の米軍の方針の影響じゃない?