JOLT氏『ゾイド∞2on2 第5話 鉄竜、山を越えて』


「……そう、良かったわね。本当に、おめでとう」 「ゴメンなさいですヨ、姉サン……」 「何言ってるの。あなたが幸せになるのに、謝る事はないでしょ?」 「姉サン……」 「胸を張って、幸せになればいいの、ね?」 「アリガトですヨ、姉サン。……デモ、姉サンもダイジョブですヨ!」 「え?」 「想いハ、伝えるノですヨ!扉ハ、無理ヤリにデモ開けるノですヨ!」 「……」 「計画モ、準備モ、All OKなのですヨ!」 「……で、でも……」 「ルカ姉サン、戦うノですヨ!未来ハ勝ち取るノですヨ!」 「……うん、分かった。ルーシアちゃん、連れてって!」  そして、銀色の影は疾風の様に走り出した……。

 狼コンビ『Castle on Sand』との対戦から1週間が過ぎた。  『The Rebersi』の無敗は相変わらず続き、90勝を突破。  彼らは、全国の掲示板などでも話題に挙がってきている。  自演や狩りの噂も飛んだが、実際の証言から一瞬にして消え失せた。  最近では他県からの遠征者も見られるが、全ての挑戦者は斥けられた。  いつしか、『Zircon』は強豪の集う場所になりつつある。  そう、全ては『The Rebersi』を倒すために……。

「そこっ!」  シロウの叫びと同時に、BLのブレードがELを切り裂く。 「こちらも、これで終わりだ!」  クロウの気合と共に放たれた3連衝撃砲がPHの翼を黒煙で染める。  二人にとっては、もう見慣れた『WINNER』の文字が画面に表示された。

「ふう、これで98勝目だね」 「ああ、ダテに少将ではなかったな。かなりキツかった」  シートにもたれかかる二人に、対戦相手が近づいて一礼する。  二人も笑顔で頭を下げると、対戦相手は満足げに去って行った。 「なんか、気分がいいね」 「ああ、礼儀をわきまえたランカーというのは人望もありそうだな」  CPUを危なげなくこなす二人に、後から声がかかる。 「『The Rebersi』に、挑戦させてもらいますよーん」 「無敗神話、止めさせてもらうっしょ!」  振り向いた二人の視界に飛びこんできたのは、眼鏡をかけた二人組。  身長も体格も標準の彼等だが、何かしら異質のオーラを感じさせる。 「『The Rebersi』と戦うために、○○県から来たよーん」 「では、早速乱入っしょ!」  彼らはダッシュで反対側の筐体へと消えた。 「……なんていうか、濃い連中だな」 「うん。しかし、車で2時間以上遠征してきたのは驚きだね。根性あるなあ」 「単に、ヒマ人なだけだろう。普通は、ゲームだけで山脈越えてはこない」 「おいおい……」  相変わらずの毒舌に辟易する間にも、挑戦者のメッセージは流れる。  やがて、対戦カードが表示された。

『The Rebersi』 PN・Shilow大尉  ZN・Urano Earth(BL) PN・Klow大尉    ZN・Dark Aegis(SL)    VS 『Iron Dragon』 PN・Origin最高司令官 ZN・Heroical Nag(BF) PN・Bluff最高司令官 ZN・Give Me Banana(PK)

 舞台はシドニア、新たなる戦いの幕は開けた。

「ほう、最高司令官が登場か。俺達も有名になったもんだな」 「うん、ちょっとヤバいかもね」 「何を弱気な。負けるつもりなど俺はないぞ」 「もちろん、オレもだよ!」  シドニアの通路をBLとSLが駈ける。  その通路を埋め尽くすように、一筋の閃光が走った。 「ヤバ!」 「おっと!」  間一髪でBLもSLも拡散荷電粒子砲をステップでかわす。  しかし、BLの着地にあわせて荷電粒子キャノンが迫る。 「くそっ!」  間一髪、BLはジャンプでキャノンを避けた。 「恐ろしい置きだな、まったく」  呆れたようにクロウが呟く。 「今のは当たるのが普通っしょ!空気読むっしょ!」 「あははー、オリジンがヘタレだからだよーん」 「ブラフもはずしてるっしょ!お前こそヘタレっしょ!」 「僕はヘタレ司令官だって公言してるよーん」  対戦台の向こうから、緊張感や礼儀とはかけ離れた言葉が響く。 「……おい」 「……クロウ、何も言わなくていいよ。腕と人格は比例しないんだから」  心底呆れた声をもらしながら、BLとSLは通路を抜けた。  広がるのは、すり鉢状のシドニアの地面。 「さて、この高低差がやっかいだな」 「とりあえず、上を取っていかないとつらいね」  2機は、外周を回るように移動を始める。

