人物紹介 / 張飛


張飛

劉備たち三兄弟の末弟。本作では「翼徳」という演義準拠の字で書かれるが、正史では「益徳」だったことがよく知られている。
これは中国では「益」と「翼」が同じ発音だったことや、諱の「飛」と「翼」で意味がつながることが原因とされている。

粗暴で酒乱のトラブルメーカーという演義での性格が一般的に知られているが、 実際に彼が酒乱が基で失敗を犯したという記録はない。
長坂橋での大喝で知られるような胆力を備えており、前線指揮官として相当に有能だったようで、
曹操陣営から「1人で1万の兵に匹敵する」、「武勇は全軍で群を抜く存在」と警戒され、
孫権陣営の周瑜からは「関羽・張飛に指揮を執らせれば、天下に軍を進める大事業を成せる」と配下に収める事を熱望されるなど、
劉備軍以上に、他陣営からその能力を評価されている点が興味深い。
日本でも古くから剛勇の士の代名詞として知られていたようで、
戦国時代において織田信長が徳川家臣の猛将・本多忠勝を張飛に喩えて賞賛した、という説がある。

軍事的能力を天下に響かせていた一方、性格的に名の通った士大夫は敬愛するが、部下には乱暴であるという問題点を抱えていた。
関羽とは対象的ではあるが、両者とも味方に背かれる最期を遂げてしまっている。
ちなみに肝心の名士層に気に入られていたかというとそうでもなく、劉巴の元を訪ねたときにはガン無視された上に、
劉巴は後日とりなしに来た諸葛亮に「あんな一兵卒に話すことなんて何もない」と言い放ったことが知られている。


計略名にも彼の愛用武器、一丈八寸(当時の規定では約4メートル半)の蛇矛があるが、
この蛇矛という武器も、関羽の青龍偃月刀もこの時代のおよそ1000年後にできた武器で、実際にこの武器を使った記録はない。
蛇矛とは先端が波型に刻まれた槍であり、まっすぐのものよりも傷口を広げる力が高いという、非常に怖い武器である。

横山三国志では蛇矛の他に、頭に付いていた輪のような冠がトレードマークだったが、あれは緊箍児(きんこじ)と呼ばれるもの。
同じく中国伝来の物語『西遊記』で三蔵法師が乱暴な面のある孫悟空を天竺(インド)への供にするために頭に付け、
経を唱えると緊箍児が頭を締め付け大人しくするというもの。自分では外せない。
勿論横山三国志では経を唱えて張飛の頭が締め付けられたりはしなかったが、付けられる側からしたら呪いのアイテム以外の何物でもない。

明代の笑話本『笑府』の中にも彼が登場する話がある。
一人の男が野ざらしにされていた骨を埋葬してあげたところ、その夜に「ひ」と名乗る女性が訪れる。
「ひ」=「妃」であり、女性の正体は楊貴妃。彼女はかつて安禄山の乱で殺害されて野ざらしにされた自分の骨を埋葬してくれたお礼に、男に夜伽をしてくれた。
それを聞いた隣の男、野ざらしにされていた骨を埋葬するのだが、その夜に現れたのは「ひ」と名乗る屈強な男。
「ひ」=「飛」であり、男の正体は張飛。かつて部下に殺害され野ざらしにされていた自分の骨を埋葬してくれたお礼に、「尻を献じようと参った」のであった。
それの意味するところは…アッー!
この話は後に日本にも伝わり、落語『野ざらし』の元ともなった。