91年、筑波大校舎内で、筑波大助教授の五十嵐さんが首や顔などを切りつけられ殺害された。
五十嵐さんは、イスラム圏で発禁本指定をうけた問題小説「悪魔の詩」の日本語版の翻訳を担当していた。
イスラム過激派の指導者ルーホッラー・ホメイニは「悪魔の詩はマホメットとイスラム教を冒とくする内容」と評し、著者サルマン・ラシュディ氏の暗殺予告と関係者の糾弾を宣言していた。
2006年7月11日、殺人罪の時効が成立した。
小説「悪魔の詩」の翻訳者で筑波大助教授の五十嵐一さん(当時44歳)がつくば市天王台の同大で他殺体で発見された事件は、間もなく時効まで1年となる。
妻であり、帝京平成大(千葉県市原市)助教授の雅子さんは14年間を振り返り、「事件を風化させたくない」と訴えている。
「悲しむ、なんて生易しいものではなかった。ショックから台所で食事を作っている最中に、気を失ったことが度々ありました」。雅子さんは事件発生時を振り返る。
当時は専業主婦だったが、五十嵐さんの知人のつてで大学の非常勤講師を始め、中学生の長女と小学生の長男を育てた。
「辛い日々が続いたが、子供を育てなければなりませんでした。同時に、人との関わりを大切にしながら社会に貢献する主人の志を、どう受け継いでいったらいいのか、と考えました。毎日悲しんだり思い出に浸っていてはいけない、と自分を励ます日々でした」。仮に犯人が国外に逃亡していれば、その期間は時効が延びる。
雅子さんは「解決のため、1年に一度くらい事件を思い出してほしい」と話している。
県警の調べでは、犯行は発見前日の11日夜とされ、現場から五十嵐さんとは異なるO型の血痕や、犯人が残したとみられるカンフーシューズタイプの足跡が見つかった。
学内関係者ら延べ2800人から事情聴取を行ったが有力な目撃情報はなく、犯人像、犯行目的を絞れないまま捜査は難航。「アラブ系の男が海外に逃げた」との情報もあったが、現在は「専従体制は取っておらず、市民からの情報もない」という状態だ。
2005/7/9 共同通信
1991〜2000