 BFはそれを迎え撃つように移動するが、PKは坂を駆け下りた。  中央の盆地に降り立つと、10連ミサイルをひたすら撃ち始める。  何発かがSLにHITし、HPをわずかではあるが奪っていく。 「ち!うっとおしい!」  SLも3連衝撃砲とDCSを命中させるが、PKは倒れず撃ち続ける。 「く、あれで倒れないとは、さすが対ゴジュラス機体だな」 「クロウ!ガード!」  警告の声に、クロウは反射的にレバーを内側に倒す。  左側面から突き出された2本のバスタークローに、ガードが間に合った。  反射的にステップしたSLに、さらにBFのステップ近接が襲い掛かる。  かすった1本のバスタークローを、SLは辛うじて空中でガード。 「直線的な近接など!」  BFを避けるように、右ステップ近接の爪を光らせるSL。 「甘いっしょ!」  その瞬間、BFの尻尾が唸り、SLは吹き飛んだ。 「何ぃ!ゴジュラス並みの尻尾格闘だと?」  驚愕しつつも、クロウはレバーを回して起き上がろうとする。 「この!」  BFの硬直に合わせて、シロウがBLのブレードをHITさせる。  BFが宙を舞った瞬間、今度はBLに衝撃が走り吹き飛んだ。 「あははー、パックC当たりだよーん!」 「ナイスフォローっしょ!」  ブラフとオリジンの上機嫌な声が、周囲に響く。 「くそ、嫌なコンビネーションだ」 「さすがに最高司令官。隙がないね」  起きあがった2機は、接触してHPを等分する。  ギャラリーの大多数は時期尚早と思ったが、二人は今しかないと判断した。  彼らを相手にして、自分たちが接触するチャンスはほぼないと。

「感心している場合か。俺はPKに向かう。お前はBFを頼む」 「了解。なんとかしてみるよ」  同時に起きあがったBFに、BLは近距離で際どい駆け引きを繰り広げる。  その間に弾幕をかわしつつ、射撃を命中させながらSLはPKに接近する。 「残念、そろそろ時間だよーん」  ブラフの陽気な宣言と同時に、シドニアの盆地がせり上がった。 「く、俺とした事が!」  SLはジャンプしたが届かず、PKを乗せたままの盆地は上昇していく。  そして、通路と同じ高さで静止した。 「さーて、撃ち下ろしタイムの時間だよーん」  ロックを切り替えながら、10連とウエポンパックCが降り注ぐ。  シールドで防御した途端に、BFのビームキャノンがSLに突き刺さる。 「このっ!」  BLがBFにハイデンとショックカノンを撃ちこむが、輝く盾が阻む。 「荷電粒子シールド!」 「お前らには、貫通武器がないっしょ!チェックメイトっしょ!」  オリジンの自慢げな声が、高らかに響く。 「ふん、甘い!」  クロウは両レバーを開き、両トリガーを引いた。  SLのDCSユニットが輝き、二条の閃光がシドニアを貫く。  しかし、その閃光ですら荷電粒子シールドは受け止めた。 「無駄っしょ!貫通しないっしょ!」 「ああ、貫通はしない。だが、ENが持つかな?」  閃光が収まった瞬間、間髪入れず3連衝撃砲がBFのシールドに命中。  BFはSDを起こし、装甲を守る輝きは消え失せた。 「しまったっしょ!でも、ダメージは食らってないっしょ!」 「まだまだ!これが本命だよ!」  肉迫したBLの8味噌が全弾HITし、さらにブレードがBFを切り裂く。

 さすがに大ダメージを受け、BFは地に伏せた。  そのBFに、追い討ちで10連が突き刺さる。 「こら、ブラフ!こっちは味方っしょ!」 「あははー、ごめんごめん。まあ、僕ヘタレですから」 「チャーンス!」  間髪入れず、BLはハイデンとショックカノン、さらには近接を入れる。  その攻撃でBFは黒煙を上げ、動かなくなった。 「やられたっしょ!ブラフ!勝たないと許さないっしょ!」 「あははー、がんばるよーん」  慌ててPKは台座の端まで移動し、SDして動けないSLに荷電粒子キャノ ンを叩きこむ。  SLが転倒したと同時に、PKの乗る台座が下降し始める。 「あらら。今降りるのは、やばいよーん」  台座が降下しきって盆地へと戻った時、そこには起きあがったSLがいた。 「さて、借りはきっちりと返させてもらうぞ」  SLは真っ直ぐPKへと駈ける。  DCSと3連衝撃砲を当てながら、PKとの距離は縮まっていく。  荷電粒子キャノンのリロードは完了していない。  ブラフはバックステップしながらウエポンパックCを発射するが、クロウは 絶妙のタイミングでシールドを展開し防御した。  SLは、そのままシールドステップ近接に入る。  バックステップで距離を取ろうとするPKに、SLが突撃していく。 「もらった!」 「あははー、甘いよーん」  ブラフはバックステップの着地と同時に、両レバーを開き両トリガーを引く。  SLの目の前に一瞬白い波紋が浮かび、PKはシールドへと飛びこんだ。  SLのシールドが消え失せ、PKの左フックがHITする。 「何!吸い込んだだと?」

