JOLT氏『ゾイド∞2on2 ゾイド∞2on2 外伝(第4.5話) 暴かれた乙女の秘密』


 ……『The Rebersi』と『Valkyrie of Blue  Eyes』との対戦には、1回だけ秒殺記録がある。  しかし、その偉大なる(屈辱的なる)試合については、負けた方のみならず、 勝った方も決して語ろうとはしない。  ネット掲示板では、未だに前後のログがアクセス記録を叩き出しているにも かかわらず、だ。  当HPは、その伝説の1戦について、当時のログと目撃者の証言を元に、出 来る限り忠実に再現してみたいと思う。  なお、当時の関係者に発見された場合のリアルブレードが恐ろしいので(w このHPは2週間ごとに移転することとする。  では、お楽しみいただきたい。

HP【暴かれた乙女の秘密】管理人 カフェイン2倍炭酸飲料

 ……しかし、このHPは開設わずか1週間で消滅した……。

 『The Rebersi』の二人は、対戦台付近でヒマを持て余していた。  筐体の設定変更で、ゲームができないだけなのだが。 「これってやっぱオレたちのせいなのかな?」 「それしか考えられんだろうが」  初日の30連勝に続き、昨日は16連勝。  いずれも、最後は乱入者がいなくなってCPUクリアー。  『The Rebersi』は無敗街道をひた走っていた。  しかし、それは他のユーザーにとって、なによりも店側にとっては歓迎すべ き事態とは言えなかった。

「まあ、妥当だと思うけどね」 「対戦デビューするやつが引くだろうからな」  そう、店側の対応は単純極まりなく、かつ効果的なものだった。  10連勝目で、勝利してもゲームオーバー。  ただし、アイテムと勝利BPは出るので、特に物議はかもし出していない。 「とりあえず、俺達もローカルルールでいくとするか」 「だね。10連勝したら、指名されない限り再度対戦には参加しない、ってね」  そうこうしているうちに、設定変更が終了した。 「さて、それでは10連勝して帰るとするか!」 「あのね、喧嘩売ってるようにしか聞こえない台詞はやめてくれないかな?」 「つべこべ言わずに、さっさと行くぞ」 「はいはい、了解」  カードと100円をポケットから取り出して、二人は歩き出す。  途中、シロウは一度だけ後ろを振り返った。 (ルーシアさんたちは、今日は来ていないのか……) 「何してる、早く来い!」 「わかってるよ!」  急かすクロウの声に、シロウは小走りに筐体へと駆け寄った。

「ほれ、これで終わりだ!」  クロウのSLがDCSと3連衝撃砲をノーロックで放つ。  その半分が敵のBSに突き刺さり、黒煙を上げた。  画面に表示される『WINNER』の文字。 「さて、9連勝か」 「最後の相手は誰かな?」  しかし、CPUを数戦クリアーしても乱入はなかった。 「どうやら、人身御供にはなりたくないみたいだね」 「ふん、つまらんやつらだ。玉砕覚悟の気合はないのか」

「無茶苦茶言ってるなあ。まあ、オレたちだって最初は覚悟してたけどさ」 「そうなのか?俺は勝つ事しか考えてなかったがな」 「アンタはそう言うヤツだよ……」  その間にもCPU戦は進んでいく。  そして、あと1戦でボスという時、軽やかな声が聞こえた。 「ア、 ちょうど良かったですヨ。乱入するですヨ」 「……よ、よろしくお願いします」 「お、お二人さん。リベンジってわけか?」 「ソですネ。コンドこそ勝たせていただきますヨ」 「……ク、クロウさんの戦術、お、応用してみます」 「OK。全力を持って相手させていただこう」 「あのさ、今までの挑戦者に失礼な発言はやめようよ」 「気にするな。悔しいなら腕を上げればいいだけの話だ」 「アハハ。じゃ、ワタシたちの腕が上がったカ見てクダサイですヨ」 「ん?秘策でもあるってワケ?」 「マ、そんなトコロですヨ」 「ほう、それは楽しみだな」  その会話の間に、最後のノーマルCPUは倒された。 「さて、時間が来たみたいだね。始めようか」 「ハイ、今日は勝ちますヨ!」 「……よ、よろしく、お、お願いします……」  姉妹は反対側の筐体に向かい、カードとコインを投入する。  強制対戦台ゆえに、スタートボタンを押すまでもなく通信待ち画面へと移行。  『The Rebersi』の画面に「挑戦者が現れました」の文字が表示 される。 「さて、行こうか……イッツ・ショータイム!」  大げさな身振りと共にレバーを握りなおすクロウ。  そして、対戦相手の表示がお互いの画面と大型モニターに表示された。

