津波
初冬の匂いのする風が叢を切り渡っていく。梢は、眼前に連なる遠いような近いような山の尾根を強く見つめて、伸びた髪をその風になびかせる。山は、高速度撮影で近づいてくる大津波のようでもあり、行く手を塞ぐ開かない古城の大門のようでもあった。だから梢は、死ぬのが恐い、と生まれて初めて思ったのだし、その感覚はどちらが長く息をしないでいられるか、兄と並んで水を張った洗面器に顔を沈めた時の息苦しさにもとてもよく似ていた。その時、梢は直樹に勝ったのだった。だがいまはもうその喜びは忘れてしまった。
あの前年の秋以降、予兆は訪れなかったわけではなかった。火山が爆発し、海の向うで戦争が始まる、経済は破綻する、あれやこれやが世間を賑わせた。それでも世界の端っこの国のその端っこの町のさらに端っこに立つ築三年の出来て間もないあのカナダ風という触れ込みの、そんな田舎ではあまりに人目を引くログハウスでは、何もかもが太古の昔から同じようにあるという錯覚が、その予兆を冗談にさえ思わせることはなかった。
梢は父からよく聞いた。この土地は大昔の王様がおったんやぞ、と。王様のおったとこにおるんやから梢は今の王女様や、と。ほなお父さんは王様? お母さんは女王様? お兄ちゃんは王子様なん? そうくさ、うちはみんなえらいとじゃ。そう言って、父は乾いた笑いを笑った。
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引用文
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