「オレは、アンタと戦いたい。ルーシアは、ルカさんの気持ちを大切にしてあ げたいし、オレと一緒に戦いたい。ルカさんは、アンタと戦いたくない、むし ろ一緒に戦いたい。そして、アンタは……、ルカさんとは戦いたくない」  その言葉に思わず腰を浮かせて反論しようとするクロウだったが、シロウの 鋭い言葉がそれを制する。 「先程の戦いを、特に1ラウンド目を見れば、誰だってわかるさ!」  叩きつけるような口調に言葉を失い、クロウは椅子へと力なく崩れ落ちる。  それを見やってから、シロウはいつもの口調に戻る。 「実は、あの戦いは二つのテストを兼ねていたんだよね」 「テスト、だと?」 「うん、一つ目は、オレとルーシアの新チームにおけるリーダー権の決定。こ れは、オレに決定。ね、ルーシア」  アイスコーヒーのグラスを揺らしながら、ルーシアは悔しそうに頷く。 「まあ、ついでにキスするかされるかを賭けてたりもしたわけなんだけどね」 「シ、シロゥ!」  さらりと恥ずかしい事実を暴露され、頬を真っ赤に染めて抗議するルーシア。 「HAHAHA、ナカナカやりますネ、シロゥ君も、Lucierも」 「ところでシロウさん、将来わたくしたちの面倒は見ていただけるのかしら?」 「うーん、努力はしてみます、ということで今は勘弁してください」 「モ、モウ!3人とモ、気ガ早スギなのですヨ!」  軽い口調で続く夫婦と彼氏の会話に、さらに動揺を激しくするルーシア。  それを楽しげな表情で見てから、シロウは話題の核心に続いた。 「で、二つ目は、クロウがオレのパートナーとして適切か。いや、ルカさんと 戦いたいのか、と言った方がいいかな?結果は……」 「言わなくても明白だ。俺は、失格だ。俺は、……ルカと戦いたくないらしい」  シロウの台詞を遮り、クロウは自虐的に言い放つ。 「……クロウ、さん……」 「ルカは、すごいな。冷静に戦い続けた。俺には、できなかった」

「……冷静を装っていただけですよ。……本当は、……本当は……」  俯いたルカの頬を、一筋の涙が流れる。 「クロゥ君、Lukaも苦しんでいたのですガネ」 「クロウさんのパートナーになりたい気持ちと、クロウさんと戦うつらさの間 で、それでもこのコは戦い続けていたのですよ。必死にね♪」  夫婦が、言葉を失った娘の気持ちを代弁する。  何も言えなくなったクロウに、シロウがボソリと呟いた。 「クロウ、そろそろ思い出してあげなよ。10年前からの想いをさ」 「……何の事だ?」  白々しくとぼけるクロウだが、その脳裏には忘れられない記憶が半ば強制的 にロードされてくる。 「七夕の夜、オレ達は出会っていた。憶えてないとは言わせないよ」  シロウの台詞が最後のパスワードを解き、クロウに10年前の光景を見せた。

 ……そう、あれは俺達が20歳の七夕だった。  俺達は、地元の祭りに繰り出し、ゾイドが景品に存在しているクジの屋台で 大人気無く諭吉さんを使い込んでいた。  社会人になったばかりの身では厳しい出費だったが、戦果は満足だった。  まあ、店のおっさんや子供は呆れた目で見ていたが、いらない景品は子供に 配り、おっさんに返還してやると感謝の視線に変わったので問題はないだろう。  両脇に戦利品を抱え、俺達は境内の隅で休憩を取っていた。  その時だ、女の子の泣き声が聞こえてきたのは。

「ルカ姉サン!血が、血が出てるのですヨ!」  泣いていたのは、黒髪の少女。 「……大丈夫よ、ルーシアちゃん。ちょっと転んだだけだから。……痛っ!」  妹を慰めながら立ちあがろうとして、再度転んだのは金髪の少女。  慣れない浴衣姿で歩き回ったため、根に足を取られて転倒したらしい。

 回りを見渡しても、俺達の他に人はいない。  視線を戻してみれば、すでにシロウのやつは女の子に駆け寄っていた。 「やれやれ……」  あれを見て、放っておくわけにもいくまい。  俺は、荷物を置いて、裏にあるはずの水道へと歩き出した。