 さらに、右フックがSLの顔面を叩く。 「ひっさぁーつ、真・デンプシーロールだよーん!」 「違うっしょ!アイアンビートっしょ!」  PKの両拳は止まることなく、交互にSLの顔面を殴り飛ばし続ける。  その速度は加速していき、すさまじいダメージが入っていく。  無駄だと分かりつつもレバーを回してしまうクロウだが、やはり無意味。  ようやく連打が終わり、最後の右ストレートがSLを吹き飛ばす。  黒煙を上げ、動かなくなるSL。 「3800あったHPが、一瞬でなくなるだと……」 「当然っしょ!アイアンビートは装甲無視で合計4000ダメージっしょ!」 「あははー、でもシステムダウンしちゃうんだよーん」  確かに、PKの動きはGJ並に鈍っていた。 「ブラフのアホー!ばらしてどうするっしょ!」 「それぐらい知ってるよ!というわけで、ブレードツイスター!」  チャンスを逃すことなく、BLが宙を舞う。  白き竜巻はPKを貫き、着地した。  惰性のスピードを利用してHBし、追い討ちの8味噌を叩きこむ。 「くそ!倒しきれてないか!」 「あははー、ラッキーだよーん」  わずかに200程度であったが、PKのHPは残っていた。  SDから回復しつつ、PKがのっそりと起きあがる。  対するBLはSDから回復しておらず、8味噌もリロード中。 「もらったよーん!」  走れないBLに10連、荷電粒子キャノン、ウエポンパックCが襲い掛かる。 「これしかないか!」  荷電粒子キャノンをステップで避けたBLはショックカノンを発射する。 「あははー、それしかないんだから避けられるよーん」  PKは軽がるとステップで避け、念のためハンディマシンガンに切り替える。

 その時、ウエポンパックCがBLに突き刺さり、着弾煙を上げた。  さらに、10連が続いて着弾していく。 「あははー、これで決まりだよーん」 「完璧っしょ!ブラフ、よくやったっしょ!」  勝利を確信するブラフの視界に、二発の青い光弾が走る。 「!」  咄嗟にステップしたが1発の光弾がPKの肩を貫き、……崩れ落ちた。 「な!何が起こったっしょ?」 「あははー、負けちゃったよーん」  BLは、ハイデンを構えた姿勢で雄叫びを上げていた。 「ふう、ギリギリでSDから回復してシールド張れたよ。カノンのおかげだね」 「よくやった。これで、1セット先取だな」  ホッとした表情を見せるクロウに、シロウは笑いかける。 「いや、違うよ。これで、オレたちの勝ちさ」 「ん?どう言う意味だ?」 「ハイレベルでギリギリな戦いを取れなかった精神的ダメージは大きいって事」  自信ありげなシロウの表情に、クロウの顔にも笑みが浮かぶ。 「では、99勝目を頂くとするか!」 「了解!全開で行くよ!」

 シロウの言葉通り、2セット目は一方的な展開となった。  台座戦術を取ろうとするPKは、BLに終始まとわりつかれダメージを蓄積 していく。 「あははー、このパターンはつらいよーん」 「今度は安全策なんて、取らせないからね!」

 BFは、SLに中距離をキープされて射撃戦で削られていく。 「こら!後ろ斜めステップばかり、ずるいっしょ!」

「ずるいも何も、SLでBFの格闘に付き合うのは馬鹿だけだ」  SLは的確にシールドを張り、全方位も3連衝撃砲も防御していく。  さすがにビームキャノンは時々かするが、タイミングを合わせDCSで反撃。  当然、荷電粒子シールドは間に合わずにオマケの20mmまでも命中する。  しかも、そのタイミングで荷電粒子キャノンまでBFに命中し転倒した。 「ブラフ!こっちは味方だって言ってるっしょ!」 「あははー、撃たされちゃったよーん」 「一直線になったのは確認してたんだけど、ここまで狙い通りに当たるとはね」 「悔しいっしょ!もう誤射は勘弁っしょ!」  BFが起きあがる頃には、盆地はBLとPKを乗せて上昇していった。