PN・Shilow中尉  ZN・Urano Earth(BL) PN・Klow中尉    ZN・Dark Aegis(SL)    VS PN・Lucier大佐  ZN・156B77W54H78(LZ) PN・Luka大佐    ZN・174B92W59H86(PA)

 ……一瞬、筐体の付近が静まり返った。  それは次第に、ざわめきへと変化していく。 (なあ、あれってまさか……) (ああ、アレだろ、アレ) (マジか?マジでそうなのか?) (新手の心理作戦か。やるなあ。全て捨てて勝ちに来ているな)  そして、筐体から悲鳴が上がった。

「あうあうあうー!ミ、見ないでクダサイ!」 「キャーキャー!お願い、見ないでー!」  パニックに陥った姉妹は、レバーすらも離して叫び続ける。  その声は店内に響き渡り、さらにギャラリーを増やしてしまっていた。 「……どうやら、誰かのイタズラらしいな」 「そうみたいだね。しかし、誰なんだろ」 「犯人探しは後だ。今は彼女らをなんとかしないとな」 「うん、速攻で相打ちに持っていくのがいいかな」  言うが早いか、シロウが反対側の筐体へと駆け寄る。 「二人とも、落ち着いて!」 「あうあう!これガ落ち着いてラレますカ!」 「もうイヤー!帰るー!」 「落ち着け!とにかく決着を付けるしかないだろ!」  突然、シロウの口調が変わる。

 その勢いと、普段とのギャップに驚いて姉妹は止まった。 「シ、シロゥさん?」 「……は、はい、わかりました」 「いいか!全員で接触して、ど真ん中でツイスターとDCSを撃つ!その後 もう一度固まってPAのバーニングだ!これでドローになるはずだ!」 「ソッチが勝ってクダサイですヨ!そのホウが速いですヨ!」  まだパニックが残っているルーシアが涙目で叫ぶが、シロウはきっぱりと 否定する。 「駄目だ!君たちとの輝かしい戦績を、こんな事で汚したくない!」  その言葉に、姉妹たちの顔つきが変わる。 「……シ、シロウさん」 「シロゥさん、ワカリましたですヨ」 「よし!さっさと終わらせよう!」  シロウは、瞬時に筐体へと駆け戻った。 「さあ、クロウ!タイミングがシビアだけど、やるよ!」 「分かっている!俺達なら、彼女たちならいける!いくぜ!」  4体の獅子は猛然と砂漠を駆ける。  第3者の介入によって汚された闘いに、彼らなりの抗議を込めて。  そして、中央で閃光と爆音が響き渡った……。

 ……こうして、この対戦は2セットともドローで引き分け。  さらに、1ラウンド目こそ(パニックにより)40秒もかかってしまったが 2ラインド目はわずか18秒で決着が付いた。  合わせて58秒、伝説となる秒殺ドローである。

 カードが排出されると同時に、姉妹は店外へと走り去った。 「あ、待って!」  シロウが慌てて後を追う。

「ち、仕方ない」  クロウも、ゆっくりとではあったが走り出した。

 姉妹は、すぐに見つかった。  駐車場の角で、二人で抱き合って泣いていたからだ。 「ルーシアさん、ルカさん……」  シロウがためらいがちに声をかける。 「シロゥさん、……見られちゃっタですヨ、タクサンのヒトに……」 「……、も、もうお嫁に、い、行けない……」  姉妹は、この世の終わりの様な表情を見せている。  無理もない、とシロウは思った。  彼女たちは、彼氏が出来たこともないと言っていた。  あの容姿で言い寄る男がいないわけがない。  なら、原因は潔癖なまでの性に対する恥ずかしさなのだろう。  ルーシアが自分とためらいなく話せるのも、単に友達だからなのだと思う。  ルカは、言わずもがなだ。  そんな二人にとって、今回の出来事はあまりにも衝撃的だったのだ。  だが、なんとかしなくては、との思いがシロウに言葉を紡がせる。 「ねえ、二人とも。そんなに恥ずかしいことかい?」  シロウの言葉に、姉妹は当たり前だと言わんばかりに鋭い目つきを見せる。  何か叫ぼうとするルーシアの機先を制して、シロウが言葉を紡いだ。 「あのね、少なくともオレは、だいたい分かっていた事なんだけどね」 「……え?」 「君たちのサイズぐらい、男は想像できると思うよ」 「シ、シロゥさん!エッチなのですヨ!」 「君たちは魅力的だ。もちろん、容姿だけじゃないのは知ってる。でもね、容 姿が魅力的なのも事実なんだよ。だから、どうしても目がいってしまうんだ」 「……」