「ルカちゃん……だっけ?歩けるかい?」  なるべく優しげな声をかけ、ルカと呼ばれた少女の足を診るシロウ。  そのシロウにしがみつくように、ルーシアと呼ばれた少女は泣きついている。 「あ、ルーシアちゃん……だっけ?大丈夫だよ、お兄さんがついてるから」  あいつめ、とりあえずおじさんと呼ばれないように釘を刺してやがる。  苦笑を洩らしながらも、俺は金髪の少女へと歩み寄った。 「ほら、足を出してみろ」  俺の長身に驚いたのか、少女は少し後ずさる。 「ああ、もう。クロウのガタイは威圧的なんだから、しゃがんでしゃがんで」  その言葉に苦い表情を浮かべるが、子供の手前、なんとか表情を取り繕う。  しかし、次の台詞が取り繕った表情を一瞬で壊した。 「このおじさんは、こんな大きいけど怖くはないからね」 「こら待て。なんでお前はお兄さんで、俺はおじさんなんだ」 「いや、だってクロウの方が生まれたの早いし」 「たかが2ヶ月だろうが」 「顔も、老けて見えるし」 「お前よりも、落ち着いているからそう見えるだけだ」 「それじゃ、オレが落ち着いてないみたいじゃないか」 「それ以外に、どう聞こえた?」 「あのねぇ……」  そこに、クスクスと笑う声が響く。  いかん、つい、いつもの調子で悪口の応酬をしてしまっていたらしい。

 バツの悪い顔で姉妹を見ると、当初の怯えた、不安な様子は消えていた。  まあ、無様なところを見せてしまったが気持ちをほぐすことはできたらしい。  俺は少女の足元にしゃがみこみ、具合を診察する。  血が出ていたのは、手の平から。咄嗟に身体を支えたのだろう。  足はかなり捻ってしまったらしく、左の足首が赤く腫れ上がっていた。 「とりあえず、これで冷やすといい」  俺は、水道で濡らしておいたバンダナで少女の手の砂を拭い、赤く腫れ上が った足首へと巻き付けた。 「……あ、あ、ありがとう、……ございます」  頬を赤く染め、たどたどしい口調で礼を述べる少女。  どうやら、かなり人見知りする性格らしい。 「この分だと、歩けそうにないね。どうする?」  どうするもこうするも、俺の性格を知った上で訊ねるコイツもタチが悪い。 「仕方ないな。シロウ、荷物と黒髪の子を頼む」 「で〜。あれだけの荷物をかい?」 「文句を言うな。俺は、この子で手一杯だ。……よっと」  不満の声を上げるシロウを見る事もなく、俺は金髪の少女を抱え上げた。 「きゃっ!」  突然抱え上げられた少女が軽い悲鳴を上げるが、俺は精一杯の笑顔を浮かべ て少女と視線を合わせる。 「大丈夫だ。俺が、必ず両親の所へ送ってやる。信用してくれ」  少女はしばらく無言で目を覗きこんでいたが、やがて笑顔で頷いた。

 俺とシロウは、姉妹を連れて祭りの中を歩く。  大量の荷物を持ちながら歩くシロウと、少女を抱きながら歩く俺。  俺の腕の中で、頬を染めながらおとなしく目を瞑ったままの金髪の少女。  その前では、誇らしげに一つの荷物を抱えながら、黒髪の少女が歩いている。  どうやら、役に立てていることが嬉しくて仕方ないらしい。

 瑞から見ていると、この4人はどう見えるのだろうか。  仲の良い兄弟か、親戚か、それとも、赤い靴の女の子か。  いや、あの少女は日本人で、連れていく方が外国人だったな。  そんなバカなことを考えながら、俺はひたすらに歩き続ける。  迷子センターに連れていくという選択肢は、不思議と思いつかなかった。  この少女との約束を果たしたい、それしか考えていなかった。

「ア、オ母サンなのですヨ!」  祭りの出口近くで、黒髪の少女が一人の女性へと走っていく。 「ルーシアちゃん!良かった、見つかって♪」  少女と同じ黒髪の女性は、嬉しそうに少女を抱き上げた。 「OH!ルカも無事でしたカ!」  少女と同じ金髪の男性が俺に近付くが、少女は声を上げようとしない。  不安にかられて視線を下げると、少女は俺の腕の中で寝息を立てていた。  その安らかな寝顔に思わず笑みを浮かべ、俺は少女をそっと父親へと手渡す。 「ありがとうゴザイましタ。つい、はぐれてしまったのですネ」 「足を捻挫しているらしい。一応、病院へ連れていった方がいい……ですよ」 「あらあら、それは大変だわ。でも、お礼をしないと」 「そんなの、別にいいから早く行ってあげて。できれば、寝てる間に」 「THXですネ!急いデGOですネ!」 「ごめんなさいね。いつか、またお会いできた時にお礼しますから♪」 「オ兄サンタチ、ホントにアリガトですヨ!」  親子は何度もお礼を言いながら、小走りで去って行く。  眠りについた少女の足に、碧いバンダナが傷を癒すかのように巻かれていた。  お気に入りのバンダナだったが、まあいい。母親には、適当に誤魔化すか。  そんな事を考えていた俺の横で、シロウが突然声を上げた。 「あー!ごめん、クロウ!」 「何だ?人が善行の余韻に浸っているというのに」