「ここまでは予定通りだな。さて、ひっかかってくれるか?」  後ろ斜めステップを多用したSLは、通路まで追い込まれる。 「チャンス到来っしょ!追い詰めたっしょ!」  BFは、通路に向かって拡散荷電粒子砲を放つ。 「甘い!高低差を考えるんだな!」  SLはバックステップで荷電の帯をかわした。  荷電粒子が空しく通路の天井を撃ち、BFはバスタークローを収納する。

「よっし、ブレードツイスター!」 「正面なんて、甘いよーん」  台座では、BLが竜巻と化し飛ぶがPKにガードされる。 「甘くなんてないよ、激辛の本命が来るのさ!」  シロウが自信に満ちた笑みを浮かべる。

「くらえ!DCSマックスファイアー!」  BFがバスタークローを収納した瞬間、SLから閃光が迸る。  しかし、それはBFとは見当違いも甚だしい方向へと放たれた。

「どこ撃ってるっしょ!はずれっしょ!」 「いいや、大当たりだ」 「さすがクロウ、完璧だね」  ブラフのPKが閃光に包まれて崩れ落ち、黒煙を上げる。 「しまったよーん!」 「通路と台座の高さは同じ。狙い通りに動いてくれたな」  クロウは、口元を満足げに歪めて笑う。 「こうなったら、お前だけでも倒すっしょ!」  BFはバスタークローを背中に向け、ブーストを全開して通路に飛びこむ。  SLの3連衝撃砲が命中するが、倒れるほどのダメージにはならない。 「SDしたお前には、これは防げないっしょ!」  オリジンはトリガーをリズミカルに左、右と引く。  しかし、3連衝撃砲は全弾発射されたが、全方位は数発しか放たれなかった。  16発のミサイルに吹き飛ばされ、崩れ落ちるBFから黒煙が上がる。 「分かってるとは思うけどさ、SDしてても8味噌は撃てるんだよ」  シロウは満面の笑みを浮かべ、レバーから手を離す。  画面には『WINNER』の文字が表示される。  勝ちぬいた獅子達は、勝利の咆哮を上げた。

「悔しいっしょ!何で負けたっしょ!」 「あははー、まだまだヘタレですから。……この前は、小学生に負けたし」 「言うなっしょ!あれは、油断しただけっしょ!腕上げて、また来るっしょ!」  『Iron Dragon』の二人は、騒ぎながら店を去って行った。 「ふう、なんとか勝ったね」 「かなりギリギリだったがな。さて、記念の100勝目は誰が相手だ?」  しかし、CPUを数戦進めても誰も乱入してこない。 「む、今日は無理か。まあ、対した事ないヤツ相手の100勝目ならいらんが」 「どんな相手でも、1勝は1勝だと思うけどね。まあ、大丈夫だよ」

「ん?どう言うことだ?」  シロウは、CPUのHPを0にしてから後ろを振り向いて、笑顔を向けた。 「どうやら、間に合ったみたいだね。それも、最高のタイミングだよ」  そこには、ルーシアとルカが息を切らせて立っていた。 「ヨ、良かったですヨ。マ、マダ100勝してなかったですネ」 「ああ、君達がその相手になるね」 「か、必ず止めテ見せますヨ。ワタシが勝ったラ、約束守ってクダサイですヨ」 「もちろん。オレが勝っても約束は守ってもらうよ」  二人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑う。 「……クロウ……、……さん……」  クロウは言葉も無いまま、ルカ視線を合わすことすらできない。 「さて、ボス戦になっちゃうよ。始めようか」 「ソですネ。行きまショウ、ルカ姉サン」 「……え、ええ」  一瞬だけ、クロウに悲しげな瞳を向け、ルカはルーシアに引かれて反対側の 対戦台へと消えた。 「おい、説明しろ」 「説明も何も、単純な事だよ。今日で100勝目になるって言ったら、ルーシ ア……さんが、阻止してみせるって張りきってただけさ」 「しかしだな」 「ん?彼女らが相手じゃ問題でも?不足は無いはずだよ」  あっさりと言われ、クロウには反論の言葉もない。 「……分かった。全力で行くぞ」 「当たり前だよ。彼女らは強いんだから、手抜きなんて出来ないよ」  レバーを握り直しながら、シロウは心の中で呟く。 (それに、アンタと組むのは……。だから、全力で楽しませてもらうよ……)

 全ての糸は絡み合い、解け、また絡み合う。戦いの果てに……。