「例えば、性格が同じぐらいの女の子が二人いる。そのうちの、どちらか一人 を選べと言われたら、普通は容姿が好みな方を選ぶのが人間だと思う」 「ソレは、美人な方って事ですカ?」 「微妙に違う。自分にとっての魅力的というのは、それぞれだからね」 「……ど、どういう、事ですか?」 「例えば、ルーシアさんは艶やかな黒髪と、スレンダーなのが魅力だ。ルカさ んは、輝く金髪とグラマラスなのが魅力だと思う」  さらりと自分たちの容姿を評価されて、姉妹の顔は真っ赤に染まる。 「でもね、そのどちらが好きかなんて、人によって違うんだよ。ただ、言える 事は自分の素晴らしい容姿を恥ずかしいと思うのはもったいないって事」 「デモ、それと今回の事ハ!……」 「関係あるよ。ジロジロ見られることになっても、自分は魅力的なんだ!って 自信を持って振舞えば、相手のほうが萎縮しちゃうって言いたかったんだ」  そこで、おざなりな拍手が聞こえてきた。 「なかなかの説法、お見事。素晴らしいよ、シロウ君」 「お褒めにあずかり、恐悦至極。で、何か補足ある?」 「ま、ひとつだけ。君たちは非常にエ……いや素晴らしい容姿をしている。 だから、恥ずかしがる方が注目を集めてしまうって事だ」 「今、なんか不穏当な発言しそうにならなかった?」 「気にするな。うっかり本能が言語能力を超えそうになっただけだ」 「あのねえ……」  シロウが呆れ顔を見せた瞬間、姉妹が飛び込んできた。 「シロゥさん!」 「……ク、クロウさん」  ためらいもなくシロウに抱きつくルーシア。  おずおずと、そっとクロウの胸に寄り添うルカ。  突然の姉妹の行動に、意表を付かれた二人は固まる。  少しの時が流れ、そっと姉妹は二人から離れた。

「アノ、二人とも、アリガトなのですヨ」 「……なんとか、立ち直れそうです」  姉妹の顔に笑顔が戻るのを見て、二人も微笑を返す。 「あ、ところで、犯人の心当たりはあるのかな?」  シロウの言葉に、姉妹は思案を始める。 「まあ、考えられるのはベースハックなんだが。アイテムに被害がないところ を見るに、身内のイタズラじゃないのか?」  クロウの言葉に、姉妹の目つきが変わる。 「……もしかしたら」 「ゼッタイ、そうですヨ!」  怒りに満ちた表情を見せ、姉妹は銀色の愛車に飛び乗った。 「あ、おい!」 「マタ、対戦してくださいですヨ!」 「ごめんなさい、また会いましょう!」  すさまじいホイールスピンを残し、コペンの後姿が消えていく。 「なあ、誰だったんだろうな」 「さあ、まあ友達じゃないの?」 「そのへんだろうな。ところで、本当に分かっていたのか?」 「ん?スリーサイズの事?ハッタリに決まってるでしょ」 「やはりか。あの姉妹、けっこう体の線が出ない服着ているからな」 「うん。意外とルカさんって着やせしてたんだねえ」 「ルーシアさんも、もう少し胸あるかと思っていたんだがな」 「でも、ウエスト細いから、そうは見えないんだろうね」  夜の駐車場で、男二人の怪しい談義は果てしなく続いた……。

 その頃、姉妹は犯人であるアレックスとルミに判決を下していた。 「オ父さんモ、オ母さんモ、1週間オ弁当抜きなのですヨ!」  その言葉に、両親は肩を落とし、この世の終わりのような顔を見せた……。