「アンタのシールドライガー、あの子が持ってっちゃったよ……」 「何ぃ!……まあ、いい」 「へ?いいの?」  俺の怒りを予想していたであろうシロウは拍子抜けしたような声を上げる。 「ああ、あれは予備として確保したかっただけだからな」 「なんだ、そうだったんだ」 「あの子達がゾイドに興味を持ってくれれば嬉しいしな。まあ、布教活動だと いう事にするさ」  その言葉に苦笑を浮かべるシロウに、俺はニヤリと笑って続ける。 「ま、お前のミスはきっちりと取り返させてもらうが」  言いながら、俺はシロウの持つ紙袋を奪い取った。 「あー!オレのダークホーン!」 「これは、シールドライガーを入手するまで預かっておく」 「そりゃないよ……」  うなだれるシロウを置いて、俺は祭りを後にする。  夜空を見上げれば、満天の星。  失った物より、得たものは大きいと感じた夜だった……。

 過去から帰還したクロウを、あの時と同じ瞳が見つめている。 「……憶えているさ、忘れるわけがない」  ついに、クロウは白状した。 「気付いていたんだろ?あの時の少女が、二人だって事にさ」  シロウの確認に、黙ってクロウは首を縦に振る。 「ルカ姉サンは、アノ時のシールドライガー、今モ大事にしてるですヨ」 「いつも控えめなルカが、初めて欲しがったオモチャでしたわ♪」 「YES!ボクも、ビックリする程ガンコだったのですネ」 「……どうしても欲しかったの……大切な思い出だったから……」  ルカは、ポニーテールを纏めている布を解いていく。

「……シールドライガーは、今度、お返しします。それと、これも……」  ルカは、クロウへと布を差し出す。  色褪せた碧いバンダナには、白い糸で『九郎』と刺繍されていた。 「……ずっと、身に付けていました。いつか、お返しする日のために」  懐かしそうにバンダナに触れるクロウだが、首を振り、そっと押し返した。 「シールドも、バンダナも返さなくてもいい。ルカ、君が持っていてくれ」  その言葉に驚くルカに、さらにクロウは言葉を紡ぐ。 「いや、改めて受け取ってくれないか。俺のパートナーとして」 「……クロウさん」  ルカは頷き、金髪をバンダナで纏め直した。  喜びを全身から溢れさせ見つめるルカに、クロウは慌てて続ける。 「あー、待ってくれ!あくまで『ゾイドのパートナー』として、だからな」  その瞬間、ルカを除く4人の冷たい視線が突き刺さる。  その視線は、明らかに(甲斐性無し!)と語っていた。  ルカの表情も、悲しみを帯びたものへと変わる。  そんな中、クロウは真剣な顔で、呟くように言葉を発した。 「俺は、正直、君を、えー、……恋愛対象としては、まだ見られない。……だ が、君の気持ちは、とても嬉しいし、……君を大事にしたいとも思っている。 だから、時間をくれないだろうか?君の事を、素直に好きだと言える時間を」  不器用なクロウの精一杯の言葉に、ルカはゆっくりと頷く。 「……クロウさん……、はい、分かりました。……その時を、待ちます」 「……ありがとう、ルカ」  それを確認して、クロウはホッと息を吐いた。 「ルカ姉サン!ホントに、それでイイのですカ!」  ルーシアが噛み付くようにルカに詰め寄るが、ルカは満足げに微笑む。 「いいの、ルーシアちゃん。一歩前進なんだから」 「デモデモ!」  それでも納得いかないといった雰囲気のルーシアに、ルカは笑いかける。

