永久雪原ストラスの外れ、大海を望む、レスダト海峡は冬季ということもあり、
一面凍結していた。時折、氷同士が押し合う、甲高い音が聞こえた。そこに永遠とも
いえる沈黙を破るように、機械音とともに、３機の機獣が現れた。蒼い獅子、真紅の竜、
白い虎だった。
『センサーを信じれば、氷の厚さは十分ゾイドの重量に耐えられるわ』
先行して氷の厚さを調べていた真紅の竜―ＢＦシュトゥルム改に搭乗する、ティア＝
シュラー少佐が後続の２機蒼い獅子―イクスver.XB（クロスブレード）のブレイズ＝
ドレッセル中佐、白い虎―セイバータイガーＳ（スカウト）のシモン＝ミカムラ中尉に
伝える。
「よし、気づかれない内に渡る。行くぞ！！」
３機は滑り易い氷の上を躊躇なく疾駆した。だが、しばらくすると、
『！！前方０時方向２キロ先に機影、数５、味方識別信号なし、･･･ヘリックの部隊だわ。
何でこんなところに･･･』
ティアが呆然とする。高性能を誇る彼女の機体のレーダーがこれほど接近するまで反応
しなかったのだ。驚かないほうがどうかしている。
『海峡の上だと、季節風によって舞っている塵のせいでレーダーが利かないことがあるさ。
参ったね、常識外れの指揮官が敵にいるようだねぇ。まさか、こんなところに部隊を置く
なんて』
シモンがため息混じりに言う。更に一言付け加える。
『俺を戦力と思わんでくれよなぁ〜』
「思慮のない指揮官か、回転の速い指揮官か、前者ならありがたいんだが･･･。
この距離じゃ不可避だろう。ティア、やるしかない･･･」
ブレイズが指示を出そうとした時、少女に近い声の全周波数無線が入る。
『･･･あぁ、あ･･･マイクのテスト中･･･、じゃなくて！そこのガイロスのゾイド達、
無駄な抵抗はやめなさーい。速やかに、投降するように。わかった？わかったら白旗
揚げなさいよ！！』
突然の一方的な宣言に３人ともが声を失う。こんな宣言をする奴は戦場では見たことも
聞いたこともなかったからだ。
『どうします？隊長さん、降伏します？』
ティアが冗談交じりに言う。そのうちにも敵部隊との相対距離が縮まる。
『光学映像出るわ、送るわよ』
ティアのシュトゥルム改からの光学映像がモニターに出る。
『マトリクスドラゴンが２機、コマンドウルフとゼロイェーガー、そしてハイデンなし
の白いブレードライガーの５機か･･･。どうやら、高速機だけで急ごしらえで組織した
ようだ』
ブレイズが敵部隊の編成を解析する。だが、シモンは少し反応が違った。
『ま、まさかあのブレードライガーは･･･』
シモンの呟きを誰も聞き取れなかった。そこに、
『白旗が揚がらないわね〜。どうしたの？』
調子を狂わすような、先程の声が白いブレードライガーから再び発せられる。
ブレイズは、相手を威圧するように外部スピーカーを使う。
「そちらこそ引いてもらおう。こちらは急いでいるんだ。この『蒼雷』の餌食に
なりたくなければ、引け！無駄な戦いはしたくない」
ティアが「早速使っている」と思い、笑いを堪えているのがわかるが、構っていられ
なかった。だが、
『「蒼雷」？聞いたことはないわねぇ〜、そんな脅しは効かないわよ〜』
少女が正直に感想を言い返す。傍らのマトリクスドラゴンのパイロットが助言する。
ティア機のマルチチャンネルレシーバー（ＭＣＲ）によってその助言は拾われていた。
『アンジェリーナ様、あの蒼い機体は、噂の「蒼いイクス」です。あながち脅しでは
ないかと思いますよ』
助言を気に介せず、アンジェリーナは、
『ゴードンは心配性ね。なら、私が戦うわよ』
そのセリフと同時に白いブレードライガーから画像つきレーザー通信が入る。
ブレイズは回線を開いた。
『あら、思ったよりいい男ね。私は２代目「白兎」こと、アンジェリーナ＝ワトソンよ、
「蒼いイクス」さんじゃなくて、「蒼雷」さんだったわね。よし決めた。私のブレードライガー
ＴＢ（ツィンブレード）と一騎打ちしなさい。私が勝ったら、召使にするわ』
「な、何ー！！」
アンジェリーナの一方的な宣言にブレイズが反応する。そこに傍観していたティアが
音声だけだが、
『ふざけるんじゃないわよ＃貴女、何考えているの！！』
激昂する。しかし、当のアンジェリーナは涼しい声で、
