3 二〇〇三年一月二十二日 学園島南部 オターキングラード戦域上空
<<こちらAWACSファルケシャンツェ。グラウフォーゲル1、聞こえるか?>>
ザラついた音声に、舞虎はインカムを調整し直す。
寒さのせいか何なのか、完全にノイズは消えなかった。
量産型魔道服を着用した舞虎は滑空翼の角度を微調整した後、空中管制機に通信を開く。
「少しノイズが入るが大丈夫だ。命令を再確認したい」
<<了解。現在、オターキングラード市街に包囲されていた第二軍が白石軍の総攻撃を受けている。市街からの撤退作業は中断されたが、依然一部の部隊が友軍戦線へ合流できずにいる。君たちは敵をできる限り叩き、奴らの行動を麻痺させてくれ>>
舞虎の周囲には、舞虎と同じく濃紺と黒で塗装された魔道服を着た空軍所属のSG―――魔道兵が編隊を組んで飛行している。
稲葉空軍第一〇八四戦術戦闘飛行隊第二中隊"グラウフォーゲル"隊の指揮を、舞虎は任されていた。
「簡単に言うじゃないか。アンヴァルト了解!」
<<こちらの戦力に余力は無い。頼んだぞ>>
稲葉の戦力は常に余力を欠いている。
ギリギリの戦線を支えるのは優秀な前線指揮官たちと、化け物じみた一部のエースたちだ。
それこそ稲葉には一人で戦車を二百台も三百台も撃破する奴や、一晩で五十人を射殺する狙撃兵がいる。
舞虎は彼らの活躍を聞く度に、事実は小説よりも奇なりだと痛感させられていた。
「給料を値上げしといてくれ。みんな、準備はいいな?」
「は、はい!」
「声が震えているぞ。一度深呼吸しておけ」
「はい!」
SGたちは皆、まだ経験の浅い新米揃いだ。
無理も無い話で、稲葉全体でも魔道兵はまだ五十人もいない。
二〇〇一年の十二月に白石がWG―――魔法少女を戦線に投入して以来、稲葉はその対策に追われてきた。
過程の中では電動戦車や人型ロボットなど多種多様な兵器がWGへの対抗手段として開発されたが、最終的にWGは同じWGをもって制するべきだと結論が出た。
その陰で政治的、癒着や圧力の文字が見え隠れする形での結論だったが・・・。
「みんなよく聞いてくれ。交戦状態になったら、私についてこい」
「しかし、アカデミーでは個人の自由な裁量こそ勝利を導くと・・・」
新米の言葉に、英雄の存在というものは悪癖だなと舞虎は思う。
大砲鳥の異名を持ち、個人で戦局を覆すことを平気でやってのける華菱有紀は稲葉の超個人主義を傾ける最悪の逸材であり、事実稲葉では組織的な行動より、少人数や個人での戦闘が奨励されることが多い。
それは正解でも無ければ間違いでも無いのだが、舞虎個人は間違いだと思っていた。
「誰しも有紀大佐やノエル中佐のようになれるわけじゃない。いいな!」
「了解です!」
戦域に接近すると、白石のWGたちが舞虎らに気付いた。
相手にするに値しない残敵に飽き始めていたWGたちは、舞虎の編隊の姿に目を輝かせた。
<<敵の増援を確認!首と足があるぞ!>>
<<稲葉のWGか。警戒しろ>>
<<あんな付け焼刃。アタシ一人で!>>
<<待て!>>
馬鹿め、と舞虎は心の中で微笑む。
教科書通り―――いや、元也のやっているテレビゲームの敵の方が幾らかマシかもしれない。
「グラウフォーゲル1から各員へ、一人突出した。"網"の中へ誘い込め」
「了解!」
「了解!」
五人で編成された編隊は散開し、WGは指揮官の舞虎に向けて一直線に突進してきた。
舞虎はステッキの一撃を左手にマウントされたスコップで受け止め、鍔迫り合いをする。
<<へっ!捕まえた!>>
「どうかな。周りをよく見ろ」
既にSGたちは、狩りの準備を終えていた。
SGの左腕には、銛付きのワイヤーが装備されている。
「グラウフォーゲル2、アンカー準備良し!」
「3、準備できました!」
「こちらグラウフォーゲル1。やれ」
SGたちはショックアンカーを射出し、WGの手足に巻き付けていく。
WGが動くと、極細のワイヤーが皮膚に食い込んだ。
<<これは・・・何!?>>
「いいぞ。電流を流せ!」
舞虎の命令と同時に、WGに高圧電流が流された。
SG達はすぐに命令を実行した。
WGの体に高圧電流が流され、WGは苦悶する。
<<うわあああああああ!>>
舞虎は急いで距離を取り、矢継ぎ早に命令を下す。
「トドメを刺せ!」
「仕留めます!」
「くたばれ!」
SG隊はそれぞれ対戦車ライフルや試作型のフリーガーファウストをWGに向け、一斉に引き金を引いた。
SGの砲火はWGに吸い込まれ、WGは爆発に包まれる。
「やった!撃墜確認!」
舞虎は喜ぶ仲間を見ながら、自分の考えは間違っていないと確信を強めた。
―――集団戦法は、単独戦法を上回る。