「それにね、……LikeをLoveにさせるって楽しいでしょ?」  そう言いながらルカは、クロウの左腕に両腕を回す。 「お、おいおい!だから、まだ彼女とかじゃないんだぞ!」 「別に、兄妹でも腕ぐらい組みますよ。それとも、動揺してます?」  離れようとするクロウの腕にしっかりと抱きつくルカの表情は、自信に満ち た小悪魔を連想させる。 「い、いや、そう言うわけじゃないんだが、その」 「それなら、いいじゃないですか。ね、お兄さん?」 「おいおい。お兄さんは、止めてくれ」 「あら、まだ恋人じゃないんでしょ?だから、お兄さんって呼びます」 「……頼む、勘弁してくれ」 「じゃ、クロウ、って呼びますね」 「ちょっと待て。いきなり呼び捨てか」 「クロウだって、私を呼び捨てじゃないですか」 「分かった、分かった。これからは、ルカさんと呼ぶ事にするから」 「ダメです。私が、ルカって呼んで欲しいから、変更は認めません」 「こら待て」 「待ちません。そして、私がそう呼びたいから、クロウって呼びます」 「異議を申し立てる」 「異議も認めません。……それとも、やっぱり、私じゃ嫌ですか?」  上目遣いで瞳を潤ませながら、腕に胸を押し付けるルカ。  男性の90%以上が耐えられないであろう必殺コンボを受け、クロウは完全 にルカのペースに嵌った。 「い、いや。いや、そうじゃなくて!嫌なわけないだろう」 「それじゃ、問題ありませんね。本件は可決されました!」  所有権を主張するようにクロウの腕に擦り寄るルカ。  クロウは反論する気力も失せ、なすがままにされている。  しかし、うんざりしているように見えて、実はかなり幸せそうだ。

 テーブルの反対側ではシロウが小声で尋ねている。 「……ねえ、アレックスさん。ルカさん、意外にやるもんだね」 「……YES。自分のBustが魅力的ナノをAppealシテますネ」 「上目遣いの瞳ウルウルも攻撃力高いよねえ。ルカさんみたいな美人だと特に」 「アノ手口ハ、昔ノLumiとマッタク同じですネ」 「血は争えないってことだね。でも、ちょっと羨ましいかも」 「Lucierハ、チョットLittleですからネ」 「シロゥ!」 「ぐえぇっ!」  後からルーシアの腕で首を締められ、シロウは妙な声を上げる。 「モウ、人が気ニしてル事!」 「わ、悪かった、ごめん!ごめんってば!」  ギリギリと締めつけられ、シロウは必死に謝罪を繰り返す。 「……今回ハ、コレで許してあげるのですヨ」  結局、シロウが開放されたのは、たっぷり1分はたってからだった。 「ふへぇ、苦しかった……。でも、ちょっと嬉しかったかも」 「エ?シロゥって、ソッチの趣味デモあるのですカ?」 「違う違う!いやぁ、予想以上に柔らかい感触だったから」  シロウに言われて、首に腕を回している間、頭に胸を押し付けていた事によ うやく気付く。 「モ、モウ!シロゥのエッチ!」 「だって、触れたのは初めてだし。この前は見ただけだったしさ」  何気なく出たシロウの爆弾発言に、ルーシアの顔が真っ赤に染まる。 「あら、聞き捨てならない発言ね♪どこで覗き見したのぉ?」  楽しそうな笑みを浮かべながら、ルミがにじり寄ってくる。 「覗いてなんかいませんよ。ルーシアから見せてくれたんだから」 「シ、シロゥ!」  あっさりと答えるシロウに、ルーシアはオタオタと両手を振り回すばかり。

「へーぇ、ルーシアちゃんもやるわねぇ♪でも、ちゃんと避妊はするのよ♪」 「ああ、大丈夫ですよ。オレの自制心により、誘惑には耐えましたから」 「シ、シロゥ!ワタシが誘ったみたいじゃナイですカ!」 「……あの状況は、そうじゃないと?」 「あ、あうぅ……」  冷静なシロウの突っ込みに、絶句するしかないルーシア。 「まあ、と言うわけで。これからもオレがブレーキかけますのでご安心を」 「暴走気味の娘ですけど、これからもコントロールしてやってね♪」 「お任せを。恋愛はともかく、将来は計画的に進めるつもりですよ」  差し出されたルミの手を、クロウはがっちりと握り返す。 「二人トモ、妙ナ納得しないでクダサイ……」  怒りやら呆れやら恥ずかしさやらで一杯一杯のルーシアは、テーブルに突っ 伏して現実逃避するのが精一杯であった。

「あの、ラストオーダーなのですが」  おずおずと、ウェイトレスが6人の席へと声をかける。  他の客は、すでに誰も店内にはいなかった。  閉店間際だからではなく、妙な雰囲気に耐えられなかったのだろう。  しかし、彼らはその事実に気がついていなかった。  当然、ウェイトレスの妙なオーラにも気がつかない。 「ああ、もうそんな時間か。別に、注文はない。すまないな」  クロウの言葉に、営業スマイルを残してウェイトレスは去って行く。 「じゃ、最後に乾杯しましょう」  しかし、ルカの言葉にウェイトレスがピクリと反応し、オーラを撒き散らす。  6人には見えないその顔には(カエレ!バカップルども!)と書かれていた。 「いいわね♪じゃ、わたくしとアレックスが取ってきますわ♪」  だが、怨念のこもったオーラにも反応せず、ルミがグラスをかき集める。 「OK!まかせてクダサイ!」

