エデン・エデン・エデン


ピエール・ギュヨタ

ヘルメットをかぶり、両脚を開いた兵士たちが、筋肉をこわばらせ、深紅色 や紫色のショールにくるまった新しく生まれた嬰児たちを踏みつけている。G MCの機銃掃射を受けて穴だらけになった、薄い鉄板の上に蹲っている女たち の腕から、嬰児たちが外に転げ出る。運転手が運転室に投げ込まれた一匹の山 羊を、あいている片手の拳で外へ押し戻そうとしている。  フェルクール峠では、リマの一小隊がにわか造りの道路を越えている。何台 ものトラックから兵士が飛び降りる。リマの男たちは、珪石や蕀で穴だらけに なったタイヤに頭をもたせかけて、砂混じりの泥灰土の上に横たわり、タイヤ の泥よけの陰で上半身を裸にする。女たちは赤ん坊を胸に当てがって揺する。 揺するたびに、彼女たちのみすぼらしい衣服や、体毛や、皮膚に浸みこんでい る香料──油、丁子、バター、藍、硫化アンチモン──が、火事にあってぽた ぽたたれる汗のために、一層強められて流れ出す。

兵士は淫売屋の主人の尻から亢進している最中の下腹部を引き抜き、ベッドから下へ飛びおりる。──下腹部の先端がズボンのゴム紐の上でまるまると膨れて、飛び跳ねる。──兵士が、雌犬のそばに踞る。──液が、充血した下腹部の先端から、真珠色の凝塊となって飛び出し、腿の巻毛の生えた斜面を流れる。──兵士は、雌犬をひっくり返し、傷口をつねり、雌犬の後足を掴み、蜷局を巻いている舞踏蜘蛛を爪で押し潰す

フェルクール峠の麓、焼け焦げた西洋杉が密生している山裾の下では、大麦畑、小麦畑、養蜂所、墓、安酒場、学校、塵埃、無花果の樹、村落(メシュタ)、あるいは脳みそが一面に流れている小さな壁、さらにまた薄赤い果樹園や棕櫚の木が、火にあって一斉に膨張し、爆発している。花、花粉、麦の穂、小枝、紙切れ、あるいは乳や糞や血で汚れた布の切端、樹木の皮や羽毛が、舞い上がり、火を大地から毟(むし)り取る風に押されて、火元から火元へと漂っている。

 風が航空標識を、小麦の刺のような穂を揺さぶり、虫の群れの飛翔を外らし、禿鷹の群れを引きちぎって、断崖の表面の浮き彫りのほうへ運ぶ。小石が震える。砂が便所の穴の中で退き、重なる労働者たちの尻に穴を穿ち、あちこちの小路の中で煙り、病院の杏の木の下でパジャマに締めつけられている兵士たちの血のにじんだ包帯に穴を穿ち、トランジスター・ラジオのイヤホーンを突っこんでいる耳や疱疹の上に塗ってあるポマードに穴を穿ち、ブリキ板や布地に穴を穿ち、灰色の雲雀の巣が余り詰まっていない山の横穴にできている黒い盛土に襲いかかり、巨大なタイヤや標識板で抉られた急造道路を埋め、骨や死骸を覆う。

『エデン・エデン・エデン』 ピエール・ギュヨタの言葉と世界
http://www1.ocn.ne.jp/~ppl/epaves01/guyotat.htm
ピエール・ギュヨタ『エデンエデンエデン』
http://www.fuchu.or.jp/~d-logic/jp/books/edenedeneden.html