4 2003年11月4日 ザトミフ包囲網から12km地点 ポイント"チェルカッスィ"
「いいか、お前らはクズだ!敵の陣地を潰せなきゃ、歩兵を吹っ飛ばせなきゃクズだ!砲弾は装填したか!狙いは合わせたか?ケツの穴は閉めたか!?」
キューベルワーゲンの上に跨り、手を振り上げて間耶は叫んだ。
フンメル、ヴェスペ、ネーベルヴェルファー、各種迫撃砲、分捕り品の野砲までかき集めて、急造された砲兵隊はその準備を終え、射撃位置についていた。
稲葉の砲兵戦力は白石に比べて、酷く微弱と言っていい。
2001年末の白石本校攻略作戦において、始めて集中投入された魔法少女によって稲葉の砲兵戦力はその大半を失った。
それ以後稲葉は砲兵戦力を回復するよりも早く、航空機を空飛ぶ砲兵として運用するというやり方で砲兵戦力の回復を計った。
数々の地上攻撃機エースが輩出され、航空機による対地攻撃が有効と判断させるに至り、稲葉の地上兵力は常に空軍と連携することで強烈な破壊力と機動力を併せ持った軍隊となったのである。
だが、稲葉の航空戦力は決して余力があるとは言えず、絶えず航空支援を受けられるのはごく限れた部隊のみだった。
結果的に稲葉の地上砲兵戦力は貧弱なものとなり、多くの部隊は砲兵の支援無しに作戦行動を行わざるを得ない状況が続いていたのだ。
「準備完了!」
「いつでもどうぞ!」
砲兵隊は大歓声で呼応し、指揮官の判断を仰いだ。
間耶は深呼吸した後、声帯が張り裂けんばかりの声量で命令を下す。
「よっしゃあ撃て!撃って撃って撃ちまくれ!砲弾が無くなるまで撃ちまくれ!喧嘩始めの花火だ!一発も残すなよ!」
間耶の咆哮の後、一斉射撃が始まった。
次々に榴弾が放たれ、ロケット弾が怪物の鳴き声の如き発射音で空へ舞い上がっていく。
砲撃が行われた時間はほんの数分だった。
「白石の砲撃に比べたら、随分可愛いものですね」
「いいんだよ。向こうが驚いて尻から飛び上がってくれれば万々歳だ。俺たちは尻が落ちる前に、椅子をぶっ壊すだけだ」
間耶は砲撃でのダメージを期待してはいなかった。
ここにある一個中隊規模砲兵戦力では広範囲に大損害を与えるのは不可能だったからだ。
砲弾だって十分な数は揃っていないのだ。砲兵がいないのなら、彼ら向けの補給物資も自然と減る。
「撃ち尽くした!」
「こちらボストラー3、全車弾切れだ」
「こっちもだ」
「弾切れです!」
砲兵隊が仕事を終えたことを確認すると、間耶は南を指差した。
彼女たちが救うべき、友軍がいる場所を。
「よぉし野朗共、根性見せる時間が来たぞ。地獄とこんにちはだ」
兵士たちは大声で返事をする。
薄汚い服装に、装備もバラバラだ。
迷彩スモックを着たSS兵士に、青い制服は空軍野戦師団。
黒服の戦車兵はパンツァーファウストを背負い、歩兵として戦う決意を決めていた。
「準備は!?」
「全部終わってます!」
彼らの掛け声の後、間耶は手を振り下ろす。
「上等だぜ前線豚ども。行くぞ!」
間耶の乗るキューベルが走り出し、その後ろを戦車が、突撃砲が続いていく。
「前進!とにかく前に出ろ!砲塔だけになっても進め!」