『きゃー、怖いオバサン』
と、正直に言う。更に怒るティア、
『＃な･ん・で・す・って〜〜！！！＃』
彼女の怒りは、ほぼ限界に達していた。彼女のシュトゥルム改が足元にアンカーを
打ち込み、拡散荷電粒子砲の発射体勢を取る。
「ティア！！」
ブレイズが制止する間もなく、シュトゥルム改が拡散荷電粒子砲を発射した。拡散荷電
粒子砲はブレードライガーＴＢを狙ったのだが、ブレードライガーＴＢはひらりとステップで
回避する。後方にいたコマンドウルフが直撃を受け、溶解した。その爆発の余波は氷の上を吹き荒れ、
雪煙を巻き上げ、視界を遮る。
「ティア！！」
ブレイズが再度声をかける。
『あ、私、暴走しちゃったの･･･。ごめんなさい』
ティアは正気に返り、謝る。シモンは、
『おっかない、おっかない。でも、これじゃ、ただじゃ済まないねぇ〜』
と呟く。聞いてか、聞かずか、
「来るぞ！！」
と、ブレイズが注意を促す。だが、そのセリフが終わらないうちに雪煙を切り裂いて
ブレードライガーＴＢが突貫して来た。ブレードライガーＴＢは接近と同時にその名前の
由来の、左右２本ずつ、４本のレーザーブレードを展開する。
「こいつは！」
『ブレイズの機体と同じ？！』
ブレイズとティアが驚くが、ステップで奇襲を避けていた。しかし、シモンの
セイバータイガーＳは背中のＬＲ２５０�瀬�ャノンを基部から切り落とされ、その衝撃で
地に這っていた。更にその後方からゼロイェーガーが接近するとソニックブームを撃ち出す。
ブレイズとティアはステップ中で回避できず、装甲の一部を剥がされた。
『どう？それじゃ、他の機体をお願いね』
アンジェリーナは、ゴードン達に指示する。
『お任せを！アンジェリーナ様』
『アイ、アイ、サー』
ゼロイェーガーはハイパーブレーキをすると、ティアのシュトゥルム改に爪で
襲い掛かる。ティアはステップでかわし、距離を取る。シモンのセイバータイガーＳも
よろよろと立ち上がる。しかし、そこに遠距離からマトリクスドラゴンの魚雷ミサイル、
８連ミサイル、対空ミサイルが雨のように降り注ぎ、２機は後退を余儀なくさせられる。
気がつくと、ブレイズのイクスver.XBとアンジェリーナのブレードライガーＴＢが孤立し、
ティア機とシモン機の間にゼロイェーガーとマトリクスドラゴン２機が遮る形になった。
「これじゃ、『白兎』の意図通りだが、ティアの方はまともに戦えるのは１機じゃ、
分が悪い」と、ブレイズは判断すると、
「ティア！シモン！逃げろ！！」
と叫ぶと、自分も活路を切り開くべく、ブレードライガーＴＢに向かっていった。
『ティア！シモン！逃げろ！！』
指示をしながら、ブレードライガーＴＢに向かっていく、ブレイズにティアは思わず、
「ブレイズ、貴方こそ無茶よ！」
と返しつつ、
「シモン、聞いての通りよ、活路を開くわよ。ついて来て！！」
シモン機に指示すると手前のマトリクスドラゴンに突進する。そのマトリクスドラゴンと、
ゴードンのマトリクスドラゴンからもハンドガン、対空ミサイルが放たれるが、
ハンドガンの弾丸が装甲に食い込むだけで三連衝撃砲と、ウェポンバインダーを一斉に、
ブーストダッシュとステップ回避しつつ、手前のマトリクスドラゴンにカウンターで放つ。
『この程度で、マトリクスドラゴンは倒せんぞ！』
パイロットの気合と共に、よろめきこそしたが、マトリクスドラゴンは全ての弾を受け
ても尚、立っていた。しかし、ティアのシュトゥルム改が間合いを詰めると、死角をつく
ようにサイドステップして、両方のエクスブレイカーを振り下ろし、３枚におろす。
その場で爆発、四散する。しかし、動きの止まったシュトゥルム改に向けて、バルカンを
撃ちながらゼロイェーガーが肉薄し、同時にゴードンのマトリクスドラゴンの８連
ミサイルが撃ち込まれる。
『クソーッ、俺は戦闘員じゃないんだけど･･･』
しかし、シモンが、健在な武装のウェポンバインダーをゼロイェーガーに向けて
牽制弾を撃ち込み、足を止める。ゼロイェーガーがシモンのセイバータイガーＳに
向き直った。
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