 嬉しそうに大きな手にグラスを持ち、アレックスが立ちあがる。  夫婦がドリンクバーへと歩くのを横目で確認し、ウェイトレスは諦めの溜息 をつきながら閉店の準備を始める。 (どうして、わたし、こんな時間に寂しくバイトしてるの?)  彼女の悲しい呟きは、幸せな6人には届かなかった……。

 ルミとアレックスが戻ってくると、姉妹は頬を膨らませていた。 「あらあら、どうしたの?ご機嫌斜めじゃない♪」 「だっテ、シロゥとクロゥさんガ」 「ナニが、あったのですカネ?」  バツの悪そうな顔で、クロウとシロウは説明する。 「いや、いつもの冗談をやりあっていただけなんだが」 「こう、お冷やを掲げてさ。『君の瞳に映る、僕の瞳に乾杯』ってね」 「ドウして、ソレを二人でスルのですカ?」 「……相手は、私たちでしょう?冗談でも……」  拗ねた表情のままの姉妹に、ルミは笑いを弾けさせた。 「あはは、バカねぇ♪そんなの、されたらもっと悔しいわよ♪」 「「?」」  さっぱり分からないという顔の姉妹に、ようやく不機嫌の理由がわかったシ ロウとクロウが苦笑を浮かべながら説明を始めた。 「あのね、『君の瞳』じゃなくて、それに映っている『僕の瞳に』乾杯だよ」 「つまり、単なるナルシズム、オレイズムな冗談だ。やって欲しいか?」  ようやく納得した姉妹は、慌てて首を横に振る。 「それにね、冗談でも女性になんてできないよ。まして、彼女になんてさ」 「まったくだ」  その言葉に姉妹は頬を染め、ようやく機嫌を直す。 (ふう。しかし、これから結構苦労しそうだな……)  安堵しながらも二人は同じ事を考え、心の中で溜息をついた。

 ひと騒動あったが、テーブルに6個のグラスが並び、全員が席に座り直す。  とは言っても、クロウは元からルカの腕に固定されたままではあったが。 「……さて、何に乾杯しましょう?」 「考えてみると、いろいろあるよねえ」 「そうですわね♪まずは『The Rebersi』の100勝ですわね♪」 「New Teamの事もですネ」 「ソレに、シロゥとワタシ、クロゥさんとルカ姉サンのカップル誕生もですヨ!」 「待てぃ!俺とルカは、まだカップルじゃない!」  慌てて訂正に入るクロウだが、その腕をルカが引き戻す。 「さっきは同意してたじゃないですか。それとも、彼女じゃ、……嫌ですか?」  またも、必殺コンボが炸裂し、クロウの思考が停止する。 「い、いや。いや、そうじゃなく、嫌なわけはないだろう」 「それなら、問題なしですね。では、これからは彼女と言う事で」  このままでは先刻と同じく既成事実として押し切られてしまう、とクロウは 辛うじて判断し、思考を無理やりフル回転させて言葉を絞り出す。 「……時間をくれといっただろう?」 「あげたじゃないですか、1時間ほど」 「おい」 「ふふ、冗談ですよ。ちゃんと、待ちますから」 「……勘弁してくれ、マジで」 「でも、なるべく早くお願いしますね。……私は10年も待ったんですから」  からかっていたルカの表情が、真剣なものへと変わる。 「……努力を約束しよう、未来のために」  その表情を見て、クロウも顔を引き締めて答えた。 「あ、それいいね」  微妙な雰囲気を、シロウののほほんとした声が吹き飛ばす。 「何がだ?」  無意識に尖った口調で、クロウが問い返す。

 ルカも、少し頬を膨らませている。  気付いているのかいないのか、あっけらかんとした口調でシロウが続ける。 「未来のために、ってやつ。それに乾杯しようよ。オレ達の未来にさ」 「相変わらず、クサい台詞を言うやつだな」 「いや、元ネタはクロウなんだけど?」  さっくりと返されて、渋い顔をするクロウに笑い声が上がる。 「じゃ、音頭を取らせてもらうね。オレ達、みんなの未来に、乾杯!」 「カンパイですヨ!」 「カンパイですネ!」 「乾杯♪」 「乾杯だ」 「……乾杯、です」  6個のグラスが心地よい音色を響かせた。  過去と未来を繋げる音色を……。